ep30:都洋潜王/新五曜城塞/北辰天衝.
和多志達はウリエル元帥らと別れて再び最北端を目指す。
多少道程に余裕が出来たので円国人がいる集落になるべく顔を見せる。帝国の健在をアピールしつつ東日流海峡に昼前に到達した。
「ギャアアアス」
「都洋潜王、都洋潜王では無いか乗せて北海島まで運んでくれるのか」
以前に帝都の沖合で出会い官位を奏上した巨大妖。鯰と山椒魚の間みたいなシルエット。黒山の如く体育とサーチライトの如く2つの目、の恐らく鯨だ。
外理術で渡る予定だった海を都洋潜王に乗って渡り、乗り切れない分は札収納した筏を牽引してもらう。
目指すは東北の向こう北海島、向こうには帝都奪還戦の折に転移要塞で後方撹乱をしに行った鷹司少将がいる筈だ。
聞けば都洋潜王は度々北方人民連邦の補給を妨害していてくれたらしい。殿上人の自覚があるようで何より、陛下に功を奏上するので、何かしらの恩賞が貰えますよ。
ふと、この巨体では殿上に上がるのは無理そうな事に今更気づく。殿上人の資格はあるのに昇殿できない。ペーパードライバーみたい。何はともあれ恩賞を与える事を上奏しよう蒲鉾でいいだろうか。
「ギャアアアス」
「そうか和多志は今、鯨に乗って海を渡っているんだ」
昔見た絵本にそのような話があったなと懐かしむ。巨体が水面を割るたび、雪解け水のように海が逆流し、筏が揺れる。和多志の髪が潮風に揺れ、冷たい飛沫が頬を打つ。
「殿下、コイツは多分鯨じゃないです。でっかいナマズか山椒魚です」
隣にいた親衛隊の1人がそう私見を述べた。そうか、そういう考え方もあるのか。
都洋潜王に送ってもらい。対岸の北海島まで着いた。ゴレームや式神を中核とした鷹司少将の外理部隊が出迎えてくれる。
「ひと月程度しか会わぬのに久しく思います殿下。この地にまで勇名は伝わっておりますぞ」
白い髪をオールバックにし痩せた老紳士はウィンクしながら進み出て再開を喜んだ。
「敵中で奮戦する閣下のご活躍もかねがね聞いております」
都洋潜王に別れを告げて見送った後、鷹司少将と閣下の部隊に案内されて転移要塞、新五曜城塞までやって来た。
北方人民連邦軍に奪われて補給の中枢にされていた旧五曜城塞。それと交換転移する奇襲攻撃にて双方の位置が入れ替わり旧五曜城塞跡に新五曜城塞が存在する。
なお、旧五曜城塞跡。内地に転移後奇襲に加えて徒手空拳寸鉄帯びず交渉に殴り込んだ近羽伯爵の説得で降伏して、溜め込まれた物資は帝国軍が美味しく活用させていただいた。
当初、睦の月の頭に予定されていた帝都攻略が遅れた。その真相としてこの奇襲作戦の為の星辰の兼ね合いだったりもする。
奇襲効果は間違いないだろうがよくこんな作戦をやろうと思ったものだ。ともあれ、今晩は宿泊設備のある城塞で我らは休むことができる。
その夜、和多志は寝床にて夢を見た。知らない島、放棄された観測基地。外に出て岬の方を向くと彼がいた裏主席レディン。彼がルブル時代の貴族士官用サーベルを抜くと和多志も軍刀蛇斬り丸を抜いていた。
向かい合い、同時に相手の方へ踏み出す。瞬間目が覚めた。
「殿下」
親衛隊の副官格である六門君と造彦君が寝室に訪ねて来ている。
「隊員達が陳情したい事があるそうで、その俺らで収めても良かったのですがやや、ややこしい話なんですよ」
「きっぱり断ってくださいね」
部屋の外から数十名の隊員の気配。代表と思わしき1人が入って来て要求を伝えた。
「殿下! このまま引き返してください!!」
少しショックだったが今までよく働いてくれたと思い直して言葉をかける。
「過酷な征旅故よく忠勤奮戦してくれた。幸いここは味方の城塞。動けるものを選抜して和多志達は先に進む。心置きなく静養しなさい」
「いえ、我々はまだまだ駆けれます。戦えます!!」
「では、何か要求か? 諸君らの働きは和多志がよく知るところ身銭を切るのも上へ直談判するのもやぶさかではない」
「いえ、殿下。我々はまだ殿下と共に戦いたいのです。責めて後10年、一生、永遠に!!」
「頭修羅道かヴァルハラか貴様らッ!」
撤退派の言い分についに造彦君がキレた。えーと、戦争が好きなのはまあいいや。10年そんなに戦ったら国が持たないよ。
「殿下、我々の気持ちもわかってください。殿下と共に駆け抜けたキラキラした日々が永遠に続いて欲しいだけなんです。純粋な気持ちなんです」
それは地獄という。
「和多志も戦いの中で高揚感を覚える事もあり、諸君らには友情や身体の一部に近い感情を持っている。けれども、和多志は大円帝国の皇子で国家と臣民の為に戦いを終わらせるのだ。
心では一緒に戦いたいと願う。しかし、国家と臣民のためにこれ以上の犠牲は許されない。ついて来て欲しいとは言わない、邪魔だけはしないでくれ」
「ですが殿下ぇ……」
「おい、笹田ッ。殿下と共に少数で先行しろ。僕はコイツらを鎮圧もとい落ち着けたら追いかけますから」
「ほら、殿下。このままじゃ剥かれて黄色のお洋服着せられちゃいかねませんぜ。昔陶土の皇帝みたいに」
六門君に、引っ張られるまま反乱鎮圧用の親衛隊を残し僅かな供回りで早朝を駆け抜けた。
「ほら、高貴な僕が話を聞いてやるから冷静に話し合おうよ」
「問答無用ッ! 貴様の弁舌力を恨め造彦!!」
「しゃあッ!! 一応説得は試みたアリバイ成立。出あえ出あえ、半殺しにしてやる!!」
新五曜城塞で今行われている喧騒を背で聞きながら最北端へと駆け出した。
昇る朝日、暁を浴びながら数十名の白い影が進む。幸い、鷹司少将からの情報では北海島の北方人民連邦軍は半ば撤退している上に、鷹司少将の外理部隊との戦闘で消耗している。
なので仮に遭遇戦になったとしても少数でも強襲と離脱を繰り返せばなんとかなるだろう。昇る朝日、暁を浴びながら数十名の白い影が進む。
通り道の部隊を掻い潜り、北へ北へ。
「海だ、海だ」
隊員の1人が叫ぶ。宗奈落の岬。六門君から国旗を受け取り、馬から飛び降りると和多志は駆けて旗を立てようとする。風強く倒れそうな旗を後ろから来た隊員達と支える形で建てて固定した。
旗が風に翻り、親衛隊が息を合わせて支える。波打つ白布に朝日の光が反射し、遠くの島影に帝国の存在を刻む。
来た道を振り返ると、遠くに見える白影の列に、造彦君の姿が見えた。隊員たちは自分たちが支えているのだと互いを励ますように駆けていた。彼を先頭に後続の親衛隊が駆けつけている。
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翌月蛇眼陽暦107年芽の月、月旦。
ポンド・ドールの城塞都市カメロドにて北方人民連邦の国家主席ゾローチン総書記と大円帝国宰相徳大羅公爵が握手を交わす。ほぼ、大円帝国側の要求が通る形で霧都和平条約が樹立しました。
この大円帝国と北方人民連邦及び様々な国々の義勇兵が参加した戦争はその期間から通称『半年戦争』と後世呼ばれます。
戦争を知る者達は半年で終わった奇跡の戦いと呼ぶでしょう。一方でその後数年に渡り山間や海辺の村々で瓦礫や幽霊が見られました。
大円帝国及び近しい国々は翔円帝継承戦争、旧北方人民連邦は円国朝共内戦のそれぞれを正式名称と主張したことを付け加えておきましょう。
勝利した大円帝国では戦時中復位した盤条帝が摂政だった翔円帝に譲位、翔円帝は摂政の後任として文弘厩克彦親王を指名し大円帝国は戦後体制で復興と発展の道を進んでいきます。ーー図録・半年戦争よりーー
ーー第2部 終戦編 完ーー




