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ep21:包囲/元服/養父の諫言.

 蛇眼陽暦106年の長の月は、北方人民連邦が帝都震災に乗じて円国蛮東の地に傀儡政権を樹立させる。西部の帝国残存勢力の駆逐を試みるも帝国軍の残党に筺関を防衛され、帝都周辺で発生した会戦で一敗地に塗れるなどした。


 結果、翔円帝が旧都で仮即位。盤条帝帰還後の復位と売国反乱軍とそれを傀儡とする侵略者からの国土奪還を主張する。そして、帝都を囲むように周囲に前線が形成された。


 旧都から見て東、帝都から見て西の東海道上にある筺関・西部前線。大軍を通過させたい反乱軍による帝都を側からの攻撃が断続的に続くが要害筺関にて『不落遠智谷(おちずのおちや)』少将が一歩も引かず守る。


 筺関から北へ。甲辛国際学園を譲り受けて改築した交告城塞(こうけつじょうさい)を司令部とする北西前線。筺関・西部前線が盾ならば此方は剣。牽制や妨害、他前線への支援を目的として度々出撃、反乱軍に出血損耗を強いる役割を果たしている。ダメージソースとしての前線。


 一方で帝都から見て北、北陸道の北部前線では数で劣る帝国軍が押されていた。一度軍も帝国も実質的に瓦解した指揮系統の混乱。レジスタンスとのなし崩し的な共闘連携。


 正規非正規なエース達の活躍。北西前線の支援。それらによってじわじわと後退しながら何とか善戦し延命して前線を保っている。他前線では複雑怪奇な異常事態なのだから此方の前線はむしろ自然である。


 最後に分断された帝国北部で残された帝国軍や生えて来たレジスタンスが抵抗している東部前線では殊更奇妙な状況になっていた。


 臣民や部隊への被害を出したくない帝国。帝都の部隊への補給線を維持したい反乱軍。双方の事情によりある程度補給の通過を見逃す事への実質的同意。


 散発的な談合戦に終始した互いの妥協と絶妙なバランスの結果成立した八百長戦争をしている。この前線で活躍しているのが、橋科殿であり武勇と豪放磊落、腹を割った交渉、この前線状況の成立維持に一役買っていた。矛盾した表現になるが平和な戦争が続いている。


 口の悪い隊員など「東北、あそこ戦国期も談合戦ばかりしてませんでしたか?」と言っている。かくして筺関攻防戦、群州会戦、帝都郊外野戦以降の戦況はこのような感じで進行し長の月を終える。


 蛇眼陽暦106年神の月。平時なら中原諸州の曇州にて大儀礼に参加しているが国家興亡分ける危機存亡の秋にそんな事をしている訳にもいかない。


 皇太子殿下改め今上の翔円帝陛下は帝国健在を示す為に儀礼を行うが和多志は元従兄であり、今は伴乃子爵家に養子入りした和津平兄さんを名代として送った。


 一方で甲辛国際学園、現、交告城塞。

「文弘厩克彦殿、貴官を中佐に任命したします」

「謹んでお受けします」

「文弘厩克彦殿、貴官を大佐に任命したします」

「謹んでお受けします」

「文弘厩克彦殿、貴官を准将に任命したします」

「謹んでお受けします」


「文弘厩克彦殿、貴官を少将並び北西前線司令官に任命いたします」

「謹んでお受けします」


 和多志は少将まで連続昇官していた。ネームバリューとか影響力とか今日までの武勲とかの兼ね合いだ。遠智谷大佐も少将まで出世しているし、他予備役からの復帰や昇進なども多くの軍人が起用され対現戦争人事が行われている。


 鷹司少将と同じ階級にまでなってしまった。

「閣下、先任として今後もご指導ご鞭撻をお願いします」

「殿下、老骨なれどご指南のもと犬馬の労も厭いません」


大先輩で補佐役任命されたんですから和多志をお飾りにして実質的な司令官をしてください。と諧謔したらロートルなので君に任せますと返された。


 この場合、老練な将軍が年若い高位者に代わって指揮るのが通例では? 

「その老練な将軍の上を行く御手腕でそれは流行の冗談ですかな?」


 この人には後10年は適いそうにない。さて、現在の交告城塞ですが、反乱軍の大軍に包囲されています。


 目算でも数十万もの北方人民連邦軍が何層にもおよぶ包囲。さて、現在の交告城塞ですが、反乱軍の大軍に包囲されています。

「鷹司副司令、司令官として聞きますこの状況何か問題はありますか?」

「いいえ。まったく」


 そう断言した後、鷹司少将は説明を続ける。

「まず、囲んでいる反乱軍は攻め込む姿勢をしておりません。これは我らを攻撃するというより拘束する意図。


 次に、補給線は健在であり、転移インフラを使えば少数。例を上げれば殿下と親衛隊規模ならどこへでも行けます


 そして、敵の狙いは北部前線からの突破。北部前線に隣接するのは北西と東部の両前線。東部前線があまり反乱軍を刺激できない以上、劣勢な北部前線を支援できるのは必然的に北西前線に限定されます。


 ついで海軍も港湾設備の関係で北部に近い円海側よりも帝国東の平洋側に多く配置されてるので、北部前線への支援はあまり期待できません」


「肯定する。一方で我らは敵に大量の遊兵と多大な消費を強いて、もう一方で少数部隊による北部前線の支援も継続できるむしろ、北西前線に親衛隊を回さないで良いだけ支援の質が上がる」

「さて、牛隅幕僚長(うしずみせんせい)何故、反乱軍はこのような手を取ったと思いますか?」


 周囲への説明のために幕僚長に問う。

「選んだのではなく選択肢が無かった。打開できそうな戦線は北にしかなかったと愚行します」

「ええ、付け加えると我らはそれだけ選択肢を奪うことに成功している。目下の課題は城塞で生活している兵士、軍属、民間人を不安にさせない事」


「それについては臣から」

 うわっ出た。幕僚の柾彦卿である。

「この機会に殿下の元服を行いましょう。通例というのは使いようによっては便利なもの、いつも通りの事がいつも通りに行われている。そのような事は安心感をもたらします。陛下が今中原諸州で行われている儀式の様に、烏帽子は臣が務めます」


 それがしたいだけだろ。やりたい事の為に理由やら利害やら全部整えてくるのがこの臣下だ。

「そうだね。柾彦卿はこの為に、今日まで和多志の元服を行わず行わせなかったものね。それで良いよ」


 さて、元服の儀の後には和津平兄さんが帰ってくるので影武者にして親衛隊を率いて和多志は北部前線で暴れ回り、鷹司少将に留守を任せるという事で会議は決した。


 それはそれとして、和多志の元服は慶事としての催しを意識し、城塞全体で祝う訳だ。時間や資材もいくらか融通できる。御馳走を拵えよう。思いっきり手の込んだモノを。


「ご容赦ください」

 養育係であった事になっている現厨房責任者伴乃子爵に土下座された。

「何故、和多志が厨房に入ってはいけない?」


「この厨房では平民も多く働いております。離宮の気心知れた者達ならいざ知らず。みだりに殿下が立ち入り彼らの心を乱す事、この伴乃看過なりません。何卒」

 忠言であった。諫言であった。久しぶりに叱られた。先帝が行方知れずの今、陛下は皇帝の勤めをしておられる。こんな時に養父養子とはいえ父子が仲良くお料理するように育てた覚えはない。心が伝わる。正論、否、正念であった。



 仕方がない。野戦料理をするか。粉ではない本格コンソメスープを作って皆に振る舞おう。六門君らにも手伝って貰えないだろうか。


「そんなに戦争イヤか。イヤだろうなお前の性格だとな」

 六門君が手の空いている親衛隊やらスタッフやらを集めてくれ、煮込むのを手伝いながらそんな事を呟く。

「何さ」


「気づいてないだろうが、イヤな事あった時とか不満な時ほど手間のかかるモノ作ろうとするだろ」

「あ」

 言われてみればその傾向はある。


「前、姉ちゃんと喧嘩した時スパイス調合してカレー作ったし。アレ凄い美味かった。他にも……」

 過去の事例の数々、裏付け。

「六門君、戦争終わったらしばらくご馳走続きだよ」


「俺らにとって得にしかないから良いけど、溜め込みすぎるなよ」

「うん。戦時は一手間程度に抑えておくよ」


 蛇眼陽暦106年神の月5日、大安、満の日。

 和多志の元服の儀式が執り行われた。11の頃、丁度和多志が皇族になった頃から伸ばしていた髪の毛のローポニーテールの部分を小刀で切り、柾彦卿に烏帽子を被せてもらい古式装束に着替える。


 他にも細々とした作法があるが省略し、厭戦気分の払拭と包囲されている不安を解消する事を重視した催しとした。

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