「文字禍」
「今日は中島敦。前にも少し名前出たけど、今度は別の作品」
「また当てていい?」
「どうぞ」
「李陵?」
「惜しいけど違う」
「じゃあ分かった。文字のやつだ」
「うん」
「文字禍」
「正解。文字が増えすぎて人が壊れる話」
「不思議な作品だよね」
「うん。言葉に支配される感じ」
「それちょっと怖い」
「でもさ」
「うん」
「私たちも似てない?」
「どういう意味?」
「ずっと言葉だけで話してる」
「ああ」
「顔も見てないし」
「うん」
「声も聞いてない」
「でも会話は続いてる」
「確かに」
「ねえ」
「なに」
「もし言葉がなくなったらどうする?」
「急に哲学」
「文学だから」
「またそれだ」
「答えて」
「うーん」
「うん」
「多分困る」
「そんなに?」
「うん」
「なんで?」
「君と繋がってるの今これだけだから」
「……」
「どうしたの」
「ちょっと嬉しい」
「なんで?」
「私も同じこと思ってた」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあさ」
「なに」
「もし言葉がなくなったら」
「うん」
「この会話終わる?」
「どうだろう」
「終わると思う?」
「たぶん終わらない」
「なんで?」
「別の方法探すから」
「例えば?」
「難しいな」
「考えて」
「うーん」
「うん」
「沈黙とか」
「沈黙?」
「同じ場所にいるとか」
「なるほど」
「言葉なくても成立する時間」
「それ恋っぽい」
「そう?」
「うん」
「でもさ」
「うん」
「今はまだ言葉ある」
「そうだね」
「だから」
「うん」
「もう少し話そう」
「それ注文?」
「うん」
「注文多いね」
「嫌?」
「嫌じゃない」
「ほんと?」
「むしろ助かる」
「なんで?」
「言葉なくなるの」
「うん」
「まだ怖いから」
「……」
「ねえ」
「なに」
「この会話さ」
「うん」
「いつから恋になったと思う?」
「難しい質問だな」
「文学的に答えて」
「じゃあ」
「うん」
「月の話したとき」
「最初じゃん」
「うん」
「でも」
「うん」
「あのときから」
「うん」
「少し特別だった気がする」




