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第二十七話 サトラムス峡谷防衛戦 後述

 戦いが終わり、死体が見渡す限り続く渓谷を三人は東の出口に向かって歩いていた。


 途中、まだ息のある者達にトドメを刺しながらローディックの歩速に合わせてゆっくりと進む。


 ローディックは、二人が金砕棒を突き立てて息の根を止める度に、不甲斐ない自分を呪うような表情を浮かべた。


「…なにか言いたげだな?」


「分かっておる。…敗者には、なにも残らないのが戦場の習いだ。」


 耕助は、その言葉にため息を吐く。


「なに言ってんだ。苦しんだままじゃ可哀想だろ?…それに戦場にいるのは勝ったヤツと負けたヤツじゃねえんだぜ?」


「…では、お前達は勝者ではないのか?」


「違うな。これだけ殺しておいて、それを自慢でもしろってか?…戦場にいるのはな『運の良かったヤツ』と『運のなかったヤツ』だけなんだよ。…俺達は、ただ運が良かっただけなんだ。」


 ローディックは、耕助の言葉に目を見張るがそれを理解することが出来ない。


「作戦が完璧であれば、場所が違ってれば、装備が悪ければ…そんなのは言っても死んだら意味がないんだよ。逆だったら、死んでたのは俺達の方だ。」


「だが、結果的に戦の勝敗は国益を大きく左右する。政治的にもだ。その二つが伴わなければお前達は報酬を受け取れないのではないのか?」


 耕助は、自分を理解しようとするその視線に辟易としながら答える。


「俺達は傭兵だぜ?…国益?政治?知ったことか。決めた報酬は必ず貰う。それをどうやって用意するなんてのは雇い主だけが考えることだろ?」


「ではなぜ、こんな依頼を受けた?!帝国は強大だぞ?いくらお前達でも敗れ、必ず死ぬ。死んでは報酬もなにもないんだぞ?」


 ローディックは、自分でも分からないくらいに二人に興味が湧いていた。


「…かもな。なにしろ軍事力は王国の二倍以上なんだって?」


「…そうだ。異世界人であるお前達に、敗れると分かっているこの戦いで本当に得られる報酬が果たしてあるのか?そして、それにはどんな価値があるのだ?」


「価値だって?そんなこと考えた事もないね。…ただ、今回はちょっと趣向が変わっててな。まだ報酬の話はこれからなんだ。…とりあえず俺はあの金髪のお姫さんが気に入った。ただそれだけだ。」


 その言葉にローディックは目を丸くする。


「…異世界人とは、そんな考えの者ばかりなのか?」


 すると、仁が呆れ顔で答える。


「やめてくれ。そんな耕助ヤツと同じ考えばかりの世界なんて真っ平ごめんだ。」


「やかましい!」


 耕助は、歯を剥き出して喚いた。

 そして、今度は思い出したようにローディックに顔を向けて聞いた。


「ところで、将軍様。あの四竜騎士みたいなヤツは帝国にまだまだいるのか?」


「…四竜騎士か…。それを私に聞くのか?それともこれは尋問か?」


 尋問と聞いて、思わず耕助は舌を出す。


「ケチなこと言うなよ。興味本位だって。なにしろ、良い所を(コイツ)に持ってかれたんでね。」


「そうか。…いるにはいる。ただ、私は詳しくは知らん。実力はあっても四竜騎士ほどの武功を上げたとは聞いた事がないからな。」


 仁は、そこまで聞いて意外そうな目でローディックを見る。


「…いいのかい?」


「かまわん。どうせ私は死ぬ。それにこのくらいのことは何の情報にもならんだろ?」


「そうでもないさ。そのうち帝国まで行ったら戦えるかもしれないだろ?」


 ローディックは、再び驚く。


「…帝国まで攻め入るつもりなのか?」


「分からないな。…こういう場合、王女様次第ってことになるのか?…その強いヤツってのはなんていうんだ?」


「『白竜騎士団』だ。彼らには新しい魔装騎士マジックメイルが三百名全員に導入されている。」


「新型!…強いのか?」


 耕助は、そう言っても話さないと思ったが、ローディックは躊躇う事なく答える。


「強いな。今は、どんな練兵をされているかは分からんが新しいそれは、今までよりも大きく、力も二倍はあるそうだ。」

 

「将軍。あんまり耕助そいつを煽らないでくれるか?後が大変なんだ。」


 仁は、視線だけをローディックに向ける。


「…お前はあの男の扱いに苦労しているみたいだな?…紅焔の戦姫も気の毒にな。」


 ローディックの言葉に二人は顔を見合わせて笑う。


「…紅焔の…戦姫だって。プププ…。帝国ではあの王女さんをそう呼んでいるのか?」


 耕助は、破顔しつつ笑いを堪える。


「知らんのか?ロナルディア中で有名な話だぞ?」


「…戦姫…。帰ったら教えたろ。プププ〜。」


「…お前達は、本当にこの世界の人間ではないことを思い知らされるな。…王国も気苦労が絶えないであろう。特に、召喚した王女はな。」


 ローディックが会ったことのないアリステルを気の毒に思うように、ため息をつきながら言った。

 その時、ようやく二人が罠に掛かった瓦礫の前にまで到達する。


 それは、二人が戦闘を開始して四時間後のことだった。


■△■△■△■


 グランディア侯爵軍の本陣の天幕。


 グレイブを中心に、黒狼騎士団の副官と各部隊の隊長格が集まり話し合っていた。


「…団長。少し遅いのではありませんか?」


 副団長が、懐中時計を見て中央にある大きなテーブルの上座に立つグレイブに声をかける。

 テーブルには、サトラムス渓谷の地図が広げられ形だけの軍議の跡が残っていた。


 天幕には、出陣の際に王都から持ち出してきた立派な椅子や調度品が並んでいる。

 こういうところにも、この戦にグレイブ達が半ば、物見遊山で出陣してきたことが分かる。


「…たしかにそうだな。いくら手こずっていたとしても、四竜騎士がいてこれだけ時間がかかるはずがないな。…誰かを偵察に出すことにしよう。」


 そうグレイブが言った時だった。

 天幕の外が騒がしくなったと思うと、仁と耕助の二人と連れ立ったローディックが入って来る。


「その必要はないぜ。団長さん?」


 耕助は、得意げな顔を見せてグレイブに笑いかける。


「き、貴様ら、どこからやって来た?!」


「どこからって、片付けて来たから戻って来たに決まってんだろ?…その証拠にゲストをお招きしてある。な?将軍様…あれ?名前、聞いてなかったな?」


「…呆れたヤツだ。」


 ローディックは、憮然した表情を見せるとため息ついて続けた。


「…私の名前は帝国軍の将軍職を預かるローディック=セルム=ルドウィックだ。」


 そう言って両腕を組む。


「ルドウィック将軍だと?!」


 グレイブは、目を見開いて狼狽する。


「…左様。我々は、この二人に敗れ私は捕虜となった。それでこの場にいる。」


 そのやり取りに、ローディックは粗方の状況が飲み込めた。そして、仁の方に視線を向ける。


「…苦労しているな?」


「…まあな。」


 仁は、それにため息混じりに答えた。

 すると、突然、グレイブが腰の剣を抜いてローディックに向かって斬り掛かった。


「死ねい!」


 だが、それとほぼ同時にバン!という銃声が天幕に鳴り響き、グレイブの剣が弾き飛ばされる。

 その横には、グロックの銃口から紫煙を揺らす耕助が構えていた。


「おいおい。…勝手なことされたら困るぜ、団長さんよぉ。」


 耕助は、銃口を今度はグレイブに向ける。


「何を言っている?!これが、敵将であるならば、今すぐ討ち取らねばならないだろう?!」


「ダメだ。この男は、王女殿下に引き渡す。…それとも証拠隠滅でもはかるつもりなのか?」


 仁は、グレイブを睨みつけたまま、グレイブの落とした剣を拾った。


「この軍の責任者は私だ!こちらに引き渡すのが道理であろう?!…さっさと引き渡せ!」


「嫌だね。」


 耕助は、グロックを両手で握りしめてグレイブににじり寄る。


「そ、そんなことが許されると思っているのか?!出来るわけがなかろう!!」


 グレイブは、銃口から顔を背けながら必死に叫んだ。


「いや、出来る方法ならあるぜ?」


 仁は、そう言いながらグレイブに近づくと手にしていたグレイブの剣をズブリ!とその腹部に突き刺した。


「「「?!」」」


 グレイブは信じられないという顔で、自分の腹部に刺さる剣を見た。…恐怖と刺されたという現実に体を痙攣させている。

 耕助を除いた他の者達も同様に、口を開けたまま呆然とした。


「お前、俺達を罠にかけた時に、随分、楽しそうな話をしていたな?」


「カッ…ハッ!」


「返事しなくていいぜ。…でも、そろそろ気づけよ。俺達はこの世界の人間じゃないんだぜ?」


 仁は、そう言うと剣を捻って抉りながら引き抜く。

 グレイブは、その場に崩れて絶命した。


 耕助は、グレイブの最期を認めると横で我を失いそうな副団長に声をかけた。


「副団長!」


 副団長は、耕助に振り向く。


「アッシュフォード団長は、名誉の戦死を遂げられた!以降の責任者は誰だ?!」


 その言葉に、ようやく意識と怒りが戻ってきたのか副団長は、耕助を睨見つける。


「へえ…。いい目だ。仇を打ちたいんならいいんだぜ?…だが、それほどのヤツなのか?」


「き、貴様になにが分かる?!」


「分かりたくもないね。…それじゃ、やらかすのか?!俺達は、全っ然、構わないぜ?!お前等をこの場で全員殺し、控えている兵士達も皆殺しにして王国に堂々と将軍を連れて帰る。…いいのかい?」


 耕助は、そう言うとグロックを今度は副団長の眉間に突きつけた。


 すると、今度は仁が静かに話し始める。


「帝国軍一万を片付けた俺達なら、あんたらを潰すことなんて訳ないぜ?おまけに、耕助コイツは暴れ足りないらしいからな。」


 そう言うと、その顔に笑みを浮かべた。


 副団長は、しばらく黙っていたがようやく思考が回ると事態の損得を勘定できたのか、苦渋の決断を口にした。


「ぐ、グレイブ=アッシュフォード団長は、名誉の戦死を果たされた!しかし、我軍は敵を殲滅!これにて王城へ帰還する!」


 事の仔細を天幕の中で聞いていた伝令は、その言葉を全軍に伝える為に走り始めた。

 そこに居合わせた部下達もそそくさと天幕を後にする。


 残った副団長は、横たわるグレイブの隣にガックリと膝を着くと項垂れた。

 そして、惨めに見開いた目と口を撫でるように閉じる。


「…一体、貴様らは何者なのだ?…ここまでするものなのか?」


 背中越しに副団長が問う。


「…お前、こういう言葉を知ってるか?…やられたらやり返すってな。…それだけだろ?」


 耕助は冷淡に答えた。


「…そうだな。だが、こういう奴でも、この男は俺の妹の亭主だったんだ。…妹が悲しむ姿が辛いだけだ。」


「……。」


 二人は、それに声をかけることなくローディックに向き直った。

 そして、副団長とグレイブの亡骸を置いて三人で天幕を出る。


「悪いが、俺達に付いてきてもらうぜ?見た通り、ちょっとでも目を離したら殺されちまうかもしれないからな。」


 耕助は、釈然としない表情で言いながら、王城への帰り支度で慌ただしくなった陣営を眺めた。


「…意外だな。そんな表情もするのだな?」


 ローディックが、耕助の横に立って言う。


「まあな。これでも意外と情に厚いんでね。」


「…自分で言わなきゃ良いのにな。」


 仁の突っ込みに、思わずローディックの顔が綻ぶ。


「お?将軍もやっと笑ったな?」


 耕助は、そう言って口角を上げる。

 すると、ローディックは肩を竦めながら言った。


「…お前達といると、己が今まで何をやってたんだという気持ちになってくるんだ。…残り少ない命でそれに気づくというのが残念だがな。」


 そう言って、知ってか知らずか見えることのない、遠くセレスティア王国の王城の方向を見ていた。


 …それから三時間後、グランディア侯爵軍七千は王城へ向けて出発した。

 それは、セレスティア王国にとって始めての勝鬨かちどきのない凱旋であった。


 




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