ep1:破滅的未来/暗殺的現在/幻想的過去あるいは未来.
雰囲気のために一部造語を使用しています。
異界=ダンジョン的なモノ
マロウド=転生者的なモノ
外理=魔法的なモノ
程度の感覚でお読みください。
ーーー葛原柾彦 観 蛇眼陽歴100年より106年までーーー
蛇眼陽暦106年長の月、月旦。円国の東、平洋の海上。北方人民連邦が宣戦布告、帝都で大地震、軍の一部部隊が離反、宰相が降伏し北方人民連邦を引き込んだ。と『国家滅亡』を予感させるワードが次々と流れてくる。この日、帝国は滅びるはずだった。
一方でワタシはその情報の洪水を耳にするに勝利を確信していた。勝利確定。
「バカがやはりやらかした。艦隊を帝都へ急行させる。案ずるな、震災に対する備えも侵略に対する備えもされている。上は陛下から下は臣民まで救うぞ」
後の帝都震災事変と半年戦争と呼ばれる戦いの始まりであった。
ーー第一部 開戦編 始動ーー
ーー 6年前ーー
蛇眼陽暦100年、太陽に縦長の影がかかる蛇眼黒点が出現し寒冷化が続いて100年。大円帝国ソモジ朝では先帝統盟帝に政権が返上され近代化政策を行われる。一定の秩序と繁栄を得たが弊害的な皺寄せも多くあった。
酩酊のような感覚でワタシはトンネルの中を歩いていた。暗く、湿っていて、空気さえもヌメリ気がある。温度は高くないが妙に暑く感じ、うすら汗が滲む。快くないどころか正反対な心境をワタシは慣れない足取りで歩いていた。
トンネルの中を歩いていた。足音が響き、靴越しに石のような硬さの床がわかる。愉快なものではない、軽活なモノではない。見回すが灯りなどなく緑にボゥっと輪郭がわかる。語ることもなくどれほど続くのかと苛立つ頃にトンネルを抜けて景色が開けた。
急に明るい所にでで白味益々な視界を鳴らすために、周りを見回すと男がいた。人のことを言えたものでは無いが前髪が陰気な同年代くらいの男だ。
トンネルの中にこのようなヤツはいただろうか? いないな。訝しげに眺めていると思い出す。そうだ、コイツは同輩だ。同門であった末盧灯一郎だ。一緒に峠を通る高官を切りに来たのだ。持っていた刀に気づく。
「白昼夢でも見たか?」
「ああ、吉兆だな」
相棒の言葉に対して適当なことを言う。まあこれからやる事が、やる事だ。景気がいい事を言っておく。
「緊張はないようだな」
「言われたら緊張してきた」
向こうもワタシの妄言など信じてない。この戯言を口実に相棒と雑談しながら蝉鳴き轟き。静寂を覚える山道を行く。トンネルよりも幾段も心地よい。
開けた場所にでると景色が見えた。蝉轟き静寂を覚える山道は曲がりくねり、向こうの山まで続いている。
いつ頃からか、物事への楽しさが見いだす事が出来なくなった。『なぜ、この世にいるのか?』と自問を重ねる。昨日を終わらす為に酒をあおり、今日を凌ぐために無為に過ごす。
そんな折に麒州の宿場、学友であった末盧灯一郎から襲撃の話が来た。
過塀治事。麒州県の『治事』であり、隣国北方人民連邦と親交友好を是とする派閥に所属しているが実態は売国奴であり、金銭を受け取り国政を妨害していた。それを証明し弾劾したワタシたちの師である空栗先生を彼は追放し、他にも多くの人材を排除する。
過塀の如く老奸臣は好きではないが、襲撃して暗殺など気が乗らん。されど、我が師であり、我が学友である。これまで通りの日々よりはマシと協力することにした。
辿り着いた。『治事』一行が通るはずの峠まで到着した。
「よくもワタシを暗殺などという『テロリズム』に勧誘してくれたね」
「乗りそうだったからな。そう言う目をして空気をまとっていた」
「そこは見込んだと嘘でも言えよ」
隠れて息を潜めるが、また末盧に雑談を投げる。道の先に人影は見えない。辿り着いた。一行が通るはずの峠、おあつらえ向きに霧がかかってきた。
「ほらいっただろう。吉兆だと……人影来たな読み通り」
「機は任せる。陶器の椀を割れ、そしたら俺が単発十連筒を撃つ。後は二人で切り掛かる」
呼吸を止めて、おおよそ数十鼓動。勘と確信の狭間。末盧は一息にお椀を振り落とす。
ガシャリと割れる音。消える間もなく、十の銃声に上書きされ、考えるより先に二人とも動いて。ワタシは一人切り捨てた。
霧の中の暗闘。
霧の中で治事の供回りに刀を振って、刀を避け、刀を振って、刀で受けを不規則に繰り返して。呼吸乱れ、呼吸激しく……どれくらいの時間が経ったかと考え始め。気がつくとワタシは過塀治事の首を切っていた。
治事以外にも、ワタシは3人、末盧は5人ほど切っただろうか。末盧は方膝を土に付けて首の見聞をする。
「やったな。退くぞ」
言葉少なく、撤退が号令された。
峠で公にできない密談を予定していた老奸臣が何者かに殺害される。密談の話は表に出ないから何故か治事が峠にいて、殺害されていたことになるだろうか。未だに軍閥連合政権末期の気風が残る今のご時世にはままある話である。
大した世直しにもならない。
霧の山道、ワタシも末盧も無言であった。襲撃からの戦闘、暗殺による肉体的、精神的な疲労。目的は達成した。だが、さてこの後どうするかと言った。不透明な展望。
一応、この先の冥神山道を抜けて実家の別荘で、しばらくは潜むつもりであるが、その先は何も考えてない。末盧は知らんが少なくともワタシはそうだ。
霧の山道を先に行く末盧の背中が、昔見た西洋画の構図のようだなと一人心地に思う。
昼頃に暗殺をして今は夕暮れ頃、歩いているうちに末盧とはぐれてしまった。霧未だ晴れず。霧に覆われた山道が展望の見えないこの先の人生と重なるな。薄暗い藪、どこまでも続く坂道。細々と続く街灯の光が、霧の中に溶けて消えていく。……ワタシは一人、湿った風を切り裂いて歩いた。
暗殺を終え、山道を行く。この道を行けばはぐれた仲間に会えるだろうか。すでに冥神山道に入っている。ところどころ桟道だ。
道の脇に建物があるのが目についた。古い駅舎だ。鉄道以前、早馬で通信していた時代の産物。作りからして比較的新しいもの、寒冷化以後の百年も経過していないだろう。
中に入ると椅子もあったが横になりたかったので板張りの床で眠りについた。
眠り特有の浮遊感の中で夢を見ている。幼い頃、ワタシには不思議な力があった。古くはマジナイ、当世風に言えば外理と呼ばれる力である。指を刺して軽く呪詛えば絡んでくる悪童など数日寝込んだし、意図して異界へ飛んで遊び場にしていた。
お気に入りの昆虫図鑑はたしか、ファンブル混沌蟲奇とか言う魔導書だったかな。それを見ながら蠱毒を作ったり、妖精郷の跳鞠妖精を『すうぱあぼうる』みたいに、ゴムの玉みたいに叩きつけて投げ遊んだりもした。端的に言えば異能を持ったクソガキである。
そんな折だ。不思議な老人に出会う。クラゲみたいな白い髪をした中性的で美しい人でも、老人だと何故かわかるんだよね。人なのか妖なのか?
恐れなど知らぬ。幼さ故の全能感にて探索の魔力波を飛ばす。
「!!ッ ---- ーーッ」
あの人の言葉は覚えてないが『不躾な事をしてはいけない』と嗜められて、異能を持ったクソガキを異界の出口まで送ってくれた。
胡乱とした状態で半覚醒。いつの間にか眠って夢を見ていた。うすら開けた目に早朝のアジサイ色をした光が紙に伝う水みたいに染みていく。




