あれ、高校生ってこんな感じだっけ?
周りの空気が凍った。俺の近くにいた王子たちだけでなく、周りにいた一般生徒(まぁ俺たちも一般生徒なんだけど)もだ。聞き耳を立てていたらしい。
最初に沈黙を破ったのは王子だった。
「もぉやーね、姫ったら。あたしは女の子相手のを言ってたのよ?」
王子の言葉に固まっていた人達が動きだす。何故だかみんな安心したような顔をしている。
「俺だって女の子相手のを言ってるんだけど。」
今の王子の言い方だと男相手になら経験あってもしょうがないけどみたいな感じですが!?
俺がそう言った途端に悲鳴が聞こえた。
「なんでーー!?姫は俺たちの仲間だと思ってたのにっー!チェリーじゃないとかなんなのイケメン滅びろ!」
「俺達って誰だ、言っておくが俺は童貞じゃないぞ。」
「勿論俺もやでー?」
「くそ爽やかイケメンと関西弁チャラ男め。だが二人は予想がついていたさ!き、きっとクリスなら」
「あ、ごめん。僕も実は童貞じゃないんだ。」
「わっつはーぷん!?嘘だ!最近の子は早熟すぎるよ!いいんだもん二十歳までチェリーだったら魔法使いになれ」
「ねぇうるさいよ。」
「度々申し訳ありません姫様っー!!」
また良太がジャンピング土下座をした。もうこれはプロの領域だと思う。
良太の怒涛の叫びに唖然としていた王子は漸く意識を取り戻したようだ。
「女の子相手にっていつのことかしら、姫?」
もしかして王子は俺が女だったときのこと疑ってる?ていうかなんで浮気を問い詰められてる男の気分になっているんだろう。
「うーん、最後は何年前だっけ。2年前かなぁ?」
「2年前!?俺たち中学生だよ!しかも最後はってことは初体験はもっと前!?」
2年前でも俺は二十歳超えてるからね。もううるさいし良太は無視でいいよね。
「2年前ねぇ。どうして2年前にそんなことがあったのかしら?」
「あれ、なんか怒ってる?え、何故に?」
「いいから答えなさい。」
姫ってば女心がわかってないなぁ、とかクリスがのほほんと言っているが決して違うぞ。こいつは俺がどんなイイ女相手にヤったのか気になってるだけだろう。
「相手は、ほらあの子、名前なんだっけ。ちょっと前に王子がご執心だった子。」
名前とか覚えてねーや。地位あたりはおぼろげに覚えてるけど。
「” ”かしら?」
ああ、なんか考えごとしてたら、王子がなんか言ってる。あの子の名前かなぁ。うんそうだ、きと合ってるよ。
「多分そーかなぁ?金髪でそこそこ胸はあった気がするけど。」
「じゃぁきっとそうね。あの人って姫の好みっぽいものね。」
「いや、顔なんて覚えてないから好みかは知らないけど。」
「あれ、今人として最低な発言が聞こえた気がする。」
「良太黙っとき。姫ちゃんがなかなか人間としてダメなのはうっすら分かってたやろ。」
「ほらクリス。今日の日替わり定食うまそうだぞ。俺これにしようかな。」
「本当だね。でも僕は今日はハンバーグな気分だしどうしよう。委員長たちはいつも食堂でしたっけ?」
「いや、今日は転校生の目撃情報があったから来ただけなんだが。そうだな、面倒だし食べていくか?」
「そうだねー。でもここは席ないし、どっかほかのとこ探したほうがよさそぉだね。」
「そうだな。ああ、大鳥泰一あとで風紀室に来るように。」
「あれ、いつのまに俺に飛び火がきたんや?」
いやそこの二人、こそこそしゃべってても本人にめっちゃ聞こえてるからね。丸聞こえだから。しかお後の四人飽きたからってほのぼのしすぎではないですかその会話は。俺も王子の尋問飽きたよ助けて。
「もぉこの話は終わりー!詳しく聞きたいなら別の日に俺に聞くかアイツ(裕樹とか)に聞くかしてよ。腹減ったしぃ。」
不満そうな顔の王子なんて無視だよ。基本的に下ネタは好きだけど、実際のものには興味ないし。
「いちのせー、日替わりってどんなのー……いやこれ、え?昼に食べる量じゃないだろ。うーんなんだろうなんか餃子食べたい気がする。注文て、ああ食券だっけ?うわーめんどくせー。あれ、そういえば俺ポン酢が良いんだけど、ついてんの?あそう、へぇついてんだ。さっすがー。」
俺が食券を買おうと席を立った時、会長と委員長は泰一に風紀室に来るようもう一度念を押して席を探しに俺たちに背を向けた。
っておっと、忘れるところだったぜ。
「そおいえばぁいんちょーの名字ってー、棚の下って書いて”たなか”ですかー?」
少し笑みを浮かべて俺が尋ねると会長は驚いて委員長を見るが、委員長は欠片も動じてない。なんて可愛げのない10代なんだろう。驚くとか少しはしても全然年相応だぞ。
「その通りだ。ちなみに恭夜は恭しいに夜だ。」
委員長は俺にそう返すと何事もなかったかのように歩き出した。それに続いて会長も「じゃーねー響ちゃぁん。」と俺に手を振りつつ歩き出した。つまらん。
ま、いっか。食券買いに行こ。
「俺恭夜の名字を一発で当てる人なんて初めて見たよ。響ちゃんすごいなぁ。」
会長こと久遠修也は言う。隣の男、棚下恭夜は全く動じていなかったが、かなり珍しいことには間違いはない筈だ。
「ああ、俺も驚いた。全く俺のことを知らない相手ならあいつが初めてだ。」
いや全然驚いてなかっただろうという突っ込みを心の中でしつつ、修也は聞き返した。
「当てた人自体はいるってこと?」
「俺の名字は確かに珍しいが、ごく一部では知られているからな。だからこそあいつには注意をした方が良さそうだ。」
言いつつ恭夜は携帯を弄りだした。今の発言から察するに、恐らくは風紀委員たちに姫宮を要観察者とすることを改めて連絡しているのだろう。
その様子を修也は楽しげに見ていた。
(ふぅん。じゃあ俺の方でも調べてみようかなぁ。引っ掻き回せればもっと面白いことになりそうだし。)