「桜の森の満開の下」
「今日は坂口安吾。ちょっと雰囲気変わる文学だけど、タイトル分かる?」
「分かるよ。桜の森の満開の下でしょ、あの怖い恋の話」
「正解。桜ってきれいなのに、その下にいると人が狂うかもしれないっていう話」
「ロマンチックというより不気味なんだよね」
「うん。でも恋ってたまにそういうところあると思わない?」
「どういう意味?」
「きれいすぎて、ちょっと怖くなる感じ」
「それは分かるかも」
「例えばさ」
「うん」
「好きって気持ちが強すぎると、少し不安になることない?」
「あるね。これ壊れたらどうしようって考える」
「そうそう。それって桜の森っぽいと思うんだよね」
「きれいだけど危ない場所」
「うん」
「じゃあ今日の質問?」
「さすがに分かってきたね」
「もうパターン読める」
「じゃあ聞く」
「うん」
「恋って人を変えると思う?」
「変えると思う」
「どっちに?」
「良くも悪くも」
「例えば?」
「弱くなる」
「それ悪い方?」
「でも同時に強くなる」
「矛盾してる」
「恋ってそういうものじゃない?」
「確かに」
「君は?」
「私?」
「うん。変わった?」
「……」
「沈黙長いね」
「少し」
「どう変わった?」
「前より考えるようになった」
「何を?」
「君のこと」
「それ普通じゃない?」
「前はそうじゃなかった」
「どういう意味?」
「恋ってさ」
「うん」
「最初は楽しいだけだと思ってた」
「まあ分かる」
「でも最近ちょっと怖い」
「怖い?」
「失いたくないって思うから」
「……」
「重かった?」
「いや」
「うん?」
「ちょっと嬉しい」
「なんで?」
「同じこと思ってたから」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあさ」
「なに」
「もし桜の森みたいな場所があったら」
「うん」
「二人で行く?」
「危ないって言ってた場所?」
「そう」
「うーん」
「悩む?」
「少し」
「なんで?」
「きれいすぎる場所ってさ」
「うん」
「壊れた時が怖い」
「なるほど」
「でもさ」
「うん」
「君が一緒なら行くかも」
「それ危ない選択じゃない?」
「恋ってだいたい危ないでしょ」
「確かに」
「それにさ」
「うん」
「桜の森で狂うなら」
「うん」
「一人より二人の方がいい」
「それちょっと文学的すぎる」
「君の影響」
「責任重大だな」
「ねえ」
「なに」
「もし本当に桜が満開だったら」
「うん」
「君は何て言う?」
「たぶん」
「うん」
「きれいだねって言う」
「それ普通すぎない?」
「じゃあ君は?」
「私はたぶん」
「うん」
「月がきれいですねって言う」
「桜なのに?」
「うん」
「なんで?」
「その言葉、もう私たちの合図みたいだから」




