ep24:牛隅/六門/綿平.
ーーー牛隅重二郎 観 蛇眼陽暦106年師の月ーーー
紙に埋もれて目を覚ますのはこれで何度目だろうか? 懐中時計を手に取り寝ていた時間を見る。一刻ほどか、体調、タスク、睡眠時間とパフォーマンスの比率、残り時間などから計画を再構成。
各地から寄せられる意見書、報告書、提案書を読む、読む、読む。時に返信、読む、読む。
牛隅重二郎の祖先には異界人がおり、血の相性故に腕に麻痺がある。腕に麻痺がある故に悪筆であり、悪筆であるが故に官としての道は断たれていた。
手習を教えていた市井の子供が奇しくも皇子であった。そのまま家庭教師の1人として教え続け、親衛隊が設立されると相談役から隊の幕僚長に推薦される。
軍略にはそれなりに通じていたと思う。一廉の軍師ができると。101年に行われた無尽王への奉納のための演習。現東円共和国総裁である与根淵当時大佐に勝ち逃げする策にて、それは確信にかわる。
だが、この戦争が近づいてからは少し揺らいだ。戦場という間の向こう。姿が見えない打ち手。自分よりも遥かに上、上には上がいた。
歳若く、北方人民連邦という国家の中枢、教え子であった殿下に近い何か、何者? 否、何者であろうとどうでも良い。
自分は殿下のあの子の幕僚として彼を上回らねばならない。そんな決意を他所にあの子は、自分と違い字が綺麗だったあの子は勝ち続けた。戦争は帝国の優先の内に進む。
「先生、また。文書の山で寝落ちするまで読み耽ったのですか? 幕僚長の査読量は異常です死んじゃいますよ」
内弟子のバフエル君が叱りに来た。人に教える事でより軍学軍略を深めようと思って内弟子にしたが彼女は優秀でその点ではアテが外れた。今ではこの北西前線司令部の幕僚であるが自分の秘書のように働いてくれているのが申し訳ない。
「返信や大本営への意見書を取りまとめた。清書して出しておいてくれ。あと珈琲も頼む。
死なないさ。殿下のスタッフから過労死を出す訳にはいかない。それにもう直ぐ戦争は終わる。それまでは死なないさ。我が軍には百万の軍師がいる」
自分は戦場の向こうにいる巨大な知性に敵わないをされど我らは勝ち続けている。
「百万の軍師?」
「千里の馬はどの時代でもいるが見出す人はいつも居るとは限らない。それは賢者や才能についても同じ事を言えるのではないだろうか」
痺れてきた脳を休めるために少し雑談を挟もう。
「同意です」
少し首を傾げた後バフエル君は頷く。
「下は兵卒や臣民、上は参謀、学者果ては陛下まで皆で考え、感じ、気付いた事をまとめて我らは戦っている。
自分の役割はその無数の声を拾い上げる事、評価してやる事、届けてやる事、組み上げてやる事だと自認している。機械や人工精霊が解析できでもそれを組み上げるのは人なんだよ」
百万の悟性、百万の感性。見返す紙束の山を異常な査読量か自分は何故だろうか? 心配するのをやめて集合知を愛する様になったのだろうか。
雑談を切り上げると再び紙の山に向かい合った。
ーーー笹田六門 観 蛇眼陽暦106年師の月ーーー
慌ただしく、働く人を見下ろしながら俺は手持ち無沙汰にしていた。言伝にきたらしばらく待って欲しいとの事である。
「思えば遠くまで来た物だ」
漏れ出た呟き。故郷の下町より足にもよるが1日で付く位置。なんなら、留学で西洋に行った時の方が遥かに距離が長い。しかしそれでも遠くまで来たと感じられた。
確か親友であり主君とあったのが10年余り前。
「お゛どゔざーん゛、お゛がーざーん゛、お゛ね゛ぇじゃあ゛ん゛ッッ!! あ゛あ゛あ゛ーーッ!!!」
そう、祭りの出店通りにすさまじく泣いている女の子が居た。迷子だろうと一緒に親を探してやり、お礼に後日飯を食わせてもらい。近所だったのでよく遊ぶようになった。後、女の子だと思っていたら男の子だったがまあ些細なことである。
「待ってよー六門くん」
と俺の後ろをてくてく付いてくるチビがいつの間にやら皇子様になって俺らを率いて駆けているのだからわからない物だ。
少年心にいつも子犬のようについて来ていた弟分が遠くへ行ってしまって、仲間内で舎弟扱いしてたからそのうち逮捕されるんじゃないか? って乾いた笑いを交わす。
どうにも気になるので離宮まで様子を見に来たら親衛隊候補である兵士に絡まれて喧嘩になり、相手を〆たらなし崩し的に親衛隊入りした。
まあ、また前のように会えるからいいかとそのまま親衛隊隊におさまる。ただ、陶土での演習で暴動が起こり初めて人を殺した時は少し応えた。
戦いの後吐き出して、克坊いや殿下がフランの料理だとか言うペース固めたヤツやら何やらを作っていて食べるかきいてくる守った邦人や救援に来た部隊が色々と食材を融通して貰えたらしい。
不満なんだろうな。渡された水で口を濯いだ後に頑張って試しに一口。香りがよく、味はよくわからないが酷い精神状態でも食える物だ。喪失した物が補われる感覚がある。
その後も学園やポンド・ドールについて行ったりと色々あって気がつけば子犬のように俺について来ていたアイツが俺らを率いて駆けて回っている。
こと初めの呟きに尽きる
「思えば遠くまで来たものだ」
友にして主君について来てここまで来てしまった。事務方から名前が呼ばれたので追憶を切り上げてそっちに行く。
ーーー伴乃綿平 観 蛇眼陽暦90年ーーー
16年前の事、店先に赤ん坊が放置されているのを妻が見つけた。薄い布に巻かれ男の子だ。
警察やら役所やらに相談して探してもらったが親も里親も見つからない。
「あーうー」
「あーよしよし。お父さんとお母さんどこにいるんだろうね」
試作品の料理を試食していると明日、孤児院に預ける予定の赤ちゃんがぐずり出したのであやす。
「ねーあなた……」
妻がミルクを持って来ながら話を切り出してきた。
「この子、私や恵穂ちゃんと似ているね。もしかしたら親戚なんじゃないかな」
「クスクス キャッキャ」
「へへへ」
4歳の娘が指を赤ちゃんに握らせて遊んでいる。
「俺も孤児院に入れるよりも引き取ろうと思っている」
「うん。名前なんにしよっか」
「あ、かっちゃんがいい」
試作のチーズカツレツをつまみ食いしながら娘が感性で名前を決めた。
「かっちゃんか。かつ……克……克平」
「なんかこの子ちょっと高貴な感じがするし少し変えて克彦はどうかな?」
克彦。妻のアイデアに赤ちゃんも含めてみんなしっくりと来たようなので息子の名前はこうして決まった。
この子が皇子になり16年後の今、軍を率いて戦場に向かうなんて思いもしなかった。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
少しずつですがPVも伸びてきていて、読んでくださっている方がいるのが本当に励みになります。
克彦がここまでお父さんっ子になった何割かは、作者が『ゲゲゲの謎』と『タフ』を見た影響です。
本編は2/1に完結予定ですが、完結後も外伝や資料などを投稿して掘り下げていくつもりです。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。
(2026.1.27)




