ep23:暗殺計画/対局/決戦は年明け.
不穏な気配、そう思っていた矢先。視覚、嗅覚、聴覚、空気に対する触覚と味覚、外理レーダーで形成される感覚の円に掠るように引っかかる影が動いた。
立ち上がり2000貨を机に置くと和多志は即座に店を出て周囲を見回す。感覚を頼りに方向を定め、走る、目視、居た。三つ編みメガネの女学生。
近くの警官にテレパスを送り職務質問を依頼。すぐに証拠が出てきて、翔円帝暗殺計画の一部が見つかった。
・翔円帝の暗殺が予定されている事
・毒物を用いる予定
情報管理の一環か彼女はこれ以上の情報は持っていなかった。内務を司る園生大臣に電信を行い。警官への箝口令と女学生の逮捕をしてもらった。
その後、園生女史から直接話がしたいと彼女の尚書府へ赴く。園生女史は豊満で柔らかそうな印象を受けるメガネでオレンジ色の癖毛を伸ばしている年齢はよくわからないけど綺麗な人で優秀だと聞いています。
通された部屋には土偶のようなゴーグルをかけた彼女が!?
「お久しぶりです。殿下」
「新しい魔導具か何かですか閣下」
「ええ、手を使わずに事務仕事が出来て一部ルーチンワークは代行可能。導入予定の試作品です」
遮光器型ゴーグルを外すと園生さんは、諧謔っぽく微笑む。相変わらず可愛いらしいミセスである。
お茶を出され、ソファーにて対面。暗殺計画に対しての話がされた。
「アナタに疑われるよりも、事実を話して理解してもらおうと思ってね。まず約束してください。最後まで話聞く事、武器を向けない事。ワタクシか弱い淑女ですので」
「わかりました」
園生さんが悪い顔をして微笑み、和多志に告げる。
「今回の黒幕はワタクシです」
何か企みがあるのは察していました。それにしてもあまりにも唐突。風情がない。早くて助かりますけど……。
「順を追って説明しましょう。とっその前に……」
園生さんが手錠を取り出して和多志の隣に座ると互いの手を手錠で繋ぎ、和多志に体を預けてきた。
「ワタクシは逃げる気はありません。最後まで話を聞いていただく誠意として」
「何から話しましょう。我が国は戦争をする前に負ける筈でした。官僚機構、学閥、財界、メディアなど様々な国内勢力が革命派や新北方人民連邦に侵食されて戦わずに負ける所でした。いわゆる超限戦というものです。
超限戦の中心人物を排除して、北方人民連邦側に物理的な侵略へ以降させ、震災後の帝都を放棄する。その事で侵食された国内勢力をパージしてようやく我が国は戦争という土壌にたてました。ここまではよろしいですか?」
「否はないよ」
以前に柾彦卿に聞かされた話だ。前提はいいと続きを促す。
「今回は言わばこれまでのデトックスの最終段階。旧都政権設立時に外せなかったり取り逃した『侵食された国内勢力』へ踏み絵を踏ませた上で炙り出して潰す。国内における頂上決戦なのです」
「そうですか。そこで和多志に勝手に動かれて統制を見出して欲しくない。あるいは協力して欲しいから和多志に話を持ちかけたと」
わからなくは無いよ。そういうのも必要なんだろう。けど一つだけ問わねばならない事がある。
「この話は陛下には?」
「『お耳にはされました』『反対』はされませんでした」
内諾という事か、ならば臣には言うことはない。
「折角なので殿下にはコレをご覧いただきたい。伊ヶ屋君アレを」
伊ヶ屋君と呼ばれた若い官吏が持ってきたのは二つのリスト。手にとって中身を見る。
一つは知っている官僚の名前が半分ほど、もう一つは知らない名前も多いが知っている名前から在野の者で一つ目のリストよりも人数が倍ほどいる。
「片方はブラックリストですか?」
「ええ。彼らは自分達が居ないと戦争を続けられないと高を括っています。しかし彼らが居たのでは戦争に勝てません。
ようやく、パージして代行が務まるだけの質量が揃いました。これで超限戦に負けていた状態から脱却できます。殿下のお陰です」
聞けば北方人民連邦の介入など不確定要素があり、和多志が捕まえた女学生やその一派は主たる不確定要素だったらしい。
「流石は幸運の皇子様、共産主義のような空論でも奇跡の連続で回せる運命力。今回は確たる成功が必須。その為に柾彦卿からお借りさせていただきました」
ああ。また柾彦卿の悪巧みだな。絵面が見えた。
「それで、和多志は何をすれば良いのですか。神棚にでも座っていたらいいですか?」
「ご自由にしていてください。事の顛末さえ見守っていてくだされば、後は此方で終わらせます」
「それだけで和多志にもそれなりに影響力なり、政治力なり、指揮能力なりあるつもりですよ」
「あらぁ、では甘えてしまいましょう。聞けば殿下の御霊は神格の物で女神だとか?」
蛇眼陽暦106年霜の月、21日旧都宵、館飛行艇。
「わははは。まさか伴乃の坊を舞妓にして酌をさせる日がくるとはな」
上機嫌で舞妓コスプレさせられた和多志の肩を抱く、チビハゲ俗物おじさんこと土嚢和達現民生大臣。実は偶に店に来ていたので平民時代から知っている。
「楽しいですか? 下手したら不敬罪で逮捕されちゃいますよ」
申告する気はありませんけど。
「おう。洒落たものだ、昔みたいにお小遣いやろうか?」
「いらない」
肩に抱き寄せながら、札束を出してみせた。ああこの先生今日はハメ外すモードだ。
「ま、戯れが過ぎた。男として普段過ごす事はお前さんにとってはブレーキらしい」
土嚢さんがお猪口にオレンジジュースを和多志に差し出してくれたので受け取って口をつける。
「ワシと一緒なら精々『せくしゃるはらすめんと』以上はさらんだろうし、折角の一大騒ぎだ特等席で見物しよう。
しかしだな。柾彦卿もエグい事をする女神の魂を少年の身体に入れるとは、こうして格好を整えればそれらしい」
セクハラはするんですか。
「ジロジロ見ないでくださいよ。内側の神魂が励起しすぎると国ごと異次元に落ちる可能性もあるそうです」
「ふん。この程度にしておくか。中身女神で肉体が少年そうする事でそう言った神の力、円国周辺の異界化、転移を抑えていると聞いたが、うーむいかせん外理はそう詳しくは無い。お、始まったな」
土嚢さんが帷を開くとサイレンやワーワーといった遠い声、炎や照明の光。空の上からでも騒ぎになっているのがわかる。四半刻ほど街並みを見ているが掃討は順調に進んでいるらしい。
「思っていたほど面白く無いな。手筈通りで何よりだが興が覚めた」
退屈だったのか土嚢さんは帷を閉めてしまう。
「別の興をしよう。碁盤をもってこい」
文字通りお大尽様である土嚢さんの我儘で座敷に碁盤と石が運び込まれた。
「わぁ、黒い石製の盤に白と赤の石洒落た道具ですね」
「囲碁の嗜みは」
「嗜み程度。座敷芸は真似事くらいしかできませんよ和多志は」
「何、素人の芸なんて求めてない。お前1人で打てよ。ワシは酒が入り過ぎた故見ている」
脇息、平安期の貴族なんかが使っている肘掛けに肘を置いて、このおじさん見物する気満々であった。
「楽しいのですか? それ」
「楽しませるんだよ。何時もやっている事だろ?
上からの命令無茶振りをこなしつつ、楽しい戦争をしてみせる。今回は座興だ気楽にやれば良い」
渋々と石を置いていく。仮想の相手を誰にしたものか。ある人物が浮かんだからその人物にした。
石を置く、石を置く、石を置く。局面は序盤。
「この戦争かえ?」
「そう見えますか?」
「半分は山勘。半分は率直な感想だ」
石を置く、石を置く、石を置く。局面は中盤。
「戦局はだいたい今くらいか。お前相手の打ち手を知っているな」
「以前一目見て態々会いに行きました。話した事はありません」
「よく知っているな。互いに」
「さて、向こうはどうでしょう」
碁盤の向こうに裏主席レディンが見える。見えてか見えずか土嚢さんも見えているかの様に対局を眺めている。国境を空を隔てていつも打ち合っている相手。
石を置く、石を置く、石を置く。局面は終盤。手が止まる。相手がどう打つのかわからなくなった。
「もうよい。なかなか楽しめたワシはもう寝る。殿下も夜更かしは程々にされよ」
手に詰まっていると土嚢さんがそうそう座敷を出て寝室まで行ってしまった。和多志ももう寝るとするか。
蛇眼陽暦106年霜の月22日。旧都旧宮廷。
陛下から文武百官の前では勲章やら由緒ある守り刀やらを下賜された。陛下と2人の場では危ない戦い方をするなと強めに叱られる。腹違いとはいえそれなりに仲の良い兄弟だと思う。いずれもう少し時間を取りたい。
会談の後、停戦を挟んだのちに勝負に出るつもりだと侍従から内々に伝えられる。表向きは捕虜交換のため、本音は帝国軍と反乱軍の決戦準備のため…………多少でも準備したいのでと予定を切り上げ、周りに挨拶をして交告城塞へ向う車を出させた。
念写式の通信、停戦の合意とファースト・サンライズ作戦とライジング作戦。知らされたのは交告城塞への帰り道の事である。




