「伊豆の踊子」
「今日は川端康成。たぶん名前聞いたことあるでしょ」
「あるよ。有名な人だよね。タイトル当てていい?」
「どうぞ」
「伊豆の踊子」
「正解。旅の途中で出会う女の子の話」
「淡い恋のやつだ」
「そう。すごく短い時間の関係」
「でもずっと心に残る」
「うん」
「ねえ」
「なに」
「恋ってさ」
「うん」
「長さと深さって比例すると思う?」
「どういう意味?」
「長く一緒にいた方が好きになるのか」
「うん」
「それとも短くても深くなるのか」
「なるほど」
「伊豆の踊子ってさ」
「うん」
「短い時間なのにすごく大きな思い出になる」
「確かに」
「じゃあ今日の質問」
「また来た」
「もしさ」
「うん」
「君と私が今日で最後だとしたら」
「急に怖いこと言うね」
「仮の話」
「うん」
「何を話す?」
「難しいな」
「うん」
「たぶん」
「うん」
「いつも通り話す」
「それだけ?」
「うん」
「なんで?」
「特別なこと言うと終わりっぽくなる」
「なるほど」
「だから普通にする」
「優しい終わり方だね」
「そっちは?」
「私?」
「うん」
「たぶん一つだけ聞く」
「何を?」
「楽しかった?」
「それシンプルだね」
「うん」
「で、答えは?」
「もちろん楽しかった」
「ほんと?」
「うん」
「最初はさ」
「うん」
「月の話から始まったでしょ」
「覚えてる」
「そこから文学ばっかり」
「変な会話だよね」
「でもさ」
「うん」
「普通の会話より覚えてる」
「確かに」
「ねえ」
「なに」
「伊豆の踊子ってさ」
「うん」
「別れの話でもあるでしょ」
「そうだね」
「でも嫌な別れじゃない」
「うん」
「静かな別れ」
「そう」
「だからさ」
「うん」
「もし別れるとしても」
「うん」
「そんな感じがいい」
「寂しいけどきれいなやつ?」
「うん」
「それ文学っぽいね」
「君の影響」
「責任重大だ」
「でもさ」
「うん」
「まだ終わりじゃないでしょ」
「どうして?」
「だって」
「うん」
「まだ帰り道の途中」
「……」
「どうしたの」
「いや」
「うん」
「それ聞いて安心した」
「なんで?」
「まだ少し」
「うん」
「話せる気がするから」




