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ep3: 因果収束/決闘裁判/巨万の富.

蛇眼陽暦100年葉の月。帝都葛原邸。ワタシは帳簿や質札、公文書の山をパラパラめくり頭の中で算盤を弾く。実家の蔵ひっくり返して、億貨余り。あまりに心許ない。だが、貯金箱をかち割る兵隊は揃えられそうだ。

 

「末盧、兵隊の当ては揃ったか?」

「意外と拾い物が多かった。もしかすると本当に天佑かも知れない」


「偶然ではないのは確かだ」

 実は意図的なものである、異界で学んだ占術の応用である。実家の金のアテも集める兵のアテも、ハナからあった。確たる勝算があった。そうワタシがあの日に仕組み、そして先日まで忘れていた。既に星辰は揃っている。


 幼い頃の話だ。絡んでくるクソガキを呪ったり、異界の妖精を玩具に遊んだり、呪術書を昆虫図鑑代わりにしたりと手がつけられない息子であった。そんなワタシに対して、乳母の寛容も限界を迎え診療所へ手を引き連れて行った。たしか11の頃、ルブルとの戦争が終わってすぐだ。蛇眼陽暦89年のことだった。


 それが今日まで親交がある主治医「舎人(とねり)医師」との出会いである。

 舎人医師は眠そうな目をした白髪小柄な老人であり、その眠そうな瞳には穏やかさと知性を宿していた。


「初めまして、こんな田舎にある診療所まで退屈だったかい?」

「長閑でいい場所だと思いますよ。それに惹かれるモノがあった」

 そんな感じの事を初対面で話したと思う。


 ワタシは舎人医師の事を目的抜きで気に入り、彼も幼いワタシを可愛がってくれた。数回も診療所に通う頃には歳の離れた友人になっている。


 ある日、否、この診療所に初めて来た日から視線を向けている祭具。土器製の輪投げセットみたいな祭具。ワタシが興味を持っていることに舎人老人は気がついた。


「それ気に入ったのかね」

「ええ、とても惹かれます」

「この診療所の近くにある古い古墳。そこを調べるのを手伝った。その時に譲ってもらった物だ。どんな風に使ったのか判らない。だが、何らかの儀式に使っていたと考えている」


「例えばこう使ったのかな? 触っても?」

 舎人老人はワタシに手袋を渡す。その後、祭具が展示されているガラスケースを開けた。


輪の形になっていて大きさの違う円盤。1枚ずつ動かす。大きな円盤を小さな円盤の上に重ねない。4本の柱を使う。このルールに従って円盤を動かして行く。


 円盤を一枚一枚動かし、延々とそれを続ける。途中で舎人老人は「夢中になったのかな?」としばらくワタシを見守っていた。だが、預かった子があまりに長くその遊びを続ける。なので用事を片付けに別の部屋に行ってしまった。


 その後もワタシは延々と円盤を動かし続ける。いつのまにか夕暮れに、乳母が「帰ろう」と急かす。ワタシは「まだ儀式の途中だ」と駄々をこねてみせた。


 舎人医師が気を利かせて「今晩は泊まる」ことを許してくれて事なきを得る。窓から見える夕焼け。家のある方向を見ると、ワタシの目には燃えているかのように映った。


 一枚一枚円盤を動かしていく。「もう寝なさい」と舎人医師に布団へ押し込まれた。だが、布団から抜け出して円盤を動かす作業を続ける。


 これは、因果を収束させる術具。天井越しに、屋根越しに、星辰が巡る様を感じた。これは因果を織る儀式、仕上げ以外は太古に済んでいる。仕上がりはすでに知っている。あの日に異界であった老人。


 ワタシが英雄を、救世主を、神を作り上げる。日の出を見ながら、確固たる勝算があった。神名は如何しよう応報(オウジムクイ)稲妻媛(イネツマヒメノ)(ミコト)-オウジムクイイネツマヒメノミコト。魂となる神霊の名である。



 帝都葛原邸。末盧より「準備が整った」と聞き借りた車で郊外の洋館に向かう。政商にして革命派の走狗にして売国奴。利平屋(としひらや)逐蔵(たくぞう)の秘密パーティが行われる。


「昔から不気味な所のあるやつだったが、今はお前が神か悪魔に見えるよ」

 末盧が洋館への道途中で投げかけた。

「ダウト。本当に神や悪魔に見えたのならそんな事言うかよ」

 いつも通りの軽口をたたき、これから人生を一転させよう。


 古今、鬼なり魔物なりマロウドなりが不意に現れるものだ。蛇眼黒点が現れてからその手の現象が増えて東も西も混乱。先帝の代に出来たのが『第二臣民法』である。後見人が付けばまつろわぬ民も第二臣民として身分保証される。


 一方で法の遵守や諸々の義務、国家や文化へ帰属が求められる。過度に逸脱する場合には後見人にも責任が発生する制度だ。


 そんな制度を背景にボロ儲けしたのが利平屋である。元は口入屋であったが、第二臣民法を利用して奴隷や債務者、前科者、クーリー、事情のわからぬ妖などの後見人となる。そして、雇う側と働く側の双方から悪辣な中抜きを行い巨財を得た。


 娼館、賭博、航運、報道、裏社会や政界にまで手を伸ばす裏のフィクサーである。利平屋に度々雇われる三味線弾きから裏宴の『合言葉』を聞きだした。末盧とワタシ葛原は利平屋の裏宴に潜入して、ヤツから全てを奪い取る。


 利平屋所有、郊外の豪邸。人気の少ない場所に隠れるように建てられたこの屋敷に二人乗りの人力車でやって来た。

「レオノレ」


 守衛に合言葉の文字列を告げて屋敷に、宴のさなかに入っていく。

 決闘裁判、ざっくりと言うなら今回の策である。


 第二臣民法、決闘諸法、統合裁判制度、臨時特例裁定、例外規定、簡易裁判法、破壊工作法、反社会法、機密法……。


 法や制度の抜け道を利用して悪どい商売をやっている相手にこっちも法や制度の抜け道を利用して叩き潰す。そして、金を毟り取り、被害者や困窮者にばらまく。


 金銭欲も自己顕示欲も満たせる上で意趣返しもできる。利平屋アンタのことは好きではないが、アンタは最高の貯金箱だ。何せ叩き割るのに罪悪感がわかない。


 おもむろにグラスタワーに注がれたシャンパンを手にとった。瓶のエンブレムは棺桶と三本足の牛と落ち葉。


 たしかケルンマルク皇国の老舗酒造、飲んだ事はないが良い逸品と聞く。西洋大戦の只中なのによくも入手できたものだ。


 利平屋の方向に盃を向け透かす。標的をのぞき観た後にグラスを飲み干した。このような、時なので実際の味以上に美味いと感じる。


 中央の目立つ場所で、音が響くように手を二度叩き進み出た。名乗り、突然の事に対する謝辞。そして本題。


「まず、このような場をいきなり壊す事になったことを謝罪します。法令上期限までに通達する必要がありますので……。


 帝国裁判所より『破壊工作法』および反社会法、社会機密法、労働法、国籍変更法、税務法等々の訴訟により裁判所よりの出頭命令。こちらは命令書。

 帝都裁判所より多重訴訟による処理と決闘申請の妥当性に決闘裁判が認可。こちらは認可証。

 都区裁判所より処理規定による決闘裁判の前倒しおよび複数人の助太刀の認可……」


あら不思議、遥か昔、共和制国家アウレウスで複数の役職を兼任にする事によるコンボで皇帝が誕生してソリドゥス帝国になった様に……。


複数の法令が並列処理され、それに従った結果。合法的に利平屋をぶっ殺して財産を奪える事ができるようになりました。と利平屋に説明してやる。


「バカなそんな! そんな無法が許される訳がない」

 理解できず否定する利平屋、ワタシは答えない。そうやって時間を浪費してくれた方が有利に進むので答えない。


「バカな……。ッ! グゥ……こ、殺せッ! コイツを殺せッ!!」


 その手の切り替えは流石だな。100人ほどの黒服やら荒くれ者やらが出てきた。利平屋の命令で撃たれた弾をワタシは横に飛んで回避して、襲いかかってきた斧手の黒服を刀で刺して次弾の盾に……。


 周囲に目を配ると隣で末盧が既に2人斬り捨てて、館のあらゆる門からこちらの私兵が雪崩れ込んで来る。


 形勢は決まったと、確信した。襲撃の事前準備をした上でワタシと末盧に意識を向けているタイミングで仕掛ける。鎧袖一触に利平屋の手下は蹴散らされた。


 利平屋はしぶとく、悪運強く、生存勘が鋭い。襲撃の直後に逃げ紙一重で屋敷から逃走。私兵による待ち伏せ、伏兵、牽制を使い誘導して追い詰めていく。近隣の寺に逃げ込んだと兵の一人が伝えに来た。蜜月にある寺、人風寺(じんふうじ)だそうだ。


 一刻も経ずにワタシ達は私兵を連れて寺を囲む。

放火かドタバタの事故か火の手が上がって僧達が逃げ落ちてきた。火勢が加速度的に広がる。


「放っておけ、無駄に兵を危険に晒すような首でもないだろう 。囲みは解かず救助だけしておけと伝えろ」


 兵達と共に焼け落ちる寺をただ眺めていた。東の空は少しだけ明るさが差している。逃げてきた僧から聞いた話ではここの寺の和尚は利平屋と懇意であった。だが、逃げてきた利平屋を刺すと寺に火をつけたのだとか……。


 仁風寺が焼け落ちると焼死体が見つかった。骨相から利平屋と和尚。経済に裏社会に一大王国を築いた男達の栄華に反して悲惨な最期であった。


 合法的に抗争が行われ、財産を奪えた今回の野外法廷闘争。尚翌日には、関連法が一時停止し1月後には改正されるとの事だ。


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