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ep18:脱出/交告城塞/旧都へ.

 同、蛇眼陽暦106年長の月。丸一日帝都を駆け回った和多志達親衛隊は異界伝いに冥神山道を目指している。


 ずっと見られているという確信があった。当たりを付けるならそろそろのタイミングで襲撃がある。


 瞬間、予測は現実に変わった。こちらに向かって飛来する複合式爆槍! 数百単位、高速で接近中。


「!?」「!?」「!?」

 親衛隊の殆どが何か飛んできたと知覚した刹那。和多志は蛇斬り丸を抜いて爆槍を薙ぎ払うために振るった。


 刃が分裂し蛇のような形へ、意思を持つような動に変化して切り落としていく。古の八岐大蛇を思わせる刃の軌跡。刹那の攻防。一歩進み出て名乗りを上げる。


「我こそは、皇祖東征帝の子孫にして統盟帝の孫にして、盤条帝の庶子。蛮東城介(*)近衛軍少佐文弘厩克彦親王」


*:律令時代における蛮東方面軍司令基地の基地司令官。現在は名誉職の官位。


 古風な名乗りだが、これで空気を変える。有無を言わさずに姿を現しそちらも名乗らなければならない雰囲気。


 人は社会性の生物であり、部分的には雰囲気に支配されている。時に100の反対理由があっても集団の内部なら人は愚かな突撃を行う。


「無知無礼なら兎も角、職務柄この国の礼法への造詣があるので名乗り返さない訳にもいかぬか。お初にお目にかかる『王子様』。コードネームを名乗る無礼は先に詫びておこう。


 バグロ・ワイバラジャーツ。紅い飛龍産者と党では通っています」


 足を広げる道化師式の礼を優雅に行い名乗る軍人。北方人民連邦の軍服に赤黒のマント、目の周囲を覆う銀の仮面には涙と六芒星のマーク、唾付きの軍帽、衣装の所々に道化を思わせる装飾がされている。


 バグロ・ワイバラジャーツに率いられ改造が施された北方人民連邦の軍服に身を包んだ仮面の集団が姿を表す。仮面道化団(マーシカ・クローウン)



「差し支えなければ此方が『ルブル語』を話しましょうか? バグロ殿。貴公だな。仮面道化団を率いて度々我らの邪魔をしてきたのは、帝都を駆け回る様も見ていただろう」


感情が上手く読めない。鷹司先生や柾彦卿などがやっている外理術によるジャミングと同様のものだろうかと予想される。


「同期していた目が秒殺されたので、大した情報は得られませんでしたが、その剣を見れた事が今日1番の収穫です」


 赤を基調とする道化風軍服の一団と白いミリタリーポンチョの一団が対峙する。長引いて追撃と挟み撃ちなんて事になったら少し厄介だ。


 何よりも、選択を強いられる状況に置かれたのが気に入らない。この指揮官巧者だ。


「…………」

「…………」


 決闘で間合いを測るように互いにタイミングを測り合う。この場の兵達の呼吸音、心音、空気の揺らぎさえも感じる。目を凝らしすぎて少し視界がボヤけ直ぐに戻って刹那。


「転身ッ」

「ッ! 追えッ」


 勝った。一瞬分のリード。

「抜刀」

 駆けながら柄の物を抜く。敵は追撃のために射撃武器を備えてこちらに向かってくる。コーナリングでさらに距離を広げて。


「再転身、白兵」

 蛇眼陽暦の世紀は外理学の確立によって科学、工業、武術さまざまな分野でイノベーションが発生する。その中でより発展した分野の一つが馬術であった。


 外理との親和性。騎乗馴致の簡略化、かつて奥義と呼ばれた人馬一体は一般的な技能にまで普及し何より十分な外理支援(フィフス・ブースト)下において蹄は車輪も翼も噴射機関(ジェット)さえも凌駕したッ! ーー禁代馬術史よりーー


 高速の転身も新たな技術の一つ。再び反転、向こうが発砲する。より早く我らが白兵戦で仕止め主導権を掴む。間合いを詰める必要はない。衝突。


弾ける血飛沫、転がる屍。立っていたのは我々だった。


(体が勝手に命令通り動き気がついたら勝っていた)

(よし、なんか知らんが倒した)

(以心伝心の将兵にして部隊か負ける気がしない)

(ははは、クソ度胸だな。ウチの大将は危うい賭けをする)


 精神の一致。自らの行動や努力、力の実感。手強いと感じた相手に対する綺麗な勝利。麻薬じみた高揚感が親衛隊に広がる。


 その場に生き残った仮面道化団はすでに屍を残して退いておりもう居なかった。指揮官は取り逃したか、2割削れたなら上々だ。


「多少消耗した。夜の散歩の後はキャンプと行こう」


 親衛隊はゆったりと冥神山道を降り、明朝に信甲国際学園改めて交告城塞に到着した。鷹司先生改め、軍籍に復帰した鷹司少将が麾下部隊と共に和多志達を迎えてくれた。

 鷹司少将、先帝統盟帝の時代にポンド・ドールへ入学して西洋の魔術を学び、本朝、陶土、新大陸など様々な外理に精通している。


 マドカルブル戦争にて外理将校として功績があり、近年は信甲国際学園で教鞭を執り次世代の育成をしている方であった。


「改修の目処は一通り経ちました。元々城があった場所かつ、構造が利用されているので加える手も最低限で済むでしょう」


「再編が出来次第、和多志達も準備を手伝いましょう」

 学舎が軍事施設に変わってしまった事への多少の干渉を飲み込んで鷹司閣下へ進言する。


「そうしてくれ、消耗しすぎない程度に抑え情勢次第で即応もあり得ると心得よ」


 信甲国際学園に寄ってから3日。運動程度に学園の改装を行なっていると様々な情報が流れてきた。


・あらかじめ予定していたかのように北方人民連邦軍本隊とクーデター政権が合流。


・銅州の地でクーデターを起こした柴原宰相を含む革命派臣民が用済みとばかりに連邦軍に虐殺される。1000名から20000名と人数は不明。


・かつて演習で戦った与根淵大佐がクーデター政府の首班になる。


・各地で残存部隊や鉄冑蓮ら自警団が抵抗。

・旧都を中心に円国の残存勢力が集結中。

・旧都攻略の為に北方人民連邦軍と造反した帝国軍が動く前兆があり。昔、親衛隊の戦術教官で軍に復帰した遠智谷大佐が『筺関(はこのせき)城塞群』に抵抗勢力を集めて迎え撃つ姿勢。


 和多志達も筺関へ向かおうか。と考えていた所悠君が柾彦卿からの通信を持ってきてくれた。


・親衛隊は誰かに代理として率いさせて学園からクーデター側を牽制して欲しい

・和多志には各地の臣民を慰撫しながら旧都まで来て、皇太子様の即位を後押しして欲しい。


 との事だった。名代の候補としては造彦君、六門君、あと影武者をやってくれた和津平従兄さん



「そういう訳で和多志は旧都へ行く。幕僚達と相談の上で隊を分けて各地で抵抗している味方を助けてくれ。部隊兵士の保全を最優先。君たちは和多志の翼だ預けるから自分の足で返しに来ておくれ」


 指揮杖を六門君に渡して告げる。今の六門君ならば貴族達とも上手くやれるだろう。


「俺は割とケチでね。叛徒や主義者には羽毛の一本もくれてやるのは嫌なんだよね」

 時に単純だったり侠気な所もあるが彼なら大きく間違えることはないとの判断だ。幕僚達もついているし不満はない。


 造彦君らを随員に付けて和多志は旧都へ向かった。


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