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ep14:予期せぬ救い/誘い/旅立ち.

 蛇眼陽歴史102年冬、葛原の邸。目の前に広がる光景は酒池肉林を体現したものであった。ほぼほぼ裸の女、女、女、たまに男。


 妾達をそれぞれの要素に付合連動させて性行為を通じて操作する。置換魔術や性魔術の応用。一時朝廷を掌握した妖后、魂前皇后の末裔が蛮東諸州に流れて以来千年の研鑽した家伝の術。


 女が嫌いなわけではないが、こういった目的の為の行為だと素直に楽しめない。だが、こういった物はある程度楽しまないと効力が薄い矛盾アンビバレントである。


 そんな空間に不似合いな少女が正座していた。薄茶色の波打つ髪、主君に顔立ちが似ている。だが温和でシルエットに女性的な丸みも見られる。


「それで何でここに居るのですか? 恵穂様」

 殿下の養姉であり、伴乃子爵家の令嬢。今はワタシの正妻である恵穂様が落ち着かないご様子で居心地が悪そうだ。まあ悪いだろうな悪徳や色欲に満ちた空間なんのだから。


「わたわわわたしも行います」

「何を?」


 挙動不審な妻を宥めるように促す。

「わからない。今からやるなんかすごいこと」

 目をぐるぐるさせて、頭を抱えながら幼妻は言葉をひねり出した。


「誰か、恵穂様に目隠しを彼女の目にここの光景はご令嬢の目に毒だ」


 命じると、進み出た妾の1人が恵穂様に目隠しをしてワタシは転ばぬように彼女の手を握った。

「わわうぅ。何するんですか? がんばります」

「何もしません。がんばらなくてもいいです。ほらワタシと別室に行きますよ」


葛原邸、別室。幸い増築したこの邸は部屋が多い。ここで恵穂様と2人で話す事になっている。

「彼女達は事情を理解し、相応の研修を積んだ人達なので恵穂様にはそういう事は求めていません。


 恵穂様のご実家に例えましょう。料理の素養がない者に厨房で鍋や包丁を使わせますか?」


「けど、柾彦様のために何かお役にたちたいです」

 むんと、両手を握り恵穂様は主張する。

「そのお心だけで十分です。と言っても納得してくださる事はないでしょうね。睦言の折にでも術の手習いでもいたしましょう」


「じゃあそれで。柾彦様……」

「はい、柾彦でございます」

「そうだ、昔、柾彦様が学秀苑で食堂征伐をした生徒達を逆に叩き潰しましたよね」


 食堂征伐か懐かしい単語だ。飯に文句がある学生が徒党を組んで食堂で暴れるロクでもない風習だった今でもやっているのかしら? 廃れろ。


「記憶にあります。なんかあの頃機嫌が悪かったのと幼く未熟だったと追憶しております」

「助かった人もいたのですよ。柾彦様。怖くて威圧的で、でも格好良かった。旦那様、今私は幸せです」


 何やら1人で納得したようだ。藪を突くのも本意でないし今夜は儀式を中止して同衾しよう。


「何よりです。不義理な事を重ねないといけない義理。だがアナタに少なからず幸せだと思っていただける。そのようこれからも趣向をこらしましょう」


 この部屋にいない筈なのに、柚梨詩の生暖かい視線を感じる。恵穂様に抱きしめられる形で腕を回された。彼女の温もりを感じつつ帝都の夜は更けていく。



 同、蛇眼陽歴史102年冬、甲辛国際学園。甲辛諸州の交告で舎人先生の研究発表会が行われる。暦ヶ丘舎人先生はワタシが昔からお世話になっている医師だ。それで、今はこの学園の講師やら考古学の研究やら人物評やらそれに、親衛隊の軍医もしている。


 今回の発表会は考古学の方だ。暦ヶ丘古墳で新たに発見された地下空間とそれに関しての仮説や証明などがテーマと聞く。


 最近は調整ばかりで必要必急な事柄はあまりなく、そうでなくても恩師の晴れ舞台なのだ。駆けつけるさ。


 発表の要点は3つ。

・第一に発見された壁画。混沌貫雷図。文字通り渦巻く混沌を雷が貫く壁画であり、周囲の装飾や碑文から遺跡を作った物達の世界観。


 宇宙の誕生をこう考えていたのがわかる。彼らはこの世界を雷によって混沌渦巻く沼から出来た世界スワンプワールドと考えていたらしい。


・第2に地下空間の年代。推定12000年前よりも古く円国ソモジ朝以前のものであったと思われる。沈没大陸? 竹文書に記された古代王朝? 未だ推定できない。


・第3に地下空間に残された痕跡から平安期に乱を起こした無尽王がこの遺跡を拠点としていた事。彼がなんらかの祭儀を行なっていた可能性が高い事が推論される。


 かの遺跡から発掘され殿下を世に降臨させた祭具を作った人々がどのような存在だったのか? なぜ、人造天子の因果演算終了直前にそれを封印して何処かに行ったのか謎は尽きない。


 発表が終わり拍手しながら観衆の方に目が流れると1人の少年が目についた。学生服にマント、歳の割に背が高い黒髪の少年だ。


 視線に気付いたか此方を振り向いて微笑んだ。白い旗、赤い眼差しに美しい顔立ち、似つかないのに克彦殿下と近いものを感じた。


 何かしらアクションを起こすべきだろうが、動けない。格の違いを否応にも知らされた。一瞬刹那とも永劫無限とも思えた時間は殿下の声で終了する。

「柾彦卿」


克彦殿下の声で金縛りが解けた。

「卿ほどの術師が金縛りとは、黒髪に赤い目の少年に会いましたね」


 殿下は妖精眼と推理で明察してみせる。

「その通りあの少年は……」

「既にわかっています。僕の対となる存在そして北方人民連邦の裏主席レディン。既にこの場を去った事も……。


 徳のある王様がいれば全部上手くいくそんな思想の下で作り出された。運命を調整された子供。人造天子、成功異能体」


 殿下は妖精眼を光らせてみせた。既に彼のことも理解している。


「なぜこの国へ」

 来たのでしょうと言い終わる前に克彦殿下が答えた。


「僕に会いに来た。宿命で惹かれあっている」

 あり得ないとは言い切れない。否、むしろすとんと落ちるように納得できる。


「柾彦卿、僕も一度向こうへ……北方人民連邦へ行きます。卿は戦端の準備をお願いします」


「お待ちください」

「まだ捕まる事も死ぬこともありませんよ。彼がそうであったように……


 それに、世界を一度見て回りたいと想っていたのですよ。素晴らしい物を創り上げたら皆が驚くかもしれない。そしたら卿が明日の先に進めるかもしれない。世界を驚かせる為の旅をしたい」


 克彦殿下が自らの運命をそう断言するとワタシは止める言葉を失う。離れていく殿下の背中を臣は見送るしか出来なかったのです。


 冷たい風の中を行くその足取りに何故か希望を感じたのでした。


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