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第五十一話 多脚の獣と白き竜

 グルム一行が、馬車に揺られて目的地に向かっている頃。

 ウルバスドゥームの地下深くにある 地下都市の玄関口「鉄鋼門」の防衛指揮所では、ドワーフの兵士たちが慌ただしく動き回っていた。

 そこには、山岳地帯で敵を翻弄し戦力を損耗させることに長けた遊撃部隊が装備を整えて集まっている。

 

 そして、その最奥にはウルバスドゥームの王城『ルブラン』がある。

 その一階にある大広間の奥にある会議室で、ウルバスドゥームの女王を始めとした上層部二十人全員が集められ会議が開かれていた。


 …議題はもちろん、帝国からの宣戦布告である。


「女王陛下。帝国の使者が宣戦布告の尚書を持って現れ、その回答を求めています。…期限は二日とのことでこざいます。」


 軍事防衛部門の長官であるドルム=バセージが、上座の後ろにある玉座に座った、女王グリーム=ヒルデの前に膝をつき恭しく尚書を広げた。


「…舐められたものだ。サトラムス渓谷での敗北を焦り、我が国の鉱脈と技術を奪いに来たか。」


「はい。…おそらくはそのようなことだと…。偵察部隊の報告では連峰より二十キロあまりの場所に布陣した帝国軍は一万を越えるとのことでこざいます。」


 報告を受けたグリームは、金色と青色のオッドアイに不機嫌な色を浮かべながら静かにその報告を聞き流した。

 すると、会議室のテーブルについた他のドワーフの重鎮が難しい表情で口を開く。


「こちらが導入できる戦力は如何ほどになるのか?」


「はい。騎馬隊二千に重装歩兵三千、魔機関弩マジッククロスを携行した軽騎兵一万、そして魔装獣機マジックブルワーク三十を鉄鋼門前に配置する予定です。」


 ドルムは自信ありげにその場に集まった全員に向かって答えた。

 それに対して、他の者たちは口々に安堵にも似た声を上げる。


「…数の上では、十分に撃退出来るほどのものだな!」


「それに、あの重装甲の六本足、魔装獣機マジックブルワークを三十とは、帝国軍も門に近づけないのではないのか?」


 魔装獣機マジックブルワークとは、対魔装騎士マジックメイルに開発された兵器である。

 主に運搬用に用いられている大型爬虫類『アンガス』を模した、六本足の機械仕掛けの獣に、重厚な鎧を施したロナルディアにおける戦車のような物だ。


 内部には四人の属性違いの搭乗者が乗り込み、ドライバーとなる操縦者以外はそれぞれの属性に沿った魔法を、前後に突き出た砲身と上部に据えられた回転式の砲身から発射することが出来る。


「更に、魔機関弩マジッククロスが一万もあれば、帝国軍の撃退も容易であろう。」


 魔機関弩マジッククロスとは、小型のボーガンの様な形から、内蔵された精霊石や魔晶石により、魔法の矢を連射出来る武器である。

 ウルバスでは、この魔機関弩マジッククロスを兵士一人一人に配備できるほどの量を生産していた。


 …二つの兵器は、かつてロナルディアにはなかったウルバスドゥームの新兵器である。


 ドルムは深々と頷いて両の目を輝かせるグリームに振り向いた。


「陛下。お聞きいただいた通りです。後は、それぞれの戦力を各師団、大隊に分けて所定の場所に配置します。魔装獣機マジックブルワークは鉄鋼門の前面に配備し、帝国軍の進軍を許しません。」


 ドルムが配置を口にするたびに副官のドワーフが大テーブルの上に敷かれた地図面にウルバス軍に見立てた白い円形の駒を置いていく。


 それを黙って見ながら、グリームは鷹揚に頷いて慢心も油断もないドルムの目を見ると揺るぎない勝利を確信し玉座の前に立った。 


「…皆の者!戦力は十分に用意出来た。必勝を持って我への忠義を示せ!」


 会議室全体を引き締めるような、凛とした声が会議室に響き渡った。

 その場に居並んだドワーフの重鎮達は、その目に勝利を渇望する色を見せると一斉に立ち上がる。


「「「我らの勝利は、陛下のために!そして、誇りある鉄鋼公国ウルバスドゥームのために!」」」


 その言葉に全員が勝ち鬨のような声を上げると力強く拳を突き上げて鼓舞するのだった。


■△■△■△■


 一方、進軍の準備を進める帝国軍の中で、ブライは自分が直接指揮をする白竜騎士団に配備された、目の前で勇壮に並ぶ白い魔装騎士マジックメイルを眺めていた。


 従来の魔装騎士マジックメイルよりも一回り大きく、武装も盾に長槍だけでなく腰には二本のサーベルが携えられ、いずれも魔法を発動して撃つことができる。

 そして、新しく装備された、風魔法の特性を搭乗者か持っていなくても高速移動を可能にする『属性変換器』と更に強化された『魔力増幅器』の効果で万全な状態になっていた。


 現在において、これほどの兵器はロナルディアにはないとブライは考えている。

 その最強とも呼べる兵器を導入され、訓練を続けてきた自分達こそが、四竜騎士なき今、最強の部隊であると確信する。


「…ジェリル。お前の仇は必ず俺が取る。…ここが終われば次は異世界人共だ。…あの世で見ていろよ。」


 ブライは、そう呟くと戦闘準備に追われる忙しく動いている兵士たちの方へと歩き始めた。

 すると、その隣にひょっこりとルーシェが顔を見せる。


「…隊長、また考え事ですか?」


「…まあな。俺はお前と違って考えなきゃならんことが多すぎるんでな。」


「…隊長。それ、モラハラですよ?」


「またか?!俺は、お前に話すことも出来ないのか?!…まったく、面倒な話だ。」


「冗談ですよぉ!私、隊長のことは尊敬してますから。私の様なチビを白竜騎士団に置いてくれるだけでも感謝してます!」


 憮然とするブライにルーシェはフォローしながら微笑みかける。

 その笑みに、ブライはため息を吐いて返すとようやく笑みを浮かべた。


「…ルーシェ。俺達こそが最強だ。ここで証明するぞ?わかったな?」


 ルーシェは、その細腕で力こぶを作りながら満面の笑顔で返すのだった。


■△■△■△■


 その頃、 ブロンが用意してくれていた馬車に揺られながらグルム一行はルブラン城に向かっていた。

 その車内。


「…剣匠殿。謁見は明日以降と聞いたが今日ではなかったのか?」


 走り始めてから一頻り経った頃、エレノアが目の前のグルムに聞いた。


「はい。…たしかに、私も今日と聞いておりました。…先ほどの街の気配、賢者様と耕助が仰るようになにかあったのでしょうか?」


 そうグルムが言った時だった。大通りを走っていた馬車が道の端に寄って止まった。

 車内の四人は、突然の停車に警戒しながら車窓を空けて外を覗いた。


 すると、前方から一頭のアンガスが巨大な何かを荷台に載せてこちら側に進んでくるのが見える。


「…なんだ?あれは…」


 グルムは、荷台に載せられた鉄のアンガスを見て言葉を失う。だが、目にした巨体はアンガスの体を模しただけの全長十メートルはある機動兵器だった。


 体の上には回転式の砲身が乗せられ、前方に四門、後方に二門の砲身が装備されている。

 特に異形なのは駆動部には巨大な六本の足がつけられこれも大きな金属のカバーによって、左右から足を守るように覆われていた。


 その鉄の異形を乗せた荷台を引くアンガスの足音が、ズシン、ズシンと、大通りを揺らし地面を響かせる。

 車窓から身を乗り出して耕助が窓から見たのは、もはや「騎士」の概念を逸脱した、鉄の暴力そのものだった。


「…戦車か?この世界にはあんなモノもあるのか?」


 そう言って次々と目の前を通り過ぎるその巨体に目を見張った。

 すると、耕助達が乗っていた馬車に追随していた後ろの馬車から、ブロンが降りてきて窓越しにグルム達に声をかけた。


「あれは、我々軍事開発研究部で開発した魔装獣機マジックブルワークです。」


魔装獣機マジックブルワークだと?」


「はい。先代国王によって魔装騎士マジックメイルの開発を中断されましたので、ヒルデ女王が即位した後に我々は対魔装騎士マジックメイルの兵器として作り上げました。それが、この重装機動兵器、魔装獣機マジックブルワークです。」


 ブロンは、どこか誇らしげに語った。

 その様子に、グルムは素直に感嘆の声を上げる。


「そうだったのか…よくもここまで作り上げた。…見事なものだ。…あの外装はアダマンタイトなのか?」


「詳細については申し上げられませんが、少しばかりならお答えしましょう。…仰る通り、アダマンタイトで外装は作られています。」


「…やはり、動力は魔装騎士マジックメイル同様に魔力によるものですか?」


 今度は、魔法使いらしくエレノアが興味深そうにきいた。


「その通りです。魔装兵器の動力として魔力を使用することはほぼ完成しつつあります。なので、敢えて進化しているところを挙げれば、魔力増幅器の増幅力とだけ言っておきます。」


「…なるほど、だからこれほどの巨体を可動できるということなんだな?…さすが、ウルバスドゥームの技術力だな。」


 エレノアは、ブロンの答えを求めることなく一人頷いて呟いた。


 そのような話をしているうちに、魔装獣機マジックブルワークの行列は馬車の前をすへて通り過ぎて行った。

 ブロンが元の馬車に乗り込んだのを見てから、再び馬車は大通りの遠くに見えるルブラン城へと進み始めた。


 すると、いつもなら目を輝かせて異世界の余韻に浸っている耕助が、怪訝な表情でグルムに話しかけた。

 

「…親方。やっぱり、なんかあったんじゃねえのか?」


 その言葉に、一同は押し黙る。

 街に漂っていた不穏な気配、そしておそらくは出撃するために運ばれた魔装獣機マジックブルワーク

 なにもないハズがなかった。

 グルムは、その太い武骨な両手を組むとジロリと耕助を見て言った。


「…分かった。この件については城に着いてから考えよう。…場合によってはこちらへの待遇も変わるかもしれんからな…」


 グルムの言葉によって、その場にいた者達は言葉をしまって頷いた。

 ただ、ミルンだけが無邪気に車窓から流れて行く街並みを眺めている。


 馬車は、不穏な空気に包まれた城下町の中を進みレガリア城まで後少しというところまで来ていた。

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