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第4話 女子は難しい……。

「おい、葵!またフェイントかかったぞ!」


 朝練中、男子バスケ部の顧問高橋先生の声が体育館に響く。


「すみません!」


 俺は汗を拭きながら頷いた。なんか今日は集中できない。


「お前、最近どうした?ぼんやりしてんな」


 キャプテンの間宮先輩が水を差し出してくれる。


「いや、別にっすよ」


 だけど本当は、なんだか頭の中がごちゃごちゃしてた。


 まさか篠原があんな形で転校してくるなんて。

 あの冬の合宿で会った時は、ただのすごい選手って思ってただけなのに。それが今や同じクラスだなんて。


 そして何よりも、席替えでまさかの莉沙と隣になるし。


「よし、今日の朝練終了!急いで着替えて教室戻れよー。遅くなると俺が怒られるからなー」


 更衣室、制服に着替える。時計を見ると、始業10分前。急がないと。


 急いで教室に戻ると、もうクラスメイトたちが席についていた。俺の席に向かう。莉沙もしっかり席に佇んでいる。


「おーっす」


「おはよー!朝練お疲れ!コレあげる!」


「うおっ、ありがと!」


 莉沙の元気な声と冷たい飲み物。実は昨日の席替えで隣になった時、正直ホッとした。莉沙なら気を遣わなくていいから。


「あっ、坂倉くん、おはよう」


 後ろから声がする。振り返ると、篠原が笑顔で座っていた。


「おー、おはよー」


 朝の挨拶を交わしただけなのに、なぜか教室中の視線を感じる。特に男子たちが羨ましそうな目で見てる。


「あおい、モテモテじゃん」


 前の席の小橋がニヤニヤしながら言ってくる。

 なんだかんだ、小橋はまた俺の近くの席。


「うっせーよ」


「環さんはいつも通り天使だけど篠原さんも、マジかわいいよな……」


「まーた、朝から下らねぇこと……」


 ヒソヒソとそんなやり取りをしてると、莉沙が何か言いたそうな顔してる。


「ん、どーした?」


「ううん、なんでもないし!」


 なんか機嫌悪そうだな……。さっきまで元気だったのに。


 一時間目の国語が始まる。集中しようとするんだけど、なんか気になって仕方ない。


 莉沙が熱心にノートを取ってる。小さい頃からなんだかんだ真面目。いつもより背筋が伸びてる気がする。


 ちらっと後ろを見ると、篠原も真剣に授業を聞いている。さすが、優等生って感じだ。


 二時間目の数学。

 先生が難しい問題を黒板に書いて、「誰か解ける人?」と聞いてる。


 まあ、誰も手を挙げない。


 教室が静まり返る中、「ん〜、じゃあ今日は……篠原、解いてみろー」と先生に当てられる篠原さん。


「はい、xの値は2になります」


「はい、正解。じゃあ、解き方もおねがいします」


 篠原が黒板に出て、解き方を説明する。頭いいんだな。さすが、キャプテンだった人は違う。


 授業が終わると、莉沙がため息をついてる。


「難しかった〜……」


「そう?まあまあだったけど」


 実は俺もわからなかったんだけど、カッコつけてみたり。


「葵ってすごいよね……めちゃくちゃ運動できるし、なんだかんだ頭良くて」


「なんだかんだ頭良いってなんだよ。まあでも、篠原の方がすごいだろ」


 そう言った瞬間、莉沙の表情が曇った。


「ん〜、確かに?」


 あれ?なんか言い方まずかったかな。


 昼休み、俺はいつものように購買に行こうとした。


「あおいお前、弁当持ってきてないの?」


 小橋が聞いてくる。


「そ、朝練あったし」


「んじゃ、俺のおにぎり分けてやるよ」


「マジ?ちょー助かる」


 莉沙の席は空いていた。いつも通り、屋上に友達と行ったんだろうな。


「坂倉くん、これ良かったら」


 振り返ると篠原が手作りのサンドイッチを差し出していた。


「え?いいの?」


「うん。一つ多めに作ってきたから」


「ありがと!」


「じゃあ、私職員室行くから」


「はいよ、ありがとな」


 サンドイッチを受け取ると、周囲の男子から「おー!」とか「ずるい!」とか声が上がる。


「お前、両手に花すぎ」


 山本がうらやましそうに言う。


「これは、バスケ仲間だからだろ」


 俺は平静を装う。


 昼休みの終わり頃、莉沙が戻ってきた。俺の机の上にあるサンドイッチを見て「それ、どうしたの?」と聞いてくる。


「あーこれ?篠原がくれたー」


「ふーん?」


 なんだか莉沙の声のトーンが低い。


「お前も、いる?」


「私はいらなーい!食べてきたもん」


 ピシャッと切られた。


 なんだよ、急に冷たいな。


 午後の体育は男女合同の授業。

 バレーボールの試合をやることになった。チーム分けで、俺と莉沙は同じチーム、篠原は反対チームになった。


「よーし、負けないぞ!」


 莉沙が気合を入れてる。「えいえいおー!」と莉沙の掛け声に合わせて、他のチームメイトも合わせる。


 試合が始まると、篠原の実力が光る。スパイクがめちゃくちゃ強い。


「さすが、運動神経良すぎ……」


 俺がつぶやくと、


「私も負けないもんね!」


 莉沙が意気込んでる。


 確かに莉沙も運動神経はいいんだけど、篠原のジャンプ力には敵わない。と言うかそもそも、背が足りてない……。

 ボールに合わせてぴょんぴょん跳ねてる莉沙。なんか、可愛い。


「おーい、ちび助〜。背足りてねーぞー」


「うるさいやーい!あと、ちび助ゆーなーっ!!」


 かくかくしかじか、そんな感じでゲームは進んでいった。


 最後は篠原チームの勝利。


「良い試合だったね」


 篠原さんが莉沙に声をかける。


「うん、今度は負けないよっ!」


 莉沙は健闘を讃えるように笑顔で答えてた。


 体育館から教室に戻る途中、女子の大群に莉沙を見つける。何やら話している。

 楽しく話していた女子達と別れると、莉沙が「お腹すいたー」とぼやいてる。


「昼食べたじゃん」


「食べたけど、体育で消費しちゃった」


「んじゃ、ほら」


俺はポケットからチョコレートを取り出した。


「朝、買っておいたやつ。朝貰った飲み物のお返し」


「ふぇ?いいの?」


「まあ、どうせ俺食べないし」


 莉沙が嬉しそうにチョコを受け取る。


「やった!ありがと葵っ!」


 なんかホッとした。

 莉沙はチョコを咥える。


「てか葵、この後すぐ部活じゃん。早く行かないとじゃん」


「やっべ、そうじゃん。今日遅くなる日だ、親に言うの忘れてたーっ!とりま、俺先行くわ。じゃっ!」


 放課後、部活の時間。俺は更衣室で着替えていると、女子バスケ部のマネージャーが来た。


「遅かったじゃん坂倉ー、今日は女子バスケと合同練習だってよー」


「え?なんで急に」


「篠原さんの歓迎会も兼ねてるみたいよ」


「あっ、そっか。今日から……」


 体育館に行くと、篠原がすでにユニフォームに着替えていた。周りの女子たちが彼女を囲んでる。


「おー、坂倉!」


 部長が手を振る。


「今日は特別に全国レベルの女バスと合同練習だ。選抜の篠原、実力を見せてもらおう」


「りょーかいっす」


 練習が始まり、ミニゲームをすることになった。女子チームに篠原が加わると、ただでさえなかなかの強敵なチームが恐ろしい強さになる。


「おい、葵!」


 間宮先輩が声をかける。


「篠原のマーク、任せた」


「え?なんでっすか」


「お前、篠原と選抜合宿で対戦経験あるんだろ?」


 確かに冬の合宿で練習試合はしたけど……。


 ゲーム開始。篠原のドリブルは素早く、フェイントも鋭い。なかなか止められない。


「やるじゃん、坂倉くん!」


 篠原が笑いながら言う。


「篠原こそ、女子とは思えないプレイ……」


 お互い本気でプレイしてると、なんだか楽しくなってきた。


 練習終了後、「お疲れ」と声をかけ合う。


「久々に楽しかった!坂倉くん、また一緒に練習しよ!」


 篠原が笑顔で言う。


「おう、いつでも」


 帰り支度をしていると、携帯にメッセージが。莉沙からだった。


[今日も部活待たないで帰宅!お母さんにも伝えておいたんだから、今度なにか奢っておくれー]


 あれ?普段なら「練習頑張って」とか書いてくるのに。まあ、いいや。


[ありがと、奢りは考えとくわ〜]


 家に帰る途中、考え込んでいた。今日も莉沙、感じおかしかったな。俺、何かしたのか?


 家に着くと、母さんが「葵、おかえり〜。莉沙ちゃんから電話あったから助かったよ〜」と言う。


 夕食後、部屋でバスケのビデオを見ていると、ふと思い出した。


 莉沙って、中学の時も俺が他の女子と話してると妙に機嫌悪くなることあったっけ?


 いや、まさか。幼馴染だし、俺が女子とあまり喋ってるとこ見ないから、ただ莉沙が心配し過ぎてるんだ。


 でも、今日の体育でいつになくめっちゃ頑張ってたし、篠原のサンドイッチに反応してたのも……。


「ん〜、女子は難しいな……」


布団に入りながら、頭の中でグルグル考えが回る。


「明日、莉沙に何か奢ってやるか〜……」


 そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちていった。

 ちょっとだけ、今後の更新遅れますっ!

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