ep8:夏と/海と/丘と.
月が変わって蛇眼陽歴101年葉の月。盆の頃合い。仕事を持って殿下の所に尋ねた。
「学術調査の手伝いですか?」
「甲辛国際学園の空栗教授が行う広域調査に文弘厩親衛隊が全面協力いたします」
ワタシや末盧の恩師である空栗先生は当家で食客をしていたが学校をつくるらしい吾妻叢伯爵に紹介してやり今や教授である。
「国家臣民の為に運用すると決めている部隊ですからそれに沿うなら否はありません。
して、どのような調査を行いますか?」
準備していた資料を取り出して殿下に渡す。
「地域については、帝都遠洋、郊外の暦ヶ丘古墳…………。
意義としては、地球異界化現象に対する解明や教授の仮説立証になります」
「地球異界化現象か、御講義で何度か聞きました。なんでも近年異界の発生や怪現象が増えていると」
「軍も警察も民間も手間暇を取られるからね。解決すると良いのですが……」
「卿ならなんとか出来るのでは?」
「君命なら全力を尽くしましょう。ただ恩師の功績を取るのはあまり本意ではありませんな」
これからやる事も控えているしその辺のリソースを割きたくない。
同月、帝都遠洋の船上。
「平民もとい、愚民ども。学園の旅行行事ではないのだぞ! 何だこの有様は」
客船私財で改修し親衛隊に寄贈した多能巡洋艦新部の甲板に造彦君の怒声が響く。
トランプで遊ぶ、お菓子を食べる、大判カメラでとりあえず写真を撮る。その横で最新の魔導端末で写真を撮る。どこから持ってきたんだ大判カメラ本体もそうだが被る布とかパラボラ形のフラッシュとか……。
学生旅行もかくやに浮かれている親衛隊。造彦が続ける。おい造彦君、君の取り巻き達も一緒に浮かれているぞ。
「殿下や先方の好意で半ば慰安旅行だとしても限度があるだろう……浮かれすぎだ。今日の貴様らは旅団って聞かれたら旅行団体と答えるだろうな。
答えない? 事前に言っておけばそりゃ避けるだろまったく、みんなコイツを甘やかしすぎる」
隣で造彦君が数刻コースの愚痴をはじめた。他所行ってくれ。瞬間、空気に緊張が走る。
「不明な反応、要警戒されたし!」
見張りをしていた親衛隊員が通達するよりも速く親衛隊は動いていた。配置につき命令を待つ、近づく揺れ、外理反応。1人の隊員が原因を捉えた!
「巨大な妖、推定40m」
鯰と山椒魚の間みたいなシルエット。黒山の如く体育とサーチライトの如く2つの目が海面から現れる。
「そのまま警戒を続けて、敵対の意思はないようだ。すごいなあ大きな鯨だ」
前に進み出た克彦殿下が静止命令の後、感想をもらす。
「いつもこんな冒険をしているのか?」
「普段はもっと楽しいんですよ。いとおかし」
私が質問すると造彦は自棄気味に笑い、そして答えた。
慎重に接近してテレパス外理術で妖から事情を聞いた殿下曰く。このバケモノは「気が付いたら誕生していた。惹かれるものがあったからこの船の近くに来た」らしい。
そして、彼? の話の中に出てきた潜水艦。拾えた情報からおそらく、北方人民連邦の諜報機関と見て間違いない。
「殿下」
「ああ、僕も同じ考えだよ。追跡を行う」
思うにこの海域は外理的な要点、北方人民連邦と並ぶ外理先進国である円国への妨害。
北東へ向かい35ノットで新部は進む。新部の艦長である鳥峰殿が任せて欲しいとの事なので、親衛隊は白兵戦に備えて待機。
ソナーに反応あり、距離は詰まっていく、有効射程に入る少し前に魚雷を発射した。海流で逸れて外れる。
「惜しい」
隣で見ていた牽制と距離を測る意図だと思われる。次撃も外し、否、潜水艦側の艦長がタイミングを読んで回避したのか。
3発目、殿下を通訳に妖の協力を取り付けている。先回りしていた妖が横から潜水艦を牽制、一時的に回避行動をする余裕がなくなったタイミングで魚雷を撃ち込み大破。潜水艦は鹵獲し地元鎮守府に引き渡す事にした。
協力してくれた妖には都洋潜王の名を殿下が与え祀り。官位を奏上し時折人を派遣して様子を見る事にする。外理力が内部循環している生き物だ。なのでほぼほぼ食事もいらないし生態系の影響も少ないだろう。
潜水艦の一件で多少任務の合間の自由時間は減った。
次は暦ヶ丘遺跡の調査に行く。確か近くに子供の頃に診てもらった暦ヶ丘舎人先生の診療所があった筈だ。自由時間に尋ねると舎人老が出迎えてくれた。
ワタシが息災な事に喜び。アマチュア考古学者もしているので調査に協力したいと、空栗先生に話を持っていくと長年この遺跡を調べてきた方の協力に喜び、
暦ヶ丘舎人先生も加わることとなった。空栗先生の研究は観測器からデータを収集する。そのデータを演算機に入れてシミュレーションして仮説や検証を進めていくと言ったものだ。
我々は海と同様に護衛や見張りをする。
「柾彦卿。卿はこの遺跡や無尽王について詳しいのかボクは牛隅先生からはあまり教わらなかった」
話を振られたので待っている間、殿下と会話をする事にした。
「ワタシもあまり詳しい方ではない。舎人先生の受け売りだが、飢饉や疫病が多発した平安期の蛮東、無尽王は病を治し、食べる食料や身を守る武器を出して人々を救った。
やがて、勢力を増した無尽王は朝廷とぶつかり一度は退けるも物や食糧の分け前に不満を持った民に刺し殺される。ただ今の時代でも彼を慕うものは多い。
この古墳も来歴は不明だが無人王が祭儀に使ったものとされる。先生は無尽王が異能を持つマロウドだったのでは? この遺跡に何かあったのでは? と考えて研究をされているよ。おや?」
話をしている内にまた殿下が神隠しにあわれた様子。少し探すとすぐに見つかった。
「会ってきました」
「どうでした?」
「彼は救おうとしていました。けれど滅びました。ボクが陛下の次に見た王様です」
そんな小さな事件が裏側で終始し、一連の調査は順調に完了した。
「おのれ。北方人民連邦のロス助共め許せねぇ!」
自由時間が減った事に対して造彦君も六門君も親衛隊と共に北方人民連邦への敵愾心を昂らせていた。ロス助か恐らく自由時間をロスさせた野郎とかそんな意味だと思われる。




