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第四話 召喚 (1)

 その時、二人は広がる荒野の真ん中に言葉もなく立ち尽くしていた。


 体感的には、ほんの数分前まで仁と耕助は吹雪に覆われるアヴァロンの研究棟の地下にいたハズだった。

 それが今、晴れ渡った空の下、建造物らしいものが一つも見当たらない、岩やわずかな草木が点在する地平に立っている。


「これは一体、どうなっているんだ?…死んじまったんじゃないのか…?」


 眩いほどの光に包まれ、意識があるのか分からない感覚の中から、ようやく自我を取り戻し始めた耕助はその光景に息を飲んだ。

 …それと同時に、生きているという実感がジワジワと体に広がって行く。


「まったく、…意味不明だな。」


 隣に立つ仁も、ようやく一言を発して深いため息を吐いた。

 二人は、しばらくあまりの急な展開に多くの言葉を出す事も出来ない。

 そして、ゆっくりと辺りを見回すと、更に異様な光景に言葉を失う。


 それは、二人のラグナロクを中心に夥しいほどの人と馬が放射線状に倒れていたのである。


 その倒れている者たちの姿は、中世に出てくるフルプレートの鎧に身を包んだ騎士のような者もいれば、鉄兜と金属製の胸当てだけをつけた一般兵のような者たちが、携えていたであろう槍や剣と共に散らばっていた。

 

「なんだ?一体、なにが起きたんだ?」


 耕助は、周辺に倒れている多くの死体を眺め回して慌てると、同じように見渡している仁に言った。


「…分からないが、どうやら俺達が何かやらかしたのかもしれないな。」


 二人を中心に人々が倒れているのを見て、仁は思いついたように言葉を口にする。


「冗談キツイぜ。何かの撮影とかじゃないのか?」


 耕助は希望的観測を口にするが、周囲の人々はもれなく絶命している。

 これが芝居であれば、アカデミー賞級の演技力である。


 耕助は、まるでイリュージョンに強制参加させられた客のような面持ちで、前方に立つ仁のラグナロクの後ろ姿を見据えながら声をかけた。


「…どう思う?」


「…さあな。…こればっかりはどんなに考えても分からないだろう?」


 仁は諦めた様に返して口角を上げた。

 たとえ、ここに立っている理由が分かっても夥しい数の死体に囲まれている状況は、理解を越えて笑うしかなかった。

 とにかく自分達の状態を確かめるために仁はサラに話しかける。


「サラ。ここがどこなのか分かるか?」


『NO。GPSを含めた支援情報が得られません。周囲もレーダー反応、熱源反応も感知出来ません。』


「GPSもキャッチ出来ないのか?」


『YES。敵軍友軍問わず識別反応もありません。』


 結果的になにも得ることが出来ず、状況は変わらなかった。

 仁はしばらく辺りを埋め尽くす騎士達の死体を見ながら思案にふける。

 時代錯誤した武装におそらく移動手段は馬。

 人工建築物らしい物がまったく見当たらない荒野。

 仁は一つの仮説を立てる。


「タイムスリップ…?」


 だが、それについては首を振る。

 

 それは倒れている兵士の中に明らかに人間ではない者たちが混ざっていたのを発見したからだ。

 人間ではないモノは体を全身毛で覆われ顔は熊や虎、中には狼のような者もいた。

 それらが人の背丈もあるような斧や剣を握ったまま命を失っている。


 それに加えて、倒れている騎士の中にはふた回りも大きな体躯を持つ騎士を見つけた。

 大型の騎士は右腕と左足を吹き飛ばされてその断面からは配線らしいものが垣間見える。


「あれはコングか?」


 同時にそれを見つけた耕助が口にする。


「違うな。あんなタイプは見たことがない。それに動力源が全然違う。」


 コングはその鈍重な体を可動させるために大電流を供給する大型のバッテリーパックを背面に装着する必要があった。

 そのため、『コング』と揶揄されるようなシルエットをしている。

 だが、その騎士にはそれがない。

 むしろ綺麗なほどに洗練されたデザインをしていた。


 すると、耕助が閃いたとばかりに口を開いた。


「…仁!俺の予想を言っていいか?」


「却下だ。どうせロクなことじゃないんだろ?」


「いいから聞けって!…ひょっとすると、もしかしてこれは異世界ってヤツじゃないのか?!」


 耕助の目が輝く。

 日本にいた頃から耕助はサブカルチャーに目がなかった。異世界転生や召喚する妄想的なアニメやマンガはもちろん、小説に至るまで漁りまくっていたのだ。


 そう。耕助は自他ともに認める戦争屋で殺し屋で、そしてオタクなのだ。


「クゥ〜!大戦が始まった時はもうその手の話は終わったかと思ったが、まさか自分が転生…いや、この場合は転移か?こんな心躍ることが起きるとは!」


 耕助はこの状況を結論づけた。


「のん気なことだ。もしそうだとしたらこれからどうすればいいんだ?」


 その手のことにまったく興味がない仁は呆れたように、これ以上にないほど感動している耕助に問いかけた。


「そりゃお前、まずは冒険者になってだな…」


 そこまで目を輝かせて耕助が語り始めたその瞬間、ラグナロクの警報音が鳴りラグが警告する。


『3時の方向に熱源を感知。ロケット弾と推定。回避行動を推奨します。』


「距離は?!」


『700〜800の距離。』


「そんなに近くに?キャッチ出来なかったのか?サラ?」


 仁はメインカメラを広角を維持しながらその方向をズームしてサラに問いかける。


『通信網はもちろん支援情報がないため熱源を感知するまで発見できませんでした。』


 サラは無機質に返す。

 二人はほぼ同時に、その方向に視線を向けながらラグナロクのリニアブーストを発動させて左右に別れて後方にダッシュした。


 仁はそのまま円を描くように右後方へ弾け飛ぶと、更に加速しながら回り込んで行く。


「今度はもう少し早くに頼むぜ?」


『YES』


 自嘲気味にも聞こえるサラの声を聞きながら、口元に嘲るような笑みを浮かべて、さっきまでいた場所に視線を向けた。

 そこには次々と砲撃が着弾し爆炎と砂塵を巻き上げているのが見える。


「面白くなってきたぜ!!」


 耕助はパシン!と左手に右拳を当てて音を立てながら満面の笑みを浮かべた。


「ラグ!正面をズームして概算でいいから総数をカウントしろ!」


『YES』


 ラグが回答し数秒後『1500』という数字がモニターに現れた。

 その数字に満足そうに鼻息を荒くする。


「オッケー!仁!早いもの勝ちだぜ?!」


 そして右手に装備されているレールマシンガンをチャージしながら映し出された敵の様子を見る。


 そこには先程の獣人や人間の兵士、馬に乗る騎士やそして大型の騎士達が横に隊列らしい物を組んで向かって来るのが見えた。


 その中から次々と火球や氷で出来た矢が飛来して来るのが確認される。


「やっぱりコイツはビンゴだな!ファイヤーボールにアイスランスってとこか?たまんねーぞおい!」


 耕助は回避から一転して身構えると一直線に群がる相手に向かって突撃を始めた。

 一方、仁はその頃すでにその相手の側面に回り込んで攻撃を始めている。


『敵からの砲撃、更に増加中。回避行動並び離脱を推奨します。』


「冗談じゃねえ!仁のヤツにまた持ってかれるだろうが!!」


 怒鳴り散らしながら、リニアブーストを更に加速させて全高3メートルのラグナロクの体を一気に弾き飛ばす。

 飛び交って来る攻撃を掻い潜りながら時速100キロまで出しつつ砂塵を巻き上げながら突進を続けた。


 すると、それまで正確なほどに襲いかかってきた攻撃は付いて来れずに後方の地点に次々と着弾しているのが見える。


「ヘヘッ!ノロマが!」


 耕助はにわかに口角を上げるとラグに指示を飛ばす。


「敵の本隊を確認したい!上空からの画像を出してくれ!」


『GPSの信号がキャッチ出来ません。敵、本隊の位置は後方と推測。』


「さすが異世界!そりゃ衛星の一つも飛んでないもんな!」


『NO。敵部隊のジャミングの可能性もあります。』


「そんなわけあるか!」


 悪態をつきながらもさっきまで数百メートル先で攻撃をかけていた大勢の敵を、間近で視認出来るほどの距離に詰める。


 その中から獣人達が一斉に武器を振り上げて襲いかかって来た。

 耕助は遠慮なくそこでレールマシンガンを横薙ぎに振るってばら撒くとそれらをハチの巣に変えていく。

 ブゥオォォォン!!というマシンガンの轟音が響き渡りその周辺を支配した。

 その様子に相手は動き止め、躊躇したように固まり無ずすべなくマシンガンの餌食になっていく。


「てめえら勝手にアヤかけてきてビビったとか言うんじゃねえだろうなぁ?!」


 耕助は言葉とは裏腹に上機嫌な顔を見せると馬上で狼狽えていた騎士の顔を殴りその頭部を叩き潰す。


「たまんねえぜ!!…テメエら全員皆殺しだぁ!!」


 向かって来る者も逃げる者も耕助は歓喜に満ちた表情で次々と命を平らげていった。

 すると後方から出てきた大型の騎士が長槍を耕助に向けた。

 その瞬間、槍先が発光し直径1メートルはある火球を発射する。


「ファイヤーボール!」


 初めて見た攻撃にもかかわらず耕助は感動したように喜びながらも、その火球を僅かな動きで躱すと騎士の胴体にレールマシンガンで穴だらけにする。

 その穴からは夥しいほどの血液が噴き出して騎士は仰向けに倒れた。


「やっぱりそこがコクピットか!!」


 相手はその姿に恐れを抱き距離を取る者と蛮勇にも立ち向かって来る者に別れた。

 耕助は凶悪な笑みを浮かべて、今度はバックパックの下に据え付けられていた長さ二メートルほどのヘビーナイフを引き抜いて構える。


「今度は肉弾戦だ!トコトン楽しもうぜ!!」


 目の前の獣人を袈裟斬りに真っ二つにしながら耕助は喚いて、取り囲もうとする者達にはレールマシンガンを撃ちまくった。


「だいたい、仕掛けたのはお前らだろうが!!もっと楽しませろ!!」


 耕助が握るヘビーナイフは、次々と騎士らしい者やその中に混ざる一般の兵士らしい者たちもバラバラに切り裂いていった。


 すると、その前に別の五体の大型騎士達が立ち塞がる。その体躯はラグナロクよりも一回り大きい。

 騎士達は、一斉に長槍を構えるとこっちに向かって突き出してきた。


 しかし、それよりも早く飛びかかるとその一体に飛び蹴りをかまして倒すと胸の辺りをヘビーナイフを突き立てた。

 騎士は、ビクッと一回震えると動きを止める。


「見かけ倒しかぁ??そんなんじゃこっちは満足しねえんだよ!!」


ー歓喜、歓喜、歓喜。

 絶叫と共に溢れんばかりの快楽が耕助の全身を駆け巡る。

 周囲の兵達も騎士も手にする武器を振り上げ、振り回し踊りかかるが、すべて五体の一部を切り裂かれながらその場で解体されていった。


 たった二人の登場に、その周辺に組み上げられていた陣形はすでに瓦解し機能することが出来なくてなっている。…まさしくたった二人に蹂躙されていた。


 耕助は飛び交う矢をはじき返し、火球や炎と氷の矢を避けながら、周辺の兵士や騎士達の命を次々と奪い取る。そして、その後方に陣取っている一団を見つけた。

 その集団を守るように更に二十体ほどの大型騎士が取り囲んでいる。


「あれがもしかして本陣ってヤツか?」


 耕助の笑顔に更に凶悪な色が浮かぶ。


「こいつぁまだまだ退屈しなくてすみそうだな!!」


 目の前にいた兵士の頭を握り潰して、その胴体を投げ捨てるとその一団に向かって走り始めた。

 すると大型騎士達は一斉に耕助のラグナロクに長槍を向けてその先端を発光させる。


「撃ってこい!!」


 耕助は更にリニアブーストで加速させながらヘビーナイフを構えた。

 長槍から放たれた火球は次々と耕助のコングに襲いかかる。


「だから、そんなんじゃ面白くねえんだよ!!」


 見事な回避運動でそのほとんどを躱した後、レールマシンガンのセレクターをブーストに切り替えてその内の一体の胴体に風穴をあけた。

 その光景に、騎士達は怯んだように見える。


「覚悟は出来たんだろうなぁ?!ええ?!」


 耕助がそう叫んでリニアブーストのトリガーに指をかけた時だった。

 その集団の中心に1本の光線が突き刺さった。

 それとほぼ同時に周辺に大きな爆発が発生しその場にいた騎士達や兵士達すべてを消し飛ばす。


 その一撃で戦場の勝敗は決した。


 光線が放たれた場所には左肩に装備された荷電粒子砲の銃口から紫煙を上げる仁のラグナロクが立っている。


「てめえ!!これからって時になんてことしやがんだ!」

 

 耕助は納得のいかない結末に激怒する。


「ノロノロしてるからだろ。」


仁はそう言って退屈そうにため息を一つ吐いた。


「お前はいっつもそうだよな?!美味しいとこばかり掻っ攫いやがって!!こういうことは分け合って楽しむもんだろうが!!」


「本当にのん気なヤツだな。向こうに逃げて行くヤツらがいるけどあれで遊んできたらどうだ?皆殺しにするんだろ?」


 仁が指し示した方向には生き残った者たちが必死に逃げている様子が見える。


「クソッ。もういいって。すっかり萎えちまったよ。」


 耕助は諦めた様にため息を吐きながらヘビーナイフをバックパックの元の位置に装着した。


 2人は累々と相手の屍が地面を埋め尽くす戦場を眺め回すと、満足気な表情を浮かべてようやく安堵の息を吐いた。


■△■△■△■△


 その戦場から2キロほど離れた地点に2人の戦闘を眺める一団があった。


 その先頭で馬上から望遠鏡で戦闘の一部始終を覗いていた女性騎士は後ろに控える者に振り向くと半ば魂が抜け落ちた面持ちで静かに言った。


「本当に現れたな。…賢者殿。」


 騎士に言葉をかけられた賢者と呼ばれた女性は、オーバーサイズ気味の外套に付いたフードを被ったまま恭しくその後ろで片膝をつきながら答える。

 

「はい。殿下がご覧になったあの二人こそ我々の切り札でございます。」


 そう言うと僅かに口角を上げて静かに笑った。

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