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心優しいイマジナリー

苦しくて苦しくて仕方ない時、妖精が現れると聞いたことがある。

けど、それはただの迷信に過ぎない。

でも……今は……

(甲斐)はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!

息ってどうやってするんだっけ?分からない。誰か教えて…体が苦しくて苦しくて…口を大きく開けても右を向いても左を向いても...

苦しいっ!!!苦しいっ…

(甲斐)はぁっはあああっ!!はあぁっくはっんはっはぁっっ!!はっはっはぁあっっ!!

一回一回の息がとんでもなく苦しくて涙が止まらなくて…一人が怖くて怖くてたまらない。

(甲斐)だっかっはあぁっはあぁっ!!だれっかっ!!くっしっくっしっ!!たっけえっ!!

どんなに叫んでも誰も助けになんか来ない。分かってても…

(甲斐)だ……か……た……け……はあぁっはあぁっ!!はぁっはぁっはぁっはぁっ!!く……しい……く……しっ……

頭がぼぉっとして、意識が遠のく。

その時そばで声がした。

(?)大丈夫?苦しいね?ここ撫でるね?

ビクッ!!

(?)ごめんね!叩かないから安心して?優しく撫でるから大丈夫だよ?

(?)一人じゃないからね!僕に寄りかかっていいからね?寝るスペースないくらい汚ないな…この部屋…君が汚したんじゃないのに...

(甲斐)う……ん?はぁっはぁっはぁっ!!

(?)もっと寄りかかっていいよ?すごく苦しいから…うん、そうそう。

(甲斐)う……ん……はぁっはぁっ…はぁっはぁっ…

(?)少し落ち着いたかな?ぎゅーってしたらいい?ふわって抱きしめたらいい?

(甲斐)ぎゅっ……がっ……はぁっはぁっ…いいっ……

(?)うん。大丈夫。大丈夫だからね?僕、ずっと君のそばにいるからね?背中、楽になるまでなでなでするね?

(甲斐)ありっ……がっ……

(?)うん!ずっと離れないから安心して?苦しいからしゃべらないでいいよ?息苦しいね?大丈夫大丈夫。

見知らぬ、その男の子は翌日の朝にはいなくなっていた。ずっとそばにいると言っていたけどさすがに翌日まではいられなかったのかな。それとも本当に妖精なのかな?

3日後、お母さんから猫を預かるように頼まれた。またへまをすると大変だ。だけど、体が苦しくてエサの時間なのにエサが二重三重に見えて汗でグショグショでなのに髪からポタポタ止まらなくて…

(甲斐)ごめっね?お腹空いてるよね?お腹空いてるとすごく辛いよね…今…ごはん…あげるからね?

ザアッ!!

あ...…れ?お皿……どこ?

ドサッ!

(甲斐)はあっはあっはあっはあっ!

ごはん……あげ……なき……なの……に……

(お母さん)は?何してんの?エサばらまいてどうすんの?お前は何も食べなくていいけどこの子は食べないとだめなの!

ドッ!!ガッ!!ゴッ!!

(甲斐)ゔっ!ゲホゲホッ!!アハッアハッ!!ゼェヒュウッ!!ご……めっ……なっ……

(お母さん)何?聞こえない!

(甲斐)ごめっ……なさっ……ごめっ!!ごめっなさっ!!

(お母さん)倒れてないで座りなさい!早くごはんあげて?

目が…ぼやけてほとんど見えない。けど…座って…ごはん…あげなきゃ…それくらいできなきゃ…お皿にちゃんと…

ザラザラザアッ!

なんで…こぼれちゃうの?

(お母さん)お前はそれくらいもできないの?

(甲斐)ごめなさっ!!ごめんっなさっ!!

(お母さん)お前はこれでも飲んでろ!

無理やり薬を飲まされて…少しして体がブルッと震え上がって…嘔吐が止まらなくて…

(甲斐)ガハッガハッオエェッ!!ゲホゲホォッ!!ゲハァッッ!!グフッグハッ!!

息……でき……あ……

吐いて吐いて吐いて…何が何だか分からなくて…目がガチャガチャしてとにかく気持ちが悪い…

(甲斐)オエェッ!!オエェッ!!グフッグハッ!!ゲホゲホッゲホゲホッ!!ゔっゔっ!!

でも猫の面倒みなきゃ…立たなきゃ…足に力が……目が…見え……な……

足に何かが引っ掛かって思いっきり転んだ。

ドシャァッ!!

キーン!と耳が聞こえなくなって…苦しくて苦しくて体がビクッビクッと反り上がる。

(甲斐)あっあっあっ…あっあっあっ…あうあ…うえあ……ああああああっ!!

(?)甲斐くん!?甲斐くん?分かる?

(甲斐)あっあっあっ!!あっあっあっ!!

(?)だめだ…目が変な方向向いてる…体の飛び上がりが尋常じゃない。

ビクッビクンッガクンッビクゥッ!!

よ…せい…さ…おねが……ずっとずっと……そばに...…飛び上がって飛び上がって……とまらな……こわいっ!!

甲斐くんは毎日毎日お母さんから暴力をふるわれ、病気も進行して、座るのも苦しいと言っていた。いつも僕にぐったりと力なく寄りかかって日に日に呼吸がゼェゼェと苦しくなっていく。とにかく僕を妖精さんと呼ぶ甲斐くんに、「僕の名前は優良だよ」と伝えた。

(甲斐)ゆ……う…はぁっはぁっはぁっはぁっ!!

(優良)うん?

(甲斐)ごめん……ね…

(優良)甲斐くんはなんにも悪くないよ?だから謝らないで?

(甲斐)ごめっ……ね……

ずずっずずっ!!

甲斐くんがどんどん倒れ込んで…僕の腕のなかで呼吸をするのに体を大きく激しく揺らして本当に苦しそうなのになんで謝るの?時間の経過と共に甲斐くんの体の揺れが激しく短く早くなっていく。ヒュッヒュッゼェッゼェッと吐き出すように一回一回の呼吸が僕の腕にザッザッと本当に苦しそうに荒くかかる。

僕の呼び掛けに答えることも苦しいくらい甲斐くんは病気に飲み込まれていく。

(優良)甲斐くん?大丈夫?今日、内出血酷いね…

(甲斐)う………ん?はぁっはっっ…はぁっはっ!!

(優良)甲斐くん横になろ?布団持ってくるね!

布団を探して、でも寝室に行くとベッドが二つあってここに寝かせてあげれたらどんなにいいだろうと思った。

(優良)甲斐くんごめん…布団がなくて…?甲斐…くん?

ド……サッ!!

(優良)甲斐くん!

甲斐くんはそうとう体が苦しかったんだ…かくばった骨が肉眼で見えるくらいに痩せきって赤黒いあざや切り傷で埋め尽くされた体で限界をとっくに越えている。正直甲斐くんの体は骨と皮しかない。

(優良)甲斐くん?毛布しかなくて…ごめんね…

怖いほどに驚くほど軽い痩せきった体の甲斐くんを抱き抱えて毛布に寝かせた。

(甲斐)はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!

(優良)甲斐くん?分かる?甲斐くん?

ゴツゴツとかくばった肩をリズムを激しく乱して呼吸が本当に苦しそうで苦しそうで…甲斐くんに酸素を…酸素を!

(甲斐)はぁっはぁっはぁっ!ヒィッヒィッヒィッ!!ヒグッイグッヒグッイグゥッ!!

(優良)苦しいね?怖いね?大丈夫だよ?大丈夫だからね?

ガチャ!

(お母さん)あんた何寝てんの?しかも毛布勝手に取って泥棒!!あんた聞いてんの!

お母さんが甲斐くんの胸ぐらを掴んだ。

「ゔっ!」と苦しそうな声を甲斐くんが出した。

(優良)やめてぇ!これ以上殴ったら甲斐くん死んじゃうよ!毎日毎日あざが増えてって体が限界なんだ!意識がもうろうとして、すごく激しい息づかいなんだ…毛布にしか…寝かせてあげられなかった!手を出さないでぇ!死んじゃうよぉ!!

(お母さん)ゴミくらい出しなさいよ!あんたなんか毛布に寝る資格ない!このゴミ!

ガッ!!ゴッ!!ゴキッ!グキッ!ドゴッ!!

(優良)やめ…やめて…死んじゃう…

ガゴッ!!グキュッ!!ボキッ!!

(優良)やめてぇ!!本当に死んじゃうってぇ!!やめてえぇえ!!

(お母さん)毛布とるな!この泥棒ゴミが!!

お母さんは毛布をとっぱらって冷たい床にドサッと甲斐くんを投げつけた。原型をとどめてない顔の甲斐くん…甲斐くんの骨は当然脆く、たくさん折れた音がしたからかなり痛いはず…

甲斐くんの顎が大きくずれて酷い型の口に耳を当てても呼吸を感じなくて…

(優良)甲斐くん?呼吸できっ…できっないねぇ…痛くて苦しいね…甲斐くん死んじゃっ…死んじゃだめだよぉ…なんで…なんで?誰も救急車呼ばないの?なんで僕はイマジナリーなの?甲斐くん助けたいよぉ…

甲斐くん?甲斐くん…死んじゃ…やだ…

甲斐くんが死んでしまう恐怖で僕は窓ガラスを割って甲斐くんをおぶって外に出た。

病院に行かなきゃ!

(優良)甲斐くんもう少しもう少し…

これ以上頑張れなんて言えなくて言葉につまりながら僕は走った。

(優良)甲斐くん大丈夫だからね?僕が助けるからね?明日からは甲斐くんが笑えるようにご飯もいっぱい食べれるようにしてあげたいよ…

病院についてすぐに受け付けにかけよった。

(優良)すみません!今すぐ助けてください!甲斐くんは悪くないんだ!だからお願いします!助けてください!

僕が伝えてもみんな僕のことが見えてなくて早くしないと甲斐くんが本当に死んじゃう!

甲斐くんの体がガクガクブルブル震えてきてて…

(優良)せめてベッドに寝かせてあげてください!!お願いっお願いします!!甲斐くん…震えが…早くベッドに早く!

(甲斐)ガッハァァッッ!!!

(優良)甲斐……く……

気がついたら全身甲斐くんが吐いた血でベッタリと濡れていて…

どんどん背中に乗せた甲斐くんが冷たくなって…

(優良)甲斐く…?ねぇ返事して?甲斐く甲斐くん甲斐…く……僕、甲斐くんと入れ換わるからさぁ…そしたら甲斐くんの痛みが分かるかな…苦しさが分かるかなぁ…ねぇ甲斐くん…おねが…死なないでぇ!お願い…

その時パアッとまぶしい光が降ってきて僕がイマジナリー世界に帰ることを示していた。甲斐くんを一人にしたくないのに甲斐くんから離れていく。

(優良)甲斐くぅぅん!やだぁああ!甲斐くん!!

目が覚めたらそこは色んな格好をしたイマジナリーが、わんさかいた。

自分の手がさっきまで甲斐くんの血で汚れていたのになにもなかったかのように綺麗になっていて甲斐くんはあの後ちゃんとベッドで寝かせてもらえただろうか。どうか回復してあの家庭から離れて元気になってほしい。笑った顔、見たことないからおもいっきり笑ってどうか。

(支配人)君にはまた新たな子供についてもらう。

(優良)いやだ!また甲斐くんに四季甲斐くんにつきたいです!

(支配人)気持ちは分かるが、彼は亡くなり、君の任務はもう終わったのだよ。

(優良)そんなの嘘だ!甲斐くんにはまだ生きる権利があった!おもいっきり笑って美味しいご飯を食べてふかふかなベッドでぐっすり寝てそれから

(支配人)彼は亡くなった。母親が親と認めず、遺体はそのまま腐敗していくだけだ。

(優良)僕のせいだ…

(支配人)おまえのせいではない。おまえは十分任務を遂行した。

(優良)じゃあなんで甲斐くんは死ななきゃいけなかったんだよ!甲斐くんは死んだあとも今だって苦しいよって体が壊れていく恐怖でいっぱいなはず!

(支配人)そういう運命なんだよ。君は次の任務に励みなさい。

甲斐くんに笑ってもらいたくてそれだけだった。甲斐くんにこの世界の幸せも感じてほしかった。甲斐くんの人生に幸せという文字はなく、最初から最後まで異常なまでの苦しみしかなかった。それどころか今だってきっと誰かの助けを求めてる。

(優良)もう一度やり直させてください!もう一度!

(支配人)おまえはなにも分かってない!人の人生をやり直すのは天国の支配人との交渉が必要な上に…

(優良)それなら…僕が甲斐くんになればいい。甲斐くんには幸せな家庭でやり直させてください!

(支配人)まぁ…それなら手続きは簡単だが…お前正気か?

(優良)はい!甲斐くんに笑ってほしいから!

それからしばらくして支配人に呼ばれた。

(支配人)上と相談したところお前の配属が決まった。イマジナリーになる前のお前の人生をもう一度やり直すことを許可する。

(優良)イマジナリーになる前ですか?

イマジナリーになったら生前の記憶は消される。

(優良)でもそしたら甲斐くんは

(支配人)甲斐にももう一度人生をやり直すことを許可した。

(優良)ほんとですか!?

(支配人)甲斐はお前のことは忘れてるからな?それでもいいか?

(優良)それでも!甲斐くんが幸せになれるならお受けします。

そうして僕は生前の人生を生き直すことにした。

けど…

小さなおりに閉じ込められていて逃げないように首にくさりがつけられていた。

今まで思い出しもしなかった。いや、思い出したくなかった記憶がぞくりとした身震いと共に思い出した。

僕は家族に売られた商品。

ご飯の時間になるとドックフードを水で練ったみたいなものがでてきてそれを手でつかんで夢中になって食べる。

夜は地べたで寝て、なにかへまをすると罰がある。ミドミ様と言うボスがいる。その人に逆らうととんでもない罰が待っている。

そうだ。僕らはすべてが無で楽しいとか嬉しいとか怖いとか痛いとかそういうの分からない人種なんだ。

でも今、甲斐くんに出会ってしまった幸せを知ってしまった今、とてつもなく寂しい。

喜怒哀楽すべて甲斐くんに教わったから。

なんか目が覚めたら頭がぽーっとしてぞくぞくと体が寒くて熱い。

熱かな…

朝も当たり前のようにご飯が置かれたけど気持ちが悪い…

(ミドミ様の手下)おい!家畜!めしを食べろ!

(優良)すみません食べれません。熱があってその…

(手下)熱?嘘つくんじゃねーぞ!

グイッ!

(優良)ガハッ!!どさっ!

おもっいっきり鎖を引っ張られ首がしまった。

(手下)エクスタシーとコカイン入れろ!

体を押さえつけられ注射をされてしばらくたつと体がカーッと燃えるように熱くなって熱くなって…呼吸が…

(優良)ハッハッハッ!!ハァッハァッ!!フッフッフッフゥッ…

汗がでないのに...本当に熱くて寒い...から……だが……おかし……

(優良)寒い寒い寒い寒いっ!!熱い熱い熱いっ!!ざぶいっ!!あづいっ!!

ガクガクガクガク!!ガチガチブルブル!!

気持ち悪くて気持ち悪くてめまいを越えたぐるぐるが襲ってきて…

吐いて吐いて吐いて吐いて…

息できないくらい吐き続けて…

倒れたまま動けなくて…

なんだろ…この気持ち…ものすごく...ものすごく...甲斐くんに会いたい…

一週間経ってもずっと高熱が下がることなく、労働が始まった。

重い土を運んで走ってスピードを試されたり、苦しくて苦しくて…

やば……い……もう足が一歩も...…頭…割れそ……

ドシャアッ!!

勢いよく倒れ込んで息ができない立てない…お願い…もう…

意識をなくして、目が覚めたときにはまた牢獄の中にいた。

高熱が続くなか、毎日毎日犯罪を指示された。

万引きにスリに空き巣に詐偽に...やらないと重い罰が待ってる。

これが甲斐くんが味わってきた苦しみと悲しみと絶望…

死んだように生きるとはこのことだ。

でもこのまま死んでしまえばあとは甲斐くんが今幸せかどうかだ。

(手下)おい!買い出しだ!メモに書いたやつとってこい!

(優良)はい。分かりました。

フラフラと千鳥足で歩いて近くのスーパーにメモに書いてあるものをバレないように渡されたバックの中に入れる。

あぁ…お店の照明が明るくて気持ちが悪い…今日は冷たい汗がひどくて息を整えるだけで精一杯なのに...照明に人混み音楽にうるさいアナウンス…気持ちが悪くて気持ちが悪くて…吐くのを堪えてバックの中にじゃがいもをとにかくたくさん入れた。入れないと罰が待ってる。

次…次の野菜…メモを持つ手が震えて震えて何重にも重なって見えて分からなくて…

どうしようどうしよう!

(店員)君?なにしてるの?ちょっと待ちなさい!

必死になってスーパーを出て走った。走って走って走って平衡感覚が全くなくて壁に体を預けてずるずるとしゃがみこんだ。

(店員)あっ!いた!つかまえたぞ!この!泥棒が!

(?)何?万引き?

(優良)はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!!気持ち悪いっ…寒いっ熱いっ…はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!!

(店員)警察につきだしてやんぞ!

(優良)わか…ない……わかん……ない…なに?はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!!熱いっ寒いっ熱いっ寒いっ!!

(?)警察が分からないってどういうこと?

(店員)どこのホームレスの子供か分からないな…君?どこからきたの?

(優良)山田製作所…

(?)あっ!逃げた!捕まえなきゃ!お父さん?

(店員)こりゃ持ち逃げしなきゃ戻った先になにかされるんだろ…ほら手首にGPSあったろ。

(?)GPSって…なんのために...

甲斐くんだった。甲斐くん、元気そうだった。幸せに過ごせているみたいだ。良かった…

もう会うことはないだろうと思っていた。やっぱり相変わらず優しかった。僕は今も変わらず甲斐くんが大好きだ。

今日は薬のせいで人の高熱を越えた体温で恐ろしいほどの頭痛と倦怠感が襲い体が少し動くだけで尋常じゃなく辛くて発汗がひどくて全身ぐっしょり濡れてそれでも髪からポタポタと汗が止まらず小刻みに足が震える。

今日は指示された家に忍び込んで金品を盗んできた。走って戻らなきゃいけないのに...歩くのも立ってるのもの辛い...

頭が割れそうなくらいガンガンと痛くてぐるぐると景色が回る。

汗が…尋常じゃない…

早く…戻らなきゃ見つかる…

ふらっふらっとまた千鳥足のまま急いで袋を持って足を動かす。

「ゆぅりぃっ!!」

声がして振り返った。

(優良)かいっ……くん?どこにっ……いるっ……の?

「ゆーりー!」

(優良)はぁっはぁっはぁっはぁっ甲斐くんどこ?甲斐くんどこ?どこにっいるの?はぁっはぁっはぁっはぁっ!どこ?どこ?どこお……

足がガクガクガクガクと酷く震えて震えてもう立てなくて

(優良)甲斐く………どこっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!

体が苦しくて苦しくて「優良」って声が聞こえるのに…

今日は店番を頼まれて平日の昼間に閑古鳥が鳴くほど暇な時間、いつものように野菜の補充をしてるとき外からみえた。

ふらふらの今にも倒れそうな…またいっぱいなにかが入ってる袋を大事そうに持って…

ふらっ!

(甲斐)あぶなっ!

慌てて外に出て倒れかけた彼の体を支える。

(優良)はぁっはぁっ!!甲斐っ……くっ……どこっ?どこにっいるっのっ?

(甲斐)ここにいるよ?大丈夫?前より体熱くなってるしまた更に痩せた…?とにかく中に!

ふかふかのベッド…暖かい部屋…燃え上がる体が氷で冷やされていく。

甲斐くんが優しく声をかけてくれて泥の香りのしない綺麗な水を飲ませてくれたり汗を汗ふきシートとタオルでこまめに拭いてくれてベタついた体がさらさらになった。

本当に細い彼の手が小刻みに震える。

彼は店の野菜を盗もうとした犯罪者だ。今日だって…彼が持ってた袋の中に大量の財布が入っていた。

こんなことする人を介抱する必要あるのだろうか。けど、辛そうな彼の表情と甲斐くん甲斐くんと呟くのを聞いたら放っておけなくて…

なんで俺の名前知ってるのか…

酷く震える手を握るまでの気持ちにはなれなくてでもぎゅうっと拳を作ってブルブル震えている手…手のひらに深く爪痕があったのはこんな風にいつも拳を作って一人で耐えるのがくせだからだったのか…誰にも握ってもらえてないんだろうな…

開いてる窓からハエが入ってきて彼の頭の上をブンブン飛んでいる。

髪の毛まではさすがに綺麗にできなかった。シラミがいっぱいいたし…

しばらく寝ていた彼がムクッと起き出した。

(甲斐)えっ?待ってまだ寝てないと!熱がまだ!

(優良)ありがとう甲斐くん。

そう言って彼は行ってしまった。

なんなんだ?突然現れて万引きしたと思ったら死んじゃうんじゃないかと怖くなるくらい苦しそうにして最後はさっといなくなって…

いつもそうだ。なんで…なんでいつもこんな胸がぎゅうっとなるのか。

なんで彼は俺に頼ってくるのか。なんで俺の名前を知っていて呼び続けるのか。

疑問が頭を飛び交うなかで気がついたらずっと彼のことを考えていて。

彼の名前は?山田製作所ってなに?罰って何?なんで犯罪に心を痛めないのか?なんであんなかっこうなの?なんであんなに細くて熱がいつもあるの?

考えれば考えるほどこのままだといけない気がして。

(お父さん)おい。今日は食が進まねぇか?

(甲斐)あの子…ご飯食べれてるのかな…あんな熱があってあんな痩せてるから...

(お父さん)ろくなもん食わせてもらえてないんだろ。

(甲斐)ねぇ、山田製作所って何してるところなの?

(お父さん)普通の工場を名乗って…まぁ、お前が突っ込める場所じゃねぇってことよ。

(お母さん)甲斐、それより明日試合でしょ?トレーニング部屋でやる時間じゃない?

(甲斐)そうだね、ごちそうさま。

あの子は大学とか就職とかできてないのかな…そしたら犯罪を繰り返してお金をもらって生活してる?

でも…お金があるんだったらちゃんとご飯食べてお風呂入って病院だっていけるはず…

あの子は一体…

気になって気になって勉強どころではない。というかこのざわつきは何?なんであの子のこと考えると心がざわつくのだろう。

山田製作所…

ネットで調べたけど、やっぱり普通の工場だった。でもおかしいことがたくさんでもっと調べなきゃあの子の正体が分からない。

山田製作所の周辺の住民に聞いても分からないという。

俺は取りつかれたかのように山田製作所について調べ続けた。すると山田製作所の地下というものがあるのが判明した。

地下で部品の管理をしていると記載があった。

何か闇バイトや犯罪組織のようなことをしているのなら地下が怪しい。

俺は山田製作所の研修生として潜り込むことにした。なぜ彼のためにここまでしているのか分からない。でも胸のざわつきがそうしろと言っている。

体調が悪いと嘘をつき、地下に潜入した。

地下は想像以上に寒くて驚いた。やっぱり部品の管理をしているのは間違いではない。

でも何かおかしい。周りに人がいないのを確認し、更に奥まで進んだ。

その時…

管理場所には似つかわしくない鉄格子の牢獄が見えた。

そこに拘束されていたのは…

紛れもなくあの子だった。あの子の名前は…

(甲斐)ゆ……ゆう……り?優良!ゆうりぃ!

全身裸で手を大きく広げた型で天井から吊り下げられていて優良は頭をぶらりと後ろに垂れ下がり、ハァッハァッと苦しそうに白い息を吐く。手足の拘束、首輪をきつめに付けて後ろにくさりを引けば首が簡単に締まる仕組みになっていてあまりのおぞましい光景に足が震えた。

(甲斐)ゆうり?苦しいっ苦しいね…

こんな状態で毎日犯罪を…

いや、絶対に優良の意思でやったんじゃない。誰かの指示だ。

更によく周りをみたらもういても立ってもいられなくなった。

牢獄の中に置かれた犬用のエサ皿に茶色い泥のようなものが乗っていて優良が食べた形跡が残っていて食事がこれって…水も濁っている。しかも虫がよってたかるようなものだった。鉄製の床には何度も何度も嘔吐を繰り返した跡が残っていてこのままだと優良は…

(甲斐)たすけ…なきゃ!優良!今そっちいくから!

ガチャンと工具で鍵を壊して中に入った。優良の体を恐る恐る触った。その瞬間体がぞくっとした。

(甲斐)優良?病院行こう?今、首輪と腕輪と足輪取るからね?苦しかったね?

工具で優良を拘束していたものを外した。けど、何度も首輪を引っ張られたのだろう。皮膚が血だらけに壊死するほど首輪の跡が真っ赤に残っていた。どしゃっと力なくこちらに倒れ込んで…

(甲斐)優良?分かる?優良?

(優良)はぁっはぁっはぁっはぁっ!!任務っはぁっはぁっはぁっはぁっなんでもっ…しまっ…なんでもっなんでもっはぁっはぁっはぁっはぁっ!

(甲斐)優良すごい苦しそうだよ…

(?)部外者発見!何してる!

逃げなきゃ!でも優良を残して逃げれるわけ…

(優良)にっ……げっ……はぁっはぁっはぁっはぁっ!!だっじょはぁっはぁっからっ……

声を出すのも苦しそうなのに優良はそう言った。ここで捕まったら優良を助けることすらできない。

(甲斐)絶対助けにいくから!

俺は逃げた。苦しそうな優良を置いて…早く助けにいかないと優良が死んでしまう。

甲斐くん……きてくれた…うれ……しい……でも……危ない……から……も……こな……いで……

立てと言われてももう体に一切力が入らなくてきっと命尽きるのはもうすぐなんだろうと分かる。

少しだけでも甲斐くんに会えて良かった。甲斐くんが幸せで良かった。これから甲斐くんは素敵な男性になるんだ。そして新たなパートナーと出会って結婚して子供も…できて…

(手下)おい!この前の部外者を連れてきたのはお前か?

こくりとうなずいた。

(手下)なにやってんだよ!おい!はぁはぁ言ってないでなんとか言えよ!

(優良)僕がっはぁっはぁっ…全部っはぁっはぁっ!!悪いっはぁっはぁっ彼はっ悪くなっ!

(手下)まだ殺すには早いな、とことん苦しんでもらわねぇと…こいつ男が好きだったよなぁ…女を連れてこい!瀕死になるまでやらせろ!

僕は男が好きだから、母さんに捨てられてここに来た。女の人とキスをすると吐いてしまう。ましてはそれ以上のことなんて想像もしたくない。

(女性)こんばんわ。今日はいっぱい相手してあげる。

体を指先で触られるだけでビクッと体が飛び上がる。体を舐められるたびにバキバキッと心が壊れる音がした。

ゆっくりと舌がヒタリヒタリと肌を這う。

(女性)腕あげて?全身くまなくなめてあげる。

レロ…

(優良)ひっ!!ひやっ!!

体を覆い被せながらすり合わせてくる。胸がぎゅっと当たり「ふあっ!」っと声が出た。

そうして彼女は僕の心をさらに壊す。

バキバキッバキィッッ!!

(優良)んっふっうっ!!

怖くて怖くてとにかく恐くてやめて助けて…甲斐くん助けて…声に出したいのに出なくて…甲斐くん甲斐くんと心の中で叫ぶ。

長い長いキスをされ、喉の奥までキスをされてほんとに…

甲斐くん……もう……死にたい……

女の人が馬乗りになってすごく長い時間揺れて揺れて…

息ができない。過呼吸になって吸って吐くことができなくて分からなくて…

女性がいなくなったあとも吐いて吐いて吐いて…

拳をぎゅうううっと握りしめて爪を立てすぎて血がだらだら出て…

苦しくて苦しくてもう…

(優良)ひぐひぐひぐひぐっ!!がっ!ゼェヒューゼェヒューがっ!ゼェェェッッ!!がいっ!ぐっ!

ゼヒュッゼヒュッゼヒュッ!!!がっいっぐっ!!だずげっエグッイグッ!!だずげでぇ!!

(手下)うっせー!静かにしろ!おい!こいつうるせーから大麻大量に入れて静かにしとけ!

甲斐くんは優しくて暖かくて笑った顔がとっても素敵でこの人だけは守りたいと思った。

どうか幸せにずっとずっと笑っててほしいから。

片思いだったけど大好きです。本当に大切な命かけても守りたい人。

優良が店の前に現れることも道端で倒れているのを見ることもなく、ずっとずっと優良のことを考えていた。

サッカーの練習試合の時も選抜に選ばれた時も…

どうしたらあの場所に侵入できるか…

とにかく優良が無事なことを願う他なくて最悪なケースを考えたくなくて。

(手下)今日も野菜を調達してもらおうか。少し先の,,シーズン,,ってスーパー行って?

(優良)…

(手下)行って?行けよ!

(優良)嫌…です。もうシーズンを狙うのはやめてください!

(手下)全くミドミ様がかわいがってやってんのに!それともあれか?店の息子に惚れてんのか?今までの薬よりも強いの射っていいですよね!

(ミドミ様)殺してもかまわない。

薬が効いてきてなんか…

(優良)はっはっはっはっはっ!!はっはっはっはっはっ!!

熱ってより体が火であぶられてるような…なんか鼻血…でてきた…

ポタッポタッ…ポタポタッポタッボタボタボタボタッ!!

(優良)はっはっはっはっはっ!!はぐっはぐっはぐっっはぁぁっ!!はうっっ!!

鼻血…ボタボタ止まらない…呼吸が…犬みたいな呼吸しか…できないよ…全身の皮膚が真っ赤になって体が燃えたぎる。

震える手が何かを求めて伸びる。

一人よがりの片思いだった。あなたの名前はいくら苦しくてももう呼ばないよ?これでいい。これがいい。どうかここには来ないで?僕のことは忘れて幸せに生きて…

(優良)はうっはうっはうっはうっ!!はうっはうっはうっはうっはっっはぁぁっ!!

酸……素……ない……どこ……

どれだけ口を開けても吸えなくて…探しても探しても…苦しいよぉ……

(優良)はぁぁっ!!はぁぁっ!!はぁぁっ!!

から……だ……あつ………ひ………

だめ…名前を呼んだら…でも苦しくて苦しくて体が反って反って…

(優良)ゼェェヒュゥゥッ!ゼェェッヒュゥッ!ゼェェヒュゥゥ!ゼーッ!!ヒューッ!!

浮かんでくる…笑顔とか心配そうな顔とかいっぱいいっぱい…

(優良)ゼエエ…ヒイイ…ゼエエ…ヒイイ…ゼエエヒイイイイ!

甲斐……くん……甲斐……く……か……い……く……か……か……ひっ……

(優良)ゼッ……ヒッ……ゼッ……イッ……アッ……ヒッ……イッ……アアッ…イ……グッ…ヒイイッ!!

(手下)シーズンから明日金とってこい!そしたら助けてやる。

(優良)いっ!!やっ!!ヒウッ!!あっ!!

(手下)じゃあ、もっと苦しんでもらうかなぁ…

僕は苦しさのあまりあいつらが持ってきた酸素を手に取ってしまった。お金なんて絶対やだよ…でも甲斐くんに会いたくてどうしようもない…

翌日になっても体の熱は変わらず、鼻血もずっと出続けていて杖をついてなんとか甲斐くんのお店の前にきた。

外のガラスから見えた。大好きな甲斐くんの姿。親切にお年寄りのお客さんに接客してる。

甲斐くん…僕に気付いてほしいなんて欲張りだね。帰ろう。帰って殺されちゃうかもだけど甲斐くん巻き込みたくないから…

(優良)はぁっはぁっはぁっはぁっ!!!

ボタボタッボタボタッビシャビシャッ!!

や……ば……杖につかまってるだけで...…苦しい……

息が上がる。目の前がぼやける。頭がぐるぐるぐるぐる回る。早く…退散……

早く…早くでも……立て……な……

どしゃぁっ!!

(優良)はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ!!

戻らなきゃ戻らなきゃ戻らなきゃ…でも…

(甲斐)優良?ゆうりぃ!血だらけ…苦しい?苦しいな?

(優良)わかんない!わかんっ!はぁっはぁっ!!わかんっないっ!!ここどこ?はぁっはぁっはぁっっ!!だれ?なに?

甲斐くんに抱きしめられてようやく震えが収まって…

(甲斐)甲斐だよ?ここは父親のお店。酷い震えかただ、両方から鼻血止まらない…また更に痩せてるし体熱すぎるよ…すぐ救急車来るから!大丈夫だからね?優良?優良しっかり!

意識がもうろうとして甲斐くんにすべてをゆだねる。甲斐くんに抱きしめられてるのに全身の感覚がなくて分からなくて…でも泣いてくれてる…僕なんかのためになんで?なんで助けてくれるの?

その後の事は覚えてなくて目が覚めたら病院のベッドで寝ていた。そばに甲斐くんがいて一生懸命介抱してくれていたのが分かった。

愛しい人が僕のためにここまでしてくれたことが嬉しくてでも危ないめに合わせたくなくて…

でも、苦しすぎて声も出せなければ指先さえ力が入らない。

甲斐くんはずっとそばにいてくれてつきっきりで優しすぎるよ。みんな僕のせいで甲斐くんに対して冷たくてたまに辛そうな表情でため息をつくのを見る。それがすごく辛い。

もう逃げていいよ?お店戻らないと…

優良は今までで様々な薬物を投与され、食事に信じられないものを入れられ早い段階で病気にかかりながら優良は犯罪の仕事をさせられていた。医師からは回復のための治療はできないと言われた。

優良は意識をもうろうとさせていて苦しそうにうなった時には体を撫でて落ち着かせる。こまめに汗をふいて体温が上がったら氷で全身を冷やす。点滴も血管が細すぎてなかなかうまく入らず栄養補給ができないときも多々ある。ずっと苦しそうな表情でたくさん優しい言葉をかけて少しでも気が休めればと思っているのに優良の臭いや出で立ちに周囲の視線は冷たく、臭いと文句をいう人や同じ部屋にいたくないと言う人までいて胸がおしつぶされそうになる。

ある日の深夜に優良がうなってすぐに目が覚めた。

冷たい汗をかき、真っ青な顔をして優良の鼻からツーッと鼻血が出始めた。体の熱さが半端じゃなかった。

(甲斐)氷!タオル!

(優良)んーっ!ふーっ…!あづっ!あづっ!あっ!あっ!あっ!あっ!あづっいっ!!

(甲斐)優良熱いね苦しいね大丈夫大丈夫大丈夫だから…ナースコールおしてるのに看護師来ない…大丈夫だよ優良熱いね熱いね…

(患者)深夜からうるせーよ!臭いし名字もないやつなんかここにいる資格はねぇんだよ!

(甲斐)すみません…でも!

(患者)でもなんだよ!だいたい入院費だって払ってないんじゃねーか?

(甲斐)入院費と治療費、薬代も僕が全額支払ってます。

(患者)お前なんかに支払える金額かよ!

(甲斐)借金してちゃんと支払ってます。

(患者)やっかいな親友だな!

親友以上、家族だよ…優良にあんな言葉聞かせたくなかったよ…

(甲斐)ごめんね優良、大丈夫大丈夫…今、看護師さん来るからね?熱いの良くなるからね?

あまりの体の熱さに氷は溶けて優良の鼻血は止まらずすぐタオルが真っ赤になって恐くて恐くて…優良が死んじゃうんじゃないかって恐くて…

(甲斐)大丈夫だよ優良、僕がそばにいるからね…ずっと手握ってるからね?絶対そば離れたりしないから...だから…早く…笑った顔見せてよ…

ようやく朝を迎えて優良の体調が落ち着いてきた。

(甲斐)よかっ…よかった…

ほっとして涙がこぼれた。

(甲斐)頑張ったね、優良よく頑張ったね。

スマホを見るとラインが何件も入っていてサッカーの練習仲間からだった。

最近優良が入院してからつきっきりでJリーグの選抜に選ばれたのに練習に全く行っていないからどうしたのかと心配してくれたようだ。

でも今は夢よりも優良のそばにいたい気持ちが大きい。だってこんなに苦しいのに家族も友達も誰も見舞いに来ないうえに僕が離れてしまったら…少しだって一人にしたくない。

優良の手を握ってそばに座っていた時、黒いパーカを着た男が入ってきた。

(?)そいつの臓器をもらいにきた。体をよこせ。

(甲斐)お前らが優良をここまで…渡すわけないだろ!優良はお前らの商品じゃない!

(手下)どうしても渡さないと?まぁいい。ミドミ様の狙いはこいつだったが、こいつを売るには安いだろ。だったら…お前のほうを売ったほうが金になる。お前、Jリーグの選抜に選ばれたんだろ?その足、何年もかけてできあがってるんじゃないか?

体がゾクッと震え上がった。Jリーグの選抜のために何年もかけて足を鍛え上げた。血がにじむ努力をしてきた。それを失うか愛する優良を失うか。

一方イマジナリー世界では

(イマジナリー世界の仲間)優良くん、このままだと本当に死んじゃいますよ?そのうえ、天国にも地獄にもイマジナリー世界にも来れずに消えちゃうのは悲しすぎる。なんとかならないのでしょうか?

(支配人)これは本人が望んだこと。私たちが口を挟めるはなしではありません。

(仲間)でも人間は自分ばかりを優先させる。きっと四季甲斐は優良くんを死なせてしまう!本当は優良くん、こんな苦しい人生二度も経験したくなかったはずなのに...思い出したくもなくて同じ思いをしている人を助けたくてイマジナリーになったのに...これじゃ…優良くんが報われない…

甲斐くんがいない間、僕はこっそり手紙を書くことにした。といってもペンを握るのも正直苦しくて毎日ほんの少しずつ時間をかけて書いた。

(優良)甲斐く?はぁっはぁっこれ…読んで?

(甲斐)えっこれ優良が書いたの?

(優良)うん。

(甲斐)いつの間に…


甲斐くんへ

甲斐くんには幸せになってほしい。そう願ったのは甲斐くんが小さなころ。守ってあげたいと命に変えても絶対に守りたいと思いました。

だからどうか他の誰よりも幸せになって夢を叶えて誰よりも輝いて大好きな笑顔で


涙が止まらなかった。だんだんと文字が震えて筆圧も薄くて途中で文字が消えて読めなくなった。

けど、悔しかったのは全く覚えていないこと。小さなころの記憶に優良がいないこと。小さなころの僕は全くといっていいほど苦しいことがなくて恵まれていた。

命に変えても守られるほどの環境ではなかった。

でも初めて会った時初めて会った感覚がなかった。まるで家族同然のような存在だと心がそう言っていた。いつも店前で倒れた優良を助けるだけの関係なのに...

(甲斐)なんで思い出せないんだよ!!大事なことだろ!!優良の体を売ってサッカーしても楽しくもなんともないよ…

優良は高熱で髪がすべて抜け落ち、体の熱で全身火傷を負ったような状態で皮膚の炎症が酷く細い優良の体全身包帯で巻かれることとなった。毎日欠かさず氷が入った袋で優良の体を冷やす。

(甲斐)優良?最近体温前より上がってるね、呼吸苦しいね...これじゃ体も熱くて仕方ないよ…

ザッザッ!ザッザッ!と荒い息が早く乱雑に酸素マスクにふきかかる。

(患者)あのさぁ、いい加減風呂入れろや!臭いがきつくて我慢できないの分かる?

(甲斐)すみません。でも全身火傷を負ってて…

(患者)それがなに?それでも風呂くらい入れるやろ!

(甲斐)入れるわけないじゃないですか!そんなことしたら死んじゃうでしょ!

(患者)いないほうがせいせいするわ!

(甲斐)それって死ねってことですか?

優良がどんな思いで異常な熱と戦ってるか知りもしないで…

(優良)はぁっっ!!はああっっ!!はっっ!!

優良の包帯だらけの全身を揺らして一回一回本当に苦しそうに息をする。

(甲斐)優良?大丈夫だよ?苦しいね?

優良の口に酸素マスクを強く当てて自分もベッドに上がり、優良の全身を包むようにして撫でる。そうすると優良の表情が少し和らぐ。身元不明だからってナースコールをおしても看護師は来ず検査や治療もしてもらえない。普通の入院費より高額な値段を請求され、すべて僕が支払った。包帯もガーゼや消毒液やタオルまですべて自腹だ。

俺の幼少期にいったいなにがあったのかなぜ優良に守られていたのか思い出せたら足を切る覚悟ができるのかな。

しばらく体を撫で続け優良の体調は安定した。ずっとしゃべることができなかったのに優良が言葉を発した。

(優良)小さい頃ね…甲斐くんはなんでも一生懸命でね…ヨーグルト…お母さんに押し付けられてもすごく全力で可愛がってた。愛情深いなぁって思った。

(甲斐)ヨーグルト?

(優良)うん、猫のヨーグルト…

猫…飼ったこともなければ、お父さんがアレルギー持ちだから絶対に飼うことはできない。それにお母さんは僕を産んだ時点で失くなってる。でも嘘にも思えない。優良があまりに懐かしそうにすごく悲しげに話すから...だとしたら同姓同名の人違いか…

(甲斐)優良が元気になったらさ…二人で暮らそうよ?それで二代目ヨーグルト飼ってさ。お祝いのケーキ食べてさ。どこか行こうよ。

(優良)二人で暮らしていいの?

(甲斐)うん。

優良は目をキラキラさせた。

(優良)えっと…ケーキってなに?食べ物?

優良が何気なく聞いた言葉が心にナイフのようなものが刺さった。

(患者)世間知らずもいい加減にしろ!これだよこれ!

おじさんの手には優良がこれまで食べてこれなかったケーキが乗っかっていた。

(優良)うわ~すごく豪華。甘いものなんですね。お祝いに食べるの?

(甲斐)お祝いだけじゃなくて普通に…嬉しいことがあったら食べる。元気になったら食べよ?

(優良)僕なんかが食べていいのかな…

(甲斐)いいに決まってる!だから早く元気になって?優良。

(優良)うん…

翌日俺はJリーグのコーチに呼び出された。

(コーチ)今回のワールドカップ戦だが、お前は外れてもらう。あんなにひたむきに練習にトレーニングに励んでたお前がすべて放棄するのは正直、幻滅だよ。

(優良)はい。ここまで育ててくださったコーチに裏切る形となってしまい本当に申し訳ございませんでした。Jリーグのスタメンからは外れます。

深々と長く頭を下げた。今は優良のことだけを考えたい。優良が元気になってくれることだけが今の願いだ。

優良は日に日に弱々しくなっていく。包帯を変えようとした時優良の皮膚が壊死しかけているのを目撃した。

(甲斐)優良…体大丈夫?

(優良)大丈夫…甲斐………く……

(甲斐)なに?

(優良)小さい頃……甲斐くんね……

(甲斐)そのはなし、やめてくれない?ヨーグルトなんて飼ってもないし母親もいなかったし人違いじゃないの!?小さい頃に優良に会ったこともないよ!

(優良)そ……だよね……ごめ……ね...…

Jリーグのこともあってついかっとなった。頭を冷やそうとそとに出ようとした。

(優良)いかっ……ないっ……で?

振り返ったら優良が本当に辛そうに泣いてた。

(優良)ごめっ…ねっ…はぁっはぁっはぁっはぁっ!も…小さい頃っ……はなっし…しなっ…しな………い……か……

(甲斐)優良?優良大丈夫?

(優良)から……だ……が……はぁっはぁっ!はぁっはぁっ!はぁっはぁっ!

(甲斐)ナースコール!

(患者)どうせ看護師こねーべ!痛み止めやるから飲ませてそばにいたほうがいい。

(甲斐)ありがとうございます。

優良は薬で落ち着いて眠った。あんな言い方して優良、傷ついただろうな。体調だって大丈夫なふりさせて我慢させてたのに...

(患者)こいつはさ、普通ってのがわかんねーんだよ。小せえ頃から酷い場所で俺らじゃ信じられねぇもの食わされて毎日汚ねぇ同じ服着てお前とこいつじゃ、住む世界が違すぎやしねぇか?ましてや犯罪を仕事にして暮らしてる。

(甲斐)優良は俺の知らない幼少時代に命かけて助けてくれたそうです。優良がいなかったら死んでたかもしれない。そう心が訴えてるんです。だから今度は僕が彼を助けたい。命かけても助けたい。

(患者)Jリーグは?あいつ、お前に行ってほしいんじゃないのか?

(甲斐)それ…は…

(患者)まだ迷ってるならよく考えなさい。誰でも立てるもんじゃないんだから。

サッカーに身を削ったら優良のそばにいはいられない。優良は俺以外、誰一人心配してきてくれる人がいないんだ。それがどれだけ孤独で寂しくて悲しいことか。

優良の体調は悪化する一方だった。

優良は薄く目を開けて破棄のない目をしながら呼吸をするので精一杯だった。普通は安定した自発呼吸が難しい場合は喉に管を挿入して機械で楽に呼吸ができるようにするらしい。

けど、優良はそれすらやってもらえず、肩を上下に激しく揺らしザッザアァッと荒々しく呼吸をする。短く荒く酸素マスクに叩きつけるような息の中、優良は目に涙をためながら一生懸命に息を続ける。

俺はひたすらに手を握って肩を撫で続けることしかできない。

その時父から連絡がきた。

(甲斐)は?シーズンが潰れるってどういうこと?上からの圧力でっておかしいでしょ?どうにかならないの?うそだろ…

(優良)ご……へ……

優良の手が俺の腕を本当に弱い力で掴んだ。

(優良)ごめっね...…甲斐くっハッハッハッハッ!……ごめっごめっハァッッハッ!!ごめなさっ!甲斐くごめっ…ごめなさっ!

(甲斐)優良のせいじゃないから落ち着いて優良?大丈夫だから…うん、大丈夫大丈夫。俺の父親はそう簡単に折れないから…俺の声に合わせて息して?吸って…吐いて…吸って…

抱きしめて全身を撫でる。けど、優良の呼吸は…

(優良)ハッハッハッハッハッハッああっ!ヒィヒィヒィヒィヒィッッ!!でっ……きっ……なっ……

ずるっずる…

(甲斐)優良?優良息できない?看護師さん!大丈夫だよ優良大丈夫大丈夫。優良はなんっも悪くないから...看護師さん早く…

(優良)ヒウッヒウッ!!アグッエグッ!!

僕は出来損ないで、いるだけで誰かを不幸にする。母が怖くて父のほうにばかりついていたら父が病気で死んだ。それから母からは疫病神と呼ばれ山田製作所に行かされた。

牢獄生活でよく分からずに言われた通りに袋に入ったものを怖い人に届けたり言われた家に勝手に入って聞かれた情報を答えたり…でもそれを少しでも間違えると暴力をふるわれ、コカインとエクスタシーを射たれた。指示されたことを性格にやり、置かれたものを食べて罰の薬のせいで熱をおかしながらも生き抜くために必死だった。

それを十数年と繰り返し20歳になったとき、空き巣に入るように指示され入った先の家に子供がいた。殺せと指示された。人を殺すなんてしたことがなく、ただ立ち尽くしていると。

(子供)お兄ちゃん大丈夫?体苦しいの?

初めて心配されて、俺のどこが苦しくみえる?出で立ち?高熱からの息づかい?

(子供)お兄ちゃん苦しいね、布団寝る?

その時今まで蓋をしていたすべてのものが沸き上がってきて立っていられなくなって跪いた。

(優良)おにちゃっはぁっはぁっなんかっ…助けなくてっはぁっはぁっいっよっ…

また立ち上がろうとしてバランスをくずした。

ふらっ!

その時臭いも出で立ちも酷い僕をぎゅっと女の子は抱きしめて体を支えてくれた。

(子供)今お布団持ってくるからね?絶対良くなるからね!

その子が持ってきた布団に女の子の支えで横になったとき、体が限界を越えていたのが分かった。意識がもうろうとして女の子のお兄ちゃんお兄ちゃん!って声がして…

そのまま僕は亡くなった。

愛したり愛されたりという言葉が全く分からなかったけど女の子の行動は強い愛情があった気がした。

あんな女の子のようになりたいと強く願ったらイマジナリーとしてまっとうするようになっていた。

もう疫病神なんて思われたくない。逆に君がいたから生きることができたと言われるようになりたいと強く思った。

でも結局僕は疫病神のままだった。甲斐くんを死なせてしまったあの日強くそう感じた。

なのにまた僕は彼を不幸にさせようとしている。それがとてつもなく辛い。

あれからいくら考えても足を切り落とすなんて踏ん切りが付かなくてあいつらがふたたび来ないことを祈りつづけた。けど…

ガラッ!

(甲斐)優良、体調落ち着いた?

優良のベッドに優良はいなかった。

おじさんは寝ていて気づいてないし、これは完全に優良があいつらに連れ去られた。

俺は急いで車を出した。

僕は、高熱がピークに達した状態ではぁっはぁっと息をしながらされるがままに両手を縛り上げられ吊り下げられて、力なくぶらりと垂れ下がる。

(手下)お前いままで俺らのこと無視してなにしてたんだよ!

(優良)はぁっはぁっすみっませっ!

(手下)あの男の足を切るか?

(優良)それはやめてぇええ!!彼になにかするなら拷問でもなんでも受けますから!

(手下)ははっ!そんなにあいつが好きか?初めてだよ!ミドミ様どうします?

(ミドミ)じゃあ俺の恋人になってもらおうかな?

(優良)へ?

(ミドミ)愛されたいんだろ?優良?存分に愛してやるよ。

(手下)ははっ!恋人ってミドミ様とこいつとじゃ!

(ミドミ)本気だ。そんでそいつの足も切らずに生かしてやるってんだからいいよな?優良?

ふざけてんのかと優良を本気で愛してないだろと言いたかった。

でも…正直俺が優良を幸せにできるのかと問われたら反論できず、帰った。俺はとんだバカだ。アホだ。腰抜けだ。

俺はJリーグの選手の復帰のチャンスを与えられた。

でも上にいけばいくほどに優良は…どうなってしまったのか…気になってしまう。

客席に優良がいないことがものすごく悲しい。

僕はミドミ様に愛してもらえることができた。いつも優しく優良って呼んで頭を撫でてくれる。

なんでここにいるのかそれさえも忘れて幸せを感じている。

俺はどこかで優良を探している。どこかで倒れているんじゃないか、「助けて」と叫んでいるじゃないかと…

今度は俺が小さなお店を開いた。いつでも優良が来れるように。ネットでも宣伝し、チラシをくばる。くばってるいる最中も優良がいないかキョロキョロしてバカみたいだ。

でも俺はそれくらい優良が好きだ。どうか無事でいてほしい。

ふとチラシを配った相手が足を止めた。

「かい……く?」

本当に本当に小さな声ででもこの辛そうな息づかいは…

(甲斐)ゆう…り?

ばっと逃げていってしまった。

(甲斐)待って優良待って!!

愛したいなんてミドミの言葉、大嘘だ。優良はいまだに薬物を注射されつづけているし、また更に痩せてる。かなり苦しそうだった。

助けなきゃ!

(甲斐)優良待って!!大丈夫だからもうミドミのところ行かなくていいから!二階に優良の部屋用意していつでも寝返りできるように大きいベッドも!だから!

標識の棒に手をついてそのままずるずるとしゃがみこんだ。

(優良)こんな…状態で...まだ……好きでいてくれる?

優良が被っていたフードを取った。そして右側の腕をまくりあげた。

(甲斐)ゆ…

優良の目が焼かれたのかただれていて鼻は折れ、紫色に染まり、あごはしゃくれて大きくずれ、まさしく原型をとどめていなかった。

そして右腕が...無かった。

心がグシャグシャにへし折られて…だって愛してるって言われた相手からこんな…何度も何度も何度も毎日毎日なぐられて優良がなにしたってんだよ!

優良の叫び声が「嫌だ怖い!目だけは許して!」って叫び声がしてるなかでミドミは笑ってるんだ。

これからもしかしたら夢を持てるかもしれない優良の手で足で声でなにかできるかもしれない!それを!!

(甲斐)優良?俺わぁ…どんな優良でもどんっな姿でも...好きだよ?あの間、ずっとずっと優良のこと考えててさ、家で看護師さんつけてもらえるようにするにはどうするか考えててさ、万が一の時の対処法とかトイレどうするかとかめちゃくちゃ考えててさ…もう…優良のことでいっぱいなんだよ。

一日でも長く楽しく生きてほしい。一緒に生きたいよ優良。今だって座るのも苦しいのに...すごい汗だし、すごい息あがって…すごくすごく苦しそうだよ…腕だって…辛かっ…たね…ごめんね…

俺はそばによって抱きしめて背中を大きく優しくゆっくり撫でた。

(優良)んっ…ふっ……うでっねっ?ミドミ様の頼まれたもの間違えたから…そんな使えない腕はいらないって…はぁっはぁっはぁっはぁっ体…あついよぉ…

(甲斐)使えない腕なんてあるわけ…優良?帰ろ?もう耐えなくていいから。

抱き抱えて優良を家に連れていき、二階の優良の部屋ベッドに寝かせ、氷で優良の体や腫れ上がった顔を早急に冷やした。すぐに電話で医師を呼び、対応してもらえた。

医師の診断だと顔は様々なヵ所でかなり骨がゆがんでいてかなりの力でなぐられたらしい。綺麗に戻るのは難しいとされた。

体も正直もう皮膚も体内もボロボロな状態だと。いつどうなるかは分からないと。

薬が効いたのか優良は穏やかな表情でぐっすり眠っている。

(甲斐)良かった。けど…腕……ほんっとに……許せね……よ……

泣いた。優良の前ではなるべく泣きたくないから。静かに泣かなきゃいけないのに悲しすぎてしゃっくりあげて泣いた。

顔も…骨がゆがむほどなぐられて腕も顔も尋常じゃなく痛かっただろうな…

優良の残された時間でどれだけ優良を笑顔にできるだろう。できるのなら一生かけて優良を幸せにしたいのに...

朝、優良が起きたと同時に熱と体調を確認する。

(甲斐)優良おはよう。ちょっと体触るね?

(優良)ひっ!

びくっ!

優良が体をびくつかせて下を向いた。

(甲斐)怖かった?ごめん…

優良はどれほどの心の傷を負わされたのだろう。きっと毎日強引かつ酷いほどの夜を過ごしてきたのか。

(甲斐)優しく触るね?熱の検査だから安心して?

(優良)うん。僕こそごめんなさい。

(甲斐)謝らないで?優良。大丈夫だから。

(甲斐)熱、高すぎる…氷持ってくるね!

優良はどこか覇気のない感じの目をして息をあがらせながら真っ赤な顔をしてぐったりしている。

(甲斐)優良?肩触ってもいい。

(優良)うん。

撫でずにはいられないほど苦しそうにはぁっはぁっと呼吸をするから早く大きくゆっくり呼吸できるようにさせてやりたい。

優良の体を触るときは必ず声をかけるようにしている。

(甲斐)優良、汗拭くね?冷たい汗いっぱいかいてるね…

服の中も拭きたいけど…怖がらせたくないな…

お昼になって点滴だけでは栄養価がとれないから何か食べさせたいけど…

(甲斐)優良?ゼリーだったら食べられる?

優良が首をよこにふった。

(甲斐)苦しくて飲み込めない?

(優良)うん。

(甲斐)口移し、怖い?

(優良)…甲斐くんなら…大丈夫…

でもゼリーを用意して持ってきたとき優良の手は震えていて…

(甲斐)優良?無理しないで?ゆっくり時間かけて食べられるようになればいいと思ってるから。

(優良)ありがとう…

甲斐くんは優しい。僕の少しの変化も気づいてくれる。でも…ふとした時にフラッシュバックして怖くなる。言葉を発するのも「うん。」とか「ありがとう。」とかそれくらいしか言えなくて。

甲斐くんが好きだと言ってくれたのも嬉しかったけど、もう誰も愛せないほどの恐怖を植え付けられた今、誰の言葉も信じられない。

夜、優良が寝ていて俺が休憩でベランダに出ていたとき…

(優良)やだ…やめてくださっ…おねが!おねがい!おねがいしまっ!

(甲斐)優良?

すぐに優良の部屋に走った。

(優良)おねが!ミドミ様やだ!ミドミ様やだぁ!!おねが!おねが!やめてくださっ!

優良がいつにもまして真っっ赤な顔をして泣いて過呼吸になって叫んでいる。うなされているというレベルを越えていた。

(優良)ミドミ様なんでもっ!なんでもっしまっ…ゆるしてぇ!おねが!

(甲斐)優良?優良ミドミはいないよ?大丈夫だから。

優良の手を握った時。

(優良)やめてぇえ!!骨折らないでぇ!

(甲斐)ゆう……り……大丈夫大丈夫だよ優良大丈夫。

逆効果なのは分かってる。分かってるけど…

ぎゅっと優良を抱きしめた。

(甲斐)大丈夫大丈夫優良、呼吸できないね…怖いね…

(優良)ミドミ様やだぁ!!

突き飛ばされるのを覚悟でぎゅっと抱きしめた。

(甲斐)突き飛ばしてもいいよ?なぐってもいい。俺は何されてもいいからゆっくり呼吸しよ?

(優良)かっ……ひっ……くっ?ヒイッヒイッ!

(甲斐)うん。背中撫でるから俺の手に合わせてゆっくりゆっくり呼吸して?吸ってー、吐いてー?

(優良)すっ…すってえぇえ…ヒッヒッ吐いてえぇえ…ヒグヒグッ…すってええ…吐いてええ…吸ってぇ吐いてぇ…

(甲斐)上手上手。落ち着いてきたね良かったぁあ…

甲斐くんは涙ぐんで僕の頭をずっとなでなでしてくれた。他の男の名前を呼んで叫ぶ僕にこんな愛情をくれるひと、他にいないよ…ああ…ずっとここにいたい…すごくあったかい...

それから夜になると同じように過呼吸になって叫ぶ僕に毎晩毎晩、呼吸を心を戻してくれた。

それから少しずつ口数も増えていった。

(甲斐)おはよう。優良。

(優良)おはよう。甲斐くん。昨日は…ごめんね…

(甲斐)優良は悪くない。もう謝らない。言ったでしょ?突き飛ばしてもなぐってもいいって。それくらい覚悟してる。それだけ怖い思いしたんだから突き飛ばしてもなぐってもおかしくない。

そう言ってポンポンと頭を触ってくれた。

僕は甲斐くんに守られている。甲斐くんが好きだ。

(甲斐)優良?お昼、ゼリー食べてみよっか?全然無理しないでいいんだけど、ずっと点滴だけじゃ心配で...

(優良)うん。食べてみる。

(甲斐)口移し怖くない?

(優良)甲斐くんなら大丈夫。

甲斐くんはゼリーを本当に優しくあごがずれた僕でもこぼれないようにゆっくりゆっくり飲み込ませてくれた。

それが一日一回、二回、三回と増えていってスプーンからでも食べられるようになった。

(甲斐)優良頑張ったねぇ!

(優良)全部甲斐くんのおかげだよ。トイレとか汚いことも全部やってくれるし、サッカーだって今が頑張り時なのに、セーブしてくれていつもそばにいて頑張ったね頑張ったねって褒めてくれてほんとに…

(甲斐)そんな大袈裟な…

(優良)甲斐くんありがとう大好きだよ?ほんとはずっとずっとずっとおじいちゃんになるまで一緒にいたいし、僕だって甲斐くん支えたいけど…できないから...

(甲斐)俺だって…ずーっと一緒にいたいよ…でも優良には時間制限があるから...優良はあれだよ、おとぎ話みたいに素敵な主人公にはさ永遠に長くは幸せにはなれないんだよ。だからさ、それまでいっぱい一緒に笑お?

(優良)素敵な…主人公…?疫病神じゃないの?

(甲斐)疫病神?どこが!?

(優良)だって僕のせいで甲斐くんサッカー選手になれないかもしれないし、僕のせいで不幸なことばっかで迷惑かけてばっかで

(甲斐)待った!またそんなこと言ってる。俺は不幸じゃないし迷惑とも思ってない。むしろ…すっごく幸せ。優良は疫病神じゃない。たったひとりの俺の大好きで大切な人。大好きだよ、優良。

そう言って甲斐くんは僕のおでこと甲斐くんのおでこでこつんした。

それから1ヶ月が経ち、僕の病気は甲斐くんのおかげで少しずつ良くなり細いからだは通常の体型まで戻り、髪の毛も生えてきて、全身の皮膚の移植手術と顔の整形外科の予約をいれた。

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