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第四十九話 ウルバスドゥームへ

「…聞いたぞ?耕助。」


 その時、王城の研究室にいるエレノアに呼び出された耕助と仁を見つけた、イリーナを連れたアリステルは呆れたような声で呼び止めた。


「なにをさ?」


 耕助は、怪訝な顔付きで聞き返す。


「…お前、暗殺に来た黒曜にタカったそうだな?」


「!!誰にそれを!…仁、お前…」


「俺じゃないぜ?」


 仁は、肩を竦めて否定する。

 すると、イリーナが淡々と答えた。


「カレン様にございます。…こちらから先日の行動を伺った所、嬉々として語られてました。」


「…まったく、カレン《アイツ》は仁以外はどうでもいいのか?」


「何を言っておる!…お前こそ、まったくだ。黒曜と言えばロナルディアでも指折りの暗殺集団だぞ?その連中を倒すだけならまだしも、タカるとは…呆れ果ててモノも言えぬわ。」


 アリステルは、鋭く耕助を睨みながら言う。

 耕助は、その物言いに釈然としない顔で不貞腐れながら言った。


「王女様が『タカる』なんて言葉使うなよ?仮にも一国のお姫様なんだからさ。」


「大きなお世話だ。第一、そう思うなら少しは騎士らしい振る舞いでも見せたらどうだ?」


「だってさ、なかなか強そうな連中だったから、帝国から相当な金を貰ってたと思ったんだよ。」


「そういう問題じゃない!曲がりなりにもお前も紅焔騎士団の一員なんだぞ?…不本意で入ったとはいえ、少しでいいから節度を持って欲しいものだな。」


「ええー?…じゃ、王女様ともあろうお方が『タカる』なんて言葉を使うのは節度があるっていうのかよ?」


「ああ言えばこう言う、お前は少し素直に人の話を聞く気にならんのか?」


「ええー?そこまで言うかー?」


 耕助が不満気な声を上げると仁が頷きながらアリステルに同意する。


「…俺もそう思う。…それにあそこで金を要求するのは、さすがに俺も引いたぜ。」


「お前まで言うなよー…。だいたい、もらえたんならまだしも、全然だったんだぜ?これじゃ、俺のやられ損みたいになってんじゃん。」


 そんな会話をしながらその場にいた一行は、エレノアの研究室の前まで来る。

 その中で代表するようにイリーナがノックをした。


 すると、珍しくエレノアが顔を出して全員を迎える。


「殿下、このような場所にまで足をお運び頂き恐縮です。どうぞ、お入り下さい。」


「あ?ああ…。」


 いつも以上の丁寧な出迎えに、アリステルは思わず戸惑いながら答えると警戒するようにイリーナに続いた。


「…何を企んでんだ?」


 アリステルの後に入った耕助が、伏し目がちなエレノアの顔を覗き込むように当然のように疑いの言葉を発する。


「大したことではない。…それに、お前にとっては嬉しい話だぞ?」


「マジか?!」


「ああ。とにかく、これから話すことを聞いてくれ。」


 エレノアは、そう言いながら四人全員を室内に招き入れ、いつになく片付けられているテーブルを囲うように座らせた。

 イリーナだけは、アリステルの後ろに従うように立つ。


「…この顔ぶれもそうだが、なにかあっての話だな?…賢者殿、どうかされたのか?」


 全員を見回した後、アリステルが話の口火を切った。


「はい。まずは、コレをご覧になって頂きたいと思います。」


 エレノアほ、そう言って二つの結晶を両手に一つずつ摘んで見せた。

 右手の結晶は赤く、左手は深い緑色をしている。

 以前に見た風魔法を仕込んだ魔晶石よりも更に深い緑をしていることから明らかに別物だと分かる。


 すると、アリステルが緑の結晶の正体に気づいたのか目を見開いた。


「…精霊石ではないのか?!」


「さすが殿下。ですが、まだ精霊の宿っていない精結晶でございます。」


「…なるほど。もし、精霊石であればこちらで預からねばならなくなるからな。」


 エレノアは、アリステルの言葉に軽く頭を下げると話を返した。


「恐れ入ります。王国においての精霊石の扱いについては重々承知しております。そのご相談で殿下にもお越し頂きました。」


 その言葉に、アリステルは怪訝な表情を見せる。


「…なんだ?」


「はい。ラグナロクの武装強化の一環で、帯刀している剣の魔化を剣匠殿と共に研究していたのですが、結論として精霊石を使用したいという結論に至りました。」


「…ふむ。…悪くない考えだな。それで、私の許可が欲しいということか?」


「それもあります。しかしながら、ご存知のように精霊石は一筋縄では手に入りません。」


「ウム。」


「それで、剣匠殿からウルバスドゥームの女王に依頼してはという提案を受けました。」


 その言葉にアリステルは、首を傾げて聞き返した。


「賢者殿。話が見えなくなったぞ?精霊石の確保であれば、エルフ族に依頼するのではないのか?それがなぜ、あのヒルデ女王にになる?」


「剣匠殿が言うには、ヒルデ女王は魔法と精霊術を共に操り、数多の精霊とも契約を交わしているとのことです。…それで、精霊石の調達と精霊との契約の仲介を申し出てみようと考えたしだいです。」


「…なんと。俄には信じられぬ話だが…ウルバスのあの堅牢さを考えるとあながち偽りとも思えんな。」


 すると、耕助が興味深そうに口を挟む。


「…そんなに強いのか?」


「軍事に関しては帝国に次ぐものだろう。それに、魔装騎士マジックメイルの基礎概念はウルバスからというのは有名な話だ。…我々の知らない武器などを大量に保有しているとも聞く。」


「その、精霊とやらの力ってヤツでか?」


 今度は仁が口を開いた。

 それには、エレノアが答える。


「おそらくはそうであろう。魔力の限界で行使できなくなる魔法に比べ、精霊術は無限にその力を発動できると言われている。それは、ロナルディアの六恵の一つにも数えられているほどだ。…彼らがその力を使わぬはずがない。」


 今度は、アリステルがその言葉を継いだ。


「…それだけに、精霊石は入手自体が困難とされている。それに、精霊との契約がなければ行使することが出来ない。それが出来るのは古より精霊との交流を持つエルフ族だけとも言われている。」


「エルフかぁ…。」


 耕助は、美しいエルフの姿を思い浮かべて鼻の下を伸ばした。

 その様子を見て、アリステルは面白くなさそうな顔を見せると手を振って半ば呆れたように言った。


「だが、だからと言ってそう簡単にヒルデ女王が協力してくれるものなのか?」


「剣匠殿は、知己の仲だとは言っていました。そこで、二つのことを殿下にご許可を頂きたいのです。」


 そう言ってエレノアは再び視線を伏せながら頭を下げる。アリステルは、怪訝な表情のまま聞き返した。


「…なんだ?」


「はい。一つ目は、ウルバスへ赴く事をお許し頂きたいのです。その時には、私と剣匠殿、そして耕助にラグナロクを伴わせて行きたいと考えております。」


「マジか?!」


 耕助は、エレノアが口にしたウルバスへの帯同者の中に自分の名前が出たことに驚いて聞き返した。

 耕助の異世界探求の欲望に火が灯る。


「かまわん…と言いたいところだが、その人選になった理由は?」


 嬉しそうな耕助の顔を横目に、アリステルは聞き返した。


「一つは、ラグナロクを交渉の材料にしたいと思います。おそらくは、その時にラグナロクの力を相手は見たいと思いますので。」


 アリステルは、エレノアの説明に神妙な顔を浮かべる。


「…たしかに、ウルバスの者たちにとってラグナロクの技術は垂涎の物であろう。この世界では到底目にすることのできない異世界の技術だからな。」


「ご慧眼、恐れ入ります。帝国の戦線拡大はいずれウルバスにも向かうと思われます。当然、彼らも魔装騎士マジックメイルに勝る兵器を模索しているところでしょう。…いや、すでに完成させているかもしれません。」


「なるほど。そこで、異世界の技術を見せるということなのか…。だが、賢者殿。…良いのか?本来であれば、優れた兵器は秘匿するべきと考えるが?」


 その言葉に、エレノアほ胸を張った。


「大丈夫です。あの技術はこのロナルディアで再現する事はできません。ご安心下さい。」


「…わかった。賢者殿がそう言うのであれば心配なかろう。…それで、もう一つは?」


「はい。その際に、ポータルの使用を許可して頂きたいのです。少しでも早く用を済まして帰りたいと考えておりますので。」


「わかった。それは手配しよう。だが、こちら側からの転移信号に相手は応じるのか?」


 ポータルを使用するためには、相手方からの誘導を取るために転移魔法を応用した転移信号による受け入れの準備が必要となる。

 それにより、あらぬ所へ転移してしまったり、突然、他国がポータルを使って攻め入るようなことがないように制御されている。


「はい。それについては、剣匠殿がウルバスでも影響力のある御仁なので、話をつけると申しております。」


「…なるほど、そこまで話が進んでいたということは、私が拒むとは思わなかったのだな…?」


「…恐れ入ります。ただ、耕助が王国を離れている間に帝国や諸外国になにか動きがあってはと懸念しておりました。…よろしいでしょうか?」


 アリステルは、その言葉に目を輝かせている耕助の姿を見てため息を吐いた。


「…賢者殿。人が悪いぞ。耕助コヤツのこの顔を見て、行くなとも言えんではないか。」


 エレノアは、今にも踊り出しそうな耕助を見て呆れるアリステルに微笑みながら恭しく頭を下げるのであった。

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