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第四十六話 逆襲 (1)

 深夜。


 王都から東の位置にある森の中。

 凶暴な夜行性の獣が徘徊する森の奥で、焚き火を囲む一団があった。

 侯爵邸から引き上げた、黒曜の面々である。

 

 彼らにとって、どのような獣が現れても敵ではない。その自信もあって、まるで自分の庭でキャンプでもするように淡々と食事を済ませた後、それぞれの時間を過ごしていた。


 それでも、周辺の警戒を半数の六人が行い、残りの六人が食事を取って休んでいる。

 それを三時間毎の交代で、見張りと食事や仮眠を取っていた。


 その中で、口を開く者はほとんどいない。

 それぞれの表情は憮然としていて、苛立ちを隠せない者もいた。


 原因はハッキリしている。


 標的である異世界人に、自分達の存在が知られ拠点を移動せざるを得ない状況になったことに釈然としないからだった。


 かつて、彼らの仕事でそのような事態に陥ったのは過去において二度。

 それも、二回とも戦場で大将首を狙うというもので戦況によって難易度が上がり、移動を余儀なくされたものだった。


 しかし、今回は違う。

 相手が戦場の猛者とはいえ、単純な暗殺作業のはずだったにもかかわらず相手に自分達の存在を察知され半ば逃げ出すように拠点を離れたのだ。


 手出しをしたゲイルはともかく、他の団員達はまだ何も出来ないまま移動したことに納得をしてないのも当然であった。


「…団長。少しいいですか?」


 それまで、何も言わずに黙って従っていた副団長のグレンが、 他の者達の不満を代表するつもりで焚き火の前に座るゲイルに話しかけた。


「…なんだ?」


「やはり、あの場から離れたのは早計だったとは思いませんか?」


「…。」


「団長が見つかったというだけで、奴らが全員を把握したとは思えないのですが…。」


 すると、ゲイルの隣に座っているゼンが代わりに答えた。


「…いや、おそらくあの場にいた全員の気配を奴らは嗅ぎ取っていただろう。若の射箭しゃぜんは、ほぼ殺気のようなモノを放つことなく射ることが出来る。それは、私から見ても察知する事は出来ぬ程だ。」


 ゼンは、そう言ってゲイルとグレンを揃って視界に入れて続きを話す。


「…だが、それを奴らはあれだけの距離があったにもかかわらず見つけ、おまけに不可視化の魔法まで見破っていた。…当然、お前達も捉えられたと思うべきだ。」


「…俺はそうは思わねえ。いや、たとえそうだったとしても、俺達が揃って殺られる相手とは思えねえ。…言いたかねえが、団長は自分の気配をまぐれで気づかれて、必要以上に怯えているだけじゃねえのか?」


 グレンは、苛立ちのあまり普段は口にしないような口調でゲイルに言った。

 それには、ゼンの隣のリーベルが反応する。


「…副団長。それは言い過ぎ。団長は、全員が安全に仕事が出来るようにしているだけ。」


「安全?この仕事に安全なんてものがあるか!…人を殺すのに安全も何もないだろう?!」


 さっきよりも声を荒げてグレンが聞き返す。

 リーベルの言葉は、グレンに取って逆効果だった。


「言っちゃなんだが、今回のことに不満を持っているのは俺だけじゃない。ガイやサーシャも団長の判断に疑問を持ってる。」


「…なら、どうするつもりなんだ?」


 それまで黙っていたゲイルが口を開いた。


「俺に何人か預けてくれ。それで、俺たちだけで片付けてくる!…戦場では相当らしいが、それも魔装騎士マジックメイルに乗ってのことだろう?…大した仕事じゃない。…団長だってそう考えてたんじゃないのか?!」


「…ダメだ。」


「なぜだ?!納得のいく説明をしてくれ!」


 グレンは、そう言いながら我慢も限界とばかりにゲイルに躙り寄った。

 ゲイルは、グレンから焚き火の炎に視線を移して呟くように言った。


「…お前達を死なせたくないからだ。」


「だから、納得のいく説明を…」


 そこまで、グレンが言った瞬間だった。

 それまで、静かだった森の奥から、キン!という鍔鳴りの音が聞こえる。


「?!」


 咄嗟に、ゼンは焚き火に土をかけて火を消すと木の陰に身を潜めた。

 さすが、黒曜の面々。一瞬のうちに、一斉に反応してそれぞれが武器を手にして岩や木の陰に身を隠す。


 すると、森の奥の方から二つの塊が飛んできて、火の消えた焚き火の側に転がった。

 ゲイルをはじめ、その近くの者たちはそれが何なのか暗闇に目を凝らす。

 そして、それが見張りをしていたバッシュとジールの頭部であることを視認した。


 黒曜の全員は、その状況に動揺したがすぐに気配を消して身を屈める。

 まるで、その様子を読み切っていたように首が飛んできた方向から声が響いた。


「…こんばんわ!暗殺者の皆さん!今、二人始末したから、後は十人かな?」


 ゲイルは、慌てることなくグレンに索敵のハンドサインを送ると右手の短刀を握り直して左手を腰のショートソードにかけた。


「…おいおい!…探す必要はないぜ?せっかくこっちから出向いたのに、隠れたりしないぜ?!」


 声の主が、気配を消すことなく堂々と焚き火の方へと歩いてくるのが足音で分かる。


(舐めやがって!!)


 グレンは、思わず心の中で呻いた。

 しかし、敵が一人であるという確証はどこにもない。いや、寧ろ一人であるはずがない。


「…それにしても、あんたらやるなぁ。こっちも侯爵邸に当たりをつけてすぐに向かったんだが、とっくに逃げ出してるんだもんな。見つけるのに苦労したぜ。…おかげでこんな時間になっちまった。」


 声の主は、そう言うと焚き火があった場所に立つと辺りを見回した。

 残り十人となった黒曜のメンバーは、その男が『ハズレ』と呼んでいた方であることを確認する。


「…どうするんだい?このままかくれんぼでもするのか?…俺達は、これでも結構、得意なんだぜ?」


 男がそう言った瞬間だった。

 今度は、別の場所からドサッ!という何かが倒れる音が聞こえるとその方向からまた別の男が現れる。


 男は、何かを引きずりながら『ハズレ』の男に近づくと、その何かを転がした。他の者たちは転がした男の姿が『当たり』の方だと視認する。

 そして、そこに転がった物が延髄をえぐられたガイの死体であることを見つけた。


(ガイ!!)


 黒曜の一同は、声には出さなかったもののあまりの事に驚愕した。

 黒曜の中でも、ゼンに続いて潜伏の技術と体術に優れていたガイが、なにも出来ないままに殺されたのである。


「…おお?!皆、びっくりしてくれたみたいだな!…コイツはなかなかかくれんぼが得意だったのかな?」


 男の舐めきった声に、グレンはついに我慢の限界を突破した。


「…ふざけやがって…。」


 グレンは、ゆっくりと身を隠していた木の陰から体を出すと二人の男に近づいて行った。それに合わせたように他の者達も暗闇の中で姿を現す。


「…ずいぶんと舐めた真似をしてくれるな?異世界人。」


 ショートソードを握りながら、グレンは怒気の籠った声をぶつける。

 しかし、男は意に介することなく笑みを浮かべた。


「…ぞろぞろ出てきちゃって。かくれんぼはおしまいか?」


 その言葉に、最後に姿を見せたゲイルが口を開いた。


「…大したもんだな。…俺は黒曜を束ねているゲイル=

ベリオスだ。あんたらの名前は?」


「…神代耕助。」


「…白神 仁だ。…それと…。」


 仁が、そこまで言った時だった。

 それまで完全に気配のなかった場所から、異様なまでの剣気を放つ人物が現れる。


「…カレン=ヴィジャットだ。」


 その場にいた者達が一斉に動揺し言葉を漏らす。


「一騎当千だと?!」


 カレンは、エレノアから渡された不可視化の魔法を付与していた魔晶石を使い、気配を消してここまでの様子を窺っていた。

 すると、耕助が手を上げてにこやかに話しかける。


「いやいや、安心してくれ!俺達、三人以外は誰もいない!…もし、逃げたいのなら逃げてもいいぜ?…逃げたいのならな。」


「…いい加減にしな!」


 そう怒りの声を上げると、短刀を両手に握ったサーシャが、耕助に物凄い速さで飛びかかった。

 サーシャは、得ている風属性の魔法で体に風を纏わせて目にも止まらぬ速さで移動する事が出来る。


 耕助は、腰の刀を引き抜いてサーシャの放った短刀を弾き返す。

 しかし、サーシャはその勢いを殺さずに背後の木を踏み台にすると、再び飛びかかった。


「…なかなかやるな?!」


 口元に浮かんだ笑みを消すことなく耕助はその攻撃も刀で返す。サーシャの動きは、そこから目に追えないほどのスピードで三人を翻弄するように、木から木へと跳んでチャンスを見極めようとした。


 だが、何本目かの木に足をつけた瞬間、仁の拳がサーシャの脇腹を捉えて吹き飛ばす。

 

「?!」


 サーシャは、自分のスピードを見切られて一撃を加えられたことに狼狽した。


「…!この程度で…。」


 呻きながらも、転がって体勢を整えると再び飛びかかろうと体を屈めた。

 その途端、またキン!という鍔鳴りが聞こえると、サーシャの両足の膝から下がポトリと木の根元に転がる。


「うああああ!」


 サーシャは、両足から血を噴き出しながらのた打ち回る。


「ったく!足癖が悪いみたいだから斬っちゃったよ。」


 耕助は、楽しげに笑いながら、悲鳴を上げてその場にのた打ち回るサーシャに近づいた。


「喚くな喚くな。なんか、お前、俺をバカにしてたような感じがするぞ?」


 そう言うと、サーシャの頭を踏みつける。


「やめろ!!」


 その行為に、リーベルは叫んで飛び出そうとした。

 しかし、その目の前にカレンが立ちはだかる。


「…動くな。」


「?!」


 リーベルは、その圧倒的な威圧感に動きを止められてしまう。それは、他の者達も同様であった。

 ゲイルは、それを見るとカレンが以前見た時とはまったく別物になっていることに震える。


「…お前達が仁殿を殺そうとしていた連中なのか?」


 カレンは、ギラリとした視線で現れた全員を睨みつけ、リーベルと同じ様に足を竦めさせる。


「カレン!狙われてたのは、仁だけじゃねえぞ?」


 耕助は、苦笑しながらカレンに突っ込む。

 それを見た足元のサーシャは、歯を食いしばり頭に乗った耕助の足を両手で掴んだ。


「鬱陶しいぞ?」


 詰まらなさそうに呟きながら、耕助はその両手を斬り落とした。


「あああ…!!」


 サーシャは、幼さを残す可愛らしかった顔を大きく歪め、涙を浮かべながら耕助の足元で絶叫を上げる。


「ククク…。どうする?助けないのか?」


 耕助は、カレンの威圧に動けずにいる面々を嘲るような笑顔で更に挑発する。


「き、貴様あ!」


 グレンは、叫びながら耕助に向かって弾け飛んだ。

 そこにロングソードに炎を纏ったカレンが、またたく間にグレン肉迫するとその体を真っ二つにする。

 グレンの体は、そのまま炎に包まれるとただの消炭に変わった。


「フン!」


 カレンは、鼻息を吐くと再び辺りを睨めつける。


「十二人引く五人だから、あと七人だな。…ベリオスさん、どうするんだい?」


 耕助は、そう言いながらサーシャの頭に剣先を突きつけた。そして、極めてゆっくりと刃先を埋め込み始める。


「ぎゃあああ!たす、助けて!!団長!助けて!」


 あまりの激痛と、その残忍な行動にサーシャは全身で懇願した。それを聞いた、リーベルは唇を噛んで血を滲ませると叫んだ。


「なぜ?!なぜ、そこまでする必要がある?!」


「はあ?殺し屋がキレイ事並べんじゃねえ!てめえらだって、命乞いしてきた奴らを笑いながら殺してきたんだろ?!…今度はお前らがそうなっただけだろうが!」


 耕助は、そう怒鳴るとサーシャの可愛らしい顔を踏みにじる。

 すると、それまで、事の成り行きを見ていた仁がその王子様のような顔で冷徹に答える。


「…殺しに来たなら、殺される覚悟もあるってことだろ?…不思議なことじゃない。どんな殺され方でも、死は死だ。」 


「その通りだな。…お前達は、傭兵ではなかったのか?…あまりに殺し屋のことを知り過ぎている。」


 ゲイルは、この状況でも全力で冷静さを保って静かに口を開いた。


「ああ。俺達、殺し屋との兼業なんだ。…俺の世界じゃ結構いたんだが、この世界は違うのか?」


 耕助は、言葉を返しながらまた数ミリ刃先を埋め込んで行く。


「団長!団長!!お願いです!助けて!」


 ジワジワと自分の頭に刃先がめり込んで行くのを感じながら、サーシャは半狂乱に叫ぶ。

 その間も両手両足から鮮血が噴き出し、辺りをドス黒く染めていく。

 だが、誰一人動くことは出来ない。

 

 ゲイルは、もう一度三人を順番に見ると諦めた表情を見せ、手にしていた短刀を捨てた。そして、腰のショートソードも放り投げる。


「…わかった。俺達の負けだ。そいつを離してくれ。」


「若!!」


「「「団長!!」」」


 ゲイルの言葉に全員が、咎めるような声を上げる。

 しかし、ゲイルは構わず耕助に近づいた。

 耕助は、刺していた刃先を引き抜くと足をどけて後ろに下がる。


 サーシャから耕助が離れたのを見ると、リーベルはすぐに駆け寄って抱きかかえる。

 サーシャは、失血で意識を混沌とさせ、大きく目を見開きガタガタと震えていた。

 リーベルは、ゲイルを見て首を左右に振る。


「…すまん。サーシャ。」


 ゲイルは、そう呟くと膝をついてリーベルのショートソードを取ると左胸を貫いた。

 サーシャは、一度、大きく震えて絶命する。


 「…で?どう落とし前をつけるんだ?…あんたらもこのままじゃ、引っ込みがつかないだろ?」


 耕助は、その様子を見届けるとゲイルを含めた面々の顔を見渡して言った。

 すると、その目の前に身の丈二メートルはある豹の獣人が覚悟を決めたように立ちはだかった。

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