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第二十一話 四竜騎士


 公国だった時代より、ダルキア帝国は領民と軍隊を切り離すことに成功した国であった。


 もちろん、そこに至るまでの道は苛烈であった。

 当時、老齢になった王と第一王位継承者の長兄を謀殺し王位を簒奪した現王デュラン=グラディウス=ダルネシアが、旧王家派や長兄派の反対勢力をはじめ、己の欲だけに走る無能な貴族も次々と粛清、排斥し盤石な施政を行い帝国制を敷いた。

…そして、自分は初代皇帝となる。


 その皇帝、デュランが初めに行い最も重要視したのが軍事改革だった。


 それにより、他国が戦争の度に領民を徴収し、数を揃えるような軍事を成す状態の中で早くから職業軍人を確立することの出来る国となった。


 ダルキア帝国は、それ故に、時期を問わず他国へ攻め入ることも、また、他国からの侵略にも耐えうる国家となっていた。

 そして、軍部の強化を更に推し進めると同時に周辺の中小国家を飲み込んで今の大帝国を築いていた。


 その帝国の首都、帝都ヴァルキュリアにある国軍省の中でも最も大きな建物がある。

 一見、高貴な貴族の邸宅を思わせるほど立派な造りは帝国が軍事に対して優先的な政策を敷いていることを示している。


 その廊下を、緑色の髪にシャープな輪郭を持った美男子が鼻歌を歌いながら奥にある部屋に向かっていた。その出で立ちはフルプレートを身にショートソードを腰の左右に下げ武勲ある騎士を思わせる。


 男は、目的の部屋に着くと機嫌良さげなままに勢い良くドアを開けた。

 中には、三人の男女が中央の円卓を囲んで座っている。


「おはようございます!…私が最後ですか?」


「…おはよう。…そのようだな?」


 長い黒髪を後ろに束ねた騎士が、そう言いながら微笑みで迎える。

 部屋は、見事な調度品が並び建物の中でも最も豪華な雰囲気を醸し出していた。


 円卓を囲む残った一つの椅子に座ると、男は他の男女の騎士に挨拶をした。

 

「おはようございます。」


「珍しく遅かったね?…こういう話の時は真っ先に来ると思っていたよ。」


 真っ白な長い髪に褐色の肌を持ったこちらもフルプレートの美女が微笑みながら話しかける。


「これでも、早く来たつもりだったんですけどね。皆さんこそ、早すぎるのでは?」


「…そうかもな。」


 はじめに迎えた騎士が微笑みを称えたまま答えた。

 

 その四人は、それぞれが竜のあざなを付けられた四竜騎士と呼ばれる帝国軍でも指折りの騎士達であった。


 最後にこの四竜騎士専用の部屋に訪れた『疾風竜ゲイルドラゴン』の名を預かるゼフィルス=シルヴァンは、クールに見える顔立ちには似合わないほど胸の高鳴りを抑えられずにいた。


 四人の中で一番若いということもあってか、その表情に溢れ出している。


「シルヴァン殿。嬉しいのは分かるが顔に出過ぎているのではないか?」


 四竜騎士の中でも、最強の呼び声が高く人望も厚い『炎竜(フレアドラゴン)』ガイウス=ギースが嗜める。ガイウスの佇まいは、最強と呼ばれるだけあって、他の三人に比べて雰囲気が違っていた。


「申し訳ありません。しかし、久しぶりに我ら四人で戦地に赴くなど心が躍りませんか?それも、たった二体の魔装騎士マジックメイルで二千を屠る者と戦えるのですよ?」


 ゼフィルスは、ガイウスに指摘された事に恐縮しながらも顔を高揚させて答える。


「そうね。確かに四人一緒だなんて何年ぶりかしらね?」


 『雷光竜(ライトニングドラゴン)』ジェリル=ライラが横に並ぶ『岩石竜(アースドラゴン)』オーべル=グラナイトに問いかける。

 そして、白いロングストレートの髪の毛先を弄びながら笑みを作った。 


 オーベルは、目を閉じたまま無言で頷く。

 他の三人が話をしているところを見たことがないほど、オーベルは無口な男であった。


 他の三人は、ゼフィルスの様子を微笑ましく見ながらも自分たちの胸の高鳴りに気づいていた。


 それぞれが、配下を率いて様々な戦場へ赴いては、必ず戦果を上げてその名を轟かせ、今では四竜騎士の存在は周辺諸国の脅威でもあった。


 もちろん、セレスティア王国にとっても同様である。もし、対抗出来る者がいるとすれば、それは一騎当千と称されるカレンだけだった。


「しかし、カレン=ヴィジャットとどちらが強いんですかね?もし、叶うならそちらと戦ってみたいものです。」


「そうだな。その機会があれば序列からいって、私が最初だな。」


 ガイウスは、そう言って腕を組む。


「それはないですね。そうなれば、その時点で終わりでしょう。やはり、一番下の私から行くべきです。」


 ゼフィルスの言葉が表す通り、四人は強者を求めていた。今まで、どの戦場に行ってもそれぞれの敵になり得る者はいなかったのである。


「それにしても、今回の戦は私達が揃って行くほどその異世界人は強いということなのかしら?…大体、二千の部隊を殲滅したって持て囃してはいるけど、ここにいる私達なら簡単にできることじゃないの?」


 三人がそれぞれに頷く中、ジェリルが怪訝な顔を見せる。

 すると、ガイウスが両手を腰に当ててため息を吐きながら言った。


「ルヴェル大将軍が仰るには、生き残った者達を聴取した所、とても人とは思えない残虐な戦いをしたらしい。おまけに、ほとんどが心を痛めてしまい、戦場では使い物にならなくなっているとのことだ。」


「「「…。」」」


 ガイウスは皇帝に続いて国軍の指揮権を持つ、バルザック=ガルド=ルヴェル大将軍から聞いた言葉をそのまま伝えた。


 その言葉に、三人は笑みをしまう。ダルキア帝国は、その侵略政策を継続して数年に渡っており、ほとんどの期間、戦線を大小問わず複数抱えている状況である。


 つまり、兵士や騎士達は僅かな休暇を経た後に、また別の戦線に出向くほど戦いを熟知しているばずなのである。

 それが、一度参戦した戦いで心を痛めるなど、余程の経験をしたことになる。


「つまり、大将軍は我らのいずれか一人ではご心配ということですか?」


 そう言って、ゼフィルスの目が静かに据わり始める。しかし、それにガイウスは首を振ると笑みを浮かべて言った。


「いや。大将軍は、この二人を完膚なきまでに叩き潰し屠って来いとの仰せだった。それに、こうも仰っていた。」


 そこで言葉を切ると他の三人の顔を見渡して続ける。


「…日頃の鬱憤を晴らしてこい。とのことだ。」


 その言葉に、四人はようやく笑みを浮かべ、更に心を高鳴らせるのだった。


■△■△■△■


 一方、耕助と仁は、王城の中庭でエレノアから装備を受け取り、説明されているところだった。

 翌日には、王都を出て黒狼騎士団率いる七千の軍と合流しサトラムス渓谷へ向かう予定になっている。


「一応、こんな物を作ってみた。」


 エレノアは、そう言って立てられている三.五メートルほどある二本の金棒をコンコンと叩いた。


「大昔、日本で僧兵が持っていた武器で『金砕棒かなさいぼう』というのを参考にしてみた。材質はなんとアダマンタイトだ。」


 その金棒は上から見ると八角形をしていて尖端が僅かにだけ尖っている。

 耕助は、いかにも凶暴そうなその作りに目を輝かせた。


「強度はとてつもないが、重さもかなりある。取り回しに苦労するとのことだったが、まあ、お前達なら問題ないだろう。…どうだ?」


「地味だな。」


 仁は一言で両断する。


「いやいや、仁くん。これはいいよ!かなり俺好みだね!」


 耕助は、金砕棒を擦りながら仁に訴えかける。


「う〜ん。予想通り喜んだのは耕助だけか…だが、仁。これを打ったのは『剣匠』と呼ばれる王国で一番と言われているドワーフの工房主だぞ?」


「なんだって?!ドワーフが作ってくれたのか?!」


 耕助の顔の輝きが更に増す。

 すると、仁は諦めた様に承諾した。


「わかったよ。それで?他にはないのか?」


「ある。今度はこれだ。」


 エレノアは、そう言ってビールサーバーの樽ぐらいの大きさはあるタンクのような物を取り出した。


「ドラムマガジン?」


 仁は、レールマシンガンに装着されるドラムマガジンをみながら、怪訝な表情を浮かべる。


 エレノアは、両手を腰に当ててその破壊力抜群な双丘を突き上げて誇らしげに語りはじめた。


「フフフ…。これに装填されている弾は只の弾ではない。新鉄にミスリルをコーティングしたものなのだ。」


「それが、どうかしたのか?」


「この世界には魔法で物理攻撃を無効化する障壁があるのだが、この弾は、理論的にはその障壁を無力化することが出来るのだ。…つまり、障壁自体の魔力をコーティングされたミスリルが吸収して新鉄で抉り取る構造なのだ。」


 そう言って、弾丸の形をした銀色の礫を見せる。

 

「理論的にはなんだろ?大丈夫なのか?」


 今度は、耕助が質問をする。


「私の計算に間違いはない。お前達はこれを使って、私にデータをよこしてくれればいい。」


「おいおい、仁くん。なんかおかしなことを言い出したぞ?…大丈夫なのか?」


「知らんが、やるしかないんだろ?」


「当然だ。これ一発で銀貨五枚相当でな。十万発作ったから金貨千枚、ドル建てならザックリ七百万ドルだ。」

 

 その金額は日本円で約一億円になる。


 仁と耕助は、金額を聞いて慌てた。


「エレノア。あんた、やり過ぎじゃないのか?」


「構うもんか。今回の戦は侯爵持ちだ。騎士団を動かす戦費を考えたらお釣りが来るくらいだ。」


「知らねえぞ?」


 そう耕助が言った時に、所用があるからとこの場所から離れていたアリステルとカレンが戻ってきた。


「…どうかしたのか?」


 アリステルは、仁とエレノアの様子がおかしいことに気付いて問いかける。

 すると、エレノアは気にする様子もなくニッコリ笑顔を作った。


「いえ!二人とも、私が用意した武器を気に入ってもらえたようです!」


「そうですか。それは何よりだ。」


 そう言いつつも、アリステルの顔はどこか暗い。

 それを察して仁が聞く。


「…なにかあったのか?」


「…実は、今回の戦に我ら紅焔騎士団の同行を申し出に侯爵の所へ行ったのだ。…この前の事もあったからな、戦地で味方から攻撃をかけられるやもしれん。」


 そう言って耕助を見る。


「俺、悪くないもん。そんな目で見ても無駄だよ!」


 耕助は、そう言いながら舌を出す。

 アリステルは、自分も笑ってしまった手前、耕助に強く言えずため息を吐いた。


「仁。すまないが、向こうは頑なでな。結果的には断られてしまった。」


「いいさ。気にするな。耕助コイツが悪い。」


 仁は、事も無げに笑ってみせる。


「だが、言ってみれば一万と七千が敵に回るようなものだぞ?…それに、なにか胸騒ぎがするのだ。」


「変なフラグ立てんなよー、まったく。それに、お守りがいる年じゃないしな。…心配するなって。」


 耕助は、気にすることもなくアリステルを宥めるように言った。


 すると、エレノアが訳知り顔で話し始める。


「いや、貴族は体面を大事にするからな。ましてや、侯爵ほどの立場てあれば背中から襲うとは考えにくい。…あの黒狼騎士団の団長を堂々と紹介したほどだからな。それが話題の異世界人を後ろから屠ったともなれば面目も丸つぶれだ。」


 すると、仁は片目を瞑ってエレノアに言う。


「お前は、金貨千枚の成果が聞きたいだけだろ?」


「金貨千枚?なんの話だ?」


 アリステルは、エレノアの方を向いて問いただす。

 エレノアは、思わずシドロモドロになりながら答えようとする。


「いや、殿下!必要経費と申しますか、この二人に対魔法武器の製作を剣匠殿に依頼しまして…」


「その代金が、金貨千枚というのか?!」


「…賢者殿…。」


 アリステルの隣に立つカレンまでが頭を抱えた。

 そして、半ば呆れたような顔をすると言葉にした。


「…賢者殿。しばらくは魔法の研究費を削減させてもらうからな。」


「そ、そんな!…仁!お前、覚えておけよ!」


 エレノアは、まるで仁が悪いとばかりに睨みつけた。しかし、仁は意に介さずに笑う。


「どうせバレることだろ?それに、ちゃんとレポートは提出してやるよ。」


「…当たり前だ。絶対に生きて帰って来い。約束したぞ!」


 エレノアの言葉に仁と耕助は笑って力こぶを作って

、返事をした。

 

 ……そして、、翌日。二人は予定通りに王都に集結した黒狼騎士団を中心にした七千の軍勢と共に、サトラムス渓谷へと向かって行った。


 

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