ep20:ウリエル/函関攻防戦/帝都郊外野戦.
ーーーウリエル・トウハチェフ 観 蛇眼陽歴106年長の月、7日より10日ーーー
左手を上げて風に触れる。風はルブルに比べると暖かく水気を含んでいた。
顎を引いて目前を見る。異国の地を埋め尽くす紅の軍勢。全ての感情が壮観の一文字に上書きされていく。
「大佐・オチヤ……」
立ちはだかる相手の名を呟いてみた。この国では
カスティーナ・サン・ド・アン出兵と呼ばれている干渉戦役で追いきれなかった相手、崩し切れなかった相手。進軍方向を見ると異郷の山々が連なっていた。
蛇眼陽歴106年長の月、8日。筺関の東に北方人民連邦軍、円暫定共和国政府軍の合同部隊が布陣する。
斥候が持ち帰った情報を並べる、此方の予測を上回る迎撃準備が成されている。そうと見てまず間違いはないだろう。向こう側に集まった兵は二万ほど、だがあの城塞がある以上兵力の優位は一有利要素にまで転落する。
威力偵察や牽制や妨害の攻撃は悪手。その程度なら捌いた上でさらに迎撃準備を進めるだろうな。下手な搦手が通じる相手でもないのは知っている。
即ち帰結する戦術は…………、大戦力を用いて対応能力を上回る。言わば力攻めだ。
「二足戦車を前面に出せ」
命令を受けた外理式二足戦車大隊を前面に展開し、第一砦への攻撃に向かうが光線魔法の斉射により大損害を被る。
「うぉまぶsッ!! …………」
「隣がやられた! 近づけねぇ」
「撤退許可をっ! 対抗概念が付与されている思われこのままでは壊滅必至!!」
通信機から悲鳴が土砂降りのように流れてくる。
「地形で大軍による包囲はできん。損害は覚悟の上だ間断なく投入し続けろ。飛行艇部隊による空挺攻撃。飛竜部隊を護衛兼援護に回せ」
この戦争を表すと、良く言えば自由でバラエティ豊か、悪く言えばカオスで乱雑そんな戦争であった。
北方人民連邦やクーデター側は長大な補給線と補給妨害で、大円帝国側は各国や民間の義勇兵や一度空中分解して再編した軍故に、互いに装備に苦労し試作兵器や前時代的な武器まで持ち出す。
更に外理の戦術利用やドクトリンも発展途上の結果。自由な発想やノリが勝敗を分けるウェイトを占める。魔法も科学も古今東西入り乱れた。
一例を挙げると、骨董屋から徴発した刀でエースにまで上り詰めた北方人民連邦兵がいるとか……。
その日、北方人民連邦軍は進撃を繰り返し3度筺関要塞群の司令部に迫ったが、遠智谷大佐も時に前線に出て奮戦しついに司令部を落とす事は叶わず。
途中で奪った防衛施設も奪還される。この日、混成軍は一万を超す死傷者を出し半年戦争においてもっとも激戦とされる東海前線が形成された。
「撤退だ」
決断を幕僚に伝える。彼らは衝撃を受けたように固まり、反応までに時間を要した。
「元帥閣下。強権を発動し大軍を動かした上で防御拠点の攻略に1日手こずって即撤退と言うのは……」
「情弱だと言いたいのか構わん。防衛準備が整う前に動き抵抗中枢を砕き、多少の防衛準備も大軍で潰すのが意図であった。
今作戦の戦略が外れた以上、無駄に兵も予算も物資も空費するだけだ」
「軍事としては理解できますですが、官僚も指導部も理解してくれる成算は薄いかと」
その後、3日。ウリエル・トウハチェフは対陣し、各方面の残党、レジスタンスへの対処のために一部部隊を残して帝都へ召喚された。
3日分の物資、予算。後任の司令官の攻撃によって損傷する兵力が我ら東側陣営から喪われた。
一方でウリエル・トウハチェフは精鋭を率いて迅速に舞い戻り、文弘厩克彦と帝都郊外でぶつかる事になった。
ーーー文弘厩克彦 観 蛇眼陽歴106年長の月、9日より106年師の月までーーー
甲辛国際学園に戻り、即出陣。親衛隊は寄騎として各地に散らばったから半数程度であるが、鷹司少将が兵を集めてくれて足せば総勢5425名。
遠智谷大佐からの依頼で各地の軍残党やレジスタンスはクーデター政権及び北方人民連邦軍への牽制を行って欲しいとの事。
まだ、旧都政権が本格始動していない今、動ける部隊や私兵団が独自に動くしかない。
対ルブルとの戦いでの実績と階級がある遠智谷大佐や鷹司少将が暫定的な盟主として連携を主導してくれるので抵抗活動が効率的に進む。
和多志達5千余名は群州へ出て程度を伺う姿勢を見せる。それに対して北方人民連邦軍は1個旅団9千の兵を出して対応する動きを見せる。
名目上の大将たる和多志に幕僚陣は軍勢の前に立ち演説しろと言われた。せめて事前に話を通して欲しかったが付いてきた柾彦卿はライブ感がどうとかと供述。
やってみるか。
「我々は、遠智谷大佐から反乱軍への牽制を依頼されてここまで来た。遠く筺関で戦う仲間のためにもただただ、散歩だけして帰るのは少々物足りない。どうだろう?」
「「「ブウウウウウウッ!!」」」
最後の方を少し挑発気味に語ると、親衛隊がサクラをやってくれてブーイング。迫真の演技だ。演技なのか? 造彦君なぞお貴族様がしちゃいけない表情をし、下に向けた親指を掲げている。
「多少引っ掻き回して土産の1つも持って帰らないか? 私利私欲で裏切った奴ら、地震の時に土足で来た強盗をぶん殴ってやりたくないか? 和多志はしたい! 諸君らは!?」
「「「うおおおおおおッ!!!」」」」
「よし! わかった。ぶっ飛ばそう。 和多志に続け勝てる勝てる勝てると3回復唱。勝てる勝てる勝てる」
「「「勝てる勝てる勝てるうおおおおお!!!」」」
「続けー!」
この日、行われた群州での戦いは、語る事はあまりない。和多志達が突撃すると北方人民連邦軍は気迫にビビって接敵前に崩れ、和多志達が追いついて追撃する形となり方々へ飛び散った。
政治的な理由で戦いはあった。我々は勝利した。その方が何かと都合の良いので今後もそう扱う。半年戦争における公式的な初の勝利である。そう喧伝しまくるのだ。
進軍更に進軍。
翌。蛇眼陽暦106年長の月10日。抵抗は受けず帝都直前まで進んだ。抵抗を試みる者達は威風である者は立ち尽くし、ある者は逃げ出す。
帝都目前の郊外。対峙するのは神速の行軍で舞い戻り臨戦体制の北方人民連邦軍最精鋭二個師団とウリエル・トウハチェフ元帥。
カスティーナ・サン・ド・アン出兵で列強連合軍を相手に外理支援を組み合わせたネオ・縦深ドクトリンで蹂躙しまくった。北の軍神である。
数も将としての力量も上。だが、和多志には天の機も地の利も人の和もある。霧が出てきた。
親衛隊を軍から切り離し、鷹司少将に預ける。鷹司隊を後方に置いて見せ札、牽制の役目をやってもらう。
霧が濃くなってきた。
「続けッ!」
親衛隊には言葉はいらない。霧の中へ突入する。音もなく気配もなく軍は駆ける。指揮官狙いで一つ、二つ。歴戦の指揮官、名将が何も解らずやられていく。
何も見えない戦場、それを和多志は全て見えていた。敵も味方もこの地の外理力の流れ、風が伝え聞くことになる衆生も、ここから派生する因果もこの瞬間は全て見えた。
親衛隊は無心で駆け、異界を用いたショートカットで指揮官を狩る。北方人民連邦軍は不知ただ案山子だ的だ獲物だ。征伐ではなく、制裁という認識。
否1人だけ完全でなくとも今戦場で起こっている事を理解している者がいる。
(バケモノ? 神? ??? ははは解明らぬ。ただ確信したコレに戦争では勝てない)
「直営戦車隊を前に」
(反応できたのは、一手だけか)
橋科殿が戦車を押し込んで、横から魔導兵が対装甲概念弾を打ち込む。道が拓けた。拳銃を抜こうとした敵将。蛇斬り丸で敵将の拳銃を払いのけて剣を首元に当てる。
「降伏してください。ウリエル・トウハチェフ元帥」
「士官としての待遇を望む」
大将の降伏により精鋭は脆くも崩れ去った。
「報告! 北方人民連邦軍の援軍及び筺関を攻めていた合同軍も接近しています」
「情けない。時間稼ぎすらできなかった」
ウリエル元帥が後ろで呟く。今なら捕虜を連れて安全に退ける。愛馬に鞭打ち、駆け一歩だけ帝都府の領域へ入ると和多志は声を張り上げた。
「退こう。必ずまた来れるから」
返事はなく、ただ行動で粛々と撤退が進む。信仰に似た気持ちで兵達は欲望を、渇望を抑え和多志の言葉を受け入れた。
この日北方人民連邦軍戦争指導部は思い出した。雀開事変の時に広がった都市伝説を首狩り戦術駆使して指揮官、将官を討って回る怪異は実在する。『首狩り皇子』それが、和多志に付けられた北方人民連邦軍からの贈り名であった。
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戦争は時代と場所で様々な要素の様々な比率があると思うんです。「数」、「武器」、「練度」、「士気」、「戦略」、「戦術」、「天候」、「地形」……と上げればキリがない。
本作の戦争はだいたい「準備」と「勢い」がある方が勝つ感じです。既存作品だと、平野先生のドリフターズに近い成分比率かな? 例えば函関の戦いは同様に反乱側の勢いを帝国側の準備が勝った構図ですね。
本日は土曜なのでもう一話投下します。(2026.1.24).




