第二十三話 サトラムス渓谷防衛戦 (2)
明け方から、先陣を受けた仁と耕助のラグナロクを含めた五十人の部隊は、ようやく五人が並べる程度の広さしかない渓谷を西に進んでいた。
内訳は黒く塗りつぶされた魔装騎士が五体、獣人が三十名ほど、騎士が十名。あとは騎士の側に付いた一般兵だった。
その小部隊を鏃にすぐ後方から中規模の部隊が追随している。
その先にはかなり開けた小盆地があり、そこで敵とは相対すると予想されている。
耕助は、モニターに映る両脇の岩肌を見ながらラグに聞く。
「ラグ。この速度で進んだ場合、どのくらいで会敵する?」
『敵情報がありません。追加情報はありませんか?』
「…そうだよな。敵も同じ感じだと思う。」
『画像解析から得た情報では、この渓谷の全長は二十キロ余りと推定。中央辺りにある小盆地を会敵ポイントとすると、そこまでの時間は速度がこのままであれば、二時間余りと推測されます。』
「二時間?!長っ。このまま進んで大丈夫か?トラップの気配は?」
『ありませんが、推測の域を出ません。敵情報が少なすぎます。』
耕助は、ため息を吐く。
「ラグくんよぉ、この世界に来てから役立たずっぷりが増してるぞ?」
『YES。では、今まで以上の情報提示を求めます。』
「わかったよ。」
耕助は、もう一度ため息をついてから、同行している魔装騎士を見た。
その姿は、頭部に兜を被ったフルプレートの騎士だが、最初に戦った物とは形が微妙に違って頭部が丸みを帯びていて実戦に即した形をしていた。
携行する鋭い円錐状の長槍は同じだが、腰にショートソードらしき物も携えている。
そして、ショルダーパットにはおそらくはグランディア侯爵の紋章。
「…キズでも付けたら縛り首かな?」
耕助は、思わずニヤニヤしながら口だけで揶揄すると右の前を歩く仁のラグナロクを見た。
おそらく、仁も周りの連中の気配を感じている。
今にも、こちらに対して攻撃をかけそうな気配だ。
そして、二時間進んだ辺りでラグが反応した。
『前方、五キロ先に熱源多数。おそらく敵勢力と推定。後五分で荷電粒子砲の射程に入ります。』
その言葉に耕助は一瞬、先制攻撃を考えるが踏みとどまる。
この内容はサラからも仁の耳に入っている。しかし、その動きはない。
「仁!どうするんだ?先に打ち込まないのか?」
「悪くないがな。…そろそろ後ろのヤツらも動き出すだろ?」
モニターの右下に映るゴーグルをかけた仁の顔が口元に笑みを作る。
仁の言う通り、いつの間にか他の者達と百メートルほどの距離が出来ていた。
そして、後方に下がっている魔装騎士の携えている長槍の尖端が光り始めているのを認めた。
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「そろそろ、相手も動き始める頃だ」
黒を基調に赤の縁取りをされた魔装騎士の搭乗席でガイウスは呟いた。
報告では渓谷の小盆地手前まで到達した、前線の二千の部隊が待機したとのことだった。
王国領側からの進入路に比べ、帝国領側の進入路は広く、ニ、三百の部隊が隊列を作りながら進むことが出来た。
しかし、進軍速度は人数に比例して対面の王国軍と変わらないと想定していた。
ガイウスは、風魔法の魔晶石が内部に仕込まれた魔道具で他の三人に話しかける。
魔道具は、使用者の属性適用と使用魔力量に準じてその制御と通信距離が決まる。
そのため、長距離に使用するには属性が適合する者が大きく魔力を消費するため滅多に近距離以外で使用されることはない。
「もうすぐ、異世界人に対して黒狼騎士団が仕掛けるはずだ。それを合図に前線の二千が突撃をかける。」
「それで終わるなんてことはないですよね?」
ゼフィルスの機嫌の良さそうな声が返ってくる。
「それならば、それでいいんじゃない?…ギース。そうなったら、そのまま王国に攻め入るんでしょう?」
ジェリルは、ガイウスの機体とは違い、青の縁取りが施された魔装騎士の搭乗席で、爪色を眺めながら聞いた。
「その通りだ。向こうの黒狼騎士団の手引きでそのまま王城へと向かう。」
「そうなれば、いよいよカレン=ヴィジャットとご対面ですね!」
緑に縁取られた機体の中で、ゼフィルスは嬉々とした表情で話す。
ガイウスが、その言葉をため息混じりに聞いた時、供回りの部下から声が掛かった。
「前線部隊から報告です!敵、先陣に動きあり!こちらも突撃を敢行するとのことです!!」
「分かった。こちらもすぐに動けるとルドウィック殿に伝えてくれ。」
ガイウスは、そう伝えると遥か前方で土煙の上がった前線の様子を眺めた。
…そして、サトラムス渓谷戦の火蓋が切られたのであった。
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後方に控えていた、味方たったはずの魔装騎士が放ったファイヤーボールは、耕助達に向けられたのではなく、左右を取り囲む岩壁に着弾した。
次々と他の魔装騎士から放つファイヤーボールやアイスランスによって上下問わず崩れた岩壁は、二人と後方部隊の間に大きな壁を作り上げ分断した。
すると、その壁の向こうから風魔法を使用した拡声器のような魔道具からグレイブの声が聞こえてくる。
「聞こえるか?!異世界人ども!…もうすぐ、帝国軍が貴様らを殺すために大挙してやって来る!せいぜい足掻くといい!」
二人は、その声にそれぞれのコクピット内で笑顔を浮かべていた。
「まったく、随分と雑な罠だな?」
「いやいや、これは完全にご褒美だろ?ホント、気が効くぜっ!」
二人は、そう言って小盆地の向こうから土煙を上げ突き進んでくる帝国軍を見た。
そして、二人同時に片膝をついて荷電粒子砲を構える。その照準を帝国軍の中央に合わせた。
「それじゃ、おっぱじめようぜっ!!」
耕助の言葉と同時に、二人のラグナロクの左肩に装備された荷電粒子砲が発射される。
あまりの威力の反動で、ラグナロクは少しばかり体を地面に沈めた。
荷電粒子砲の射線は一直線に、大挙してくる帝国軍二千の中央を突き破り、瞬く間に百名ほどを蒸発させながら左右に分断した。
「それじゃ、仁くん!俺は左を頂くぜっ!仲良く半分こだからな!!」
耕助は、嬉々として叫ぶと、荷電粒子砲の威力に出鼻を挫かれた相手に向かって、リニアブーストを発動させて弾け飛んだ。
仁は、無言で笑みだけを浮かべて右側へと突撃して行く。
「さあさあ、楽しんでいこうぜっ!」
耕助は、手始めとばかりに最前線に立つ馬上の騎士や一般兵達にレールマシンガンをばら撒いて蹴散らして行く。
そして、自分から集団に飛び込むと、グルリと回転しながら更にマシンガンを撃ちまくる。
ブウォォォン!!という射撃音がその周囲を支配して取り巻いていた兵士たちが肉片に変わっていった。
「ば、化物がぁ!」
射撃の間隙を縫って、一人の獣人が絶叫を上げて巨大な斧を振り上げる。
しかし、耕助は動ずることなくマシンガンで頭部を消し飛ばすとスピーカーのスイッチをオンにした。
「学習しないねえ!何世紀も前の装備でなにが出来るってんだ!!覚悟を決めた奴らからかかってこい!」
そう叫ぶと、目の前に立った、騎士も兵士も獣人も片っ端から殺して前に進んで行く。
その姿に、それまで勇猛に襲いかかってきた者達が背中を向けて逃げ始めた。
「おいおい!冗談じゃねえぞ!!」
耕助は、不満な声を上げてそのもの達の背中にマシンガンを叩き込んでいく。
そして、その包囲が緩んだのを感じると、マシンガンを右肩の後ろに装着して、バックパックの横に装着していたアダマンタイト製の金砕棒を取り出し両手で構えた。
「しゃあねえ!それじゃここからはお前らの得意な肉弾戦で遊んでやるぜっ!!」
すると、それまで耕助の戦いに臆していた者達が踊りかかってくる。
耕助は、金砕棒の尖端を握ってブウウン!と振り回した。その迫力に押されて周囲の者達の足が止まる。
「ちゃんと、覚悟できたんだろうなぁ?女房、子供もいるヤツらもいるんだろ?!…残念だが、ここでお別れしてもらうぜっ!」
絶叫と共に、耕助は逆に集団の中へ踊りかかった。
そして、次々と金砕棒で騎士や獣人、兵士達の頭部や体の一部を吹き飛ばして薙ぎ倒していく。
「こいつぁいい!やっぱり俺向きの武器だったな!」
すると、耕助を中心に上空から放物線を描いてファイヤーボールとアイスランスが飛んでくる。
すかさず、耕助は回避すると飛んできた方向を睨みつけた。その場にいた兵士達を巻き込んでファイヤーボールとアイスランスほ着弾する。
「いいねえ!味方も敵もないって、そういう必死なのはキライじゃないぜっ!」
耕助は、その方向に荷電粒子砲を向けると同時に撃ち放った。
射撃上の兵士達はその場で蒸発し、射撃した魔装騎士は直撃を受けて爆発する。
一方、仁の方はレールマシンガンを温存して金砕棒のみで戦っていた。相手はその様子に、次々と魔法や飛び道具を使用したが全てを避けられ、まったく意味を持たない。
仁は、口元に笑みを消すことなく金砕棒を振るい時には殴り、時には串刺して死体の山を築いていた。
「まったく、飽きもせず…。命は一個しかないのに。」
そう呟くと、目の前に殺到した兵士のうち二人まとめて串刺しにする。そして、高々と掲げると振り回し、馬上で指揮をしていた騎士に叩きつけた。
仁は、その場に走ると落馬した騎士の頭部をラグナロクで踏み抜く。
「段々、こっちが飽きてくるな。」
そう言いながらも楽しげに逃げ始めた敵を更に追い込んで行った。
たが、その時、一体の魔装騎士が、剣で仁の金砕棒を受け止めた。




