「山の音」
「今日は川端康成の話にしようと思うんだけど、この前の児童文学とか芥川とはちょっと雰囲気違うやつ。静かな話だけど、読んでると妙にリアルで怖いタイプ」
「川端康成か。雪国とか有名だよね」
「そうそう。でも今日はそれじゃない」
「じゃあ難しいかも」
「ヒント出す?」
「うん」
「音」
「音?」
「うん」
「……」
「分かった?」
「山の音?」
「正解」
「よかった」
「読んだことある?」
「ない。でもタイトルだけ知ってる」
「この話ね」
「うん」
「すごく大きな事件が起きるわけじゃない」
「そうなんだ」
「ただ」
「うん」
「日常が少しずつ揺れていく」
「揺れる?」
「うん」
「夫婦とか」
「うん」
「家族とか」
「うん」
「人間関係がじわじわ変わる」
「なんかリアルだね」
「そう」
「だから怖い」
「ねえ」
「なに」
「静かな時間って好き?」
「どういう静かさ?」
「例えば」
「うん」
「こういう帰り道」
「なるほど」
「人も少なくて」
「うん」
「会話もゆっくり」
「うん」
「そういう時間」
「好きだよ」
「ほんと?」
「うん」
「なんで?」
「落ち着く」
「それ分かる」
「でもさ」
「うん」
「静かすぎると」
「うん」
「ちょっと不安になることない?」
「ある」
「なんか」
「うん」
「考えすぎちゃう」
「それそれ」
「山の音ってさ」
「うん」
「そういう話なんだと思う」
「どういう?」
「静かな時間の中で」
「うん」
「自分の気持ちに気づく」
「なるほど」
「ねえ」
「なに」
「この帰り道」
「うん」
「静かでいいと思わない?」
「思う」
「昼より好きかも」
「なんで?」
「昼は」
「うん」
「ちょっと忙しい」
「確かに」
「でも今は」
「うん」
「考える時間ある」
「なるほど」
「ねえ」
「なに」
「もしさ」
「うん」
「この静かな時間」
「うん」
「なくなったらどうする?」
「難しい質問」
「文学だから」
「またそれ」
「答えて」
「うーん」
「うん」
「多分」
「うん」
「少し寂しい」
「……」
「どうしたの」
「それ」
「うん」
「私も同じこと思ってた」




