……聖剣、元に戻った?
「んぅ……?」
チェルが目を覚ますと、目の前にはカイナが居た。チェルの左手を持つ右手は、見覚えのある淡い緑の光を放っていた。
「カイナ兄……もう朝……?」
チェルが寝ぼけ眼で窓を見ると、外は暗かった。朝だから起こしに来たのではなく、カイナは用があってチェルの部屋まで来たらしい。
「チェル、約束を破ったな」
「……だって」
カイナが聖剣を置いて退室し、メイドたちがチェルを着替えさせて髪を含めた全身を綺麗に整えた後のこと。チェルはカイナとの約束を破り聖剣を弄りまわしていた。聖剣を胸に抱いてみては腕に切傷を作り。試しに舐めてみては鼻の頭を切ってしまい。更にはわざと指を切ってみたりして、最終的には枕の下に敷いて眠りについたりなどしてみた。
しかしながらチェルの幼い努力も虚しく、目を覚ました今でもチェルの意思に聖剣が呼応する気配はない。今も枕の下からカイナに回収されたまま沈黙を保っていた。
「……ごめんなさいだ」
「え?」
「謝罪をしろと言っているんだ。約束を破ったなら、まず最初に謝罪をしろ」
突然のカイナからの説教に、チェルは面を喰らった。今までもカイナからは何度も説教された経験がチェルにはあった。しかし、謝罪をしろと言われたのは初めてだった。
「……ごめん、なさい」
「それと、ありがとうだ」
「……え?」
「人に親切にしてもらったら感謝を伝えるんだ。どんなに親しい相手でも、相手が自分よりも身分の低い相手でも、感謝と謝罪は忘れるな」
「うん……わかった……?」
感謝についての説教もチェルは初めての経験であった。このタイミングで感謝と謝罪の説教をされる理由はわからなかったが、どことなく真剣なカイナの雰囲気に押され、チェルは曖昧に頷いた。
「…………」
「? ……あっ。傷を治してくれて、ありがとうございます……?」
遅すぎるチェルの感謝を受けて、カイナは大きくため息を吐いた。
「どういたしまして」
カイナは人差し指を伸ばすとチェルの鼻先に指先を添え、鼻の頭の傷も治療した。その間チェルは眩しさに目を瞑りながら、カイナが部屋に来た理由に思いを馳せていた。
「あまり手間をかけるなよ。回復魔法も無制限に使えるわけじゃないんだ」
「うん、ごめん……? あれっ……この場合、ありがとう……? カイナ兄、どっちの方がいい?」
「俺はどっちでもいい。好きにしろ」
「ふーん……じゃあ、ありがとう。それでどうしたの? ……聖剣、元に戻った?」
わずかな希望を込めてチェルは聖剣について問うた。自分が持っている1本ではなく、他の7本について何か進展があったかもしれないと考えた。
しかし、チェルの願望とは裏腹にカイナの表情はしかめっ面のまま変わらなかった。
「この部屋に残した聖剣を除いて、他の聖剣は全て奪われた」
「……え?」
「逃げるぞ、チェル。この国はもう、お前にとって安住の地じゃ無くなった」




