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ep17:帝都震災/開戦/克彦のターン.

 蛇眼陽暦106年長の月、月旦。円国の東、平洋の海上。北方人民連邦が宣戦布告、帝都で大地震、軍の一部部隊が離反、宰相が降伏し北方人民連邦を引き込んだと『国家滅亡』を予感させるワードが次々と流れてくる。


 一方でワタシはその情報の洪水に勝利を確信していた。勝利確定。


「バカがやはりやらかした。艦隊を帝都へ急行させる。案ずるな、震災に対する備えも侵略に対する備えもされている。上は陛下から下は臣民まで救うぞ」


 目前に意識を向けると艦長室、この船をワタシは知っている。外理式イージス機能付きの灰色の多能巡洋艦『新部(にいべ)』ああ、私の船だ。同時に使命を思い出す主君や仲間、同志、呼び名は何でもいい。この国を、魂の帰る場所を救う舞台を今からやらなければいけない。


 ミーティングルームに歩みを進めると彼らがいた。末盧をはじめとする共に今日ここまできた家臣、この艦のクルー達。機構は全て理解している、高揚感は酔った時の夢のようだ。


「お前達とこの国を救うことになった」


「どうして俺たちがと思っていたが言っていた通りになったな……?」

「状況は? 詳細を教えてくれ」


「詳細については追って伝える。やる理由か? ここにいるからだろう」


「まあ、やる事ないしな」

「相応に報酬はくれよ」

「イヤではないかな?」


「船は西に向けておくれ、目的地はそっちだ。私の手並みは知っているだろう。


この艦の堅牢さと戦中戦後の快適さを保障する。殿下は帝都にあり。勝算は十二分、後は勝ち方を決める!」

 

 彼らはワタシの話も終わらない内に動き、新部を指揮艦とする私兵艦隊は西に進む。

 戸惑いはあれど、クルーは快く協力を約束してくれた。


 大円帝国は現在首都直下地震で大打撃。宰相一派が隣国の北方人民連邦や革命派テロ組織などと繋がりがあり震災直後のタイミングでそいつらを引き入れてクーデターを起こした。


 現在の戦術目標は帝都に急行しクーデター側戦力に打撃を与えつつ、克彦殿下や臣民すなわちを救出して西の旧都にできる臨時政権に合流。


 よし、計画の微修正は完了。机の上の上に念写しつつ、クルー達にテレパスで迅速な情報を共有。


「敵に使う武器はどうする? どこまで見せていい? 何でもありか?」

 副官のポジションの末盧が聞いてきた。


「出し惜しみせず向こうの2世代先を見せてやれ。欲しい武器を言ってくれれば転移で現物をテレパスで技能を送ってやる」


 帝都湾に入ると、私兵艦隊の行手を阻むは帝国海軍、否。北方人民連邦に寝返った軍艦、奪われて運用されている軍艦が統率が取れず個々独自行動をとって即席妨害行動をしている。


 ミサイルとレールガンで蹴散らしながら私兵艦隊は進む。会敵3隻。何も見敵、即射、必殺と片付けた。


  島峰副提督、長崎艦長らの能力確かな水軍の専門家に艦隊と新部を任せると小型艇に乗り換えて克彦親王の進行ルートに先回りする。


 百貨店も映画館も実屋敷遊園地もかつて殿下が平民時代に通っていた学校も破損し燃えているものもある……構わない。

 気に病むなワタシと殿下で決めた事だ。


 一刻未満の時間。見つけた。避難民を誘導している。ワタシが駆け寄ると克彦殿下は右手を掲げるように上げた。ワタシも右手を掲げ殿下と手のひらを強く強く合わせる。


 ハイタッチの形となって、良く音が響いた。刮目せよ。歴史の特異点となる大舞台の幕開けだ。


ーー第2部 終戦編 始動ーー


ーーー文弘厩克彦 観 106年長の月、月旦より7日までーーー


 蛇眼陽暦106年長の月、月旦。帝都安達野、純田の町区。


 理解っていた筈だった……。

 覚悟していた筈だった……。

 けど、想像と現実の差は存在した。


 揺れる大地、崩れ落ちる家屋、ビルディング、時計台。

 伝播する恐怖、驚愕、心配、焦燥その嵐の底で

意思と目的を持って進行する悪意。


 行政の避難訓練や鼎財閥、転財閥系列企業による耐震キャンペーン、旅行キャンペーン。可能な限り救う為に準備をして来た。


 だがそれでも人は傷つき、ショックを受け、死ぬ。


 和多志(わたし)には思い悩む時間がない。立ち止まる時間がない。


「震撃を凌いだ後に行動する。手近な人を安全地帯へ!」


 親衛隊が迅速に動き、手近な人を頑丈な建物や開けた場所に移し揺れが過ぎるのを待つ。

 揺れがおさまった。静寂。


 安堵、不安、追いついていない理解。和多志へ視線が集まっていく。

「和多志は、皇族の文弘厩克彦親王。避難誘導の心得がある。離宮には物資も休める場所も用意がある。ついて来て欲しい!」

 救わせてくれよ。助けさせておくれよ。続けて命令も下す。


「親衛隊は分隊単位で行動しろ。火災、液状化、瓦礫に対処されたし」


 後の半年戦争と呼ばれる戦いの始まりであった。



 同、蛇眼陽暦106年長の月、月旦、帝都鼎湊にて聖典にあるファラオの治めるギニーを出る流浪の民の群れ。あるいは、三分演義で大徳と共に逃げる民衆。それも斯くやといった風景だった。


 和多志を慕い、あるいは連れられて来た円国臣民他数万。水平線の向こうから近づいてくる。鼎、転、葛原らの混成艦隊。


 真っ先に上陸した高位の青年。時系列的な意味で第一の臣が和多志に駆け寄る。ため息でるほど人間失格で息を飲むほど能士忠臣。自然と自らの右手を掲げていた。彼も走りながら右手を掲げ刹那、掌、衝突。


 小気味の良い音、託された。渡された。舞台を整え幕を上げたのだ、報いるのが主君。報いるのが我が内の女神。


 満足感と少しの後悔と待ち侘びた瞬間の高揚。卿の感情がわかる。


「柾彦卿、被災した者たちだ。船に乗せられるか?」

「ええ、救命ボートやイカダも大量に用意してます。家財道具も牽引して運べますよ」


 葛原造彦君がさりげなく和多志の側に寄って耳打ちした。

「近羽伯が陛下の説得に失敗しました。陛下は鉄冑蓮に匿われ地下潜伏。帝都に留まるつもりのようです」


 和多志への気遣いと皇帝陛下への心配、動揺、感情を押し殺して造彦君は和多志に伝えて来た。

 父上が……そうか。皇帝として帝都と臣民を見捨てられないと、そう言ったプランも聞かされていたけど和多志は逃げ延びて欲しかった。過城さん達を信じよう。


「案じないでください。必ず帝都に故郷の街に和多志は戻ってくるから」

 和多志も造彦君とこの空の下にいる陛下へ近くで聞こえる程度に誓いを述べた。


「助かった」

「疲れた休みたい」

「怪我人に手を貸せ」


 一時的な避難だと考えている臣民達は呑気に船へ乗り込んでいく。避難民を柾彦卿に渡すと臣民達に気付かれないように親衛隊を少しずつ離していく。


 親衛隊の動きに気付いた幼い少女に微笑んで小さく手を振り『秘密』と人差し指を和多志の唇の前に置いて片目を閉じる無言のジェスチャー。ふわりと我々は踵を返し駆けた。


「救助の時間を稼ぐ。クーデター側を革命派側を引っ掻き回してから帝都を脱出。冥神山道を通って公告の甲申国際学園を目指す。


 国際学園は城砦としての機能を備えて設計されている。吾妻叢伯爵に融通してもらいその地によって帝都の反徒、侵略者を牽制する!」


 騎乗の和多志に六門君も騎乗で駆け寄り、進言。

「寝返った部隊の掌握は完全ではないし、クーデター側は北方人民連邦軍と合流できてない。


 殿下が突っ込めば早期に終わる目もあるのでは?」

 

 的をいていた。彼はこの手の感覚に優れている。

「終わるだろうね。勝算はある。けど、彼らに行動の責任を取らせる事、帝国の手で事態を収めることが重要です。時も血も汗も銭も費やしたとしても国益と国民の為にも」


 形式を整えた上で彼らを討つ。失望したかい六門君? 驚きの後直ぐに納得の感情が見えた。

「俺賢くねぇから確証はないけどよ。その方が良いんだろ? ある程度数背負えば味方も殺さないとならないんだろ? ここまで来たら一蓮托生だよ。多分他の奴らも」


「君はボクが皇子になってもついて来てくれた。味方殺しになってもついて来てくれるかい?

「狡いなその聞き方」

「狡い事はだいたい柾彦卿に教えられたよ」


「見敵。離反部隊11時」

 談笑する(いとま)もなく。敵の発見と方向が告げられる。商店街の角。赤旗を掲げた小隊がこちらへ移動中。



「位置良好、敵側感知せず、十字射撃後離脱」


(? 敵……うわぁ! 痛う)

(なんだ? 発砲!? ぐっ…………)

(勝てない。逃げ全部捨て逃げッ!)


 声を出す時間すらなく。先制を受けた部隊は崩れ。親衛隊は追撃すらせずに去っていく。


「六門君。どうせだ肝の一つも凍らせてやろう」

 イタズラを思いついた時の心地で続けた。

「大将首取るつもりで行くぞ」


「応。聞いたか!? 狙うは首魁だ」

「「「「UWOOOOOOXUUッッ!!!」」」


 鬨の声が後ろで響く。高揚感、こんな時に攻めてくる相手への怒り、興奮……様々に混じり合った感情の爆発。


「異界を通して接敵、切り込むぞ抜刀」

「吠えてビビらせてやれ」

「外理術を集中させて砲撃、下3度右7度足場を崩してソコを突破」

「指揮官に怪我させてやれそれで充分だ」


 命令のもと、幽霊のように現れては損害を与え、疾風のように去っていく親衛隊。


 先に妖精眼を向ける。記録係り津良悠(つよのゆう)君がこの後に付ける今日の記録によると。

会敵15回

味方死傷者なし

被損害 極軽微

敵死傷者 不明(数百から数千)

与損害 不明(予測敵死傷者に準じる)


 となるらしい。今の時点の未来で。


 帝都中を駆け抜けて国会へ。造彦君の狙撃銃を放ち、弾は窓の中へと吸い込まれていった。


「転進。一路冥神山道を目指す!」


「外したましたか?」

 造彦君が和多志に聞く。


「ええ『ちゃんと』外しました。良い感じに芝原元宰相のそばを掠めました。今頃半狂乱で狼狽えていますよ」


 クーデター側の混乱が大きく、閑居厩(かんきょまや)大将が撤退命令を出したこともあり多くの臣民や部隊が帝都からの脱出に成功した。

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