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第十五話 シャルガン=ルイズ=ヴィルヘルム (1)

 ホールから一部屋挟んだところに、二回りほど狭い小ホールがあった。

 その中央に、向かい合わせで二人掛けのソファが置かれ、その脇に並んだテーブルには料理と数本のワインのボトルが並んでいる。

 

 その小ホールの入口とソファのちょうど真ん中辺りにシャルガンは立って、イヴァノビッチに連れられた耕助を迎え入れた。


「ようこそ、神代耕助殿。本当にお会いしたかった。」


 シャルガンは、そう言って右手を差し出す。

 それに耕助が応えて握り返すと、左手を背中に回し親密な様子を醸し出してソファへといざなう。


「お招き感謝するぜ。辺境伯。」


 にこやかに笑顔を浮かべながら、耕助はそのままソファに腰を下ろす。


「いや、こちらこそ感謝する。早速、私自慢のワインを開けよう。」


 シャルガンは、そう言って側に立つ執事に顎をしゃくった。執事は、無言でボトルの一つを手にすると手慣れた様子で栓を開ける。


「これはニ十五年前に豊作だった年に、厳選したブドウだけで作り魔法で温度管理した蔵で熟成させたものでね。更に熟成させればもっと良いものになるとは思うが、今でも金貨千枚はくだらないという一品だ。」


 シャルガンが解説している間に、執事はワインを丁寧に開けてグラスに注いでいく。そして、二人の前に差し出した。


 シャルガンと耕助は向き合ってグラスを掲げる。


「では、異世界からの英雄に。」


「闘将、ヴィルヘルム辺境伯に。」


 シャルガンは、耕助の皮肉っぽい言い方と表情に一瞬、眉をしかめたが、すぐにそれをしまい込むと笑顔を浮かべて言った。


「ほほう。闘将とは。その二つ名をどこでお聞きに?王女殿下からですか?」


「ああ。昔は随分と派手に暴れてたって聞いたよ。」


 そう返しながらワインを一気に飲み干す。


「これは、見事な飲みっぷり。いかがですかな?ワインのお味は?」


 シャルガンの問いに、耕助は首を傾げる。


「分からねえ。俺はビール党なんでね。」


「ビール…ああ、エールのことですな?それは申し訳ない。すぐに用意させよう…。」


 シャルガンは、度重なる耕助の不遜な態度と言動に、こめかみに青筋を浮かべながらも笑顔を続ける。


「いや、いい。ところで辺境伯。」


「なんでしょう?」


「前置きはこのくらいでいいから、俺達に話ってのはなんだ?」


 耕助は、そう言ってグラスをテーブルの上に置く。

 すると、シャルガンはそれまでの笑顔とは違い陰湿な笑みを見せると語り始めた。


「…どうやら神代殿は、賢明な方のようだ。では、単刀直入に申しましょう。王女殿下との契約を破棄して我々と契約を結んで頂きたいのです。」


「どうしてだい?王女様と契約したら、あんたの味方になったのと同じだろ?」


「…神代殿は、この国の現状と敵国ダルキア帝国という国の事をどこまでご存知なのですか?」


「今日、来たばかりでね。何も知らないな。」


「なるほど…。どうやら殿下はお二人を死地に送るつもりだったようですな。」


「どういう意味だ?」


 耕助は、そう言って少し身を乗り出す。


「この国は、王家はあってもその実権は侯爵家であるグランディア様が握っておいでです。国内にある半数にも及ぶ戦力を侯爵様は治めております。」


「半数か…。つまり、今の王家は傀儡ということなのか?」


「そこまでは申しません。ただ、我々が支持しております侯爵様こそがこの国を担っているといっても過言ではありません。」


「…それで?」


 シャルガンは、耕助の促す言葉を聞いて更に熱を込めて語る。


「はい。それにダルキア帝国ですが、その全体の戦力は王国の二倍はあると言われております。…神代殿はその事を殿下よりお聞きになっておりましたか?」


「…いや、初耳だ。」


「そうでしょう!そうでなければ、そのような敗れることが決まった戦いに挑む王家と契約するはずがありません。」


 シャルガンは、黙ったままの耕助を見据えながら言葉を続ける。


「…そこで、我々は考えたのです。このままお二人を犠牲にするよりも、我々とともに王家を排斥し、帝国と与してこのロナルディアを平定する道を歩もうと。」


「…なるほど。そりゃまたスゴイ話だな。」


 耕助はそう言って空のグラスを執事に向けてワインを注がせる。


「神代殿。この話、いかがでしょう?このまま王家と心中など、ましてやまったく関係のない異世界のことで命を費やす事はありません。私に雇われてはいかがでしょうか?」


 語り尽くしたシャルガンは、そのまま耕助の目の奥を覗くように見つめる。

 すると、耕助は大きく頷いて言った。


「いいぜ。あんたに雇われよう。」


「そうですか!やはり、あなたは賢明な方だ!」


 シャルガンは、大袈裟なほどに喜び体全体で表現して耕助の手を握ろうとした。

 しかし、耕助はそれに捕らわれず指を立てて言った。


「だが、その前に報酬の話だな。あんたは、一体どれだけ用意出来るんだ?」


「なるほど、当然の話ですな。…それでは、何がお望みでしょうか?…金ですか?それとも財宝?領地でも結構ですぞ?私が出来るものはすべてご用意いたしましょう。」


 そこまでシャルガンが言うと、耕助はその顔に戦場で見せるような凶悪な笑顔を静かに浮かべた。

 その変わりようにその場の空気が一気に凍りつく。


「すべてだ。お前の持つ、領地、財宝、領民、すべてを貰うとしよう。」


「は?」


 シャルガンは、耕助が言った意味が理解出来ずもう一度聞き返した。


「す、すべてとは、どういう意味ですか?」


「言った通り、お前が持つすべてを報酬としてもらうと言ったんだ。」


「な、なんだと?!」


 シャルガンは、ようやくその意味を理解すると勢いよくソファから立ち上がった。


「なにを訳の分からんことを!たかが傭兵風情が!!過ぎた欲は身を滅ぼすと分からんのか?!」


「おーお。やっと本性を現したな。…まったく偉いヤツはキライだね。怒ると品性が一気になくなる。」


 元々、品性の欠片もない耕助が、自分の事を棚に上げて皮肉る。


「少しばかり戦功を上げたからと図に乗りおって!私を誰だと思っている?!」


「只の太ったオッサンだろ?」


「き、貴様!…子爵!この者を捕らえて地下牢にでも放り込んでおけ!この際、殺してもかまわん!」


「ハッ!」


 イヴァノビッチがそう返事をしたと同時に、小ホールの柱の影から六人の騎士が姿を現す。


「やれやれ。隠れてたつもりだろうけど、とっくに気づいてたんだよね。」


「減らず口を…。剣もなにも持たずにノコノコついてきたことを後悔するがいい!」


 シャルガンの言葉に騎士達は耕助の周りを取り囲むと剣を抜いて構えた。

 だが、その瞬間、耕助は立ち上がると上着の後ろを跳ね上げてズボンの後ろに刺していたグロックを引き抜いて発砲する。


バンバンバンバン…!!


 弾丸は、すべて騎士達の太腿に命中し鮮血を吹き上げた。六人の騎士達は持っていた剣をその場に落として痛みに転げ回る。


「な、なにが…」


 あまりに大きな発砲音に、シャルガンは耳を塞いでその場にうずくまった。


 耕助は、ゆっくりとシャルガンに近づく。


「丸腰じゃなくて悪かったね?これでも結構、臆病なんだ。」


 そう言って、シャルガンの眉間に銃口を突きつける。


「ま、待ってくれ。い、一体お前は…。こんなことが許されると思っているのか?」


「ああ、思ってるね。これで王家だろうが侯爵とやらが敵に回っても、俺達は絶対に勝つ。お前等全員を皆殺しにしてな。」


「そんなことが出来ると思っているのか?!」


「フフン。逆に出来ないと思っているのか?」


 そう言って耕助はグロックのグリップを握り直す。


 シャルガンは、その時になってやっと気づいた。

 この世界の常識も秩序も法律でさえ、この者には無意味であることを。

 それを理解した途端、身体中が震えてくる。

 大いなる力の前に、非力な自分の矮小さへの後悔に心までが支配される。


 だが、耕助がグロックのトリガーにかかった指に力を入れようとした時、小ホールに声が響き渡る。

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