愛と友情が生んだ奇跡
(甲斐)優良!じゃーん!体調回復のお祝いです!
(優良)えっ!それってまさかケーキ!?
(甲斐)人気のお店!ま、ちょっと並んだけど。
(優良)ありがとう!中身見ていい?
(甲斐)いいよ!
(優良)うわぁ!かわいいしおしゃれで美味しそう!食べるの楽しみぃ!
右手が無い僕はご飯はすべて甲斐くん食べさせてもらっている。左手で食べる練習をしているが、なかなかうまくいかない。最近、切られた右手の痛みが強い。
甲斐くんは自分のご飯を後回しで僕にご飯を食べさせてくれる。本当に本当に優しい人。
甲斐くん…サッカー…やめちゃうのかな…
(優良)いったっ…いたい!
(甲斐)優良?右手?
(優良)うん…最近刺されてるみたいに痛くて痛くて...
(甲斐)病院また早いうちに行こっか。
(優良)甲斐くん…治療代とか顔の手術代とか自宅看護の費用とか全部甲斐くんに負担させちゃってる。顔の手術は…あきらめようかな…
(甲斐)優良、鏡見るたび悲しそうな顔してため息つくの知ってる。お金なら問題ない。小さいお店もまぁまぁ繁盛してるし、それで優良が少しでも笑顔になれるなら問題ない。
(優良)僕、愛されものだね。ありがとう甲斐くん。
優良は毎日寝込むことが少なくなったがその分酷い熱がたびたびある。
優良がケーキをお皿にうつして食べる準備をしているとき…
ふらっ!
(甲斐)優良!
ドサッ!!
(優良)はぁっはぁっはぁっはぁ!!!
(甲斐)優良?優良?わかる?優良!
(優良)はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!
(甲斐)看護士呼ばなきゃ!体めちゃくちゃ熱い。優良大丈夫だからね。看護士さんすぐ来るからね?
大丈夫大丈夫と声をかけ、手を握り背中を撫で続けた。
看護士さんがきて、優良は変わらず苦しそうにしている。
(優良)かい……く……はぁっはぁっ…
(甲斐)優良?なに?
小さな声で優良が僕の名前を呼んだ。
(優良)ケーキ……落としちゃ……ごめ……はぁっはぁっはぁっ!!ならんっ…だのっ……にっ……はぁっはぁっはぁっはぁっ!!
(甲斐)そんなん…また買ってくればいいよ。苦しいから声絞り出すの苦しすぎるから謝らないで?ね?
優良は安心したような表情をした。
けど、時間が深夜に近づいていけばいくほど優良の様態は悪くなっていく。冷たい汗でグショグショの優良。
ザッザッ!!と荒げた呼吸に激しく上下に動く肩。優良の体は猛烈に熱い。こういう時このまま本当に死んじゃうじゃないかと怖くなる。
(甲斐)ゆーりー?汗ふくね?熱いね苦しいね…僕がいるからね?一人じゃないからね?
その時優良の左手が僕の腕に触れた。
(優良)ザッザッザッザッ!!ザァザァ!!ザァアッッ!!あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!
(甲斐)優良?どした?優良?
優良は泣きながら苦しそうに声を出して「苦しいよぉ!」といっているようにみえた。
(甲斐)苦しいね優良、苦しいね…
優良の震える手がゆっくり僕の頬を触った。
(優良)あっ…!あうっ!はぁっはぁっ!!あいっ……くっ……
優良の手がものすごく震えていて本当に弱い力で僕の頬を触り続ける。
ずるっ!
(甲斐)ゆう……り?
優良の手がずるりとベッドサイドに垂れ下がった。
(優良)はぁっはぁあっ!!はぁっはぁっはぁあっ!!はぁっはぁっはぁあっっ!!!
(甲斐)優良?優良!?看護士さん!先生を呼んでください!!優良が!優良が!!
(看護士)はい!
(甲斐)優良?優良?俺がいるからね?大丈夫だからね?絶対絶対大丈夫だからね?怖くて熱くて苦しいね?大丈夫、大丈夫だよ優良?
医師の診断により、優良の体温は下がることはなくむしろもうじき上がりきって死んでしまう確率の方が高いと言われた。
(甲斐)んだよ…それ…優良には体が辛くなくて、楽しい気持ちでいられる時間ってないのかよ…小さい頃から今でもずっとずっと苦しいままじゃねーかよ!
俺は近くのゴミ箱を蹴った。
(甲斐)笑わせてぇよぉ…もっともっと…笑わせたい…普通に外でてどこかにかけたり、美味しいもの普通に食べたり普通の幸せを一日でもいいから味あわせてやりたい。なのに...なんで?なんで…右手は無くなって…顔はめちゃくちゃのままで...全身包帯だらけで...そんなん…
その時サッカー仲間から連絡があった。俺が優良のことばかり自慢するから優良に何かあったのかと心配してくれた。
優良を看護士さんに任せて本当に久しぶりにサッカー仲間と会った。
(仲間の友紀)サッカー、やめんの?もったいないなぁ…
(仲間の陸)甲斐にはもっと大事にしたいもんがあるんだよな。優良くん、大丈夫なの?
仲間のみんなに優良の状態を説明した。
(友紀)俺らみたいに毎日健康で好きなことやれるって贅沢すぎるはなしなんだなぁ…
(陸)甲斐ばっかり背負い込むなよ?俺たちにも何かさせろよ?手伝いに行ったり。
(友紀)家に押し掛けて邪魔したりな!
(陸)おまえは優良くんの写真、見せたがらないけど、俺らは怖がったり嫌み言ったりバカにしたりは絶対しないから。
(友紀)そうだよ!写真くらいみせて?
(甲斐)わかった。今はこんな感じの状態で...整形外科予約したけどきっとその前に...って二人とも泣くなって!
(陸)いやだって、俺たちなんか一発殴られて腫れただけで発狂するのに…
(友紀)優良くん。よく耐えたよ…それで右手なくてずっと高熱のままって…
(陸、友紀)俺たちにできることないの?
(甲斐)優良を笑顔にしたい。外でかけたり美味しいもの食べたり普通に…普通に…
(陸)よし決まり!俺たちでいろんなとこ行ってテレビ通話してさ行った気分にさせるってのは?
(友紀)それだけで行った気分になるか?
(陸)やってみなきゃ本人の気持ちなんかわかんないじゃん!なにもやらなければ始まらない!いいよな?甲斐?
(甲斐)嬉しいけど…二人とも練習とかあるだろ?
(友紀)時間ってもんは作るもんだよ!やろうよ!陸!ずっと甲斐の負のオーラみてらんねぇし!
そうしてサッカー仲間達からの作戦が始まった。
優良は相変わらず苦しそうで俺が付きっきりで看病を続けた。
そんな中。
ピロン!
(甲斐)優良、テレビ通話送られてきた。
(優良)え?テレビ通話?
(甲斐)友達から。見てみて。
(陸、友紀)今日はディズニーにきていまーす!何乗りたいですかぁ?地図どーん!
(甲斐)何乗りたいって。
(優良)スプラッシュマウンテン…かな?
(陸、友紀)下るぞ下るぞ下るぞ!!ぎゃーー!!
(甲斐)おーい!水浸しでカメラ回ってねーぞ!
(優良)ふふふ!!ほんとだ!
優良が笑った。しかもほんとにどこかにでかけてるみたいに自然に。
(陸、友紀)次、何食べたいですか?
(優良)じゃあチュロスで!
(甲斐)おーい!もくもく食ってねーで味の感想は?
(陸)うまいっす!
(甲斐、優良)それだけ?
みんなで笑いあって普通の本当に普通の日常風景だった。二人のおかげで優良の日常はどんどん増えていった。
(友紀、陸)えー、今日は八景島シーパラダイスにきていまーす!地図どーん!二人とも何みたい?
(甲斐、優良)くらげ!
(友紀)息ぴったり!ここがくらげゾーンでーす!広いでしょー!
(優良)きれー!あれは何くらげ?
(陸)えっとこれですか?
(優良)違うオレンジのふやふやの!
(陸)あっこれ?
(優良)そうそれ!
(陸)えーっと…分からないのでぐぐりますねー!
みんなでわいわい笑いあって週末になると恒例で陸と友紀がいうにはこれは「デート」だそうだ。二人は自腹ですべて俺たちの指示通りの行動をとってくれている。
しかしこれをずっと続けさせるのは…正直心が痛む。陸と友紀と俺と三人でまたご飯に行った。
(甲斐)あのさ…二人には本当に感謝してる。優良がたくさん笑うようになった。本当にデートしてるみたいに思える。でも二人はサッカーのこともあるのに毎週しかも自腹でやらせるのはちょっと…
(友紀)それくらいさ…俺たちにもさせてよ。二人のはなしきいてると本当に普通にデートしてたくさん触れあって恋人らしいことできないってのはさ、こっちも辛いのよ…
(陸)あれも俺たちだって楽しくてやってるわけだしさ、二人が楽しくなれるなら続けさせてよ。
(甲斐)いいの?
(友紀、陸)当たり前じゃん!
それから四人でわちゃわちゃ毎週楽しくいろんなとこをテレビ通話で巡った。
それから一ヶ月が経ち、優良の体がとうとうきつくなってきた頃。
(甲斐)優良?二人がさ、優良が体辛いならデートやめるっていうんだけど…どう?
(優良)二人には答えるのもゆっくりになっちゃうし、迷惑かけるかもしれない。けど…楽しくて…本当に甲斐くんとデートしてるみたいでできる限りつづけたい。
(甲斐)わかった。二人にも言っておく。
二人は優良の体調を心配しながらも最後まで協力してくれた。
(友紀)あんさ、優良くんと甲斐、来週からはデートできそうもないって。ありがとうって二人とも言っててさ…俺たちただ遊んでただけなんにさ…
(陸)最後にさ、俺たちでなにかやろうぜ?失敗してもへましてもいいから。なにかやろう?俺たちの願いは一緒だろ?
(甲斐)優良?今日も息上がって熱高いね…ボーッとする?
優良は言葉を発して答えるのも苦しくてこくりとうなずいた。
(甲斐)氷多めに持ってくるね!
(優良)はぁっはぁっ!!あっあってぇ!
(甲斐)ん?
(優良)っ……て……はぁっはぁっはぁっはぁっ!だっ……はぁっはぁっだっ……ひっはぁっはぁっはぁっ!!だひっ!
(甲斐)わかった。
ぎゅっと優良を抱きしめた。怖くて仕方なかったんだって震え方でわかった。また痩せてしまった細い体を包み込んでゆっくり優しく撫でる。炎のように熱くてはぁっはぁっとリズムを乱しながら激しく動く体。全身で懸命に息をしていてそれが直に伝わって苦しそうで苦しそうで泣いてしまいそうになる。
(甲斐)怖いよね優良…
(優良)こわひっ…しんざうの…はぁっはぁっこわひっ…かっくっ……あえて……しにたく……なひっ…
(甲斐)俺も...優良とあえたから...人生変わったけど…優良を失いたくないよぉ……
そうして優良は意識をもうろうとさせることが多くなった。段々に弱っていくのが分かる。
(甲斐)優良?頭なでるね?髪伸びたね。髪、洗いたいよね…ずっと洗えてないもんね…
ピロン!
携帯が鳴った。陸と友紀からだった。
「家行っていい?優良くんにも会ってみたい。」
(甲斐)はあ?あいつらほんとに押し掛けるつもりかよ?
ピンポーン!
(甲斐)はや!
(陸、友紀)やほ!
(陸)甲斐大丈夫?
(甲斐)え?俺は見ての通りだけど…
(陸)元気ならいいんだけどさ。優良くん、様態悪いんだろ?
(甲斐)うん。
(陸)俺実はサッカーやめて、公務員やっててさ。
(甲斐)は?公務員!?
(陸)児童相談所で働いてる。二人みててさ、そういう人救いたいなって。だから全然優良くんに会っても俺は驚かないよ?なんなら髪伸びてたり洗えてなかったりする?
(甲斐)まさしく今それ思ってた。あっでも優良の髪の毛は一度も洗ったことなくて…ていうか洗ってもらえなくていろんなとこ回ったんだけど…汚れがその…
(陸)そんなん平気だよ!洗ってもらえないほうが辛いだろ。
(甲斐)ありがとう。陸。
(友紀)てことでおじゃましまーす!
(陸)ほんと優良くんファーストな家だな。
陸と友紀はとまどいもせず自然に優良に話しかけてくれて陸は優良の体の負担にならぬよう考えながら一度も洗ったことがない頭を丁寧に何度も入念に洗ってくれて、髪も切ってくれた。
本当に二人には
(陸)二人には本当に感謝してる。
(甲斐)へ?感謝するのは俺の方だよ!だって俺らのために二人とも付き合ってくれて協力してくれて
(陸)ありがとう。
(友紀)俺からもありがとう。
俺の友達いいやつすぎんだろ。
(陸、友紀)それで最後の思い出づくりに俺らから提案があるんだけど…
医師と連携し、優良の体調の良い日を予測した。
その日、優良は意識がいつもよりはっきりあって顔色も良い気がした。
(甲斐)優良?車椅子乗れる?
(優良)車椅子?
優良を車椅子に乗せた。
(甲斐)ちょっと着替えてくるね!お待たせ!
(優良)なんでスーツ?仕事?
(甲斐)優良にはこれを被ってもらって…
(優良)これって…
優良の乗った車椅子をゆっくり押して、玄関をでた。
そこにはうちの庭とは思えないお花がたくさん飾られていて床にはレッドカーペットが敷かれ、華やかな結婚式場風の庭になっていた。
(甲斐)優良、僕と結婚してください!優良は明日、明後日、しあさって、生きれるか分からない。けど、俺優良しか…優良が最初で最後だから!いなくなってもずっと愛してるから。
(優良)甲斐……くっ……僕も...…甲斐くんが最初で最後のたった一人の愛してる人だから。よろしくお願いします。
(陸と友紀)おめでとう!
(サッカー仲間)ヒューヒュー!おめでとう!おめでとう!
花びらをふらせてくれる人達をよそに僕たちはレッドカーペットを歩く。一歩一歩確実に、歩いていく。
牧師さんが立つ元に歩く。
(牧師)健やかなるときも病める時もその命有る限り真心を尽くすことを誓いますか?
(優良)誓います。
(甲斐)誓います。
(牧師)では誓いのキスを。
車椅子の優良の元に跪き、ベールを取る。そして唇を重ねた。
サッカー仲間から祝福され、優良は泣いてみんなにお礼を言っていた。こんなに幸せなことがあるだろうか。きっと他の人には見れない、僕らだから見れた景色なんだと思う。
優良と出会えて本当に良かった。
(優良)甲斐くん僕幸せだ。甲斐くんのおかげ。ありがとう。
その数日後、優良は異常な高熱で、悶え苦しみ、俺は手をずっと握り続けてそばに居続けた。
(優良)はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!はぁっはぁっ!!はぁっはぁっ!!
(甲斐)優良辛いな…そばにいるからね。
(優良)かっ……いっ……くっ……かっいっくっ!はぁっはぁっはぁっ!!
ものすごく辛そうな表情をした後優良は…
(優良)がはっ!!
(甲斐)優良?優良吐血!!看護士さん!医師を!
(優良)ガハッ!!アハッ!!ガハッガハッ!!ゲホッエホッ!!はぁっはぁっはぁっはぁっ!!
大量吐血で口から血がバタバタと止まらなくて…
(優良)あいっ!はぁっはぁっ!!あいくっ!!くるっぐるじっ!!はぁっはぁっはぁっ!!
(甲斐)苦しいね、苦しいね、苦しいねっゆうりぃ…
もう優良の残された時間は確実にわずかだ。もしかしたら今夜が最後かもしれない。
(優良)ガハッガハッガハッ!!グハァアッ!!ゲハッゴボッ!!アハッアハッ!!ゲホッエホッ!!
優良は息をするのも許されず、血を吐き続ける。俺はめちゃくちゃに熱い優良の体を包み込んで撫でることしかできない。
(優良)ガハッガハッ!!かっ!かっ!かっ!グハァアアッッ!!がいっ!!ぐっ!!
泣きながら酷い吐血の中、俺の名前を呼び続ける優良に涙が止まらなかった。
(甲斐)うん。ここにいるよ。大丈夫。皮膚の感覚分かるようにぎゅってしてるよ?
(優良)そばっ…ひるっ…よかっ…グハァッゲハァッゴボォッッ!!!あっあっああああ!!
(甲斐)優良?優良!!優良!!優良!!
優良は黒に近い色の血を大量に吐き、そのまま看護士が数人バタバタとあわただしく処置を続け、優良は…
そのまま亡くなった。
でも優良は一人ではなかった。連絡したらサッカー仲間全員がそばにいてくれて最後は全員でみとった。特に陸と友紀は血を吐く優良に声をかけてくれて泣いてくれた。
イマジナリー世界
(支配人)最後は一人で死ぬかと思ったら…いかにあいつらしいなぁ。
(イマジナリー仲間)代償を払っても愛する人から忘れられてても幸せでしたね、優良くん。イマジナリー任務、おつかれさま。支配人、優良くんは天国にはいけないんでしょうか?
(支配人)仕方がないなぁ。あの人間が死んだら会えるようにしてやるか。
(イマジナリー仲間)良かったね、優良くん。
優良が亡くなった後、お葬式にはサッカー仲間全員が揃って参道してくれ、お墓も無事に建てられた。
ただ…ひとつ不可解なものが届いた。
家のポストに差出人不明の封筒が届いた。中身を確認すると。
痩せ細って髪がボサボサの小さい頃の僕と妖精のような雰囲気をまとった優良が写真に写っていた。昔優良が言っていたことが本当なら僕はふたつの世界を経験したのだと痛感した。真実は優良にしか分からないが優良が僕を助けてくれたのは本当だろう。
ありがとう優良。優良は僕のたったひとりの最初で最後の愛した人。そしてこころ優しい妖精だ。




