第二話 「 初陣」
午後8時45分、東京都内。
繁華街の中心に位置する大型複合商業施設「アークモール」。
閉店直前、突然館内放送が鳴り響いた。
「警備上の理由により、ただいまより施設内の立ち入りを制限いたします。係員の指示に従ってください。」
屋上の非常階段から、黒い作戦服に身を包んだ二人の影が降り立つ。
「ターゲットは確認されてるか?」
シロの問いに、カイが端末を確認しながら答える。
「3階フロア。食品コーナーの奥、従業員用エリア。姿はまだ視認されていないが……痕跡があるらしい。」
「人払いは?」
「すでに避難誘導中。ただし、警備員が2人、連絡が途絶えてる。」
シロは無言で刀の柄に手を添えた。
「行こう。」
3階食品フロア。
照明の一部が落ち、陳列棚が異様な影を落とす。
散乱した商品、割れたガラス、引きずられたような血の跡。
「……カイ。俺が右から回る。」
「了解。気をつけろよ。」
二人は手際よく分かれ、音を立てずに侵入する。
──そのとき。
ゴキンッ。
棚の向こうから、骨の砕けるような音が聞こえた。
カイが手信号で“接敵”を示す。
そして、見えた。
血に濡れた制服姿の男──
いや、その“皮”をかぶった獣。
ゆっくりとこちらを振り向き、口角が不自然に裂ける。
「……狼人、確定。」
シロは即座に距離を詰め、銀刀を構える。
獣は叫びとともに突進。
人の姿のまま、壁を蹴って飛び上がる。
──こいつ、慣れてる。
シロは横へ跳び、すれ違いざまに一閃。
刃が肩を裂き、黒い血が飛び散る。
だが、止まらない。
後方から銃声。
カイの援護射撃が獣の膝を砕く。
「いいタイミングだ。」
「いつも通りだろ!」
シロが再度飛び込む。
今度は確実に、心臓を狙う突き。
──が、その直前。獣が笑った。
次の瞬間、足元の死角からもう一体──!
「シロッ!」
カイの叫びに、反射的に振り返りながら刀を振る。
斬撃。
そして重い衝撃。
シロは壁に叩きつけられた。
視界がぶれる。
「っ……二体いたのか……!」
カイが飛び出す。
間に入るように、もう一体の獣に銀弾を連射。
「くそっ、マジで最初の任務でこれかよ……!」
だが、動きは冷静だった。
シロはすぐに立ち上がり、最初の獣の首元に斬撃を叩き込む。
──倒れた。
カイも二体目を膝に撃ち込み、シロと挟み撃ちにする形で制圧。
連携。
静寂。
重い呼吸だけが残った。
後処理班の到着を待つ間、施設の外で二人は座っていた。
「……初任務にしては、重すぎね?」
「……まあ、そうだな。」
カイが自販機で買った缶コーヒーを渡す。
「お前、途中でちょっと反応遅れてたぞ。」
「不意を突かれた。反省してる。」
「シロが“反省”とか言う日が来るとはな。」
そう言って、カイは笑った。
──その笑顔を、シロは少しだけ見つめてから目を逸らした。