そんなこと言って、後悔しても知らないよ?
「母さんの墓参りに行かないか」
鍛冶屋での手入れが終わった後、街を歩きたがるチェルにカイナはそう提案した。
チェルを街から離れさせる方法を思案していたところ、最後に母の墓参りに行ったのが1年以上前だという事に思い当たったのである。
「……どうして?」
買い与えたきゅうりをぽりぽりと齧るチェルの様子はあまり乗り気ではなさそうだった。母が亡くなったのはチェルが物心つくより前のことであり、あまり思い入れも無いのだろう。
「墓参りに理由なんてないさ。死者を偲ぶというのは、そういうものだ」
「んー……別にいいけど、カイナ兄おんぶしてくれる?」
墓は城下町の外にあり、多少の距離がある。馬に乗るほどでもない、十分に歩きでも行ける距離ではあるが、虚弱なチェルからすればそうではないのだろう。
「疲れたらしてやる。それまでは自分の足で歩くことだ」
チェルをおんぶすること自体はカイナにとっては何の問題も無い。タンパク質も炭水化物も不足しているチェルの肉体は骨に皮が張り付いているかのようであり、不健康な体重は鍛えているカイナが背負う事にも何の負担もない。
しかし、チェルとカイナは王子である。子供とはいえチェルは12歳であり、墓場までの距離を歩くことは本来なら無茶でもなんでもない。王族として保つべき体裁があり、いつまで経っても甘えん坊な弟と、弟離れができず甘やかす兄などという実態とはかけ離れた醜聞が生まれる余地を残すわけにはいかなかった。
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
純粋無垢にカイナを見上げながら、どの立場からなのかもわからない発言をするチェル。その傍らに寄り添いながら、カイナはチェルの狭い歩幅に合わせながら墓地へと歩き始めた。




