「ごんぎつね」
「今日はちょっと昔の日本の話にしようと思うんだけど、たぶん君も一度は聞いたことあると思うんだよね。学校の教科書とかにも載ってたやつ」
「教科書?それならだいたい読んでる気がするけど、どのへんの時代の話?」
「そんなに古くはないけど、日本の児童文学の中ではかなり有名なやつ。たぶんタイトル言ったらすぐ分かると思う」
「じゃあ当てていい?」
「どうぞ」
「ごんぎつね?」
「正解。やっぱり知ってるよね」
「うん、覚えてるよ。子供の頃読んだとき結構衝撃だったやつ。いたずらしてたキツネが最後に…撃たれる話だよね」
「そう。それそれ」
「なんかさ、子供の頃はただ悲しい話だなって思ってたけど、大人になってから考えるともっと複雑な話に見えるんだよね」
「どういうところ?」
「ごんってさ、最初は普通に悪いことしてるじゃん。兵十のうなぎ盗んだり、ちょっといたずらしすぎな感じ」
「うん」
「でも途中からさ、兵十のお母さんが亡くなったって知って、急に態度変わるじゃん」
「そうだね。毎日こっそり栗とか魚とか置いていく」
「そう。あれってさ、償いなんだと思うんだよね」
「うん」
「でも問題は」
「うん」
「それが全然伝わらないこと」
「確かに」
「兵十はずっと誰かがいたずらしてると思ってるし、むしろ怒ってる」
「だから最後の場面が余計につらいんだよね」
「そう。やっと気づいた瞬間に終わる」
「ねえ」
「なに」
「この話ってさ」
「うん」
「誤解の話だと思わない?」
「誤解?」
「うん。誰かが何かしても、それがちゃんと伝わるとは限らないっていう」
「なるほど」
「だからちょっと怖い話でもあると思う」
「なんか分かる気がする」
「じゃあ聞く」
「なに?」
「君ってさ、誤解されたことある?」
「あるよ、結構」
「どんな?」
「冷たい人だと思われてたこと」
「え、ほんと?」
「うん。昔からあんまり自分から話すタイプじゃなかったからさ、近寄りがたいって思われてたらしい」
「意外だな」
「なんで?」
「こうやって話してると普通に優しいから」
「それは…」
「うん?」
「君だからじゃない?」
「……」
「どうしたの」
「ちょっと嬉しかった」
「そんなに?」
「うん。だってさ」
「うん」
「そういうふうに言われたこと、あんまりないから」
「でも本当だと思うよ」
「なんでそう思うの?」
「簡単」
「またそれ?」
「君、ちゃんと考えて話してるから」
「それは普通じゃない?」
「意外と普通じゃない」
「そう?」
「うん。適当に返す人の方が多い」
「なるほどね」
「ねえ」
「なに」
「もしさ」
「うん」
「私がごんだったらどうする?」
「どういう意味?」
「誰にも気づかれないところで、こっそり何かしてたら」
「うーん」
「うん」
「たぶん気づくと思う」
「ほんと?」
「うん」
「なんで?」
「君がやることなら」
「うん」
「悪い意味じゃない気がするから」
「……」
「どうしたの」
「それさ」
「うん」
「結構すごいこと言ってる」
「そう?」
「うん。だって」
「うん」
「信じてるってことじゃん」




