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ep13:婚約/マロウド/青写真.

 蛇眼陽暦102年水の月、円国に帰国。甲辛国際学園で青春していた造彦君が目についたので捕まえて殿下のご近況を把握する。


 生徒会に所属してそこで相談役をやっておられるそうだ。他国の王族や高官子弟をはじめとして平民や異界人とも幅広く交友されている。


 ワタシの掴んでいる情報と相違ない。上手くやられているようで何よりです。それでどうしてご婚約などと言うことになった?


 ふむ、生徒会の縁でシェケルブルク王国の姫君モイタリア王女殿下と交友が出来て、婚約の話が進んでいると……。思案する困った話自体は有りだ。


 今後の事も含め本人を交えて話をするか。殿下とアポイントが取れて学内のベンチで会う。


「お久しぶりです。学生生活は楽しめておりますか?」

「大変に思う事もあるけど良きに過ごしているよ」

「それは重畳。まあ今クソ食らえと思っても振り返れば悪くなかったと思えればいい。なので今楽しめているなら上等なもの、後悔なきようにお過ごしください」


 しばし雑談に興じた後、殿下から本題をきりだした。

「それで、婚約のことなんだけどね……」


・王女は昔、異界に迷い込んだことがあり妖精の因子持ち。

・王女から殿下に惹かれ、名分、利害などの外堀を埋められ反対理由はほぼ解決済み。

・克彦殿下はその王女については憎からず思っている。


「王族や貴族の婚礼において悪くない相手というのは当たり部類ですよ。恋においてはその王女殿下が一枚上手でしたね。勝負あり」


「他人事みたいにいうなあ、卿は僕の相談役だろう」

 薄茶のふんわりした巻き髪を弄びながら、殿下はワタシに言葉を投げる。


「ご命令があれば臣は阻止に動きますよ」

「ボクさ。まだ結婚は早いと思うの」


「婚約ですよ。保険のようなものです。この先行うことがのために支援のあてや、帝位と距離を置くことは欲しいですし不都合なら取り下げられます」


「下手な断り方もできないじゃん婚約って……」

「アナタは来る時が来れば決められるお方。迷わずとも時が来れば答えは出せましょう」


「冷徹な臣でボクには過ぎた存在だよ卿は」

 後日、両殿下のゴタゴタは内婚約という形で、書面だけ交わして広く公表しないことになった。


 その後、克彦殿下と内婚約なされたモイタリア王女殿下とお会いした印象を言うと……金髪で青白く、人形のように整った顔立ち、殿下に対する愛情が思い方だと感じられる。


 女傑の片鱗が見えるな。後日「ボクの周りの(ひと)は気丈な方が多いね」と克彦殿下が親衛隊員に言っていたそうだ。


 蛇眼陽暦102年の秋。ある方から殿下と直接お話ししたいと申し込まれた。克彦殿下と共に帝都の下町まで訪れる。


「ここ、隣町の駄菓子屋じゃない。家から遠いからあまり行かないけど、揚げパンがおいしい店。前六門君達と行ったことある」

 平民時代の克彦殿下に馴染みのある場所だった。


「いらっしゃい。あら、先年ぶりですね。克彦殿下」

 そう言うと店主の黒髪お姉さんが大きめの丸メガネを外し、目が鋭くなる。


「おや、鉄冑蓮の総帥の」

過城季節(すぎきせつ)でございます。市井の頃からご贔屓に」


 駄菓子屋の時と印象が違って総帥と同一人物だと克彦殿下は気付かなかった様子。

「えーと、お話しをしたいのは過城殿でよろしいですか?」


「姉の方だ。あの眠り姫は普段起きないからな。起きている時、こういう時じゃないと会話できない。2階に上がってください。そこにいます」


 過城季節の姉、過城贈礼(すぎおくれ)。眠りまくる転生障害を持っている。別の世界からの魂が規格の違う肉体に入ることによって不具合が起こるという理屈だ。


 ワタシやワタシの姉にも転生障害があり、姉は一日中ボーッとしているし、ワタシはワタシで朧げな前世の記憶と感覚のズレとやや人に嫌われやすい所がある。

「どうも。殿下。本来私の方から赴くのが筋なのにこの通りの有様で申し訳ない」 


 寝癖でボサボサした髪。駄菓子屋モードの季節よりもさらにゆるい感じのお姉さんが布団の上に体を起こして我々を迎えた。


 手に包帯で万年筆が縛り付けられていて、常に眠る時も、起きている時も何か、図なり、表なり、手紙なりを書いている。


 彼女はマロウド即ち転生者の相互扶助組織転生者組合のトップであり、転財閥の名誉会長。 また各界多くの有力者との文通を行っているメルサー(解説:メールサークルの意)の姫という多方面に大物だ。


「手紙のやり取りは何度かしましたがやはり一度、直接お会いしたいと無理を言ったことはここでお詫びしますね。


 我々が予想している北方人民連邦との衝突が起こり、そのシナリオ通りに殿下がご活躍されると仮定して。


 殿下は望む望まずに関わらず国政に対して影響を持つことになります。わかりますか?」

「自明ですね」


 短くそう答え、克彦殿下と贈礼嬢が会話をしている。

「その場合、殿下に政治や国家についてどうしたいという希望は有りますか?


 予算とか地政学とか考えず理想を思うところを語ってくださいな」


 ざっくりした問いである。

「僕もこの身分になって多少は政治について学んだ。祖父である先帝から続いている富国強兵を引き継ぎ、神代から続いている帝国皇統を重んじた上で……。


 臣下や臣民、今の父や家族である皇帝陛下や皇族の皆の頑張りや努力や費やしたものが報われる事を願う」


「ほう」

 殿下と会話しながらも贈礼は手に縛り付けた万年筆を走らせて手紙を書いている。

「人はみんな頑張っていると思うのです。ボクは。才能とか環境とか方向性とか運否天賦などで結果が違っても」


贈礼の万年筆が止まった。

「サボっている人や殿下に反対したり敵対する相手もですか?」


「うん。それはその人にとって必要な事、敵でも嫌いな相手でもボクは報いたい。彼らは頑張るという料金を支払った。だから美味しいものを食べさせてあげたい」


「敵でも嫌いな相手でも面白い事を語られますね。具体的な考えはありますか?」

「ご講義で空栗先生から聞いた話なんだけど異界って外理学の応用で作れるらしい。今は実験室レベルだけどつまり空間、資源は限りなく調達できるんだ。


 後はそれの分配システム。例えば今日(こんにち)の世界で生産される食料は全ての人が飢えないだけの量はあるんだ。


 分配システムを整えて運用できれば解決できる。異界で得られるリソースがあれば尚更。お客様に不満がなく充分な空間と資源を充分に分配する分配システムを整えて運用したい」


「話を聞いていると北方人民連邦の統制経済に通じる所がありますね。それと家とご飯だけでは満足しない人も多いのでは?」


「制度に対して、好悪の感情はありません。現帝国のように君主制の下での生活保障制、有事統制制を考えておりますが、君主制も民主制も資本制も共産制もその下で営む者たちが納得して幸福ならいいと思っています。


 やりたいなら、異界一つあげるのでそこで別のやり方をやってください。分配運用システムや住人の他所いく権利を保証するならになりますが。


 国民が生産する限り国は富を生み出し続けるそうだ。我が国は2000年以上続いている。この先2000年続くと仮定していくら借りられる? いくら刷れる?


 お金で解決できない問題もあるけど世の中の多くの問題はお金で解決できる。と言った具合にできるだけのサービスはしてあげたい」


「全ての人が満足できますか?」

「今は無理だね。けど満足できない人を2人に1人、3人に1人と減らしていきたいです」


「互いの願いが食い違う場合は? 私の妹などは故郷や同胞を蝕み危険に晒し危害を加えた者が報われるのは納得しないでしょう」


「妥当性や分配システムへの影響などを考慮して優先順位をつける事になりますね。僕は大円帝国の皇子です、国家臣民を優先する立場に変わりはありません。


ですが未来永劫報われないループが続くのは避けたい。何かしらしたい。僕の理想は当代では無理でしょうね。


 恨みや罪を精算をされたいのなら止めません。ボクには復讐や自殺を止める権利はありません。それも人の営みだと考えています。」


 そう、殿下は話を締め括った。


「子供の夢ですね。画用紙をはみ出すくらいに描いた。殿下は料理屋でお育ちになったそうですがその教育の後が見えます。善良な養父殿であったと伺えます。


 子供の夢も嫌いじゃない。この街も営みも風土も先の子供達に残してあげたい。大人になった時に要る要らないと選ぶ権利を与えたい」


 眠そうに目を細めると贈礼殿は続ける。


「宜しい。転生者組合のマロウド一同、及び転財閥は殿下にこれまで以上のご協力を」


 そう宣言すると贈礼嬢はばたんと布団に倒れた。

「長く起き過ぎました。眠ります」

「お休み前に僕からもよろしいですか? なぜ、あなた方は対北方人民連邦との戦いを決定したのですか? 


 この国が荒れたらあなた方も困るそれはわかります。けど、それだけじゃない気がする」


 寝ようと布団に包まる贈例に克彦殿下は最後とばかりに質問する。

「我々は別の世界の歴史をいくつか知っている。そのパターンとしてあの手の勢力はあまり歓迎できないのですよ」


 それを言うと贈礼は少し間をおいて続けた。


「いや違うな。責任、罪滅ぼしですかね。ここに懺悔します。いずれ帝都に迫りくる震災。そのパターンや別世界の歴史情報は我々から北方人民連邦へ流出してしまった。


 そして北方人民連邦はそれを前提に侵略計画を進めている訳です。我々は余所者。しかし庇を借りている身、されど垣を壊してしまったら修理なり弁償なりしますよ。


 私らはそうしない事が美学にもとるのでね」


 言うだけ言うと過城贈礼は寝息を立てる。同時に手に縛られた万年筆だけは別の生き物のように手紙を量産していく。


 下町の駄菓子屋2階で行われた対談はこうして終わる。結果だけみれば、会談し更なる支援援助を取り付けられたという事でいいだろう。


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