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第十四話 宴 (3)

 耕助の周りには、仁のように人が集まることなく、ただひたすら一人で誰からも声をかけられることもなく飲み食いをしていた。

 その様子は鬼気迫るものがある。


「神代殿。この世界の料理は気に入ってくれたか?」


 アリステルは、少しおどけた様に声をかける。


「ん?…ちょっと薄味な気がするけど、どれも美味いな!…王女様は食べたのか?」 


「いや、まだだ。」


「なんだよ。勿体ないぜ?」


 耕助は、そう言って手元のワインをラッパ飲みするとボトルをテーブルの上に置いた。


「で?なんだい?聞きたいことでもあるのか?」


「…白神殿のことだ。彼はあちらの世界でどこかの貴族に仕えたりしていたのか?」


 アリステルは、遠くの場所で談笑している仁の姿を眺める。


「ん?ああ、上手に相手してるからだろ?アイツはなんでも出来るからな。多少、見てれば同じような事は出来るのさ。おそらく、他の貴族達の振る舞いを見て覚えたんだろ?」


「…そんな事が出来るのか?」


「ああやってるってことは、出来るんだろ?…知らんけど。」


「…そうか。」


 アリステルは、もう一度仁の方を見た。

 その様子を見ながら耕助の方が口を開く。


「俺からも聞いていいか?」


「なんなりと。」


 アリステルは耕助に視線を戻す。


「…じゃ、遠慮なく。…この城は本当にあんたの味方の城なのか?」


「なにをいっているのだ?ここは我が王国の西の防衛拠点だぞ?ダルキア帝国から境を守る要だ。」


「そりゃ、ただの状況だけだろ?それが、敵にならない理由にはならない。…じゃ、聞かせてもらうけど、これだけの城塞都市があってなぜあんたらは半分にも満たない部隊で来たんだ?」


「…それは、召集に間に合わなかったからだ。」


「王女殿下。俺はバカだけどそれがウソってくらいはすぐに分かるぞ?…訂正するなら今のうちだ。」


「…。」


「騎士団長だからと言ってもあんたは王族だろ?そんな騎士団に半数の戦力で前線に出すなんてまずない。大方、ここの戦力を当て込んで入ってみたものの、ここの城主は敵が近づいてきても動こうとしない。」


 耕助は、喉を潤すためにワインを一口飲む。

 そして、言葉を続けた。


「…例え俺達の事があったにせよ、迎撃するためにあんたたちだけで出陣した。…つまり、ここの城主にとっては、あんたが戦死してもかまわなかったということになる。…死ぬと思っていた王女殿下が無事に帰ってきたんだ。この城に入ってからの違和感もこれで説明がつく。」


「違和感…だと?」


「そりゃ、今日の今日でこれだけの宴を開いたんだ。それも負けると思っていた戦にもかかわらず、まるで王女殿下に取り入るように、これだけ大勢が集まっているんだ。…誰が見てもおかしいぜ?」


 耕助はそう言って戯けた様に笑った。

 アリステルは、覚悟を決める。


「…かつて、ここの城主は今の国王陛下から『闘将』の二つ名を授かるほどの武人でな。一代にして一介の男爵位からその武勇で辺境伯までになった男だ。」


「あの挨拶してた太ったおっさんの事か?」


「そうだ。今は見る影もないがな。」


「へえ…。」


 耕助は、そう言いながらも興味深そうにアリステルの話に耳を傾ける。


「…それが、この地の領主となった辺りに侯爵家であるグランディア侯爵が近づいて派閥に取り込んでしまったのだ。」


「貴族は怖いねえ…。それで?」


「そのグランディア侯爵は、今のダルキア帝国との戦を利用して王家に反旗を翻そうとしている。その急先鋒がこの城の城主、ヴィルヘルム辺境伯という訳だ。」


 アリステルの話に耕助は呆れた様に答える。


「つまり、政敵の腹の中に飛び込んでいる。…ということなのか?…まったく大胆なお姫様だな。」


「…褒め言葉と受けとっておこう。」


 耕助の言葉に笑みを持ってアリステルは答えた。

 それに肩を竦めながら耕助は聞いた。


「それで?どうするんだい?」


「実は、もう謀反の証拠は押さえている。」


「…マリーちゃんかい?」


 アリステルは、耕助かそう言うと目を丸くした。


「貴殿は、そういうことに興味がないと思ってたぞ?」


「俺もそう思ってる。だけど、ああいうヤツと長年つるんでいると、ココが鋭くなるんだよねえ。」


 耕助は、そう言うと自分の鼻の頭をチョンと指先で触る。アリステルは、それに笑みで返すとため息混じりに言った。


「この件は貴殿らに何ら関係ない。身内の恥を晒すのは心外だが必ず収める。どうか、見ててもらおう。」


「…分かったよ。」


 再びボトルを握りながら、耕助は食事の続きを始めた。アリステルも、それを見ると踵を返してカレン達の元へと歩き始める。

 すると、耕助から声がかかる。


「王女殿下。」


「なんだ?」


 耕助は、忙しく動いていた手を一旦止めて言葉を続けた。


「…今更かもしれんが、あんたの依頼、受けるぜ。」


 その言葉にアリステルの目が見開く。


「…いいのか?」


「ああ。仁のヤツも満更じゃねえみたいだし。…依頼は、ダルキア帝国とやらを倒す。それでいいのか?」


「ああ。…それで報酬はいかほどか?」


「それは、仁と相談するから時間をくれ。」


「わかった。出来る限りのものを用意する。期待してくれていい。」


「…これからよろしく頼む。」


 耕助は、そう言ってアリステルに近づくと右手を差し出した。アリステルは、緊張気味に握り返す。 


「…フフフ。まるで悪魔と契約した気分だ。」


「ハハハ。悪魔のほうがマシだったかもよ?」


 耕助の言葉に、笑みを返しながら更に握る手に力を込める。


「…神代耕助殿。白神 仁殿。共に勝利を。」


「…そういう芝居がかったのは苦手だが、キライじゃない。よろしくな。」


 アリステルは、満足気な表情を浮かべると小さく拳を握って自分を称えた。

 そして、不安気な顔でこちらを見ているカレンの元へと歩いて行った。


 耕助は、その力強い足取りを眺めると再び料理と格闘を始めた。すると、背後から不意に声がかかる。


「…契約成立ですかな?神代耕助殿。」


「誰?」


 口いっぱいに料理を詰めながら、背後の人物に振り向いた。そこには、いかにも神経質そうな顔をした貴族が立っている。


「お初にお目にかかります。私は、この城の城主、ヴィルヘルム辺境伯様の宰相を務めておりますイヴァノビッチ=ジェリド=サンタール子爵と申します。」


「はじめまして。」


 耕助は、ワインで料理を胃袋に流し込むと怪訝な顔でイヴァノビッチを見る。


「そう警戒なさらなくても大丈夫です。実は、私もあの戦場に赴いてお二人のご活躍を拝見していた一人でございます。誠に、見事な戦いぶりでした。」


「あ、そう。それはどうも。」


 素っ気ない返事をしながら、次のワインに手を伸ばす。イヴァノビッチは、その様子に微かに苛立ちを感じたが表情に出すことなく話を続ける。


「実は、私めの主である辺境伯様が折いってお二人にお話したいことがあるとのことで、別室にてお待ちしております。…見た所、白神殿はご来賓のお相手でお忙しいご様子。神代殿だけでもお越しいただくわけにはまいりませんでしょうか?」


 仰々しいイヴァノビッチの物言いに、耕助は露骨に嫌そうな表情を見せる。


「まだメシの途中なんだけど。」


「ご安心下さい。そちらにも更に美味な食事を用意しております。それに、辺境伯様ご自慢のワインもご用意してあります。」


「辺境伯自慢のワインだって?!」


「はい。ブドウの豊作の年に収穫した厳選素材を抽出した年代物でございます。」


 耕助は、持っていたボトルを見るとテーブルに置いてイヴァノビッチに近寄った。


「わかった。それじゃ折角だしごちそうになるよ。」


「ありがとうございます。」


 イヴァノビッチは、耕助の不遜な態度に腹立たしく思いながらもそれを覆い隠すように頭を下げた。




 

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