第一話 「狩人の誕生」
嵐の夜。
風が窓を叩き、雷が暗闇を裂く。東京の郊外にある秘密病院、その一室で、ひとりの女性が苦しみながら命をかけて出産していた。
彼女の手は震え、額には汗が滲む。助産師たちが慌ただしく動く中、激しい叫びとともに、ひとつの命がこの世に生まれた。
──白い髪。
──闇のような瞳。
──力強い泣き声。
その瞬間、部屋の空気が変わった。まるで“何か”が始まったように。
女性は赤子を胸に抱え、かすれた声で微笑む。
「……シロ……あなたの名前は……シロよ……」
そのまま、彼女の瞳は静かに閉じられた。
命と引き換えに生まれた少年──白。
彼の物語は、今、始まった。
18年後──
東京都、月影機関。
対“狼人”専門の国家機関。
その訓練棟では、最新のホログラム技術による模擬戦闘が行われていた。
「シロ、左から来るぞ!」
警告の声。
シロは即座に反応し、銀製の刀で飛びかかる狼人のホログラムを一閃。
敵の姿が霧のように消え、次の敵が出現する。
訓練ルームには、まるで本物の戦場のような緊張感が漂っていた。
「終了!」
コーチの声が響き、ホログラムがすべて停止。
照明が戻り、シロはゆっくりと刀を納めた。
「やっぱり、お前の動きは異常だな……」
後ろから声をかけてきたのはカイ。
訓練服姿で汗をかきながら、笑っている。
「前よりも速くなってる気がするぜ、シロ。」
「……ホログラムじゃ、手応えがない。」
「出たよ、真面目クンの名言集。」
カイは笑いながらシロの背中を叩いた。
ロッカールーム。
二人は制服に着替えながら、会話を続ける。
「にしても……本物の狼人って、見るたびに胸糞悪くなるよな。」
「元は人間だからな……」
「そう。オレたちと変わらない……はずだった。」
狼人とは、かつて“兵士を作る”という名目で行われた極秘実験の犠牲者。
肉体強化の過程で理性を失い、“飢え”と“暴走”を抱えた存在。
彼らは人間の姿に戻ることもできるが、限界に達すると獣の本性が剥き出しになる。
そして──傷つけられ、力尽きると再び人間の姿へと戻る。
「……お前は、もし狼人が目の前で“人間”に戻ったら、どうする?」
シロはふと問いかけた。
カイは一瞬黙って──
「……迷わない。だってもう“戻れない”だろ。どっちにしろ。」
その答えに、シロは何も返さなかった。
その夜。
施設の屋上。
東京の夜景を眺めながら、シロはひとり風に吹かれていた。
「……」
カイがやってくる。
「また来てたのか、シロ。ここの風、好きだよな。」
「ここにいると、少しだけ静かになる。」
「心が、か?」
「いや──頭の中。」
二人はしばらく沈黙したあと、カイが話し出す。
「なあ……オレたちってさ、何なんだろうな。」
「何って……」
「狼人を狩る者。でもその狼人って、元は人間。
それを“処理”するのが仕事って……何か、おかしくねぇか?」
「そうしなきゃ、誰かが死ぬ。」
「……そうだな。シンプルで助かるよ、お前のその考え。」
風が二人の白と黒の髪を揺らす。
「けどさ、オレ……お前と一緒なら、戦ってても悪くないって思えるんだ。」
「……お前って、時々めんどくさいな。」
「へへ、照れんなって。」
カイの笑顔。
それを見たシロも、ほんのわずかに口角を上げた。
読んでくれてありがとう!
今回の章と物語、楽しんでもらえたら嬉しいです。
本当はマンガにしたかったんだけど、残念ながら絵が下手で…(泣)
でも、少しでも面白いって思ってもらえたら、それだけで救われます!
もし何か感想とか、こうしたらもっと良くなるよ!とか、タイトルを変えたほうがいいんじゃない?ってアイディアがあったら、ぜひコメントで教えてください!
全部しっかり読ませてもらいますし、この作品をもっともっと良くしていきたいと思ってます!
最後に――
自分なりに、何かいいものを届けられるように頑張ります!