ep11:年末年始/試験/カウントダウン.
月が変わって、蛇眼陽暦101年師の月。西洋救世者教にて彼の救世者の誕生日を祝うクロス祭典。近代化した昨今において民間では騒ぎ商い交わる口実。一方で政府、貴族、皇族にとっては内外と交流する一大期間である。
そんな中、我ら克彦殿下陣営も大忙しな訳だが、時間の流れが違う異界へ殿下に連れて行って貰い。そこで休んだり内職できるので他所と比べたらだいぶ余裕がある。
だが、まあ周囲が忙しい雰囲気だと此方も吊られて疲れたりする。そんな状況なので友好だったり恩を売りたい他所へ手伝いや寄騎働きばかりしていたのがこの頃であった。
「こうやって聖誕祭宴で親衛隊の面々を見るのも久しぶりな気がしますね」
殿下の友人である平民隊員六門君が料理を堪能しながら話しかけて来る。
「それだけこの重要な時期に動くことができた。そう思っておこう。警備の役目や他に予定があってで来れない者もいるが殿下の用意してくださった宴だ楽しもう」
「違いない。しかし克坊が居ないのは寂しいものだ」
平民時代は殿下のいたグループの中心兼切り込み役だった彼は浮かれてか、その頃の殿下の呼び名を呟いた。聞こえなかったフリをする。
ここ、離宮の第二広間では親衛隊や派閥内向けのパーティが催されているが、第一広間では外向けのパーティが行われていて克彦殿下もそちらに居る。
サーモンプロシュートのサラダ、ローストとフライドのターキー、アイスバターホイップの三種ケーキ……小皿が多々菜々。
「向こうの様子どんなもんなんですか?」
グラスを手に持つと六門君と乾杯、そう問われた。
「まあ、普通、平常の範囲内だ。貴族や皇族基準でね。外国の客が多いのは殿下の御進学前の顔つなぎもあるだろう」
「色々と違うな。俺らの感覚だと学校に入った後仲良くなるものだが」
「村の掟の違いだよ。ワタシから見るとそれを狡いと見るか大変だと見るか」
グラスを傾けて喉を潤す。
「アンタはどう思っているんだ?」
「いい方向に進んでますよ今のところ」
年の瀬は何かと忙しい。その年の総括やら新年の準備やら、殿下には入学のためのお勉強に皇族としての役割まである。
パーティはあまり好きではない。今もそうだが、今日のこの場は愛おしく思ふ。本会場の迷惑にならないように少し音を抑えた帝都節や教科嫌いを聴きながらもう1杯シャンパンを注いだ。
月が変わって、蛇眼陽暦102年陸の月。帝都にある甲辛国際学園の試験会場。
その外でワタシは会場の様子を思い巡らせていた。理事からの推薦なり正規手続きで入学する必要はない。
だが「ちゃんと試験を受けたい」と意思を示した殿下はそのあたりくくるお方のようだ。ワタシ個人必要ないと思う所は省けるなら省く性質をしている。
後ろを見ると親衛隊やぽつぽつとだが派閥の面々も様子を見に来ていた。その数は数百人。いつの間にやら親衛隊も数百に増えていた。造彦君が乱段殿やら師範の橋科殿やらを連れて面々の解散誘導をしている。
「庶族兄、こんなに集まったら迷惑でしょう。警察も来かねません。さぁ解散して帰りますよ」
「ワタシもか? 我相談役で幕僚なのだが
……そうだ! 合格発表にも来るぞ」
「やめてください。本当にやめてあげて」
造彦君に襟首掴まれてワタシの自宅である方の葛原邸まで連行された。
月が変わって蛇眼陽暦102年如の月。最も冷え込む季節。鼎財閥、マロバシ財閥、甲辛国際学園らが共同で行う。新技術発表会が行われる。
乗用ゴーレム、工業機械、戦車、飛行艇、医療、転移術式、缶詰、人工精霊、電気式階差機関……新大陸にあるポンド・ドール領で行われた博覧会には規模では劣るだろうが画期的な新型、新発明が多くあった。
「来たるべき戦争でも役立ちそうな物が多いですね」
ワタシにだけ聞こえる声で殿下は話を振ってきた。
「ええ犠牲が損害が減るでしょう」
「勝つつもりかね」
「もちろん。戦争は計画通りにはいかないと言うのは正確ではありません。稀だがおおよそ計画通りに進行した戦争も史実には多くある。
ワタシは行けるとと判断できるだけの材料は用意しましたし」
「行かなかったら?」
「破綻したらオリジナルチャートのアドリブで突っ走るさ」
「何度も話したが戦わずに済ませる方法は無いのか?」
「より犠牲を望むならば……政治家や官僚機構、学問、経済、芸能……ワタシが動いた時には既に広く深く侵食されている。外科手術を推奨するフェイズでしょう」
「生産されて、配備されて、訓練が行き届くまで何年かかかるね。確実に近づいて来る気配……嫌悪し覚悟しながらも興奮や期待に近い感情も皆無ではないのがイヤになるよ」
喜ばしい。この方がワタシにここまで深い本音を聞かせてくださることが……。無数の布石が一点に収束し始めた事象を感じながらワタシは殿下の伴として会場を巡った。
月が変わって蛇眼陽暦102年芽の月。大陸旧陶土にある国際都市の雀開市。元々列強諸国への反発が強かったが円国が油田を発見した事で、より強まりルブル系、陶系住民による暴動、焼き討ち、邦人への危害、略奪などが行われた。
「円奴共を追い出せ、殺せ」
「ウィヤアアア」
更に、北方人民連邦の64軍が雀開市付近に接近中。
円国統帥司令部は「条約に基づいた正統な権利への侵害」「大陸への派兵は好ましくは無いが、不干渉というわけにもいかない」と邦人救出の為に軍を展開することを決定。
今、弱腰に出れば相手から甘く見られ権益や外交にも影響が出る。軍事力は適切に使わないと意味はない。と考えているんだろうなイモは引けないといった所か。
現地で演習していた文弘厩親衛隊にも招集がかかり、かからなくても嫌でも関係する場所だが形式は大事である。雀開市に展開。現地の駐屯部隊と一緒に円国の邦人や巻き込まれた他国人、建物を防衛している。
「まず、今回の件から戦争に発展することは無いと見て良いでしょう。円国と北方人民連邦の双方に戦争するだけの準備が整ってませんし上も下もそこまでする気持ちはありません。まあ、ファンブルが何連続かで出たら別ですが」
ミーティングのつかみは受けなかった。まあいい。話を続ける。
「64軍には雀開から距離を取るように申請したが聞き入れられず、発報事件からの武力衝突へ。
我が方は第三艦隊と総勢4個師団の戦力で艦隊の支援を受けながら二手に分かれて上陸中。64軍を包囲して降伏もしくは無力化するのが目的。
我が部隊は第一に邦人の保護と円国の建物を防衛。第二に上陸部隊の支援となる」
「質問です。第3目標以下もありますか?」
「強いて言えば味方の損害を減らすことだな。後は敵を混乱させて壊走する方向へ誘導できれば何よりだ」
「通信。前線の克彦殿下、こちら親衛隊司令部。相談役の葛原殿からは以下の通りです」
克彦殿下はご母堂の加護か弾や術が当たらないので東方遠征の大王や越州の軍神、伝説も斯やとばかりに前線で味方を鼓舞しておられる。
冷静に考えると御厩様の戦い方ではないが、現状ではベストであり被害軽減、味方の士気上昇、敵の恐怖畏怖拡大と効果が出ている。
「通信。殿下からまだ余力はあるが追加注文はあるかと」
「貸してくれ直接話す」
通信している隊員から通信機を渡してもらうと一瞬、躊躇を置いて直接話す。
「こちらは幕僚の葛原であります。追加オーダーありませんどうぞ。
余力マージンと品質クオリティの為に使ってくださいどうぞ」
「上陸のタイミングに合わせて、攻め込んで来ている敵を敗走させ。そのまま味方の上陸支援。上陸後は首切り戦術による撹乱と威圧、挑発によるコントロールで64軍への壊走誘導を行います」
「頼みました」
普通の指揮官や部隊ならば素面で行わせる運用では無い。けど、殿下ができると言うならば可能だろう。
「そこの分隊、私と共に……」
十数分後、殿下が数騎の供回りを連れて突撃を敢行、すり抜けるように人混みを突破し前線指揮官3人を負傷撤退させ。そのまま反転攻勢に出て攻め寄せていた北方人民連邦軍は後退。
「敵が壊走する。後詰め以外は全軍追撃!!」
そのまま後詰めに残した以外の全部隊で幾何学線を描くような軌跡で水際防衛している北方人民連邦の部隊を会敵必殺にぶっ倒す。第三艦隊からの36センチ3連砲の15門の砲撃、航空支援、術式支援と並行して円国軍4個師団の上陸を支援。
「続け……」
静かにしかし芯にまで響くように一言命令。
その後は4個師団が戦車、小銃の優位と各種支援を背景に包囲を進める。その中で親衛隊は敵指揮官狙いで統制を崩し、砲火や突撃で軍勢を追い立てての包囲を側面支援。
「砲撃」
「突 撃」
「」
最小単語、あるいは命令がなくても以心伝心とばかりに動く親衛隊。
更に砲火や突撃で軍勢を追い立て壊走へと北方人民連邦軍を誘導した。プロパガンダか誇大報告みたいな情報が流れてくる。
多分事実なんだろうな。確信めいたものがあった。近代に舞い降りた神代英雄である。
勝利明けて翌日。記者がどっと殿下の所に来た。
「帝都七草新聞です。巷で殿下を軍神、戦皇子、半妖精のプリンスなどと呼ばれているようですが一言お願いします」
「アカツキ日報です。殿下を先頭に建京まで攻め込むべきとの意見も一部出ておりますがどうお考えですか?」
殿下、一息おいて一言。
「情報発信は軍の広報と端末でやっています。それ以上の事は吟味してお答えします」
御公務スマイルで微笑み、殺到する記者を一瞬惚けさせると克彦殿下はさっとアポなし取材を撒く。今回の事件。巷では雀開事変と呼ばれる事になる。一方で北方人民連邦の工作であるとすぐに裏付けが出来た。
1週間後には両国間で停戦も結ばれるだろう。今後の戦いを占う前哨戦はこうして終了する。




