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ep25:軍議/演説/進軍.

ーーー文弘厩克彦 観 106年師の月より107年睦の月ーーー


 蛇眼陽暦106年師の月10日、反乱軍改めて東円共和国との停戦がなされた。一部捕虜交換交渉が難航し合意できない将兵もいたがウリエル元帥を筆頭に反乱軍側の捕虜は帰還していく。


 さて、まとめるなら現在帝国軍は乾坤一擲の一大決戦を行うべく、北部戦線と東部戦線から戦力を抽出し北西前線、西部前線に再配置を進めている。


 冬季による積雪により、北部戦線と東部戦線は活動が困難であり守る兵力は最小限で済む。そのことで生じた余剰兵力を北西前線、西部前線に再配置した上で帝都へ進撃。次いで海軍も平洋より帝都に向い主攻となる陸軍を支援する。更には北、東に伏せたレジスタンスのスリーパー部隊群も伏兵として帝都へ。全方位による帝都奪還作戦。それが初日の(ファースト・サンライズ)作戦である。


 この度、双方が決戦を行う事を暗黙に了解したのはこれ以上戦えるかわからない帝国とこれ以上負けられない北方人民連邦というそれぞれの事情に起因する。


 まず、帝国軍、単純にガタガタだ。そもそも現帝国軍は震災後のクーデターで一度瓦解した軍がレジスタンスや私兵を取り込み再結合した状態のキメラ軍隊なので様々な歪を内包している。


 一例を上げると旧帝国とはだいぶ軍制が違う。旧帝国の場合。仮に兵員が3万の部隊を運用する場合。旧帝国軍では大将が司令官として監督しその下に中将が率いる兵員が1万の師団が3個配置される。


 一方、現帝国軍は。適当な大将が居ないので、少将が司令官として監督しつつ麾下の一個旅団5000を率いる。

 その下に大佐なり中佐なり少佐なりが配置されて兵員2000の連隊、兵員500の大隊、兵員200の中隊、数まちまちなレジスタンスや各国の義勇兵などなどを率いて合計兵員が3万の部隊として運用される。近代軍制は震災で死んだ。これ以上戦えるかわからない、いつまで戦えるかわからない状態である。



 一方で北方人民連邦は四面楚歌であった。阿能外務大臣、モイタリア姫らの外交努力と現状トップの脅威である北方人民連邦を抑えたいでポンド・ドールをはじめとする列強各国の思惑の一致。


 主要国からの支援物資、義援金、義勇兵、北方人民連邦への非難声明。更に北方人民連邦の周辺国は北方人民連邦国境へ軍を集結させて圧力を加える。

 国内においても、兵士たちの恐怖や厭戦気運が高まり、これ以上負け続けたら崩壊する可能性が出てきた状態である。


「ミリタリーポンチョの新調をするフード部分を大きくして吉祥紋も付けて、後は(コウガイ)も用意しておいてくれ」

 交告城塞の執務室。備品の補充を担当している悠君に装備の追加を注文している。

「ポンチョの新調は分かりますが、笄ですか? どの様な方にお贈りに?」

「和多志がする。やはりおかしいか」

「殿下ならお似合いになるかと、職人を呼んでオーダーメイドされるのはいかがでしょうか。お忙しいなカタログを用意する事もできます」

「ではのちほど職人を呼んでくれ」


「洒落た……碁盤ですね……」

悠君の視線が旧都の館飛行艇から譲ってもらった碁盤に注がれる。

「気に入った。と言うよりも惹きつけられたから無理に譲って貰った」

 白い石をおもむろに掴むとパチンッと碁盤の上に置く、さあ勝負と行こう。碁盤の向こうに見えるそこに居ない好敵手へ告げた。


 蛇眼陽暦107年、陸の月もすでに下旬。交告城塞。聖誕祭(クロスミサ)の時期に停戦解除することを北方人民連邦側が渋り、今度は年末年始の時期に停戦解除することを円国側が渋った。


 その後互いに再び準備して適当なタイミングを見計らった結果、この時期まで停戦解除がずれ込んでしまった。


「計画通りですよ。見てください反乱軍を隊列は整っていますが士気はダレています」


 自信満々と言った面持ちで曰うは柾彦卿。報告書を掲げながら卓上、駒が置かれた地図を卑猥な手つきで撫で回している。


「それは此方もでは? 初日の出と共に攻め込むぞうおおおくらいの勢いだったじゃん計画始めは」

「問題ありません。ロイヤル性カンフル剤が駆け回る頃にははち切れんばかりなりますから」


 人を変なふうに例えないで欲しい。

「柾彦卿。今回の作戦概要の説明を頼みます」

 駄弁っていたら、牛隅幕僚長から説明を指示されて柾彦卿は咳払いをした後、語り始めた。


「本ファーストサンライズ作戦、暗号名暁一号は帝都奪還を目的とする最重要作戦と位置付けられます。

 目的としては包囲、帝都防衛機能の突破による帝都反乱軍の無力化。ここまではよろしいですか?」


 居並ぶ面々は肯定の沈黙。その空気を一拍吸って柾彦卿はつづける。


「東海、中山両方面から正規軍や海外義勇軍を主とする陸上部隊。帝都郊外に潜伏しているレジスタンスを主とする伏兵部隊。


 帝都湾から戦艦8隻、巡洋艦8隻、空母8隻、飛行艦8隻を中核とする海上部隊。また北海諸州にて転移要塞を敵補給拠点である五曜要塞にぶつけて後方撹乱工作も同時に行います」


 更に説明は続く。


「各部隊の詳細は……陸上部隊の統括に軒坂(のきさか)退役元帥。東海方面の総指揮官に遠智谷少将。


 中山方面の総指揮官には殿下が、副将であった鷹司少将が転移要塞による後方撹乱工作の為に離れますが代わりに萩山退役大将が補佐をされます。


 海上部隊の統括及び総指揮は絶旗(ぜっき)退役元帥。伏兵部隊の総指揮過城季節准将、補佐兼監軍として有明(ありあけ)退役大将となります」


「円海海戦で勝った絶旗元帥、ルブルの要塞を攻略した四八坂元帥、騎兵の雄萩山大将、後方撹乱のスパイマスター有明大将。


マドカルブル戦争で活躍した将軍達が勢揃い。豪華だね。けどブランクは大丈夫なの?」


「ご心配なく将軍達は帝国興亡の一戦にて神輿として最後のご奉公をする所存。


 陸上部隊には虎山、今均、栗森、繁崎ら海上部隊には語呂山、多聞寺、角覚らの指揮向きの新鋭将校が実務を担当いたします。


 まさに新旧帝国軍オールスター今帝国が出せる最大最高の陣容です!」


 何度も確認と理解の為に交わした軍議だがこの場の指揮官幕僚全員が息を飲んだ。


 同蛇眼陽暦107年。交告城塞。外理術で伸ばした髪を(かんざし)(こうがい)で結うと貝殻容器の紅を唇にさし、新調した白いリミタリーポンチョに袖を通す。花嫁装束を思わせる軍装。


 古において武命親王(たけのみことしんのう)が鎮西の敵を倒した故事に習った必勝祈願の儀礼は表向き。


 和多志の中の女神と親和性を高める為の儀式。奉納の舞を踊り集まった中山方面軍への演説を今、和多志は行う。


「諸君らは怒るかもしれないがこれより大敵と対するからには恐れずあえて今言おう。今日この日を迎えられてよかった。


 個々の思い。個々の事情があれど今この場にいて帝都を取り返す戦いに参加する諸君は皆勇者であり、和多志は諸君ら勇者達を誇りに思う。共に戦える事を誇りに思う。諸君らに加護を、祝福を、恩寵を褒賞を……。


(中略)

(ーー和多志は恵と裁きをもたらす者

天より地に嫁いだ稲妻


愛し子と約束の地がために神風を

氷の時代を洗い流すための慈雨をーー)


 よーし! わかった。取り戻そう。国を、日常を、あの日の続きを、明日を! 和多志に続け勝てる勝てる勝てると3回復唱。勝てる勝てる勝てる」

「「「勝てる勝てる勝てるうおおおおお!!!」」」

「先鋒は我らだ進軍ー!!」


 蛇眼陽暦107年陸の月21日、帝都奪還作戦、ファースト・サンライズ始動。


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