表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

ep2:妖精の女王/鉄道/線路の先へ.

 暗殺の翌朝。少しだけ早く目覚めたそんな時間が好きだ。しばらく半睡眠状態を堪能。水筒の水を一口二口喉に通す。駅舎から出た。

目覚めた時にはアジサイ色だった暁の光が黄色に変わっていた。


 霧はすでに晴れている。朝日は道の先にある黄色いレンガの塔を照らしていた。異界である。西洋ではダンジョンと呼ぶ事もあるとか。久しぶりに異界に来た。童心が湧き上がり駆け出す。


 鼻唄混じり。道々に歩々進めば山小鬼(ヤマ・ゴブリン)が襲いくる。刀を抜いて切り払う。駆ける駆ける駆ける駆けぬけた。近くまで来て塔を見上げる。台形の本体に3、4幾何学的な枝が伸びていて3.40階ほどの高さはありそうだ。



 心臓から力が湧き出し、体の周りに渦巻くのが神経を研ぎ澄まさずともわかる。イメージが広がり、それが少しずつ周囲の世界を変えていく。


 「登らねば」自分の内側から思い湧き立つ。塔の中に入り。壁にそって上に伸びる螺旋階段を駆け上る。昔噺、蝋の翼で天を目指した話。その英雄の心持ちで螺旋階段を駆け上る。


 足跡で円を描いて駆け上る。壁際には本棚、教室のような部屋、既知未知の植物。高揚感を覚え、時に上に手を掲げ駆け上る、駆け上る。


 崩れる足場。いつの間にか出現して周囲に舞う白羽。浮遊感のある現実からずれた落下。階段が崩落してワタシは意識を手放す。


 目が覚めると赤ん坊になっていた。女の妖精が介抱してくれた。彼女、女性的なシルエットをしているが姿も名前もボヤけて判別できないので今後も彼女と呼称する。彼女から聞けばワタシは塔の力でそうなってしまったようだ。ここで過ごすしか戻る方法は存在しないらしい。


 幸い、日用品や食料などは彼女が出せる。その上この塔にある道具や本で時間も潰せる。

 彼女からの条件としては人の世界に流転してしまった我が子。その代わりを成長するまでして欲しいとの事、破格の条件である。


 捜査式を使い嘘や策略が無いか調べていいならそれでいいと答えた。彼女は了承した。彼女の身体に捜査式を這わせてる。少年時代に出会った老人もそうだがその手の感覚に鋭い者にはくすぐったいらしい。


 常春の妖精郷で、魔術や兵学などの本を読み漁り、我が子代わりに甘やかしてくる彼女の相手をしながら時は流れた。およそ、十数年。背丈が元のくらいになると、この居心地が良く穏やかな世界を後にする事を決めた。


「貴女のご子息をよろしければ探しましょうか?」

 万宿万飯の恩がある彼女にせめてもの礼をとたずねる。

「あの子が人の世に行くのは運命、いずれ戻って来ます」とワタシを抱いて、変哲のない守護式を施した。


 これ以上、長居し過ぎるとワタシは人間では無くなりそうである。忘却の向こうにあった外理の術も、かつて描いた未来図も再習得したのでワタシは塔を後にする事にする。


 冥神山道を経て、別荘についた。末盧はワタシを出迎え中に引き入れる。「さて、どうしたものか? 雰囲気が変わっている。少し若返ったか?」と口を開く。


「居心地良く穏やかな場所に、十数年ほど居た。だが、今のまま居れる程物分かりが良くなかっただけだ」

「お前の話はわからん。人格破綻者め」

「わからなくていい。世直しがしたいんのだろう?」

「ならばこれ以上は聞かない。世直しかできるならな」

 体感で十数年ぶりの酒に口をつける。適当にある物を食べて、普段は吸わないタバコも吹かす。


「小役人をいくら殺した所で、流れは変えられないだろう」

「業腹だがそうだな」

「流れが悪い。一部が度を過ぎて得をするのもそうだが、それ以上に、国も帝も民も蔑ろにする。アイツらは何の為に存在しているのだ?」


「お前が言うのか」

 ワタシが貴族な事を言外に指摘する末盧。

「ワタシは思われている程、得をしていないからな。割が合わん。


話を続けるぞ。あの役人を殺した事はだからと言って無駄ではない。言わば、池に石を投げ込むようなものだ。そこを起点にうねり、流れが出来ていく。時代の主役が出てくるーー


 ーーそんな者、そのような者に当てがある」

 口数が多くなってしまった。浮かれたような演説を終えたワタシ。それを末盧はじっとみてる。


「そこまで考えていたのか」

「時間はあったからな」

「お前は昔からいい加減で不思議なヤツだったよ。実はな葛原柾彦、お前を待っている間俺も考えていたんだ。出頭しようか。お前を巻き込んでしまった。これ以上は巻き込めないと」


 ワタシの名前を呼び、悔恨を吐く友。口説くか。

「ここで死ぬなら、ワタシの為に生きろ。マシな選択だったと思わせてやる。罪人として死ぬより、英雄として生きろよ」


 別荘を出る。一路帝都へ向かう。田舎道を歩く。飢えている訳ではない。極端に治安も悪くない。だが、少しずつ疲れていく。そんな空気が、地方は帝都と違いなんとなく倦んだ空気がある。

 別荘から近くの駅で蒸気列車に乗った。4人乗り対面席の車室。ワタシと末盧の2人で揺られる。

「それで何をする気だ」

「奏上だな。陛下のご落胤、陛下本人すら知らない。否、忘却の彼方の皇子。ワタシ達の旗印にして導き手、そのお方を我らが保護してお連れする」


 流れる田園風景。揺れる車窓。線路に車輪が触れる音と蒸気の響き。

「派閥を作って権力を目指すのか? 奸臣殺して俺達が奸臣になる? 冗談ではない。第一、そのような事をする伝なり金なりはどうする? 空論だ画餅だ」

「真っ当な意見だな。どうせ実家にあるのは骨董という名のガラクタばかりだ。質にでも出すか。それなりの値になるだろう。それを元手にする。


 先祖は古代に帝を誑かした妖が皇子を産み、その子孫が蛮東に下行した。代を重ねて、人と交わり。今日まで続いた家だ。約千年の歴史がある。先立つ物さえあれば、それなりの伝もできるだろう」


 年代に木と染み付いた煙草の匂い。鉄道特有の座席の柔らかさ。木目の客室。線路の形状が車体を揺らす。

「そう上手く運ぶか? ともあれお前が算段なしにそのような行動に出ないことは知っている。お手並を拝見させてもらう」


 列車は帝都に向かっていた。路は続いていく。合法的に、強盗的に、全ての道が続く帝国の建国者のようにワタシは車窓から線路を先を見据えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ