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回想編 そのいち!

有馬視点


(もうやだっ。誰か、助けてっ!)


先輩たちから一人歩きはしないようにと注意されていたのにちょっとだからと思っていたのが迂闊だった。こんな連中に人気のないところに連れ込まれてしまうなんて。


「堪忍しなよ有馬ちゃん。こんなとこ誰も来やしないぜ?」

「そーそー。場所的にはほぼ特別科の構内のここには誰も来ねーよ。大人しくしなって。」


ギャハハハと下品な声があたりに響く。


「放して!放してください!こんなこと、もう嫌です!」


無駄だとわかっていてもそれでも必死で拒絶する。でも、もう諦めざるを得ないかもしれない。


(もういやだよぉ……。)


「ねーねー、なにしてんの?これから仕事で憂鬱だってときに見苦しいもの見せないでくれるかな。」


その声は唐突だった。高くはないが低すぎもしない、綺麗な声。物凄く不機嫌だが。


「俺の言ったこと聞こえてた?その耳はお飾りなの。」


苛立った声で彼は問う。僕たちは思わず声の方へ顔を向けた。


(うわぁ。綺麗な人だぁ。)


どちらかと言えばかっこいいよりではあるが、綺麗以外に彼を表す言葉はないだろう。

そう思ったのは僕だけではないらしい。


「おーすっげぇ別嬪さんじゃね?」

「こんな目立つ奴うちのがっこーにいたか?」

「いいじゃんいいじゃん。そんなことはさ。そいつも一緒にヤっちまおうぜ。」


連中は汚らしい顔を彼にも向けた。いけない。彼が巻き込まれてしまう。


「危ないです!逃げてください!」


僕は叫んだ。でも彼は眉を顰めただけだ。うるさい、とばかりに。


「あーあー、うるさいな。叫ばなくても聞こえてるし、ここで逃げるなんて後味悪いじゃん。」


苛立ちを隠さず彼は僕に冷たく言った。そんな表情も連中には魅力的に映ったらしい。


「あれ、逃げないんだ?もしかして実はノリノリとか?」

「淫乱ちゃん的な?まぁその顔なら遊んでても納得だけど。」


奴らが僕を押さえる一人を残して彼に近づいていく。もうっ、僕を押さえてるのはたったひとりなのにどうして僕は動けないの!


「うっわー、モブキャラそのものなセリフ回し。だっさーい。」


今の僕には彼の顔は見えないが、声からしてきっと心底嫌そうな顔をしているだろう。逃げてください、と改めて叫ぼうとしたその時だった。


「ひっ、ひぃ。」

「っんだよこいつ!化け物かよ!」


聞こえてくるのは悲鳴と鈍い音。最初は訳が分からず呆然としていた僕だけど、押さえつける力が弱くなっていることに気が付いて上にいる男の下から抜け出した。そして絶句した。

数では圧倒的に優位にたっていた連中は僕を押さえていた男を除いて全員が地面に転がっていた。対する彼は何事もなかったかのように涼しげに、何も変わりなく立っている。周囲に散っている赤いものが恐ろしいが、血ではないと信じたい。


「ガチの王道学園とかありえねー。ふざけてんのか潰しとくべき?」


彼がひとりでなにか、多分物騒なことを呟く。よく聞こえなくて良かった。


「で、いつまでそこにいる気かなぁ。コレみたいになりたい?」


突然彼がこちらを見て言った。男たちをコレといい、踏みつける彼の眼は冷たく、僕は腰が抜けてしまう。


「し、失礼いたしましたああぁぁぁぁ!」


彼が話しかけていたのは僕ではなかったようだ。男はなりふり構わず逃げていった。


「そ・れ・で、君はいつまでここにいるつもり?いい加減寮とかに戻ったら?」


今度の問いかけは明らかに僕に対するものだ。でも戻ろうにも腰が抜けてしまっているから動きようもない。


「そ、そうは言われても腰が抜けて……。」

「はぁ?腰が抜けただぁ?ったく、これだから坊ちゃんはなってねーな。」


綺麗な見た目に反してなんてこの人は口が悪いのか。これじゃあ性格も悪そう……などと短絡的に考えた僕は馬鹿だった。


「しょうがないね。まぁ俺も方向わかんなくて困りそうだったし、途中まで送ってくから案内して。」


そういって彼は僕のことを背負った。男にしては小柄だし細身の僕だけど、それでも細身の彼に軽々と背負われるなんて、なんか悔しい。

道が分からないと言っていたが彼は全く迷いなんて見せずに普通科校舎へ歩いていく。沈黙が痛い。な、なんか言ったほうが良いだろうか。


「え、えっとお名前とか聞いても」

「姫宮響。」

「その制服はうちのではないと思うんですけど。」

「俺は特別科の生徒だから。」

「特別科の方がどうして普通科に」

「仕事。」


なんで必要最低限しか話してくれないんだ。特別科の仕事ってなんだろう。謎は深まるばかりだ。もしかして不機嫌なのはその仕事のせいなのかな。


「あ、あの」

「無理して話しかけないで。苛つくから。」


本当に不機嫌みたいだ。怖い。綺麗だから尚更怖い。

これ以上姫宮さんを怒らせないよう痛い沈黙に僕が耐えている内にいつの間にか前方に校舎が見えてきた。


「あ、あのもう立てるしここで大丈夫です!」


迷惑はもうかけられない!と思い切って言った僕だが、「また襲われるとめんどいし、俺の責任みたいになるから嫌。」という彼の一言で僕の発言は消された。彼が僕を降ろしてくれたのは校舎まであと数歩というところだ。


「ほ、本当にありがとうございました……。」


申し訳ないし、怖いしで顔を見られない僕は失礼と思いながらも俯いてお礼を言う。彼は僕の方は見ず、辺りをきょろきょろと見回しながら言った。


「で、生徒会室ってどこ?」

「生徒会室、ですか?」


特別科の彼が生徒会室に用?あ、仕事でかな。


「そう。しばらくこっちで過ごすんだけど、取り敢えず生徒会にでも挨拶しようかと思ってるんだよね。」


少し機嫌が直ったのだろうか。少し話をしてくれるようになった。


「しばらくこっちで、っていうのは編入ですか?ああ、転科になるのかな。どっちにしても理事長に挨拶に行くのが一番じゃないですか?」

「アレは大丈夫。アレが俺たちにNOなんていうはずないし。」


うちの理事長は日本でも有数の家柄の人なんですが。その人をアレ呼ばわりした上に絶対逆らわないってこの人は何者?


「で、どこ?」

「こことは少し違う建物の3階です。あそこの茶色い建物の。」


うちの学校は建物が一つ一つ違う色をしているので外部の人でも大分分かりやすい構造をしている。まぁ、だだっぴろいから迷う人大勢いるけど。


「あれなんだ。ありがとねー。」


言うなり背を向けて僕にひらひらと手を振った彼は茶色い建物へと歩き出した。


「こちらこそありがとうございましたっ。あ、でもカードキーないと生徒会室には入れませんよー!」

「なんとかなるでしょー。へーきだよー。」


機嫌の良い彼は相当能天気なようだ。

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