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ep10:大儀礼/箔と縁/暗天進路.

 月変わって蛇眼陽暦101年神の月。西洋諸国では死者が帰還し、本朝では神々が聖地に集うとされるそんな季節。近年の研究によれば外理力も高まる傾向がある。なので古来から経験則的にそうした儀礼に向いている事を人々は知っていたのだろう。


 さて、文弘厩克彦以下派閥、親衛隊は留守役をのぞいて国教のソモジ宗の大神殿『曇州大殿(どんしゅうたいでん)』にて国家儀式をとり行う。帝都よりも旧都よりも西の中原諸州にまでやって来た。


「厳粛な儀式を執り行います。我々の大半は警備や随員ですが殿下の面子を潰さないようにしてくださいね」


 いつの間にやら学級委員長みたいな立ち位置になっている造彦君。面倒見よく親衛隊の面々に説明をしている。


「質問、向こうが喧嘩売って来た場合はどうしましょう?」

「ウチは金満部隊だ。高値で買ってやれ」

「相手しないと殿下の面子が潰れる場合は? どーします」


「ヤれ! 何かあってもそこの相談役がなんとかする」

 揃えた指をワタシの方に向けて勝手を言う。血の気が多い。この前米価格で比企谷公園焼き討ちがあった時、警備動員されたせいでコイツら熱が移ったのか?


 神殿の中に入ると衣冠束帯姿の克彦殿下が出迎えてくれた。

「こう言った大きな儀式は初めてです。上手くやれるでしょうか柾彦卿」


「基本はもとより応用まで頭に叩き込んで一通りの実演もされましたよ。貴方に礼法を指導しお墨付きを与えた造彦君を、問題ないと判断したワタシを信じてあげてください」


 適当な事を行って不安を誤魔化す。

「そうかな、そうだね。僕の臣下だ。信じてあげないと、ではそろそろ行くよ」


 会場へ歩みを進めていった。広く木材が多く使われた儀礼場。粛々と進む、祝詞の音、木の匂い、派手さの無い品のいい装飾……。


 日々の喧騒と対比するが如く静かで、ここが一種の異界なのではと錯覚した。儀式の終わり、意識するでもなく慣習でもなく自然と礼をしている。


 儀式を終えた後3日、会合や宴、事後の儀式などがあったがそれも終わり。集まった皇族以下貴族や臣民、海外からの来賓も1人また1人と解散していく。


 親衛隊などは帝都に帰して殿下や我々は旧都で西円(にしまどか)の有力者や有識者や協力者と交流する予定だ。

 

 予想される対北方人民連邦との激突に備えて、方針の確認や意見の収集、調整などを行う。


 阿能(あのう)園生(そのう)近羽(このう)土嚢(どのう)殿達の政治家や(ミツアシ)財閥、(マロバシ)財閥といった財閥、自警団連合である鉄冑蓮……。交流の結果これらの事が決まる。


・テロ、スパイ、災害への対策

・官民の連携

・西円への避難撤退


 主に方針の再確認と細部の修正、現状報告に留まったが大きなプロジェクトである。やる必要性も全体が順調に進んでいるという目的の共有となどの有効性もあった。


 月が変わって蛇眼陽暦101年霜の月。風が冷たくなってくる時期である。離宮の克彦親王サロンにて、ワタシは殿下とお話しをしている。ビスケットを手に取りミルクに漬けた。


「ワタシはね。パーティーとかあんまり好きじゃないんだよ」

「意外ですね。よくパーティーとかしておられるし、出ておられるのに」


 殿下は首を傾げて話に乗ってくる。

「そりゃするさ。貴族なんてものは箔とコネの商売。諸々の付属要素はあれどね。


嫌いなヤツとの時間とか、費やす金や労力とか準備や行くのが面倒とか……まあ、価値観に合わない事にリソースを使いたくない」


「好き嫌いはありますからね。料理なんかでも、理想としては苦手なモノも美味しく食べて欲しいですがなかなか難しい」


 ミルクが染み込みシナシナになったビスケットを口に運ぶ。克彦殿下の話は料理屋としての習性や経験だろうね。

「逆に有り合わせのミルクとビスケットでも気が合う方や面倒な催しなんかがなければそれで十分楽しい」


「目にする卿はほぼ何時も楽しそうに思えます」

「殿下のサロンもその辺を意識されたのですか? サッパリして不要なモノ不快な物があまりない」


「離宮をいただいた頃からサロンを初め、手探りで続けていったら今の形になりました。それぞれ好みはありますけどサロン全体では嫌な思いをしないように工夫して落ち着いたものを。


一人一人のお客様に喜んでいただけるように個々のサービスを……特に雰囲気と口にする物にはこだわっています」


 区分けされたサロンの一画、一足出ると先ほどまでの静かな空間とは別物のように広間が賑わいを見せていた。


「殿下、吾妻叢(あずまむら)伯爵が、お話ししたいと」

 親衛隊の1人が取り次ぎに来て、殿下は「少しお暇します」と吾妻叢伯の方へ行ってしまった。


 殿下が帰ってきたのはビスケットとミルクで割とお腹が膨れた頃合いである。

 

「吾妻叢伯爵から理事をしている甲辛国際学園へどうかと? 入学を打診された」


 新興の学園だが、見聞きする限りの環境は悪い者ではない。吾妻叢伯爵としても皇族入学者という箔が欲しいし恩が売れる。


「悪くない選択肢だと思いますが、殿下のお心は?」


「皇族の多くは帝立学秀苑学園に通うからそこでもいいと考えていたが……あちら側の方が運が開いてそうだ」

 殿下が妖精眼を輝かせて述べると、ワタシも星辰を覗いた。

「留学生や特待生……かの学園にはこの先殿下を助ける縁があるでしょう。吾妻叢伯は殿下を入学させて箔をつけたい。


殿下は甲辛国際学園に入学して縁を得たい。悪くない取引ですな」


 互いに共犯者の顔をして意図を交わす。早々に結論は出た。


「陛下に相談しておこう」

 言葉短く殿下は内諾の意を示す。吾妻叢伯はいい話を持って来てくれた。


 甲辛国際学園とは、甲辛諸州の交告(こうけつ)の地に吾妻叢伯爵が創立させた学園である。


 シェケルブルク王国のノレレンベルク大学と協定を結んだり、庶流や傍系が多いとはいえ各国の王族や有力者の子弟などを受け入れている。


 それと以前調査に協力した空栗先生もここに招かれ研究所を構えていていたはずだ。


 後日、皇帝陛下と会って話をするから一緒に来るようにと克彦殿下に連れられて参内。


 通されたのは宮廷にある森の中、帝都府を拠点にしていた江門(えもん)徳大羅(とくだいら)軍閥(ぐんばつ)の城を改築した現宮廷は森に囲まれている。(*)宮廷を覆う森の中、その四阿にて皇帝と皇子が対面していた。


*:江門:現帝都府。

*:徳大羅:氏族、現徳大羅公爵家。


「克彦様は将棋と乗馬がお好きと聞きました。私も嗜むのですよ。また、洋食をよくお食べになるとも聞きました。ああ、大人になったらワインでも傾けながらお食事をしたいと思っています」


「ありがとうございます皇帝陛下。育った場所が場所なので洋食には馴染みが深い方です。元服の折にはワインについてご教授ください」


 現陛下がおっとりとした方なこともあって親子の時間はゆっくりと流れた。おおよそ一刻(2時間)、殿下が甲辛国際学園へのご入学を希望するのは他の皇族への隔意からではない。と説くと陛下がご理解して頂けた上、陛下は侍従達へ殿下の希望に肯定的な意を示した。決まりである。


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