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ep4:2人の父/主従契約/始動.

 年明けて蛇眼陽歴101年帝都陸鳴園(りくめいえん)。皇室所有の庭園にて、皇帝陛下をはじめ貴族や名士らも参加する詩会にワタシも参加していた。没落したとは言えど葛原家は元からそれなりの家格はある。


 利平屋の被害者へ十分な補償金をばら撒いてもなお有り余る財、どれだけ悪どい事をしたのか。それを工作なり運動なりに使えば入り込み便宜を計ってもらうのは難しい事ではない。


 陸鳴園の槻の並木に陛下の足が誘われるように向かう。確信めいたものを感じたワタシも陛下を追って、槻の並木へ。


 舞い上がる風が陛下の帽子をワタシのところまで運んだ。ハット型のそれをひょいと宙の帽子を取ると陛下に駆け寄り膝をついて帽子を差し出す。


「ああ、葛原卿ですか。最近よく奏上で名前を見る。少し前まで噂をよく聞いていました」

「拝謁の誉と知遇の聖恩に感謝を」


 皇帝陛下から「君のこと知っているよ」的な意味のお言葉。こちらも「こんにちは、知っていてくれて感謝します」的な意味の挨拶をして付け足す。


「他にお忘れ物などはございませんか? 臣が探しましょう」

「ああ、忠言感謝。幸い余にはないと思うが…………ああ、聞くところによると卿は夢占いにも精通しているとか?」

「嗜み程度ですが、なんなりとお聞かせください」

「ああ、最近よく見る夢だ。余の中から光る盃が出てきてどこかに行ってしまう。侍従に聞けば何か探している兆候だとか? だが探しているモノの心当たりがない」


 ワタシは表情を崩さず、一般的な占術解釈を述べる。

「臣も同じ解釈ですな。何か見つかるかも知れませぬ臣の方でも探ってみましょう」

「ああ、思いつきで相談しただけだ。程々でよいぞ」

 その後、陛下と2、3個話題を語り別れた。


 後日。さて私務(わたくしつとめ)とは言えど陛下からの命である。今は葛原家で執事をしている末盧灯一郎彼の従兄である加狩乱弾(かがりらんだん)は裏純田離宮警備の務めをしていて宮廷警察だそうだ。


 灯一郎のツテ、それと葛原家の働きかけで乱弾殿を宮廷警察から借りて捜査を始めよう。


 帝都の洋食店、お忍びで行きつけの伴乃洋食亭(ばんのようしょくてい)。ワタシと乱弾殿はテーブルを挟んで対面している。ワタシの手前にはオムライス、乱段殿の手前にはビーフカレー。


「食べぬのか? 乱弾殿」

「警備の仕事上、貴人がこういう店でお食事するのは思うところがあります」


 気にせずオムライスを口に運ぶ。店側客側の不慣れや迷惑。警備する上での不確定要因が多いからそうだろうなを


「ふん、まあリーズナブルな店だがなかなか美味い。ワタシについて灯一郎から何か聞いているかね?」

「前にあった時に少し話しました」


「愚痴ばかりだっただろう。おっと答えなくていい。困らせるのは本意ではないのだ」

 機嫌良くワタシはアイスコーヒーをかき混ぜて会話を続ける。


「さて、本題とゆこうか。陛下のお悩みは多分近しい者らも何かしら解決しようと動いているだろう。


浅く広くではあまり意味がない。他とかぶるだろうし……。なので山を張って見ようと考えている」

「考えを聞きましょう」


 オムライスのバターでいつもよりも口が回ったのか、どうやら乱弾殿は興味を持ってくれたようだ。

「考察するに光る盃とは血統、ご落胤なのではないかと……」


「貴様ッ!」

 声を落としワタシを嗜める乱弾殿。だが、続ける。

「まあ、聞きなさい。陛下が不義をしたとはワタシも思ってない。ただ陛下は愚かではない。可能性を無意識に考えておられるのではないか。


 ここで我らが踏み込んだ調査をして不振だったら陛下のお心も晴れると思いませんか? 乱弾殿」


 彼は初めてパセリバター炒めライスのビーフカレーに匙をつけて口に運んだ。同じタイミングで給仕の少年が持ってきてくれたバニラアイスをワタシも味わう。


「異論はありません」

 ワタシと灯一郎の恩師に空栗秀章教授という人がいる。外理式演算機学者で麒州に勤めていたが治事に追放され最近は葛原家の食客をしてもらっている。


 空栗教授の外理演算機にシュミレートしてもらった候補に協力してもらい。集めたサンプルを帝都大学の研究室に分析してもらう。


 変な噂が流れては皇室に泥を塗るので研究の一環だとカバーストーリーを作り方々に交渉、髪の毛または唾または血の提供を願った。


 手紙や奏者で納得して協力してくれる者。ワタシが直接出向いて理解してくれる者くれない者。おおよそ3ヶ月で9割超のサンプルが集まった。して結果は……。


「…………どうされる? 葛原卿」

 乱弾殿の問い。


「報告するより他は無いだろう。乱弾殿の任務は監視、監督も兼ねている筈、手法工程などに問題はなかったな? ならば手順に則った結果には手順に則った報告を臣下として隠し立てする訳にもいかぬだろう」

「致し方がない。報告をお頼みします私の方では『皇子』の警備を行います」


「その方がいいね。『殿下』への説明にはワタシも同席する」

 さて、『奇貨』のことを陛下に伝えるとしよう。資金と政治力を使いなるべく早く陛下と逢えるように手を回す。


 それから数日とかからず。宮邸へ葛原家の先祖、魂前皇后の話がしたいとの名目で陛下に招かれる。書斎にて、アリバイで陛下と当たり障りなく話した後。陛下の信頼のおける者だけ残して後は席を外してもらう。


・陛下の血を引く皇子が、ご落胤がいた。

・母方の血は妖精のものであり、以前に陛下が神隠しにあって記憶がない時の子だろうと思われる。

・その皇子は今、帝都の洋食屋に拾われて育てられ、現在は加狩乱段殿が密かに警備、監視中。


 質疑や装飾を除いて以上のような内容を陛下に伝えた。


「ああ、間違いではないのだな?」

 流石にショックだった陛下。ようやく立ち直ると言葉を捻り出した。

「少なくとも検査結果上はそのようです。今なら知っている人間も少ないかと」

 言外にこの事実を闇に葬るか問う。


「! 我が子だと知ってしまった時点でそのままにして置く事はできない」

 陛下のお言葉にワタシは頭を垂れ、洋食屋に向かった。


 仰々しくも儀礼的な集団を向かわせても騒ぎや迷惑になると考えてたワタシと乱弾殿。そして馬車で来た。今日はもう店を閉めてもらい。亭主とその妻、上の娘と下の弟である殿下を交えて面談を行なった。


 ワタシが洋食屋伴乃一家に伝えた内容は以下の通りである。


・ご子息は現陛下が幼少の頃に神隠しにあった時にできた妖精との子だと調査結果から思われます。

・陛下はその頃の記憶はございませんが、一度皇子にお会いする事をお望みです。よろしいですか?

・皇子を育ててくださった皆様に陛下は大変感謝しております。



「確かに倅は11年前に拾った子です。……そんな……まさか……殿下だったなんて……」

「驚きも大きいでしょう。混乱も極まるでしょう。ですが、今一度ご子息の事を考えてください。情報はいずれ漏れます。


 皇族に復帰するにしても、市井で暮らし続けるとしても良からぬ事を考える輩がおりましょう。対処する為、一度陛下と会わせていただけないでしょうか?


 今後何があれワタシの家名と名誉に賭けて、一度ここへ連れ帰りますので」


 店のテーブル席。頭を抱えているご亭主へ説得を試みる。養母の後ろ、不安そうな目でワタシ達を、この空間を見つめる皇子は幼い瞳で今回の事態を見定めようと目を逸さなかった。


「克彦は私の子だけど、陛下の子でもあるんだよね……。克っちゃん一度、血の繋がりがあるお父さんに会ってきなさい。そして君がどうしたいか考えるんだ」


 養母の後ろに隠れて不安そうな表情をしている皇子である克彦殿下に養父である亭主、綿平(わたひら)殿は屈んで目の高さを合わせてそう諭す。彼と当人である皇子は連れていく事に対して同意してくれた。


 車に皇子を、克彦くんを乗せて宮邸へと向かう。対角の席にいる殿下を眺めていた。歳の頃は11歳、ふんわりとした薄茶色の髪の可愛らしい少年だ。纒っている不思議で幻想的な雰囲気は妖精の血由来だろうか?


「止めてくれ。親子の再会の前に少し落ち着いていただいた方がいい」

 宮廷への道のり、走行中の車をワタシはそう命令して停めさせた。


 帝都を一望とは行かないが、それなりの高さがある高台。上の神社へと続く石鳥居が連なる石段からワタシと殿下は夕暮れの街並みを眺めていた。


 今日の事は消化不良な様子で少年の顔はうかない。

「君の実母君(ははぎみ)から預かっていたモノがある」


 以前に行った異界で御守り代わりに貰った守護式をワタシは克彦殿下に移した。帝都を見ていた克彦殿下の目が何かのヴィジョンを見ているような様子。


 守護式が引き金になって彼に眠る妖精の力が目覚めたのだろう。


「何か見たかね?」

「お店が帝都(まち)が燃える……」

 克彦殿下は涙を流しながらワタシの方を見た。とても懐かしい。


「葛原卿……知っていたんだねこうなる事を、ボクが皇帝と妖精の間に生まれて市井で育つ事を……ボクはただの洋食屋の倅でありたかったよ」


「そのような気はしていました。候補として、ですが確証はありませんでした。人は産まれる場所を選べませんよ」

 ハンカチを差し出す。

「仕組んだ君が言うなよ。この未来をなんとかしたいなら君がなんとかすれば良い」


 ハンカチを少し戸惑って受け取り涙を拭う殿下。

「何とかできませんよ。知っていました震災が戦災が来ることを星の巡りで。結果はワタシでは負けないだけで勝ちきる事ができない。殿下だけなら勝てますが犠牲が大きい。


 ですが二人なら勝ち方を選べます。共にベストエンドを選びましょう」


 蛇のような黒点がある太陽は半ば沈んでいる。殿下の後ろに立つ白い石鳥居の右柱は夕日で赤く、左柱は夜闇で青く染まっていた。


 差し伸べたワタシの手を殿下が取る。主従契約は成立。ワタシと殿下の否、ワタシと我が御主君の上で流星が光を放っていた。


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