ep29:唯駆/共闘/残留思念.
和平による国土奪還がため、和多志達は東北を征く。凸泉を目指して半ば異界化した土地を護衛支援の大部隊と共に進む。
現在東北の詳細を知る者はおそらく誰もいない。この地で抵抗活動をしていた帝国兵なり、レジスタンスなり、地元住民なりを案内に行くしかない。
こっちで活動していた橋科左衛門殿やレジスタンスに顔が効く過城季節殿がいたならと、亡き者達を思った。
言うなればパッチワークの地図である。和多志の妖精眼でもごちゃごちゃし過ぎていて混乱した。ゲリラ的な抵抗をしてくる北方人民連邦の残存兵と異界の妖による襲撃。
「二字方向! 巨大妖! 5丈(150m)以上はあります!」
「対妖特攻弾。対巨大特攻外理弾撃ーーーッ!」
発射音がけたたましく響くがスライム型目標は未だ健在。
「ダメです!? 耐久があり過ぎて特攻弾でも削りきれません」
落雷を叩きつけて蒸発させた。
「こんな怪獣映画みたいなのがじゃかじゃか出てこられたらたまりません。人なんか住めませんよ。半年足らずでどうなっているんですか東北は?」
「思うに、北方人民連邦の術式による残留外理力がここらの妖と相性が良かったのでしょうね。空栗先生や鷹司少将が居ればもう少し詳しく考察してくるのですが」
後ろで造彦君と柾彦卿、ダブル葛原の会話を聞きながら雪原を抜け凸泉の町まで辿り着く。この戦争が起きてから反乱軍、帝国軍の入り乱れる乱立地帯にあってどうにか存続して来た都市である。
住民が遠巻きに我々を見ていた。
「今後が不安なのだろう。ここが円国になるか北方人民連邦になるか定かではない。そうさせない為に我らは今、北の風に吹かれている。胸を張っていてくれあの臣民達が見ている間、100の言葉よりも少しだけ不安を和らげてくれる。
旗を!」
津良悠君が大円帝国の国旗を恭しく手渡す。和多志は受け取るとおもむろに地面に刺した。パフォーマンスに過ぎないが、住民の感情が少し和らいでマシになったのを肌で感じた。
マシを、歩みを積み重ねて行くしかない。凸泉で護衛をしてくれていた部隊と乗ってきた地上戦艦と別れ、親衛隊単独で北へ、北へ。駆けた。
冷たい風と北の大地が流れるように過ぎゆき、愛馬と戦友達とが共にある……やや呼吸が早く、高揚感が湧き上がる。使命さえも忘れそうになる程、不意に叫び出したくなる程、心地よい孤独と快い賑やかさが今、この瞬間この空間に同居していた。
親衛隊だけの進軍は矢張り疾い。音の反響や包囲が不確かな妖精眼でも十全に信じられない地で彼らの事は信じられる。
駆けて小休止を繰り返し何度目か小休止の時、斥候が戻って来て報告した。
「北方人民連邦の大部隊と妖の大群が衝突中」
こちらに気づいていないなら無視して通り過ぎてもいい。どちらも味方では無いのだし、最北端到達が最優先事項だ。
「直に見たい。そこれ案内を頼む」
軽く駆けて、山岳の上から見下ろす。
霊的な戦士による群体と北方人民連邦軍が野戦を行っていた。
数万の北方人民連邦軍が数十万もの妖軍の圧力をいなしながら後退、人工的に雪崩を起こして足止めして反撃に移るも深追いはせずにある程度ところで相手が攻勢に出るのを待ちまたいなしながら後退を繰り返す。どんどん妖が湧き出てくるので倒しきれないようだ。
動きに覚えがある。かつて捕縛したウリエル元帥のそれだ。
「造彦くん軍使を頼む」
「はっ」
北方人民連邦軍が巧みに追撃を振り切り離脱した頃。一騎、北方人民連邦軍に向かわせた造彦君が条件をまとめて戻ってきた。取りまとめた条件は以下の通り。
・一時の共闘
・北方人民連邦は東北の地理情報を渡す
・大円帝国は北方人民連邦軍の東北からの撤収を許し、撤収の為の支援に関しても別途交渉を行う。
「メリットとしては、1に地理情報を更新できる事で任務が捗る。2に共闘による妖の間引き。こうも妖が跋扈しては復興も大変だ。3に北方人民連邦の残存戦力のうち中核になる部隊に穏便にお帰りいただける。
聞けば連邦軍は旧秋畠城跡を城塞にしているとかその城塞にウリエル元帥以下数万が立て篭もられて抵抗されてもその困る」
秋畠城は和多志の官位『蛮東城助』の蛮東城と同じく律令時代に方面軍の司令部だった要所だ。
さて一拍呼吸を置いて親衛隊の面々を見た後に説明を続ける
「デメリットは諸君らにも骨を折ってもらう」
「そう言えば人間は200以上骨があるそうです殿下のためなら100や1000、如何程のことでしょう」
そう発言する造彦君、周りもあんまり退いてない。忠誠心は嬉しいけど粉々になるよ死んじゃうよ怖いなぁ。
おおむね親衛隊の面々も同意したので北方人民連邦軍との共闘を行う。近隣の妖は異界化した霊山、恐怖嶽。そこを中心に活動しているようなので柾彦卿をその中枢に投入して調査解決させる。
外理が得手な者はそのサポート、残りの親衛隊は中枢まで追従しつつ護衛をする。北方人民連邦軍は牽制や誘導として我らをサポートしてくれる。
作戦期間中は互いに人質として人員を交換し、こちらからは造彦君を、向こうからは参謀を出した。
異界・霊峰・恐怖嶽。
何やら名状し難い気配に覆われ、渦巻くように山脈に覆われた天を衝かんばかりの切り立った山。写真やキネマでしか知らないが原型がない。
「これ、何者かが手を加えた異界ですね」
一目見て、柾彦卿は断言。
「残留外理力の影響でもここまで発展することは考えにくいし、何より方向性が意図するカタチに整い過ぎている」
「どうする?」
幕僚でもある第一臣下に問う。
「丁度星辰の位置も良いですし、折角なので主人の全力も見たいですな」
「実は考えていた必殺技の類があるんだ。後衛はいつも通り加狩乱弾中佐に頼む。」
和多志の内の女神、応報稲妻媛命-オウジムクイイネツマヒメノミコト-は農耕、戦争、裁きなどの権能を持つが元来は稲妻にして電。電気属性である。
電を伝と解釈しテレパスで敵味方周囲の知性にアクセス。深層心理まで入り込み、それを外理電磁波で擬似脳干渉し理想、憧れ、恐怖などが由来する幻を見せ、その幻を現実化。
星辰が合わず、合致しても出力を誤ればこの国ごと別の世界に転移しかねない。
味方にとっては理想の軍団、敵にとっては恐怖の軍団を虚実のいいとこ取り状態で世界に顕現させて命令または自動思考で動かす。虚現進軍-フーレギオンマーチ-。
(ーー和多志は恵と裁きをもたらす者
天より地に嫁いだ稲妻
愛し子と約束の地がために神風を
氷の時代を洗い流すための慈雨をーー)
すぅ。息吹を、酸素を、大気のフィフスを吸い込む。
「召集、勝てる(ウィル)!
続け(フォロー)、勝てる(ウィル)!
突撃、勝てる(ウィル)!
命じる開始せよ(レディオーダー)!!
和多志は唯一指揮官!!
虚現進軍!!!」
地平の果てから歓声を上げて様々な格好の人影が雪崩込んで来た。武命親王、越州の軍神、無尽王、三傑を率いた皇帝ら歴史上の英雄。漫画や映画や小説のキャラだったり、飛行艇や巨大ゴレームも……あ、版権的に危ないのもいる。
怨霊の軍勢を押し込んで行く。放物線や直線やもっと複雑な幾何学模様が宙に描かれる中、和多志は腕に小型ラジオを巻いて掲げる。
骨だけのティラノサウルスの頭に愛馬ごと乗っかりオウムがくれた片手バズーカーをぶっ放した。
ティラノサウルスの前に立ちはだかる巨大髑髏、季節さんが外理糸で動きを止め、橋科殿が大剣でぶん殴りバラバラにして道を開いてくれた。
嘘や幻でも構わない。それがボクらが未来へ進む理由になるから。
「殺せ、殺せ、殺せッ!
あの小僧を殺して、裏主席に添えているアレさえあれば全てが上手くいくのだ。
殺せ!」
親衛隊や虚現進軍と共に恐怖嶽に攻め登ると指揮とはとても言えない命令を発するバグロ・ワイバラジャーツ殿。
隊も召喚した軍勢も伝心で言葉を介さず意思疎通。光・音・振動など微細な外理的サインで連携。
突然出現する壁を雷撃で吹き飛ばし進む。和多志の妖精眼で伏兵、障害を潰し、続く前衛の騎馬隊を外理支援で障害物突破。後衛の歩兵・砲兵を加狩中佐が統制し牽制と補助要員の護衛をする。
後衛を切り離し更に速度を上げた。バグロへの距離は10丈(約300m)を切った。
「しぶといのもここまで行くと神域ですな。自分の精神情報を転写して残留思念として存続し、妖化して肉体を得る」
傍らで和多志と騎馬並走している柾彦卿が解説してくれた。
「死ね。お前さえいなければ全て上手くいくのだグッ!! …………」
蛇斬り丸の刃が伸びてバグロを突き刺し、蛇のようにしなると剣の姿に戻って和多志は鞘に収める。バグロは霧散し指揮官? を倒したことで組織的な抵抗はなくなり無力化は時間の問題だろう。
一刻の後、柾彦卿が異界に干渉して正常化し、虚現進軍を解除し我々は下山し北方人民連邦軍のところまで戻る。
「助かりましたよウリエル元帥。いい位置に誘導して固定していてくれたので戦いやすかったです」
「貴官とはもう戦いたく無いと改めてそう思った」
その夜。指揮官として友好的に杯を交わした。
翌日、まだ空が青暗い頃。ウリエル元帥ら北方人民連邦軍に見送られて我々は更に北を目指す。




