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ep15:手紙/東洋大陸/西洋大陸.

 蛇眼陽暦102年。赤い少年事件から一ヶ月、まだ冬は続いている。殿下が北方人民連邦の地ルブルへ発つ。


 見送りはしない。殿下の養父である伴乃子爵の甥、殿下の養従兄である和津平殿も同行者として西洋留学。という体裁となった。


 殿下は因果の影響か養母殿や養従兄殿と顔立ちが似ているので、殿下が動く間、養従兄殿が影武者をする。やや殿下より背が高く、ぼやけた顔立ちだが大丈夫であろうか?


 書斎の机の上、白紙だったはずの紙に文字が書かれていた。


『柾彦卿


 漏洩対策の為に念写で手紙をお送りします。書斎の机上に便箋を用意しておいてください。今日、鎮西諸州の太宰湊に到着しました。


 鎮西に赴くのは初めてですが、風土や人の気風はやはり違うのですね。冬なのにどこか南国の風があり帝都と違い地の息遣いが感じられます。


 人も率直で親しみ深く野趣のある印象でした。街並みも帝都は洋風のモノが多いですが此方では陶土の影響が感じられました。二日後に船で出ます』


 昔、殿下が平民を皇族にしてくれたお節介な貴族様とか書いてよこしたこともあったな。と思い出して笑みが溢れた。言われた通りに便箋を机の上に置いて次の手紙を待つことにした。


 1週間後、年が変わって蛇眼陽暦103年。

『柾彦卿


 今、客船の甲板で夜風を受けながら書いてます。(みつあし)財閥の客船で船内は快適です。ただ、馴染みの娯楽ばかりで随員は少し退屈そうでした。


 海外の新聞なり、雑誌なり、海図なり持ってきて「勉強会でもどうでしょう」と提案しましたが乗り気の者は少なく、数少ない賛同者とやっていました。


 そしたら1人また1人と加わり全員で海外の政治情勢なり今回の航海についてなりあーだーこーだと消灯時間まで議論が続き今に至ります。』


 半月後

『柾彦卿


 大円帝国から南西のバーツ王国マユタヤの町に来ています。この町は戦国期の終わり頃から本国と交友があり、円国人に対して比較的好意的な湊です。


 やはり南の方は温暖で、市には果物や籠などが売られて賑わいを見せています。


 バーツ国は東洋大陸では数少ない独立国であり、これまで見てきた国外の町と空気が違って感じられました。これまで見てきた国外の町は秩序だっているが困窮しているか無秩序で力の論理が幅を利かせていましたがマユタヤはどちらでもありません。


 異邦の旅人としてこの国の独立と平穏が続くことを願います』


 更に半月後。

「柾彦卿


 暗黒大陸ギニー国のエセウェズ運河に到着しました。ここまで大きな運河をよく作れたものですね。転財閥も協力したと聞いてます。


 停泊してピラミッドやスフィンクスを見に行きました。写真で見たことはありますが今日は砂が舞って写真のようには見えませんね。ですが、質感と重量感は確かな物です。


 ボクだけ砂を被らないで無事なのが少し気まずい。軍閥時代の使節団と同じ構図で写真を撮ると戦略目標を達成したとばかりに即座に撤退。宿に帰りました。


 追記

 土産物屋を覗くと、どうにも“本物らしい”品々が無造作に並んでおり、このままではいずれ散逸したり失われたりしてしまうのではと気がかりになりました。

 そこで、保護のつもりで買えるだけ買い求めました。慰霊をした後そちらへ送りますので、しかるべき機会があれば、本来あるべき場所へお戻しいただければと思います』

 今から外交ルートでギニーに送り返す準備をするか。否、支配しているポンド・ドールの博物館に収められるのがオチだ。

 来る日まで保存秘匿し、同時に我々に返還の意志がある旨も保存証明しておこう。来たるべく財宝に備える為の準備をしよう。

『柾彦卿 

エセウェズ運河を抜けて、暗黒大陸と西洋大陸に挟まれたミドティグラヌアン内海に入りました。


風に塩気が増して、水が澄み緑やオレンジの屋根や白い建物がちらほら見えます。帝都の建築様式はマルクやポンド・ドールのモノが多いので船に揺られながら実物のミドティグラヌアン様式をこうして見ることは本国では叶わないことでしょうね。


 以前学園で聞いた政治的に近しいマルクやポンド・ドール様式を採用する事が多い。ですが、気候などの点ではミドティグラヌアン様式の方が本国に合っているのではとの意見には僕も一理あると思います』


 最近は会合や密会が多く、肩が凝るこの頃、殿下の瑞々しい感性が伝わる手紙に触れるのは私にとっても癒しだ。


『柾彦卿


 ついにポンド・ドールに着きました。明日女王陛下への拝謁が控えてますのでその準備もあり色々と回れるのは明日以降になるかと思われます。


 陛下からの親書を確認し、今日はもう寝ることにしました。明日続きを書きます』


『柾彦卿


 女王陛下や他の王族の方々にもお会いしました。本朝の皇族の方々と比べると闊達で機智趣向に富んでおられる向きがあります。


 年の近い王族の方々に誘われたのでゲームを楽しみながらお茶会をしました。初めに手加減してくださったお陰で6:4ほどのリードで逃げ切れる結果と相成りました。


 宮殿を案内していただいている時に僕の神隠し癖を出してしまったのでちょっとした騒ぎを起こしてしまいした。


 住み着いているゴーストの方々に呼ばれました。挨拶程度で退散しすぐに戻ったので幸い。大きな騒ぎになりませんでしたが半妖精だったので幽霊の方々の興味を惹いてしまったのかもしれません』


 数日後、帝都で大雪が降った日の事だ。殿下からの手紙が届いた。


『柾彦卿


 寄宿制パブリックスクールであるバベッジ・ガレッジでの生活がもうすぐ始まりそうです。ですので、地図を暗記して届いた制服を着てこっそり街を歩いてみました。


黒のジャケット、白いナプキン、黒いネクタイ、白いシャツ、黒い短パン、白いストッキング、黒い革靴。モノクロイートンなスタイルを着こなし、いざポンド・ドールの町へ。


 近代化の先達だけあって工場の規模や街で見る自動車などの割合は本国に勝ります。一方で、規模故もあり更新が滞っている事、少し裏路地へ転移()べば民生は拙い所が目につきます。


 植民地経営や謀略も過酷だと聞いています。部外者として批判するのは簡単ですが、この内外におけるある種の冷徹さ、悪辣さがポンド・ドールを列強筆頭たらしめているのだと心に留めておこうと思います。


 苛政に喘ぐ者達にも国家という屋根壁による寒冷化から守られるという恩恵があり、恨み反抗する権利も同時にあるのだと……。悪い人に見つからないうちにベッドに戻ることにいたします』


 ポンド・ドールに関する考察についてはワタシも同じ意見である。モノクロイートンなスタイルの殿下か一度見てみたいので写真の一つでもあればいいのだがな。


『柾彦卿


 バベッジ校へ通うようになって1週間が過ぎました。寄宿舎で寝起きし授業を聞いたり校内イベントなどに参加させていただいております。


 所感といたしましては、伝統と格式を備えたポンド・ドール建築、緑が多くスポーツや文化施設が充実した敷地。国家の屋台骨を支える紳士を育てるための厳格な教育。


 甲辛国際学園と比べると厳格さと格式に勝り、自由と料理に劣ると学園生活を共にしてくれる造彦君は評していました。


 食べ物は頻度にトマト煮ビーンズが出ます。洋食も様々だという知識に実感が伴いました。養父も良く作ってくれていたので養父のトマト煮ビーンズが恋しくなります。


 後はそう。スポーツや音楽、ダンスなどの芸術。福祉イベントも多く行われていますね。自治会や学園も生徒の参加を積極的に促す気風を感じました。


 趣味の合わない卿は眉を顰めるかも知れませんが格式高く窮屈、これはこれで合う生徒、慣れた生徒には楽であり合理的な一つの完成形なのでしょう』


 ははは違いない違いない。食堂征伐を鎮圧して居づらくなって学秀苑を辞めたワタシ如き不良にはだいぶ窮屈そうだ。手紙の続きを待ちながら今夜は柚梨詩を部屋に呼ぶ。


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