ep5:雪解け/親衛隊/綺羅星.
蛇眼陽暦101年春、克彦親王が市井にて見つかり文弘厩克彦親王として皇籍に復帰。ーーソモジ朝宮記よりーー。
克彦親王殿下には陛下から裏純田の離宮が与えられた。殿下はそこに住むことになる。それと同時にワタシ葛原柾彦は克彦殿下の相談役を仰せつかった。これでワタシも無職でも無役でもなくなる。
「いかがでしたか? 他の皇族の方々は」
殿下は陛下や他皇族の方々とお会いして裏純田の離宮に帰ってこられた。ワタシは出迎える。
「思っていたよりも友好的だったよ。皇后陛下は少し困ったお顔をされていました。ですが暖かく迎えてくださった。それに皇太子殿下をはじめとした大部分は悪く無い初対面だと思われます。
互いに名乗り合ってて思ったのですが。なになに厩のなになに彦、なになに媛っていっぱい居るね」
「そう言う家風ですよ。彦は男子に媛は女子に厩は古の摂政『馬宿厩様』に因んでの皇族用宮号、苗字みたいなものです。に使用されます。別に庶民が真似してもいいですが、ワタシの彦も遠いですが皇帝家と繋がりあるモノですよ」
「そう言えばお母さんが克平じゃなくて克彦がいいってボク、克彦になったらしい」
「好意的に迎えられたのは国家的に皇族はある程度居る方がいいんです。外理的な側面から見るとね」
会話しながら帰宅ルーティン。玄関を抜け、殿下は手洗いうがいをし、螺旋階段を経て、適当な部屋のソファーに二人腰掛ける。
「外理? 学校で習った確か魔法とか法力とかチャクラとか一般法則とは違う現象でフィフスとかって言うんだよね」
「はい、その理解でよろしい。外理学は地域地域で別々に発展していた超常の技術をまとめたり並べたりして発展改善させる事を目的とした学問です。
皇族は信仰や血統という超常バフと権威やブランドという一般バフを撒ける。いわば幸運の置物なんですよ」
離宮付きの執事がアフタヌーンティーを用意して運んできた。ふと手作りと思わしき焼き菓子が目につく。
「その焼き菓子は朝、ボクが仕込んだ物を焼いてもらったんです。卿のお口に合えば良いですけど」
「これはこれは、過分なご厚意にあずかり、心より感謝申し上げます。こういったことがお好きなのですか?」
「洋食屋の倅だったからね。不似合いかい? 皇族が料理を嗜むのは」
「いいえ。そういった方も何人か知ってます」
しばらく他愛のない話をしながら時間が流れる。
「時間もあります。話していただけませんか? 葛原卿、あなたの口からあなたの目的を」
じっと、ワタシを見定めるように見つめる殿下が問うてきた。
「殿下、貴方の目である妖精眼はそう言うの見えるって伝聞されてますが見えませんか? ワタシの目的」
惚けながら首を傾げ手を広げて見せる。
「1つの本棚から1冊の本を探すのと100の、1000の本棚から1冊の本を探すのでは手間も違う。それに卿は嘘つきだろ。
卿はそういうのの誤魔化しも得意そうだし、今ここで自分の概念を言語化して定義してみてよ」
じっとワタシを見て殿下は頼んできた。
「難しいものですな。ワタシは私欲もありますがこの国を救いたいと思っておりますし、未来を良いものにしたいとも思っております」
「私欲の部分。もう少し言ってもいいんじゃないかな?僕には聞く意思はあるよ」
微笑みかける殿下。よいのですか?
「卿は胡散臭くて気持ち悪いところはあるが能力と忠義は疑ってないよ」
更に殿下は促した。
「ワタシの考えた最強の偶像を後方でいい空気吸い。ながらに快楽、納得、熱興な人生を送りそして終えたい」
克彦殿下の周囲、纏う空気を読む。今回はこの辺りで許していただけるようだ。
「そっか。聞けて良かった。またお話しをしよう。それで卿は僕に何を求めているの? 僕としては故郷の街や生家であるお店を燃やされたくないから協力するつもりだよ」
「差し当たっては皇族としてのお勉強と派閥作りですね。大勢の人達と仲良くしてください。将来的に帝都で革命派がクーデターを起こして北方人民連邦を手引きする。なのでそれに対するカウンター。その為の象徴をやって頂きたい」
「交流かサロンでも開いたらいいの。お店を持ちたかったから真似事でもすればいい? 北方人民連邦、最近革命で出来た国だね。僕が必要とするくらい強いの? 確か前身のルブル皇国とは帝国が戦争で勝った筈」
「ええ。あの国には貴方の影が存在します」
因果の流れに澱みのようなモノが見える。克彦殿下と同質の存在が北方人民連邦に存在する。そう見てまず間違いないだろう。
その後も夕食まで殿下と確認や方針について楽しく話し合った。おおむねワタシの方針に理解を示してくださっている。だが戦争や謀略や金策など後ろ暗い部分には少し抵抗があるご様子。またつどつどこういった方針や考え方の確認をやりたいものだ。
克彦殿下が皇籍に復帰されて早一月。蛇眼陽暦101年如の月。最も冷え込む時期である。顔合わせなり挨拶回りなり新聞社からの取材なりの洗礼も落ち着いた頃合い。
「親衛隊ですか?」
「ええ、人材を囲う事と雇用の創出、殿下の名前を売る事などを目的として行っていく事になります」
裏純田離宮の会議室。殿下とワタシ以上2名。ワタシが献策を説明していく。広さに対して中身が少ない。将来的には殿下の派閥を増やしたいものだ。
「行っていくって事は既定路線? 私兵を集めて軍や他の皇族との関係への悪影響はないの?」
「明文化されてませんが殿下はまず皇帝になれません。妖精を母に持つ故、過去妖の皇后やその皇子による弊害が酷かった前例が理由です」
ワタシの先祖が原因だったりする訳だが話が逸れるのでそのまま説明を続行。
「なので私兵を持っても他皇族には脅威になりません。軍についても現状そういった皇族は従軍意欲があると歓迎する方針ですね」
「言いたい事はわかった。部隊の概要はどうなっている?」
概要をまとめた紙1枚と数10枚の草案を机の上に出して殿下に渡す。
「草案は出来ております。第一に装備、訓練、戦術を対北方人民連邦へのメタ即ち対策へ絞る事。第二に表向きは儀仗用かつ交流用の部隊として各家などから人を出してもらい偽装する事。
第三に可能な限り大規模にしたい。ですが、差し当たっては数十人程でプロトタイプになる部隊を作ろうかと……」
他に細々とした所もあるが説明すると殿下は良く御理解された。ワタシは年度が変わる前に始動できそうな手応えを覚える。
蛇眼陽暦101年卯の月。卯の花が咲き新年度が始まる季節。推薦、スカウト、志願ぞろぞろと親衛隊候補が集まる。
親衛隊の概要について、兵は広く臣民から集めること、装備や軍律などの手直しなど草案から殿下や専門家の意見も取り入れて微修正を行った。
また、最近交流のできた此野伯爵の近羽様が住み込みしている書生をよこしてくれた。
橋科山左衛門、士分の出で帝都府智良郡の一揆の収束に対して武功と説得の功があったらしい。
巨体、スキンヘッド、色白。おおよそ書生とは思えない武芸者か僧兵の方が似合う男。橋科山左衛門には親衛隊の武術指南をやってもらう。
幕僚の統括役には、学閥争いの煽りで追放された学者であり、市井時代の克彦殿下に手習いを教えていた牛隅先生。
戦術指南には、遠智谷予備役大佐が講師をしてくる。
先年、北方人民連邦成立後に東ルブル、カスティーナ・サン・ド・アンと総称される地域への出兵が行われ撤退戦を成功させたが難癖つけられた結果予備役になった名将である。
並べてみると錚々たる面々が揃った。
宮廷雀達が厩様のお遊びと密やかに鳴く声が聞こえる。だがこれは意図通り。
「まつろわぬ者や臣民から士分や貴族までいるのだからもっと揉めると思っていた。けど橋科卿がよく治めてくれたから予想よりも整った新設式が出来そうだ」
儀礼用の軍服に身を包んだ克彦殿下と共に控え室で式典を待つ。
「ええ、思わぬ拾い物でした」
「手習いの先生が幕僚統括でお店のお得意様だった卿が相談役。世間は狭いものね。 ……それで葛原卿は何処まで仕込んだの」
「こうなりやすいようにいくつか働きかけました、こうも上振れた結果は殿下の徳によるものです」
「誠かい?」
「陶土の皇帝の話をしましょう。彼は反乱軍の将から身を起こして覇王と戦ったのですが彼の地元にいた創業メンバーには名宰相や名将が多くいたとか……」
「彼の皇帝の人生はボクも牛隅先生から聞いている。ボクのお母さんが妖精で良かったよ。兄弟と争わずに済む。今日のことは記録に残るだろうから華々しい旗揚げにしよう」
蛇眼陽暦101年卯の月。卯の花が咲き新年度が始まる季節。後に半年戦争で朝廷軍の中核にして流れの中心となる文弘厩親衛隊。この先の時代という舞台におけるメイングループの誕生であった。




