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ep28:怪人相喰む/戦火の佳人/愚か者橋科.

 話は克彦親王が最北端への征旅へたつ少し前に遡る。


ーーーバグロ・ワイバラジャーツ 観 蛇眼陽暦107年 陸の月ーーー


 円朝資本主義帝国が帝都に迫る中、目の前の元帥を見下ろす。

「では、今回の作戦に賛同できないと? ウリエル元帥。資本主義のもてなしは快適でしたか?」


 ウリエル・トウハチェフ元帥。祖国において北の軍神と持て囃されている男だ。


「英雄と持て囃されて増長しましたか? 軍人は命令に全力を尽くす者と理解していますが」


「軍事の専門家として今回の作戦に反対しているのですバグロ・ワイバラジャーツ特務大佐。敵軍の目の前で1人の標的に全兵力を投入するなんて、正気の作戦ではない。敵はそのような間抜けではない」


「肉壁ならいくらでもある。私は党指導部より権限を得ております。即ち私の命令は党の命令。カスティーナ・サン・ド・アンの木々は数が多いと聞きます」


  顎で左右の兵に摘み出せと命じる前に元帥は自ら退出した。

「報告! 総司令官殿、敵第一陣が接敵」

「時期にここに来るだろう。総司令官は代理の者が務めよ。私にはやる事があるのでな」


一刻後。


「まだだ。あの小僧を消せば全てカタが付く。私の最高傑作が運命を紡ぎ最終的な勝利を……」

 全ての予備司令部は潰されて、帝都陥落も秒読み、脱出の為に愛用の騎乗竜の向かっていた。


「グオオオ……」

 目の前の騎乗竜、痺れうだれていた。

「はじめまして、特務大佐殿。前々からお会いしたいと思っていましたが機会に恵まれず。


 こうして御ペットにスタンと視認不可とホーミング機能を付けた外理球(フィフス・スフィア)を少々……。ああ申し遅れましたワタシはーーー」


 指の上1cmで透明な外理球を弄び。硬いコンクリートの床を部下引き連れてカツカツとリズミカルに歩いてくる。

「葛原柾彦」

「おや。ワタシ意外と有名? ええしがない子爵家若隠居の中佐でございます」


 瞬間。因果操作。手元に複合式爆槍の存在する確率を上昇させて現実化。射出。


 爆炎に包まれ煙が晴れると現在の葛原柾彦。


 刹那。因果操作。手元に複合式爆槍の存在する確率を上昇させて現実化。迎撃だと!?


「貴殿とは同業(どうごう)者として一度話をしたかった。どうです北方人民連邦の彼。レディンと普段どんな話をしています?」


「愚にもつかない質問だな」

 そう吐き捨てると男はとたんに興味を失う。

「ああ、そうかそうか君は何にも分かってなかったのか。もういい。どうされます? 敵意反意を一切捨てて降伏されるのがオススメ」


 再び、因果操作。手元に複合式爆槍の存在する確率を上昇させて……!


 私の肉体が透明化していく、過去から現代へ続く時間的な連続。その繋がりを遮って私を消滅させている?

 

この男、世紀の否、人類史、宇宙史でも突出した外理の使い手!


 呪縛の解けた騎乗竜が葛原柾彦に襲いかかるが葛原柾彦の部下たちによる機関銃で蜂の巣にされて生き絶える。


 それが消えていく意識の中で見た最後の光景だった。


ーーー葛原造彦 観 蛇眼陽暦107年陸の月ーーー


 帝都の街並みを行く。少し前まで大ぶりの円メガネをかけた女優の広告やら白味がかった惚けた青のトタン屋根の工場から出てくる機械ゴーレムやらが見られた場所。


 外理式の末端を片手で弄り、片手でアイスクリームワッフルを食べると羽織袴の女学生なども見られたが今では瓦礫ばかりである。


「中尉殿。あちらの方はあまり壊れてませんね」

 後ろ手錠を意に会する事なく振る舞う黒髪で件の広告と同じ大ぶりの円メガネの女。


 最高に扱いの困る容疑者。過城季節にとっては手錠などシルバーアクセサリーのような物なのだろう。


「申し訳ない。帝都を再び歩けると思ったらはしゃいでしまってお恥ずかしい」

「そう思われるのなら少しは慎みを持っていただきたい。この平民女」

 最後だけは小声で言う。


 過城季節、親衛隊とも交流がある自警団鉄冑蓮の総帥にして今戦争の勲功者。彼女の組織が帝都に留まった盤条帝陛下を守り保護していた。


 そして、降伏する北方人民連邦の党幹部や連邦を引き入れに関わった円国人の政治家官僚財界人を殺害した虐殺者。


 橋にかかった赤い手すりに腰掛けて下駄の足をぶらぶらさせる姿は市井の娘の様にしか思えない。


「ごめんなさいね。君も皆んなと遊びたかったのに付き合わせちゃって揚げパン好き? ご馳走します」

「陛下からご意向も、殿下からのご命令もお前に最大限便宜をはかってやれとの事だ。貴様ほど扱いに困る犯罪者もそうそう居まい」


 最大限便宜をはかるための人選が僕、葛原造彦という訳だ。

「現場検証後なのに本当に自由だな貴様ほらもう散歩は終わりだ帰るぞ」


女は俯き、黒髪が白肌を横に撫でる。

「帰らない。戦争中は随分と無茶な外理の使い方をしました私はもう長くはない」

「……何! そんな事検査では? 秘匿か!?」


 女は座っている後ろ向きに倒れボシャン。純田の川に落ちた。


「おい、そこの警察。医者だクソ」

 まだ、水の冷たい川へ飛び込み、彼女のもとへ向かう。

「造彦くん。まだ寒いのに水遊びなんかして風邪をひいてしまいますよ」

「何言っているこの女!」

「最後に桜が見たいと思うも諦めてましたが叶いましたきれい……」


「…………ああ季節外れだが野趣があるな」

 僕は見えない桜に向かいそう呟く。すると彼女はすでに事切れていました。享年26だったそうです。


ーーー笹田六門 観 蛇眼陽暦107年如の月ーーー


 殿下に呼ばれ野営の司令部まで来た。

「柾彦卿への寄騎ですか?」


 柾彦卿は今、反乱を起こしているかつての仲間橋科殿の相手をしている。嫁の世話などもしてもらい多大な恩もありあまり言いたくないがイマイチ苦手な人だ。よくわからん。


「それと橋科殿への最後通告だ。匿っている逃亡者の引き渡しに応じれば謹慎ですませる。これ以上は和多志も庇えない」


「良いのですか? 軍使なんてしたことないですよ」

「橋科卿が言葉なんて聞かないだろ。敵だろうと罪人だろうと友誼を結んだ相手の窮地だと言って断る。


 彼は親衛隊の武術師範をしてたから和多志も含めて門弟と言えなくもない。弟子が訪ねて来たら会ってはくれる」

 うわぁ言いそう。

「しかし、柾彦卿が意外にも苦戦してますね。斜め上の方法や出力はあれどなんでも出来る人だと思ってました。こないだ負けたとか噂が……」


「ああ、あの人。戦場での指揮とか采配とか苦手なんだ。大体は戦略と個人技能で解決できるから後、兵に情が移って判断が鈍るタイプ、末盧さんが言ってた」

「おい、なんで討伐なんてさせてんだよ! そんな人に」


「これまでは前後左右上下に計画がズレる事はあっても大体予想の範囲内。けど今回は違ってだいぶ動揺している。


戦争の後も柾彦卿にこの状態が続くと弊害が大きい。だから多少犠牲が出ても柾彦卿に解決させる……。降伏なんて万に1もないから確定判定も意味がない。そんな目が無いんだもん。


 お願いだから兵達を助けてよ、ボクを助けてよ。帝国北部早期奪還の為の再編があるからボクは動けない」


「狡りーよ。克坊そうやってボクって一人称で頼むのは、しゃーない少し行ってくる」

 昔の呼び名で返す事で承知したと言外に伝えて反乱が起きている群州へ向かった。


「お前のオカン、お前の反乱聞いて自害したとさ。親を死なせた気分はどうだね忘八野郎。おら、出てこい!」


 橋科卿の陣に向かい非道い挑発をする柾彦卿を俺は見た。何ヶ所か包帯を巻いている。横で末盧さんが「難儀な魂で根の一部はチンピラなのです」とフォローなのか追撃なのかわからない説明をしてくれた。


 包帯は橋科さんが出て来た時に槍を創成して一騎討ちして怪我したそうだ。その後葛原家の従士長が助太刀に入り押し返して撃退したそうだが……馬鹿なのかこの人、武術と外理との戦闘は近接試合においては外理の相性が悪い。


単純に純粋な戦闘技能である武術と他の目的から戦闘に派生した外理術。あと武術に比べて発動まで一手遅れるこの差異が達人クラス同士だと大きな壁になる。


 純戦闘用の外理術か外理を取り入れた武術なら別だが……克彦親王、柾彦卿はもうダメかも知れません。捨て扶持与えて放っておきましょう。


「ちょっと、どいてくださいね軍使として言伝だけするんで」


 気を取り直して橋科さんの陣へと向かった。外人や邦人。彼を慕う者たちが集い戦意は充分手強そうだ。


「敵だろうと罪人だろうと友誼を結んだ相手の窮地を捨ておけない」

一字一句予想していた言葉を返されると、橋科殿を見つめ返ししばし沈黙。用は済んだとばかりに陣を後にした。


 柾彦卿の陣に戻ると柾彦卿は一転落ち着いている。いいや落ち着いているというより沈んでいた。

「彼の事そんなに嫌いではなかったよ。

割と知性や理性があり多少なれど敬意も持っていた。だからこそ今生許せそうにない」


 何となくだが、今回の戦いのシナリオが見えた。

橋科殿の乱は遅かれ早かれ鎮圧される。円国としては長引かせるわけにはいかない。戦友同士の阿吽の呼吸。両者の落とし所。この度は悲しい場所で発揮されることになる。


 翌日、突撃してきた橋科殿の軍勢が柾彦卿の軍勢とぶつかる。

 そこに、援軍として連れて来た1個大隊、可及的速やかな国土奪還作戦の為に動かせるのはこれが精一杯。

 そいつを率い突出して来た橋科殿を横合いから殴りつける。


 収納外理術でしまっていた木刀を展開、ホーミングで飛ばして動線を潰すと同時に牽制。橋科殿にタックルして強化した拳で吹っ飛ばした。


 その後もダメージを引きずりながら橋科殿は奮戦する。だが遂に力尽きて討ち死。橋科山左衛門の乱はこうして幕を閉じる事になる。


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