「セロ弾きのゴーシュ」
「今日はまた宮沢賢治の話にしようと思うんだけど、たぶん君もどこかで聞いたことあると思うんだよね。子供の頃に読むと面白いけど、大人になってから読むと少し違う意味に感じるやつ」
「宮沢賢治って結構いろんな作品あるよね。童話っぽいのも多いし。タイトル当ててもいい?」
「どうぞ」
「セロ弾きのゴーシュ?」
「正解。やっぱり知ってるんだ」
「うん、覚えてるよ。オーケストラの中で一番下手なセロ弾きの人の話だよね」
「そうそう。指揮者に怒られてばっかりの」
「で、家で練習してたら動物が来るんだよね。猫とか、カッコウとか」
「そう。しかも結構失礼な感じで来る」
「『お前のセロは下手だ』みたいなこと言われるんだよね」
「うん。でもそのやり取りの中で、少しずつ上手くなっていく」
「不思議な話だよね」
「ねえ」
「なに?」
「努力ってさ、どう思う?」
「急に大きいテーマ来たね」
「だってあの話、結局努力の話だと思うんだよね」
「確かに」
「最初はすごく下手でさ」
「うん」
「でも毎日続けてたら、気づかないうちに変わっていく」
「それリアルだよね」
「うん」
「でもさ」
「なに?」
「努力って報われないこともあるじゃん」
「あるね」
「むしろそっちの方が多い気がする」
「分かる」
「じゃあさ」
「うん」
「なんで人は努力するんだろう」
「うーん」
「難しい質問?」
「ちょっとね」
「でもさ」
「うん」
「誰かに見てほしいからじゃない?」
「見てほしい?」
「うん。結果よりも」
「うん」
「頑張ってるところを」
「なるほど」
「ゴーシュもさ」
「うん」
「動物が来なかったら」
「うん」
「ずっと一人で練習してたわけじゃん」
「確かに」
「でも」
「うん」
「誰かが来てくれると変わる」
「それ分かる気がする」
「そっちは?」
「私?」
「うん」
「努力は嫌いじゃない」
「でも?」
「見てくれる人がいないと続かない」
「……」
「どうしたの」
「ちょっと思った」
「なに?」
「じゃあさ」
「うん」
「この会話も」
「うん」
「努力に近いのかも」
「努力?」
「だってさ」
「うん」
「毎日ちゃんと考えて話してる」
「それは確かに」
「しかも」
「うん」
「意外と楽しい」
「それ大事だよね」
「ねえ」
「なに」
「もしさ」
「うん」
「私がすごく下手なセロ弾きだったら」
「うん」
「どうする?」
「簡単」
「またそれ?」
「うん」
「毎日聞く」
「なんで?」
「だって」
「うん」
「上手くなるかもしれない」
「……」
「どうしたの」
「それさ」
「うん」
「すごく優しい」




