「トロッコ」
「今日は芥川龍之介の話にしようと思うんだけど、結構短い作品なんだよね。でも読み終わったあと、なんか妙に心に残るタイプのやつ」
「芥川か。結構有名なの多いよね」
「うん。でもこれはそこまで派手じゃない」
「タイトル当てていい?」
「どうぞ」
「トロッコ?」
「正解」
「やっぱり」
「読んだことある?」
「あるよ。子供がトロッコを押す仕事についていく話だよね」
「そう」
「最初は楽しいんだけど」
「うん」
「だんだん帰りたくなる」
「それそれ」
「子供の頃読んだときはあんまり意味分からなかった」
「分かる」
「ただの話に見えるよね」
「でもさ」
「うん」
「大人になって読むと」
「うん」
「ちょっと怖い」
「怖い?」
「うん」
「どういう意味?」
「子供のときってさ」
「うん」
「なんでも楽しそうに見えるじゃん」
「確かに」
「でも」
「うん」
「途中で気づく」
「なにに?」
「戻れないかもしれないって」
「……」
「それが急に怖くなる」
「なるほど」
「ねえ」
「なに」
「君ってさ」
「うん」
「子供の頃」
「うん」
「冒険とか好きだった?」
「好きだったよ」
「例えば?」
「遠くまで自転車で行ったり」
「いいね」
「知らない道探したり」
「それ分かる」
「でもさ」
「うん」
「途中で急に不安になることない?」
「ある」
「なんか」
「うん」
「帰れない気がする瞬間」
「そう」
「トロッコってその感じなんだよね」
「なるほど」
「最初は楽しい」
「うん」
「でも帰り道が怖くなる」
「……」
「どうしたの」
「ちょっと思った」
「なに?」
「この会話」
「うん」
「最初どう思ってた?」
「正直?」
「うん」
「ちょっとした遊び」
「遊び?」
「文学クイズみたいな」
「なるほど」
「でも」
「うん」
「今は違う」
「どう違う?」
「帰り道の一部」
「……」
「どうしたの」
「それ」
「うん」
「結構すごいこと言ってる」
「そう?」
「うん」
「だってさ」
「うん」
「ただの会話だったのに」
「うん」
「今は」
「うん」
「景色の一部みたいになってる」
「なるほど」
「ねえ」
「なに」
「もしさ」
「うん」
「このトロッコ」
「うん」
「まだ続くとしたら」
「うん」
「押す?」
「……」
「沈黙長い」
「考えてる」
「うん」
「押すと思う」
「なんで?」
「だって」
「うん」
「まだ少し」
「うん」
「楽しいから」




