「蜘蛛の糸」
「今日は芥川龍之介。たぶんタイトル聞いたらすぐ分かると思う」
「芥川ってことは有名どころだね。蜘蛛の糸?」
「正解。地獄から一本だけ糸が降りてくる話」
「カンダタのやつだ」
「そう。他の罪人を蹴落とそうとして結局落ちる」
「人間の欲の話だよね」
「うん」
「ねえ」
「なに」
「恋にも似てると思わない?」
「蜘蛛の糸が?」
「うん」
「どういう意味?」
「好きな人と繋がる一本の糸みたいなもの」
「ロマンチックだね」
「でも同時に怖い」
「なんで?」
「その糸、切れたら落ちる」
「なるほど」
「じゃあ今日の質問?」
「もう分かるでしょ」
「はいどうぞ」
「恋ってさ」
「うん」
「独り占めしたくなる?」
「それはなる」
「正直だね」
「そっちは?」
「少しだけ」
「少し?」
「全部じゃない」
「どうして?」
「恋ってさ」
「うん」
「独り占めしすぎると壊れる気がする」
「蜘蛛の糸みたいに?」
「そう」
「なるほど」
「でもさ」
「うん」
「少しくらいは思う」
「何を?」
「君の時間」
「うん」
「ちょっとは欲しい」
「それは普通だと思う」
「そうかな」
「むしろ少ないくらい」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ聞く」
「なに」
「君はどれくらい欲しい?」
「難しい質問だな」
「文学だから」
「またそれ」
「答えてよ」
「うーん」
「うん」
「全部とは言わない」
「うん」
「でも」
「うん」
「君が空いた時間」
「うん」
「その中の一番いい時間」
「うん」
「少し欲しい」
「……」
「どうしたの」
「ちょっと嬉しい」
「なんで?」
「私も同じこと思ってた」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあさ」
「なに」
「もしこの会話が蜘蛛の糸だとしたら」
「うん」
「切らないようにする?」
「もちろん」
「でもさ」
「うん」
「他の人が登ってきたら?」
「それは」
「うん」
「少し困る」
「正直だね」
「でも」
「うん」
「蹴落としたりはしない」
「カンダタより優しい」
「その代わり」
「うん」
「糸を少し強く握る」
「それ危なくない?」
「かもしれない」
「でもさ」
「うん」
「落ちたくないから」
「……」
「ねえ」
「なに」
「その糸」
「うん」
「今ちゃんと繋がってる?」
「たぶんね」
「たぶん?」
「だってさ」
「うん」
「こうしてまだ話してる」




