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ep12:入学/対者の影/急報.

 月が変わって蛇眼陽暦102年卯の月。克彦殿下のご入学である。文弘厩克彦親王殿下の甲辛国際学園ご入学である。


 ワタシは父兄ではないので御入学式に出席できない。来賓として忍び込んだり紛れ込んだり捩じ込んだりしたら殿下の妖精眼でバレるので学園の外からお祈りするしかないのだ。


 火を焚いて、水被って祈祷でも行うかなぁ……。と準備を命じたが末盧達が無視するので祈祷は無理そうだと諦める。


 仕方がない。待っていれば紛れ込ませた親衛隊葛原派所属の生徒から殿下の新入生名誉代表(皇族枠)としてのスピーチやご様子を聞けるのだ。気長に待つさ。


『本日、私たちは新たな学び舎の門をくぐり、同じ時間を歩み始めました。新入生名誉代表としてこの場に立つことを、私は特別な誇りと同時に責任として受け止めています。

 しかし、ここでは身分や国を越えて、皆が同じ「学ぶ者」です。遠くの国から勇気を持って留学してきた方々、家の伝統を背負って進む方々、そして新しい未来を自らの手で切り開こうとする方々――

(中略)

ーー私たちは違いを抱えながらも、互いを尊重し合うことで、より強い絆を築けると信じています。

 この学園での学びが、理解を広げ、誰かを照らす力となるよう、私自身も努力を惜しみません。どうか皆さんと共に、この日々を紡いでいきたいと思います。

 これから始まる私たちの旅路が、豊かな実りに満ちたものとなりますように。新入生名誉代表 文弘厩克彦』ーー文弘語録記よりーー

 同、蛇眼陽暦102年卯の月。殿下が学業に専念する為に親衛隊の活動は分割される。一つは造彦君指揮下で殿下の警備を行う。その一部は殿下と共に学習しつつお世話や補佐も行うことになる。

一つはこれまで通りに自警団や警察と事件に対処する乱段殿が指揮する。最後の一つそれ以外は各自で技能を高めたり修行したり英気を養う。

 さて、殿下のご入学を見届けたワタシは円国から西の大陸北方人民連邦北陶土行政区。陶土(からもろ)と呼ばれる地域に来ていた。この地域は埃っぽかったり、トイレの壁がなかったりと感覚が違う。

 下手な病気になるのも不本意。なので、浄化や解毒などの複合術を定期的に行っている。同行している末盧などから「現地人に発術光でピカピカ光を放つ怪人だと思われかねないですよ」と諫言。

 ワタシには諫言を受け入れる度量があるので、術式を改良して光らないようにした。ついでに末盧達にも複合術で定期的に綺麗にしてやる。

 さて、話を戻そう。わざわざワタシが陶土まで来たのは自らある遺跡を調べる為。

 かつて戦争があった。だいたい14年前、蛇眼陽歴87年から88年。北方人民連邦の前身であるルブル皇国と大円帝国との間での戦争。陶土での権益を巡ったマドカルブル戦争である。

 先帝の時代。当時陶土を支配していたテール朝との戦争に勝利して陶土での権益を得た円に対してルブル皇国が介入しマドカルブル戦争が勃発。

 紆余曲折あって円軍は陶土にあるルブルの重要拠点を攻略し、海戦に勝利したことで和平条約が結ばれた。

 そのマドカルブル戦争で行われた一戦闘の跡地へワタシは向かうつもりだ。


 陶土から北へ。本テール行政区、陶土か否かには諸説ある地域であり主な住民はテール族である。陶土に近しい学者は陶土の一部だと主張し、旧ルブル、旧テール朝、円帝国などは独立した地域と主張している。


 この地にある遺跡で円軍の調査部隊とルブル皇国の特殊部隊が襲撃。結果自体は痛み分けに終わった。だが遺跡から持ち帰った遺物や文書を研究に応用したことにより両国の外理学は飛躍的に発展し、現円国と革命でルブルを引き継いだ北方人民連邦が強大化。多くの植民地を持ち膨大なリソースを注げるポンド・ドールが加わり今日の三大外理国となっている。


 本テールの地に到着すると先客が待っていた。

「ご足労いただき感謝します。閣下」

 白い髪をオールバックにし痩せた老紳士。鷹司(たかつかさ)少将。マドカルブル戦争時は外理術将校として、現在は予備役で外理学の権威として活動している。


「何、懐かしい場所に行ける機会を与えてくれた事を感謝しているくらいさ」

「閣下にはこの場所でコレを見ていただきたかった」


 末盧に運び込ませた物は舎人医師から借りてきた術具。土器製の輪投げセットみたいな祭具。幼い頃、ワタシが因果を収束させた結果。現在 陛下と妖精が出会い殿下が産まれる運命が紡がれた品である。


「ほぅ」

 流石、外理学の第一人者。この術具の特異性に気付いたか。


「素晴らしいモノだな。知っているそれと完成度がまるで違う」

 鷹司少将が手袋をはめて術具に触れる。

「やはり、ここに同じモノがあったのですね」


 鷹司閣下のご様子でワタシの推理は確信に変わった。

「同様の原理、用途の外理具という意味でなら同じであろう」

「閣下はコレをどう考えます」


「端的に言うならば『人造天子(じんぞうてんし)』あるいは『人造救世主』『成功異能体』の製造道具。柾彦卿、人は何故外理を求めるのだと思う」


「常理。通常のシステム、法則では得られないモノを求めるから」

 閣下の求めている答えに当たりつけて口にした。問いに応じたことで続きを促す。


「そう。世の中にはどうにもならない不条理はいくらでもある。個人レベルの才能やリソースの不足から蛇眼黒点が現れ、かつての人類が滅亡を覚悟した寒冷化に至るまで……」


 閣下は息継ぎをして話を続ける。

「この術具は、そんな不条理を丸ごとひっくり返す。その条件に合致する子供を現世に産み落とすそんなマジックアイテムだ」


 月の御子という概念があるグレートビーストの二つ名を持つポンド・ドール外理学の大家が提唱した。魔術的に産み出す子供の事だ。この術具で産み落とす子はそれの究極系。


 高い運命力でどのような境遇でも死なない人間が存在する可能性についての論文を読んだことがある。


 同様に高い運命力でどのような事態にでも成功できる人間が作れるのではないか? と幼き日のワタシも考え北方人民連邦の外理学者も同様に。


 我国と北方人民連邦に二つの同質の術具。殿下の対となる存在が向こうの国にもいる可能性、否、必然的な確信。まさかと言うよりやはり言った感覚。


「やはり、彼の国にも居るのですか」

「やはり、我が国にも居るのだな」


 ワタシと閣下との間にこれ以上の言葉は要らなかった。目的は果たしたとばかりに遺跡を後にする。


 鷹司少将と別れて、宿に戻ったワタシ。

「これからどちらへ」

「おおまかには仕事は済んだ。後は他に任せてもいいだろう」


「あと2、3年くらいでしょうか?」

 北方人民連邦との戦争はと言う言葉を抜いて末盧は聞く。

「確認して周るか。それとも向こうのキングへの対策(メタ)を貼るか。殿下の対が誰かと当たりがついている北方人民連邦裏総書記とされる人物だ。レディンと言う名らしい……少し考える」


 夕食ごろまで1人部屋で思案していた。100個ばかりのアイデアと無数のシミュレーションを行ったがコレというモノはない。


「殿下の件で速報が届きました。急ぎ伝えるべきと判断したので申します。ご婚約されるとの事」

 末盧からの知らせ、部屋を出て手紙を受け取り自ら読む。もう一度読む。


「克彦殿下。婚約されるのですか? ワタシが提示した相手以外と……」

 とりあえず帰るか。殿下に直接お会いして話をお聞きしなくてはいけないな。


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