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第十ニ話 宴 (1)

 城塞都市セレバスの中央にある城は、辺境領にあるにしては強固で豪勢な造りをしていた。

 

 その城の二つの大きな入口の向こうには大勢の来訪者を迎えるホールがある。


 そこでは今、今日の戦いに勝利した祝宴のために、多くの周辺貴族が集まり、それぞれの小さな派閥や親しい者同士が集まり歓談をしていた。


 本来であれば、このような宴は招待客の都合もふまえ、数日の日を空けて開かれるものである。


 しかし、シャルガンをはじめ、参戦しなかった貴族達は一介の騎士団長とはいえ第四皇女でもあるアリステルに対し、露骨なまでに礼を尽くす姿を見せるために、急遽開かれた戦勝の宴に参加していた。


それに、神が降臨したかのように戦場に現れ前線部隊二千をたった二人で殲滅したという異世界の傭兵についても興味が大きかった。


 中には、ヴィルヘルム領より東に馬車で三日はかかる地に領地を持つ伯爵家の者もいる。

 おそらく、膨大な魔力を必要とし高貴な一部の貴族しか利用出来ない転移ポータルを使ってまで来たのだろう。 


 その様子を、内心忌々しく思っているシャルガンはワインの入ったグラスを手に一番奥の位置にあるテーブルから眺めている。


「…こちらの気も知らずに、呑気に王女へ媚びへつらうためにわざわざこちらの呼び出しに応じるとは…この日和見共が。」


 自分のことは棚に上げてシャルガンは悪態をつく。


「それだけ、まだ王家を恐れているのではないでしょうか?侯爵様の影響力が増しているとはいえ、王女率いる紅焔騎士団をはじめ、あの賢者の存在。そして今度は得体の知れない傭兵が現れました。」


 シャルガンの横で控えるように立つイヴァノビッチは、同じ様にホールを見渡して言葉を続ける。


「…辺境伯様の仰るように、あの傭兵共を手懐けることは侯爵様の派閥内での影響力を上げることに加え、辺境伯様ご自身の戦力強化にもなります。…正に一石二鳥の良き手段かと改めて感服しました。」


 そこまで言って静かに頭を下げる。


「そうか。それでは、ここからの子爵の働きが鍵を握ることになるな。しかと傭兵達を探って参れ。」


「ハッ。」


 イヴァノビッチは、再び小さく頭を下げた。

 すると、シャルガンの執事がアリステル一行の準備が後数分で整う事を耳打ちしてくる。


「わかった。…では、子爵。頼んだぞ?」


「かしこまりました。」


 そう返すと、恭しく頭を下げながらイヴァノビッチは側を離れた。




■△舞台裏△■

 

 入口から正面の最奥に一段高い所に広めの踊り場があり、王族をはじめ上級貴族や主賓が挨拶の口上を述べる場所があった。


 その場にある扉を一枚隔てた場所に、耕助と仁を含めたアリステル一行は出番を待つために控えている。


「もうすぐ我らを辺境伯が紹介する。それに合わせてそこの扉から出るわけだが…神代殿?ここだけで良いから大人しくしてもらえるか?」


 フルプレートの鎧から、白と黒を基調とした赤がアクセントの騎士団の儀礼服に着替えたアリステルは、後ろの方でエレノアと文句を言い合っている耕助に声を掛けた。


「だってこの服、結構キツイぜ?腕の所とかピチピチだしさぁ…。」


 アリステルと似たような儀礼服を身に着けていたが、中肉ではあるが腕の太い耕助には口にした通り腕の部分ははち切れそうになっている。


 それと対照的に、仁はこの上なく着こなしていた。

 その立ち姿は香り立つようである。


「申し訳ない。急にあつらえたので、それしかなかったのです。」


 アリステルの後ろに立つカレンが、仁の姿をチラチラと見ながらすまなそうに言う。


「我慢しろ。私など見てみろ?こんなドレスを着せられて…初めてだぞ。まるでテビュタントだ。」


 エレノアは、そう言って緑を基調としたドレスを上から見据えながら文句を言う。


「大丈夫だ。ちゃんと似合ってるぜ?」


 横に立つ仁が、そう言いながら微笑む。


「仁。今日のことは忘れんからな。お前が同行などをさせるからこんな目にあってるんだ。」


「なにを言ってるんだ。また一人にすると、今度は何を企むか分からないんでな。しばらくは付き合ってもらうぜ?」


「……。」


 そう言われてエレノアは押し黙る。

 その様子に、仁は小さくため息を吐いた。


「エレノア。黙ったら、実は企んでました。ってことになるぞ?」


 そして、口元に笑みを浮かべる。

 すると、エレノアもそれに合わせて笑みを浮かべると言った。


「分かった。しばらくは遠慮してやるよ。」


 それを聞いて仁は肩を竦める。

 そして、先頭のアリステルから声がかかった。


「始まるぞ。それぞれ覚悟を決めろ。」


「「「……  」


 その場の一同が口を噤むと外からシャルガンの口上が始まったのが聞こえてくる。


「お集まりの皆様!本日は急なお呼び出しにこれだけの方々にお越し頂き、感謝に堪えません!先だって仇敵ダルキア帝国から宣戦を布告され、その初めての戦に、本日我々は勝利することが出来ました!」


「「「おお〜…」


 貴族達の感嘆のどよめきが起きる。


「まだ、前哨戦とも言える戦いではございましたが、勝利したことには変わりありません。このまま、我々は帝国の者共を討ち滅ぼし、完全なる勝利を手にすることでしょう!…それでは、今回の戦の立役者をご紹介させて頂きます。大きな拍手でお迎え下さい!…アリステル=ロゼ=セレスティア王女殿下様!」


 その声と同時に、左右に別れた階段の先に繋がる二階ほどの高さの踊り場の中央にある両扉が勢いよく開かれた。

 そして、大きな拍手がホール内に沸き上がる。


 開かれた扉から、儀礼服に身を包んだアリステルが現れると拍手は更に大きくなる。

 

「ご戦勝、おめでとうございます!」


「おめでとうございます!王女殿下様!」


「王女殿下!ありがとうございます!!」


「さすがは、王女殿下様です!」


 貴族達は、口々に感嘆の声を上げて拍手を大きくする。それに、アリステルは外交的な笑顔を貼り付けると手を挙げて応えた。

 そして、ホールに集まる人々を一望すると口上を始める。


「皆のもの、今日はよく集まってくれた…」


 それを聞いていた耕助は意地の悪そうな顔をして呟いた。


「よくやるぜ。まるで見せ物か茶番だな。」


「神代殿。それは殿下が一番分かっていらっしゃることです。ここは堪えて頂きたい。」


 耕助の悪態に、カレンが泣きそうな顔を見せながら小声で懇願する。


「分かってるって!ちゃんと空気を読んで大人しくしてるだろ?!」


 耕助の小声の返事に、今度は今にも逃げ出しそうなエレノアにも声をかけた。


「賢者殿も、どうかこの場は殿下の顔を立てて下さい!」


「わかっています。こんな耕助ヤツと一緒にしないで下さい。」


「ああん?お前、喧嘩売ってんのか?!」


 そう耕助が喚きかけた時に、アリステルの口上が終わり、二人の名前が呼ばれる。


「神代 耕助殿!白神 仁殿!」


 その呼び出しと共に、目の前の扉が開かれその向こうから拍手が聞こえてくる。


「神代殿!今です!早く!」


 カレンは、小声でそう言いながら背中を押して扉の向こうへ促した。


「チッ!わかったから押すなって!」


 耕助は、外に出てアリステルの隣に並ぶと拍手をしている貴族達を含めた人々を、憮然とした表情を作りながら腕を組んで見下ろした。 


「おお、あれが異世界人か…東方に住む者達の顔に似ているか?」


「たしかに、野蛮そうな顔つきだ。この世界の傭兵共とどこが違うのか?」


「それにしても、あの態度はなんだ?我々を見下しているのか?」


 沸き立っていた拍手は、少しずつ小さくなり貴族達の非難の声が聞こえてくる。

 だが、その後ろから仁が姿を現した時、ホールはそれまでと違った雰囲気に包まれた。


 そこにいたすべての者達は、仁の神々しいまでの儀礼服姿に息を飲んだ。

 特に、同伴していた貴族の娘や妻女達だけでなく忙しく動いていたメイド達まで手の動きを止めて、その場にいた多くの女性達が仁の姿に魅入っていた。


「…あれが異世界の傭兵だと…あれではまるで神が使わした神兵ではないか…。」


「…美しい。あのような傭兵が異世界にはいるということなのか?」


「…あれは、傭兵ではなく騎士ではないのか?」


 耕助の時とは違い、口々に仁の姿に魅せられた人々が感嘆の声を上げる。

 そして、会場は拍手が再び大きな沸き起こった。


 その様子にアリステルは聴衆の前でしか使わない笑顔を見せて、仁に近づくと右手を差し出しながら小声で言った。


「白神殿。助かった。」


 そして、内心で安堵の息を吐く。

 仁は、笑顔を浮かべて不機嫌なままの耕助の背中を見ながらアリステルの手を握る。


「悪いな。今までこういう歓迎をされた事がなくてな。耕助アイツもどう振る舞ったらいいのか分からないんだ。」


「そうか。だが、白神殿がいてくれて本当に良かった。これで、他の貴族達も貴殿らを受け入れてくれるだろう。」


 アリステルはそう言って手を離すと、喝采に包まれるホールを見渡した。

 仁は、小さく息を吐いてアリステルを見つめると口を開いた。


耕助アイツは、誤解されることが多いが、あれでも結構、イイ男なんだぜ?…モテないがな。」


 その言葉にアリステルは、小さく、まさか…という感じで笑うと皮肉っぽく言った。


「貴殿がそれを言うのか?神代殿が気の毒だぞ?」


「まあ、いいさ。いずれ分かる。」


 そう言って仁は、自分に注目を集めている聴衆に向かうと軽く手を挙げて拍手に応えたのだった。



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