また3人で会えるのだと軽く考えていた
「来たか、カイナ、チェル」
カイナが亡命の為の身支度を整えた後、厩に向かうとふたりの父であるフートラ・ユーリィが待っていた。
「ご当主、わざわざ見送りに来ていただけるとは……」
いつものように恭しくフートラに挨拶するカイナ。それを見て、チェルもおぼつかないお辞儀をした。普段はそのようなことはしないが、なんとなくそうした方が良いと思った。
「その呼び方はもう良い。今生の別れの時くらい、父として息子を送らせてくれ」
「はい……父さん」
「今までお前には苦労をかけたな……。こんなことを言える立場ではないかもしれないが、せめてこれからは自由に生きてくれ」
「それは……難しいかもしれませんね」
横目でチェルを見た後、自嘲気味に笑うカイナ。それに釣られるようにして、フートラも笑みを零した。
チェルはそんな二人のやりとりをただ無表情に見上げていた。
「達者でな。父より先に死んでくれるなよ?」
「善処します」
互いの背に腕を回し、抱き合うふたり。それを見てチェルは自分も混ざった方がいいのかと考えたが、結局はただ眺めているに留まった。
「チェルも、こちらに来て抱かせてくれ」
「ん……えと……はい……」
両腕を真っすぐに伸ばしながら、身長差を少しでも縮めようと背伸びをするチェル。フートラは屈んで両脇に手を差し入れると、そのままチェルを勢いよく抱き上げた。
「わぁ……」
少しも驚いていない声で感嘆詞を漏らすチェルに対し、フートラは愉快そうに声を漏らした。
「チェルは変わらんな。昔からずっと変わらん……私の中では、今でも6歳の頃と全く変わらんよ」
「それは……さすがにどうかと思う……」
「すまんな……もっとお前のことも見てやりたかった……。この事態を招いたのは、私にも責任がある。どうか、許してくれ……」
フートラの言葉をチェルは十全には理解できなかった。
悪いのは反乱している兵であり、責任は民に嫌われてしまったチェルにある。フートラに謝る理由は無く、むしろ謝るべきはチェルであるが故に、チェルはフートラの謝罪に何て応えればよいのかがわからなかった。
「僕の方こそ……ごめんなさい……」
だから、それは薄っぺらい謝罪だった。ただその場の雰囲気に合わせただけの言葉だった。
自分は悪くないと思っているわけではなく、本当の意味での反省が出来ていない状態での謝罪。それを受け止めたフートラは悲し気に笑みを浮かべ、やはりチェルにはフートラの気持ちはわからなかった。
「では、私は戻る。この混乱の最中、あまり長いこと王が不在であるわけにもいかぬのでな……。カイナ、チェルを頼んだぞ」
「はい……お任せください、ご当主」
「ばいばい……お父さん……」
「ああ……さよならだ、息子たちよ……」
10分にも満たない短い親子の別れ。それは今生の別れなのだという実感を持つには短すぎて、チェルは心の底ではまた3人で会えるのだと軽く考えていた。




